ハードウェア

「ウェアラブルコンピューター」の源流は1980年代の日本にあった


Apple WatchやAndroid Wearなどのスマートウォッチはウェアラブルコンピューターとも呼ばれ、まさに「手首に装着できるコンピューター」です。2010年代半ばからにわかに普及が始まったウェアラブルコンピューターは韓国やアメリカなどの海外メーカーが発端であると考えられがちですが、アートやデザイン関連のメディアであるInexhibitは、その歴史の発端は1980年代のシャープやエプソン、セイコーなどの日本の電子機器メーカーが作っていたデバイスにさかのぼることができるとしています。

SEIKO UC-2000 (1984) - the dawn of wearable computers | Inexhibit
https://www.inexhibit.com/case-studies/seiko-uc-2000-1984-the-dawn-of-wearable-computers/

セイコーが1984年に発売したUC-2000は、まさに「手首のコンピューター」を具現化したようにも思えるデバイス。50×28ピクセルの白黒液晶ディスプレイを搭載するUC-2000には4つのボタンが装着されており、モードの切り替えなどの機能のほか、ゲームで遊ぶ際のコントローラーとして使うこともできるとのこと。


Apple WatchをiPhoneとペアリングして使うのと同じように、UC-2000にも「親機」と呼べるデバイスが存在します。それがこのUC-2200 dock stationです。巨大な本体にはキーボードのほか、時代を感じさせる「熱転写プリンタ」や「ROMスロット」が搭載されています。RAM容量が4KB、ROM容量も26KBというところにも時代を感じます。Microsoft BASICでプログラミングを行うことが可能で、英和辞典を利用することや、ゲームで遊ぶことも可能になっていたとのことです。


以下のムービーの1分30秒あたりからは、UC-2000とUC-2200 dock station、そして専用の小型キーボードを実際に使っている様子を見ることができます。

The first wristwatch computer - YouTube


当時、セイコーとエプソンはこの手のデバイスの改良と発売を続けており、中にはApple IIやCommodore 64、IBM機などのコンピューターとRS-232インターフェースで接続することが可能なモデルが存在していたとのこと。1985年発売にエプソンが発売したRC-20は、タッチスクリーンさえ搭載していたそうです。

当時のUC-2000「腕コン」の広告やカタログと見られる資料も残っています。UC-2000は「リスト部」、UC-2200 dock stationは「コントローラ」と呼ばれていたようです。


Apple Watchなどと比べることがそもそもの間違いですが、50×28ピクセルの画面では、時計はもちろんのこと「メモ帳」や「ゲーム」「辞書」などが利用できました。


この資料によると、CPUは4ビットだったようです。


「リスト部」のメインボード。4ビットCPUの動作クロックは32kHzで、2KBのRAMと7.5KBのROMを搭載していました。


以下のブログでは、UC-2000を分解して内部の詳細を見ることが可能。「コントローラ」との通信に使われていたとみられる銅線を巻いたアンテナらしきパーツなど、精密に作り込まれた様子は見事の一言です。

SIGMA957 Projects: UC-2000 Dissection
http://www.sigma957.org/dissect.html


UC-2000は海外でも販売されていた模様で、カナダでの広告も残されています。


近未来的なデバイスだったためか、UC-2000はアメリカの映画にも登場。1986年のアクション映画「ブラックライダー」では、若かりし日のトミー・リー・ジョーンズが右腕にUC-2000を装着している様子が収められています。


エプソンが1985年に発売したRC-20はタッチスクリーンを搭載しており、外観もより洗練されたものになっています。


30年以上が経過し、ウェアラブルコンピューターは大きな進化を遂げています。

LTE通信が可能になった「Apple Watch Series 3」で電話の着信と発信を行ってみた - GIGAZINE


また、Android Wearの機能の1つである「映像の再生」を1980年代に実現していたデバイスも存在しています。セイコーが1982年に発売したTV WATCHはコンピューターではなく「腕時計」の範疇に入るデバイスですが、別ユニットのチューナーを接続することでテレビを見ることができるというものでした。


システム全図はこんな感じ。ポータブルプレーヤーほどの大きさの「レシーバ」を接続し、ヘッドホンで音声を聞きながらテレビを見るようになっています。


TV WATCHも映画に登場しています。1983年の映画「007 オクトパシー」では、MI6に所属するキャラクター「Q」によってカラー液晶にグレードアップされたTV WATCHをロジャー・ムーア演じるジェームズ・ボンドが装着している様子が収められています。


80年代の日本の電子機器メーカーはお家芸ともいえる「小型化」に力を注いでいました。「ポケコン(ポケットコンピューター)」という言葉が生まれたのもこの頃で、シャープ製PC-1500Aなど非常に多くのモデルが群雄割拠した時代でした。


また、エプソンのHC-20は「ハンドヘルドコンピュータ」に分類されるモデルで、事実上の「ノートPCの始祖」とも呼べるモデルであるとのこと。


お家芸である「小型化」のたまものといえるウェアラブルデバイスは、その30年後に世界中の人々が使うデバイスへと発展しました。Inexhibitは「もし液晶ディスプレイやROM装置のテクノロジーが80年代にもう少し進化していたとしたら、世界最大のコンピューター製造メーカーはAppleじゃなくて日本のメーカーだったかもしれない」として、リンゴ(Apple)の代わりに柿をあしらい、「Think different.」をもじった以下のどこかで見たようなイラストを公開しています。

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in モバイル,   ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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