2022年のワールドカップなどでますます注目が集まるアラビア湾岸地区の建築には文化と権威との闘争が隠されている
by Francisco Anzola
2022年にワールドカップが開催されるカタールなど、ペルシャ湾(アラビア湾)の湾岸地域の発展はめざましく、各国がこぞって立派な博物館や塔を建築しています。これは文化的な意図のみによるものではなく、そのソフト・パワーの展示の背景には深い倫理的な懸念が覆い隠されているとThe GuardianのRowan Moore氏が述べています。
How landmark buildings became weapons in a new Gulf war | Art and design | The Guardian
https://www.theguardian.com/artanddesign/2018/jul/21/landmark-buildings-weapons-in-new-gulf-war
Moore氏によると、博物館や塔の建築は、文化的、建築的な意味合いでの軍備拡張競争の中で、発展を誇示する武器であったとのことです。またそれらは石油という富によって人生が変わった場所における、アイデンティティへの渇望でもありました。イスラムの保守的なあり方と、西洋の自由主義的なあり方との交渉の末の葛藤がそこにあるのだそうです。
by Caitriana Nicholson
湾岸地域は暑く乾燥しているため生活するには厳しい環境でしたが、石油と空調が大きく状況を変えました。ただ、人口が増加したからといってネイティブの数は多くなく、250万を超えるカタールの人口のうちカタール国籍は30万人しかおらず、9割近くが外国人労働者です。
1970年台から80年台にかけて、西洋の建築家によるホテルやオフィスビルが流入してきました。2022年にはカタールでワールドカップが行われるため、そのスタジアムが建築されます。またアブダビとバーレーンにはフォーミュラサーキットの製作も進んでいるなど、スポーツの面でも発展しています。そして文化的な面ではアブダビのルーヴルを中心に、プリツカー賞を受賞した権威的な建築家の作品も多くあるなど、建築面は目まぐるしく発展しています。
博物館は美術品などの美しさを提供し文化的生活を豊かにするものです。また、図書館のような開放的な建築は、コミュニティが集まる場所として機能します。こういった文化的・象徴的な建築による都市の発展は戦略として確立されています。
しかし、象徴的な建築によって示される意図は、芸術や一般市民に向けられた純粋な愛情であるとは限りません。アラブ首長国連邦(UAE)を含む王朝は社会的地位や海外の認識、権力の誇示という点を考慮し巨額の投資をしており、またフランスの学者Alexandre Kazerouni氏はルーヴルのようなプロジェクトを「支配階級の権威を文化の中に入れて強化しているもの」だと指摘しています。
by Francisco Anzola
カタール財団の副議長のSheikha Hind氏によると、カタール財団は「自分たちで議論し、自分たち自身のことを考える世代を奨励したい」と考えているとのこと。しかし、文化、政府、ビジネス、都市計画を自分たちで担当しようとするとき、支配者の巨大さをイメージさせる建築や意匠が都市のいたるところに存在しており、彼らが自由に取り組むことはできないとMoore氏は指摘しています。
建築や意匠への注力や、外国人労働者による人口の増加により、間違いなく都市は発展しています。ただそんな中で、戦略的な意図と文化的な側面について発展が覆い隠していることを誰も知らないのが真実だとMooreさんは述べています。ルーヴルのプロジェクトやワールドカップなどますます注目が寄せられる中で、文化的・建築的な計画それ自体はよいものであり、なかったことにするのを望まれるものではありません。発展の水面下で進行中の何らかの野心を、はっきりと認識することが大切になりそうです。
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