サイエンス

ウイルスより小さなナノサイズの人工の「カゴ」が患部まで薬剤を抱えて輸送する医療の可能性


シリカでできた極小の「カゴ」に抗がん剤などの薬剤を詰め、従来の技術では送り届けられなかった患部にまで薬を安全に送り届けられるかもしれない構造体が作り出されています。

Self-assembly of highly symmetrical, ultrasmall inorganic cages directed by surfactant micelles | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-018-0221-0

この研究はアメリカの科学者チームが進めているもので、人体の副作用を引き起こすことなく体内に薬剤を送り届けられる可能性を秘めています。このカゴがどれほど小さいのか、どのようにして作り出されるのかが以下のムービーで解説されています。

How to build a nanocage: Self-assembling silica - YouTube


科学者チームが作り出したシリカのカゴは、直径が11.8ナノメートル程度と極めて小さい構造物。30本の辺と20個の頂点からなる12面体を構成しています。


その小ささを実感するためにまず用意されたのが、塩の結晶。300マイクロメートル(0.3mm)と非常に小さい塩の結晶の左に矢印で示されているのがシリカのカゴ……ではなく、血液の中にある赤血球。


さらに、その赤血球(右)よりも小さいのが、HIVウイルス(左)。


シリカのカゴは、このHIVウイルスの10分の1程度の大きさしかありません。


このサイズになると、機械を使って作り出すことなど到底不可能。ということで、科学者チームは別の方法でこの構造物を作り出す手法を編み出しました。


極小サイズの立体構造物を作るために、科学者チームはまず「型」となる物質を用意しました。


用いられたのは、高脂肪酸の塩である「セッケン」。界面活性剤であるセッケンが作る小さなかたまり「ミセル」の表面にシリカを付着させることで、ナノスケールの構造物を作り出します。


溶剤の中で形成されるミセルの概念図。そのサイズは、科学者によって精密にコントロールされているとのこと。


ミセルが作られたら、カゴの素材となるシリカを注入。


すると、陽電荷を帯びたミセルに対して、陰電荷を帯びたシリカが引き寄せられます。


そのまま時間がたつと、ミセルの表面にシリカによる正20面体の構造物が形成されます。あとはセッケンの「型」を洗い流す、または焼却することで、カゴだけが残るというわけです。


しかし、あまりにもサイズが小さいため、実際の姿を確認するのは容易ではありません。そこで科学者チームは、物質を極低温にして観察する低温電子顕微鏡を使って実際の様子を確認。


この方法で、2000枚程度の写真を撮影し……


コンピューターを使った3D解析で浮かび上がった姿が、このような12面体のシリカのカゴです。


今後はこのカゴに抗がん剤などの薬剤を入れて、必要な部位に送り届けるための研究が進められる予定。用が済んだ際には尿と一緒に体外に放出されるため、副作用が起こらない治療法となる可能性が期待されていますが、その実現にはまだもう少し時間がかかる見込みです。

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in サイエンス,   動画, Posted by darkhorse_log

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