4年間の試行錯誤でついに「渦輪の衝突」が生み出す「小さな渦」のスロー映像撮影に成功
科学教育ムービーを多数公開しているYouTuberのデスティン・サンドリン氏は、これまでにも北半球と南半球の渦が逆回りする様子を徹底的に比較したり、テスラコイル銃で稲妻をぶっ放したりと、人並外れた好奇心と探求心と行動力で、数々の実験映像を撮影してきました。そのデスティン氏が、なんと成功するまでに4年の月日をかけたという超長実験「2つの渦輪を衝突させて、小さな渦輪を作る」のムービーを公開しました。
Two Vortex Rings Colliding in SLOW MOTION - Smarter Every Day 195 - YouTube
水中に打ち出された赤と青の渦輪。
衝突しました。
「今、成功したんじゃないのか?」と興奮気味の声が聞こえます。
声の主は、SmarterEveryDayのデスティン・サンドリン氏。「このムービーを撮影するまでには、たいへんな道のりがあったんだ」というデスティン氏は、5年前に「面白いものがある」とあるオーストラリアの研究を教えられたそうです。
その研究のムービーは、赤・青2つの渦輪が衝突すると、衝突でできたリングの外周に新たに小さな渦輪が現れるというもの。
流体力学が大好きなデスティン氏は、すぐにこの研究に興味をひかれたそうです。
そこで、研究の内容についてGoogleで検索を開始。
面白いのに誰も同じムービーを再現していないことから、デスティン氏は自分でやってみることにしました。
最初に大学を卒業したばかりの研究者の卵に協力を求めて実験を行いました。
しかし、成功には至らず。この時点で、デスティン氏は「これはやっかいだぞ」と感じたそうです。
それから、実験道具を自作するなど、試行錯誤の日々がスタートしました。
さかのぼること4年前
まずはNatureに投稿されたT・T・リム氏の論文を研究するところからムービーがスタート。まさか、このムービーの完結に4年間もかかるとは、当時のデスティン氏は思いもよらなかったはず。
論文では、2つの渦輪が衝突すると大きなリングが誕生し、その外周に小さなリングが多数現れる現象が観察されていました。これを再現して、映像に収めるのが目標です。
渦が衝突して小さな渦を生じる様子を収めるために、スローモーション用の超高速カメラ「Phantom v2511」を用意しました。
ムービーはいきなり3年前へ。
電動アクチュエーターと……
アクチュエーターから延びるチューブが二股に分岐。
どうやらアクチュエーターを使って液体を正確に同時に送り出すことで、衝突させる渦を安定的に生み出そうという作戦の模様。
デスティン氏の実験に付き合うのはモーションコントロールの専門家デイビッド・レンダーマン氏。
水槽に水を張って、準備完了。
二つの渦輪というか球のようなインクが水中に打ち出されると……
衝突
混ざりあう2色のインク。「初めての実験にしては上出来だ」とレンダーマン氏は話しています。
しかし、その後も渦輪の衝突は思うようにはいきません。
失敗しては水を入れ換える作業の繰り返し。
インクを口に含んで……
自分の口から送り込むデスティン氏。
しかしインクは衝突することなく交差。失敗が続きます。
同じサイズの渦輪が……
正面から衝突しますが、論文のような現象は起きず。
スローモーションで見ても、正面衝突しているように見えますが……
うまくいきません。
もはや何度目の実験かわからないほど、失敗を繰り返すデスティン氏。
レンダーマン氏も諦めません。
インクを噴出するノズルの設計を変えたり……
打ち出すスピードを変えたり。
ひたすら失敗を繰り返す日々。
うまくいくはず、と思えることがあっても、なかなかうまくいかず。
綺麗に衝突……
したはずのインクは予想外の形状に変化。
赤インク側には、新たなリングが誕生しました。
しかし、小さなリングは現れず。
「今日はうまくいく気がする」と実験前に意気込みを語るデスティン氏。
2つの渦輪が衝突。
大きな1つの輪が現れ……
外周に小さなリングが出現しました。
大きなリングの外周は……
小さな渦輪に変化。
大きなリングが消滅しても、水中に漂い続ける小さな渦輪。ついに、実験に成功。
そして、2つの渦輪が衝突して多数の小さな渦輪が誕生する様子を、ハイスピードカメラに収めることができました。
デスティン氏によると、「イメージした通りのものを再現したい」という単純な動機から始まった実験は次第に変化していったとのこと。「流体力学」や「動体コントロール」の問題だと考えていたものは、まったく異なり、実体は「忍耐」と「粘り強さ」の問題だったそうです。
パートナーのレンダーマン氏は失敗を繰り返しても決して実験を止めず、「やり抜く力」をデスティン氏に教えました。
失敗するたびに、何かを学んでいったとのこと。
「なぜ挑戦することを恐れているの?」「失敗すれば、タンクに水を入れ直して、次のショットを打つだけだよ」
このムービーで知ってもらいたいことは「忍耐」だと話すデスティン氏。学校で授業や課題が辛かったり、仕事のプロジェクトが大変だったりと、誰にでも自分だけの「渦輪衝突」があるはず。その困難を乗り越えるために必要なものは何か?を考えてほしいとのこと。「あなたにとっての渦輪衝突はどんなものですか?」
・おまけ
「渦輪を衝突させて小さな渦輪を作る」という目的だけのために、4年の歳月と惜しまぬ労力を費やして、ついにスローモーションムービーの撮影に成功したデスティン氏は、4年間に及んだ試行錯誤の様子を12時間と「短く」まとめたムービーも公開しています。
Behind the Scenes: Two Vortex Rings Colliding in SLOWMO (4 yrs, 12 hour MEGACUT) Smarter Every Day - YouTube
・関連記事
自作のテスラコイル銃で稲妻をぶっ放す様子を超ハイスピードカメラで撮影するとこうなる - GIGAZINE
北半球と南半球で渦が逆回りになるのはなぜかを実際に同条件で実験した映像を同期再生 - GIGAZINE
「貧乳は正義」論者を科学で叩きのめすアニメの巨乳キャラを空気力学的に分析した論文が公開される - GIGAZINE
滴を水面に落としたとき本当は何が起こっているのか?ということを高速度撮影したムービー「Surface Tension Droplets at 2500fps」 - GIGAZINE
水中で銃を撃つと弾丸の軌跡が本当はどうなるかを超スローモーション撮影した「Underwater Bullets at 27,000fps」 - GIGAZINE
1959年と2009年の自動車を衝突させるとこんなに違う、50年間で自動車の衝突安全性能はこれだけ向上 - GIGAZINE
・関連コンテンツ