自分の臓器のモデルを簡単に3Dプリンターで出力できるようになるかもしれない
by Rudi Aldridge
医師は患者の症状を検査するためにMRIやCTのスキャン画像などの2次元データを用います。しかし、3次元データである立体モデルを出力できれば、医師が症状を判断する助けになるだけでなく、患者自身が自分の体の状態を正確に理解するのにも大きく役立ちます。MITとハーバード大学の研究者らが、MRIやCTのスキャンデータから素早く3Dモデルを作り出せるようになる新しい手法を開発しています。
From Improved Diagnostics to Presurgical Planning: High-Resolution Functionally Graded Multimaterial 3D Printing of Biomedical Tomographic Data Sets | 3D Printing and Additive Manufacturing
https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/3dp.2017.0140
Now, You Can Hold a Copy of Your Brain in the Palm of Your Hand - Neuroscience News
https://neurosciencenews.com/3d-brain-printing-9177/
MITの大学院に通っていたスティーブン・キーティングさんは、脳に野球のボール大の腫瘍が見つかり摘出する手術を受けました。このとき、自分の脳に何が起こっているのかを詳しく知りたいと感じたキーティングさんは、自分の脳を撮影したMRIやCTのスキャン画像を集めて3Dプリンターを使って立体的に出力しようと試みたとのこと。しかし、MRIやCTのスキャン画像は被写体を多層にカットした断面図を写すもので、医師などが患者の状態を正確に判断できるように極めて精細に画像が撮影されており、スキャンデータから3Dモデルとして立体化しようとすると、層ごとに物理モデルを作る必要があり、3Dプリントするためには膨大な計算処理が不可欠だったそうです。そこで、キーティングさんはより簡単にスキャンデータをデジタルデータとして取り扱える技術の開発に乗り出しました。
キーティングさんを含むMIT Media Labとハーバード大学Wyss Instituteの研究グループは、スキャン画像を黒と白のビットマップで表示する新たな手法を開発しました。この手法では、白黒の新聞が濃淡を表現するためにサイズの異なる黒いインクドットを使うのと同じように、黒と白のビットマップを使い分けることで濃淡を表現できるようにしたとのこと。例えば、黒のビットマップを増やせば影がより暗くなるというように、MRIやCTのスキャン画像をビットマップというデジタルデータで変換することで、3Dプリンターで扱いやすい形に変えました。
研究者が開発した手法では、MRIやCTのスキャンデータから立体モデルを圧倒的なスピードで作り出すことができましたが、メリットはそれだけではないとのこと。MRIやCTのスキャン画像では、医師が理解しやすくなるように特定の組織を周囲から分離することで体内の状態を「セグメンテーション」と呼ばれる処理が行われます。セグメンテーションを専門家が手作業で行う場合、非常に時間がかかります。また、コンピューターによってセグメンテーションを自動的に行う場合もありますが、スキャン画像のグレーの領域が含まれる部分を、実際のスキャン画像にはイレギュラーなものが写っていたり、境目が明瞭でなかったりするためこの作業は難しいものでした。
研究者らの開発した手法を使えば、コンピューターによる自動セグメンテーションを圧倒的に速いスピードで処理できるとのこと。「訓練を受けた専門家でも、人間の足のCTスキャン画像を、体内の骨、骨髄、腱、筋肉、皮膚などに分ける場合、30時間以上かかる場合があります。しかし、私たちの開発した手法では、この作業を1時間以内で完了できます」とWyss Instituteのジェームズ・ウィーバー博士は述べています。
研究者らは、今回開発した手法は、診断結果をより簡単に出して患者が理解しやすいような医療ツールの開発にも応用できるだろうと考えています。ウィーバー博士は、「5年以内に、CTやMRIのスキャンを行った患者が、数日後に自分の体の3Dモデルを手にできるようになると思います」と述べています。
・関連記事
3Dプリンターで人間の角膜を作り出すことに成功、短時間かつ安価に作成可能で世界的な角膜不足に光 - GIGAZINE
3Dプリンターでリアルに作った「臓器」で手術の練習が可能に - GIGAZINE
3Dプリンターを使って人間の耳を軟骨組織から再建することに成功 - GIGAZINE
10万円クラスの安価な3Dプリンターで人工心臓のパーツを自重で崩壊させずに出力する手法 - GIGAZINE
3Dプリンターで10年以内に本物の心臓を作れるようにする研究が進行中 - GIGAZINE
無料で人体の構造を立体的に隅々まで確認できる3D解体新書「HUMAN 3.0」レビュー - GIGAZINE
・関連コンテンツ