10万円クラスの安価な3Dプリンターで人工心臓のパーツを自重で崩壊させずに出力する手法

3Dプリンターで人工心臓を作る研究が進められていますが、心臓の血管など細かな部位が柔らかすぎて出力するのが難しいという難問が立ちふさがっています。この問題を解決するためにカーネギーメロン大学の研究者が、格安の3Dプリンターでも人工心臓を出力できるようになる新技術を開発中です。

Three-dimensional printing of complex biological structures by freeform reversible embedding of suspended hydrogels | Science Advances
http://advances.sciencemag.org/content/1/9/e1500758.full

How to 3-D print a heart | KurzweilAI
http://www.kurzweilai.net/how-to-3-d-print-a-heart

以下のムービーを見れば、どうやって自重で壊れるのを防ぎつつ、人工心臓用のパーツを3Dプリントできるのかが一発で理解できます。

Adam Feinberg Demonstrates 3-D Bioprinting Process - YouTube


カーネギーメロン大学のアダム・フェインバーグ教授の研究チームは、人工心臓を3Dプリンターで出力する研究を行っています。

これは研究で実際に使われている3Dプリンター。3Dプリンター自体は市販のもので、ごくごくありふれた製品だとのこと。

「CMU(カーネギーメロン大学)」という文字の形状に出力された、素材と出力手法にフェインバーグ博士たちの研究成果のエッセンスがあります。

一般的な3Dプリンターは固形物を出力します。

一方、人工心臓を出力するためには生体で機能するようにヒトの細胞由来の柔らかい素材で出力する必要があります。人工心臓として機能させるためには血管などの細かく柔らかい部位を再現する必要があるのですが、3Dプリンターでこれらを出力しようとすると自重で崩れるため狙い通りに組織を形づくることができない、という難問が生じるとのこと。

そこで、柔らかい組織でも精密な形状に3Dプリントできるように開発されたのがこの技術です。ポイントは、出力する環境にあります。

シャーレーにジェル状のゲル槽を作り、その中に人工心臓用の部位を出力することで、ジェルによって支えることで出力するパーツが自重で崩れるのを防ぐというアイデア。

シャーレーを下からのぞくとこんな感じで、ゲル槽の中に血管が出力されているのが分かります。

出力が終わるとシャーレーは熱したビーカーの液体に……

ドボンとつけます。

ジェル状のゲル槽は高温の液体に溶けるので……

後には目的の部位のみが残されるというわけです。

「ゲル槽を使って人工心臓用の柔らかい素材を出力する実験は、1000ドル(約12万円)未満の比較的低価格な3Dプリンターを使って行われています」と話すフェインバーグ博士。

さらに、ソフトウェアはオープンソースとして開発しているとのこと。

オープンソースで開発する理由について、フェインバーグ博士は「パラメータを最適化するのに有効であり、人工心臓に求められる組織を最高の品質で3Dプリントすることが可能だからです」と述べています。

フェインバーグ博士たちの開発する手法は、針状のヘッドを高温の液体に溶ける水溶性ジェル内に突き挿した状態でジェルを押しのけつつ人工心臓用の組織を3Dプリントするというもの。

すでに心臓の冠状動脈の分岐部分を3Dプリントすることに成功しているとのこと。人工心臓を3Dプリントする研究がいよいよ本格化しそうです。

心臓移植を待つ患者はアメリカだけでも常時4000人以上おり、移植した場合の10年後生存率は約50％にとどまるとのこと。自分の細胞由来の成分をつかって心臓を3Dプリントする技術が確立されれば、多くの心臓病患者の命が救われると期待されています。