Windowsの生みの親ビル・ゲイツが定義した「プラットフォーム」と「アグリゲーター」の差を示す「ビル・ゲイツ・ライン」とは?
by Thomas Hawk
Yelpをはじめとするローカルサービスの口コミサイトが「Googleが自社サービスを優先的に表示するように検索アルゴリズムを設計しているのは反競争的行為である」とGoogleを批判している問題について、アナリストのベン・トンプソン氏が「ビル・ゲイツ・ライン」と呼ばれる定義を紹介しながら、「プラットフォーム」と「アグリゲーター」の違いについて説明しています。
The Bill Gates Line - Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2018/the-bill-gates-line/
Googleは、2018年4月時点で検索エンジンの利用率が約90%に達していて、ほとんどの人がネットで情報を探すときにGoogleを利用しているといえます。Googleはこの検索エンジンのシェアを利用して、自社のサービスを展開しながら検索広告ビジネスで世界最大規模のテクノロジー企業として成長しました。イギリスのメディア・CBSはこの検索広告ビジネスは独占禁止法に違反していると批判する特集を組んでいます。
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また、Yelpをはじめとする大手の口コミレビューサイトは「Googleは自社のコンテンツだけを検索結果に表示し、競合他社のコンテンツを意図的に排除している」と批判し、「Focus on the user」という反Google団体を立ち上げ、Googleの検索情報からGoogle関連コンテンツを排除する拡張機能をリリースしています。
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トンプソン氏は、CBSの特集がかなり偏った内容であることを前置きしつつ、Yelpへの同情を示しました。そして、この問題を考えるためには、Googleの検索エンジンを中心とした「エコシステム」を厳密に評価する必要があると記しています。
エコシステムの本来の意味は「生態系」ですが、ビジネスの世界では「複数の企業がお互いに連携することで構成される大きな収益構造」を意味します。そして、エコシステムの根幹となるシステムを「プラットフォーム」と呼びます。そのプラットフォームの定義について、トンプソン氏は、投資家のセミル・シャー氏と元Facebook幹部のチャマス・パリハピティヤ氏がビジネスモデルについて語り合った対談記事で語られたビル・ゲイツ氏の逸話と共に「ビル・ゲイツ・ライン」を紹介しています。
対談記事によると、Facebook Platformのプロデュースを担当していたというパリハピティヤ氏が、150億ドル(約1.6兆円)の資金を調達するために、ゲイツ氏にFacebook Platformについてプレゼンを行ったところ、ゲイツ氏は「そんなものはプラットフォームではありません。システムを利用するすべての人の経済的価値が、システムを作った企業の経済的価値の上で成立して初めて『プラットフォーム』と呼ぶことができるのです」と語ったとのこと。
例えば、デスクトップPCのOSでは2018年4月時点でWindowsが約82%と圧倒的シェアを占めていて、Windowsを中心としたエコシステムは今や非常に大きなものとなっています。このエコシステムは、Windowsというプラットフォームの上で、サードパーティーとなるさまざまなベンダーやデベロッパーがアプリケーションやサービスを開発・提供するという形となっています。プラットフォームとなるWindowsはユーザーとサードパーティーの両者を支える土台となっていて、ユーザーはサードパーティーと密接に関わります。
一方で、AppleのApp Storeは、ユーザーがサードパーティーと密接に関わることはできず、iPhone・iPad・MacBookなどのiOS端末を持つユーザーに対して「アグリゲーター(集約者)」としてさまざまなアプリをユーザーへ仲介しているに過ぎません。アグリゲーターはユーザーへ情報を仲介する際にその内容へ介入することができます。App Storeでは、開発されたアプリはそのままユーザーに届くのではなく、必ずAppleによる審査を経てから届けられます。この審査がアグリゲーターによる情報への介入といえるわけです。
Googleの場合、Yelpだけではなく数え切れないほどのサイトがGoogleに依存している状態となっていますが、ビル・ゲイツ・ラインに照らし合わせると、Googleの検索エンジンはプラットフォームとは呼べません。Googleの検索エンジンはウェブサイトとユーザーを密接に結びつけるものではなく、あくまでもインターネット上の情報を集約してユーザーの元に届けるアグリゲーターでしかないからだ、とトンプソン氏は論じています。YelpやTrip Advisorなどの口コミサイトは、検索エンジンにレビュー情報を提供する「サプライヤー(供給者)」であり、そのレビュー情報を集約してユーザーの元へ届けるアグリゲーターの役目を行っています。Googleはアグリゲーターとしてサプライヤーからユーザーに情報を仲介し、その際に広告や自社サービスを介入させて収入を得ているというわけです。
Googleがアグリゲーター型のビジネスを展開している以上、サプライヤーは必要不可欠な存在です。しかし、GoogleがYelpなどのレビュー情報を検索結果にちゃんと表示しないという行為は、サプライヤーの拒絶につながります。「Focus on the user」がGoogleの検索情報からGoogle関連コンテンツを排除する拡張機能をリリースしたことは面白い戦術であり、Google側はこの問題に対処しなければ、検索エンジンを用いたアグリゲーター型のビジネスモデルが長期的に維持できないだろうと、トンプソン氏は予測しています。
また、トンプソン氏はアグリゲーター型のビジネスモデルとして、Facebookも例に挙げています。Facebookはユーザーの個人情報に基づいて指向的に広告を表示させることが可能で、実際に「Facebookの広告を使って特定個人を狙い撃ち、転職に成功した」という事例が報告されたり、「Facebookで個人の趣向に合わせて広告を表示することで投票行動を操作する」という疑惑も浮上したりしています。これらは、Facebookがアグリゲーター型の広告ビジネスモデルを展開していることを示しているといえます。
プラットフォームとアグリゲーターを明確に区別することは単に学問的な話にとどまらず、これからの企業の競争戦略に大きな影響を与えることになるだろうとトンプソン氏は結論づけています。
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