サイエンス

重力の影響をキャンセルできる自転車「Bricycle」に乗ると無重力状態では自転車を操縦できないことがわかる


自転車に乗る訓練を始めたばかりの子どもの頃を思い出すと、「重力なんかなかったらコケずに済むのに……」と思った記憶がある人も多いはず。重力のせいで自転車は難しいと誰もが思っているはずですが、実は逆に「重力があるからこそ自転車はちゃんと走ることができる」ということが、特殊な自転車を使った実験で解き明かされています。

The 'bricycle' dilemma - to steer or balance?
https://phys.org/news/2014-03-bricycle-dilemma-.html

この研究は、コーネル大学の研究チームが特殊な「重力によってコケることがない自転車」を作って実施したもの。その実際の走行シーンは以下のムービーで見ることができます。

A bicycle in zero gravity is unrideable (The bricycle). - YouTube


コーネル大学の研究チームが実験に使ったのが、この「Bricycle(ブライシクル)」と呼ばれる自転車。二輪の「Bicycle」と三輪の「Tricycle」の両方の特徴を備えるということで、両方の文字をとって「Bricycle」と命名されています。


Bricycleは、3つの後輪を持つ特殊な自転車。各車輪はリンク機構でつながっており、常に同じ傾きを保持するようになっています。このリンク部分は、全体がガシッと固定される状態と、完全にフリーで動く状態に変化させることが可能。


横から少し押してみると、3つの車輪が並行を保ったまま傾く様子がわかります。


さらに、中央にはバネが取り付けられており、フリー状態の時に車体を傾けても倒れないようにバランスをとることができるようになっています。


人が乗って車体を傾けてみると、不思議なことにコケてしまわず、その角度を保とうとする力が働きます。この機構を使うことで、地上に重力ゼロ状態を再現しようというわけです。


実験の様子がスタート。まずは普通の自転車による走行。


ごく普通の自転車に乗る女性が、パイロンの間をすり抜けます。これは何の変哲もない普通の様子。


次に、Bricycleによる走行。まずは、後輪のリンクをフリーにした「バイクモード(自転車モード)」で走らせます。


バイクモードにしたBricycleは、このように車体を傾けると倒れます。これはつまり、重力の影響を受けているという状態。


バイクモードで走行すると、普通の自転車と同じように車体を傾けながらパイロンをクリアしていきました。


次は「三輪車モード」。


後輪のリンクを固定し、車体が全く傾かない状態を作り出します。


この状態のBricycleは、車体を直立させたままパイロンをクリアしました。


そしてついに、無重力状態のBricycleによる走行。前述のように、無重力モードのBricycleは車体にかかる重力をキャンセルするようにバネの力がかかります。そのため、車体を傾けても倒れようとも起き上がろうともせず、その角度を保持しようとします。


Bricycleに乗る女性がスタート。パイロンに近づき、車体を傾けて曲がるのかと思いきや……


なぜか直進。この時、車体はカーブの反対側に傾いていることがわかります。


そのまま曲がれず、一直線に走ってしまう女性。


「慣れの問題では?」と思ってしまいますが、何度トライしても全く曲がれない様子。


ついにはバランスを崩して、足をついてしまう場面も。とにかく、自分の思ったようには走れていない様子がひしひしと伝わってきます。


屈強そうな男性がパワーにモノを言わせようとしてもムリ。Bricycleはむなしく直進するばかりでした。


自転車がカーブを曲がる時、操縦している人は無意識のうちにまずハンドルをカーブとは逆の方向に少しだけ切っているといわれています。そうすることで、バランスを微妙に崩した自転車はハンドルを切ったのとは逆の方向、つまりはカーブ側に車体が傾きます。そうすると今度は、前輪のハンドル軸につけられた角度(キャスター角)と車輪の接地点などのジオメトリが生み出す力により、ハンドルがわずかにカーブ側に切れた状態になります。そしてこの状態で、ハンドルの切れ角と遠心力、そして重力の力が拮抗した状態となることで、自転車は倒れずにカーブを曲がることができるようになるというわけです。


このあたりの仕組みは、以下の記事を読むとよくわかります。

なぜ自転車は倒れずに走り続けられるのか、そのメカニズムを動画で解説 - GIGAZINE


このように、人が自転車を思うように操れるのは、実は重力があるからこそだということが証明されました。邪魔にすら思えた重力がないと自転車に乗れないというのは実に不思議なことに感じられますが、これこそが物理の現実というものです。


なお、この研究による結果は微小重力空間における乗り物の運用方法に反映することが可能。今後予定されている火星探査などの際にも役立てられる可能性があります。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
自転車で右や左に曲がる時に、知らないうちに起こっている物理的な動きとは? - GIGAZINE

運転にはバランス能力が必須、漕ぐ必要のない電動一輪車「Enicycle」 - GIGAZINE

人が逆さ状態で運転する自転車「Skybike」 - GIGAZINE

前輪とハンドルをつなぐフロントフォークを外した大胆なデザインの自転車 - GIGAZINE

実物を見ずに描いてもらった自転車イラストを現実化すると大体こんな感じになる - GIGAZINE

in 乗り物,   サイエンス,   動画, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.