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太陽光発電の大規模展開に立ちはだかる壁「ダックカーブ現象」とは?

by Filipe Fortes

再生可能エネルギーである太陽光を利用した太陽光発電は、近年の研究で次第に発電コストも低下してきており、環境に負荷を与えにくい発電方法として注目を集めています。そんな太陽光発電ですが、大規模展開に伴って「ダックカーブ現象」という問題が発生することがわかっており、研究者たちはあの手この手でダックカーブ現象を解決しようと模索しています。

Solar power’s greatest challenge was discovered 10 years ago. It looks like a duck. - Vox
https://www.vox.com/energy-and-environment/2018/3/20/17128478/solar-duck-curve-nrel-researcher

FlexibleResourcesHelpRenewables_FastFacts.pdf
(PDFファイル)https://www.caiso.com/Documents/FlexibleResourcesHelpRenewables_FastFacts.pdf

2008年、アメリカにある国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の研究者たちは太陽光発電の大規模展開についての予測を行っている最中に、電力需要を表した曲線に一定のパターンがあることを発見しました。そのパターンとは、「人々が起き始める朝6時~朝8時にかけて電力需要が急増し、人々が帰宅した夜18時ごろに再び電力需要が増す」というもの。この曲線は季節や地域によって多少のズレがあるものの、ほとんど同じ形を取るようですが、電力需要のズレはそれほど大きなものではなく、従来の電力供給システムで十分に対応可能でした。


ところが、「太陽光発電の大規模化に伴い、電力需要曲線のパターンに変化が現れるだろう」という予測をNRELの研究者たちは行いました。太陽光発電は従来の発電所で発電量を管理できるシステムとは違い、太陽が昇ると同時に発電を行い、太陽が沈めば発電が終了するという自然の運行に従ったシステムです。そのため、管理者が「発電量を上げよう」「発電量を抑えよう」といった制御を行うことができず、発電している時間帯だけ電力を供給し、発電が終わると電力の供給が終わるというパターンを取ります。従来の電力供給システムのオペレーターから見ると、「太陽光発電が行われている間はその分だけ電力需要が低下し、太陽光発電が終了するとその分電力需要が上がる」という法則が見いだせるのです。

電力需要の総量から、太陽光発電によって供給される分の電力を引いた量を「実質電力需要」としてみると、朝から夕方にかけて電力需要が低下し、夕方から夜にかけて電力需要が急増することになります。太陽光が得られる日中は太陽光発電が行われて、その分だけ実質電力需要が下がりますが、太陽光が得られなくなった夜間帯は電力需要の全てを従来の化石燃料や原子力発電によってまかなう必要に迫られ、実質電力需要が上がるのです。実質電力需要を表した曲線は、太陽光発電が大規模化して発電量が増えれば増えるほど、大きなカーブを描きます。


太陽光発電を考慮した実質電力需要を表した曲線がアヒルのように見えることから、太陽光発電によって実質電力需要が大きく変動する現象は「ダックカーブ現象」と呼ばれています。


多くの電力供給システムのオペレーターたちには、ダックカーブ現象に対応して朝になると共に急激に発電量を抑え、夕方になると発電量を上げるという作業に慣れていません。また、発電プラントの急稼働と急停止は非常に高額なコストを必要とするため、「ダックカーブ現象によって太陽光発電を推し進める動きにブレーキがかけられてしまうのでは」という懸念が生まれました。

2008年の発見以来、多くの人々がダックカーブ現象の解決に向かって知恵を絞っており、現在ではいくつかの解決策が示されているとのこと。NRELの研究チームを率いたポール・デンホルムさんは、アメリカのニュース系ウェブメディアVoxのインタビューに対し、ダックカーブ現象の解決策や太陽光発電の展望について語っています。

デンホルムさんはダックカーブ現象を解決する方法の1つとして、「広い地域で太陽光を共有すること」を挙げています。アメリカのように国土が東西に長い地域では、同じ国内であっても太陽が昇る時刻と沈む時刻に大幅なズレが発生し、実際にアメリカでは4つの時間帯が設定されています。朝になって太陽が昇った地域で行われた太陽光発電によって生産された電力を、まだ太陽が昇っていない地域へと送って使用するとすれば、実質電力需要のギャップを抑えつつ緩やかに発電所の発電量を変化させることができます。もしくはその逆に、太陽が沈んだ地域にまだ太陽が昇っている地域で生産した電力を送ることで、実質電力需要のギャップを抑えることも可能です。

by gracelinks

「電力を日照時刻のズレる広い国土で共有する」という解決策には、太陽光発電によって発電された電力をスムーズに取引可能な「固定価格買い取り制度」が大きな役割を果たす可能性があります。しかし、この方法を効率よく運用するためには、国土全体の発電量と実質電力需要を監視する体制が必要になり、電力供給システムの大きな改革が求められるとのこと。

一方、風力発電や地熱発電など、他の自然エネルギーを利用する方法と太陽光発電を組み合わせ、発電量のギャップを埋めようという考えもあります。しかし、デンホルムさんの見通しでは、風力発電などの自然エネルギーも太陽光発電と同様に季節や時間帯の影響を受け、完全に相補的な関係を構築することは難しいそうです。

デンホルムさんが有力かもしれないとする方法に、「蓄電池によって日中の太陽光発電で得られた電力を蓄え、夜間帯にその電力を解放する」というものがあります。現在では大量の電力を蓄える蓄電池は高額ですが、いずれ蓄電池の価格は低下し、より簡単に太陽光発電した電力を夜間でも利用できるようになると、デンホルムさんは考えています。

by barnyz

しかし、デンホルムさんが最も必要だとしているのは、私たち一人一人が「夜間の電力消費量を抑える」意識を持つことだとしています。言葉だけで人々の意識を変えるのが難しいのであれば、時間帯によって電力の料金を変動させることで、夕方から夜間にかけての電力消費を抑制するように働きかけるべきだとのこと。

デンホルムさんの見通しでは、太陽光発電を含む再生可能エネルギーの比率が全発電量の100%を占めることはないと思われ、最大でも80%がせいぜいだそうです。「なぜ再生可能エネルギーの比率を100%にまで高めなければならないと、人は思ってしまうのでしょうか?80%を再生可能エネルギーがまかない、残りの20%を従来の化石燃料や原子力発電がまかなうことで十分だと私は考えています」とデンホルムさんは述べており、100%を再生可能エネルギーにしてしまうと、逆にコストがかかってしまうと予想しています。

もちろん、現状では再生可能エネルギーの比率は80%どころか、50%にも達していません。全国的な送電網の整備や蓄電池の改良など、太陽光発電の運用にはさまざまな課題が残っている状態で、デンホルムさんはこれからも太陽光発電の問題解決に向けて取り組むと語りました。

by James Moran

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