サイエンス

インフルエンザや感染症の拡大速度を予測する実験


数万人のボランティアを使って実施された「インフルエンザの流行速度を予測する実験」では、イギリス人口の約65%である4300万人がインフルエンザに感染する可能性があり、感染した人のうちなんと88万6000人が死亡する可能性があると予測されています。

Citizen science experiment predicts massive toll of flu pandemic on the UK | University of Cambridge
http://www.cam.ac.uk/research/news/citizen-science-experiment-predicts-massive-toll-of-flu-pandemic-on-the-uk


インフルエンザの流行は本当に危険なものです。世界各地の専門家たちはいつ致命的なインフルエンザの流行が起きるかと議論しており、イギリス政府は「民間人にとって最も危険なもの」はインフルエンザであると考えているほどです。インフルエンザの流行が起きれば、ほぼ確実にその余波はイギリスまで届くそうですが、その流行の速度を予測する実験が行われています。

実験に用いられたのはケンブリッジ大学とロンドン・スクール・オブ・ハイジーン&トロピカル・メディスンの研究者によって設計されたインフルエンザ流行予測モデルで、これは約3万人のボランティアデータに基づいて設計されています。このモデルはHannah Fry博士とJavid Abdelmoneim博士により発表されたもので、予測モデルの設計に用いられるデータセットは最大規模のものとのこと。なお、予測モデルに関する詳細は科学誌の「Epidemics」にも掲載されています。

Contagion! The BBC Four Pandemic – The model behind the documentary


「インフルエンザの流行予測の価値は、モデルの品質に完全に左右されます」と語るのは、ケンブリッジ大学で数学と理論物理学の教授を務めるJulia Gog博士。続けてGog博士は、「今までは『インフルエンザに感染する人口がどのように変動するか』の予測は驚くほど限られており、既存の研究では比較的少ない人口サンプルしか使用されていませんでした。人々が日々移動・交流する中で、ウイルスがどのように人から人へ感染し、広がっていくのかを理解するには予測モデルは必要不可欠なものです。この研究ではボランティアにアプリを使ってもらうことで、人間がどのように動くのかを追跡し、日々どのような相手と遭遇するかを記録。これによりイギリスでの感染病の流行に関する最大のデータセットを作成することを目指しています」と語っています。

なお、調査を通して作成された予測モデルは、人口約6564万人のイギリスで4300万人がインフルエンザに感染する可能性があり、感染した人のうちなんと88万6000人が死亡する可能性があると示唆されています。以下の図は予測モデルをもとにインフルエンザの感染がどのように広がっていくのかを可視化したもので、色が赤色に近い場所ほど早期にインフルエンザが流行していることを示しており、少なくとも14週でイギリス全土でインフルエンザが蔓延することがよくわかるようになっています。


「実験では研究への参加者を募集する点で非常に成功しています」と語るのは、論文の著者であるPetra Klepac博士。研究者たちによると、収集できたデータは従来のものと比べると信じられないほど豊かで、感染症がどのように伝播していくかを探る上で重要になる「人と人の接触パターン」や「人間の運動パターン」などをモデル化するのに役立つとのこと。Klepac博士は、今回の調査により収集されたデータが人間の動きや接触パターンをモデル化する際の「ゴールデンスタンダード」になるだろうと述べています。

なお、人間の動きや接触パターンの調査は2018年中は続けられる予定となっており、イギリス在住ならばApp StoreおよびGoogle Play上からアプリをインストールして被験者として調査に参加することも可能です。調査終了後、収集されたデータは匿名化された状態であらゆる研究者に提供されるため、将来的により正確な予測モデルを製作する手助けになる可能性があります。なお、研究ではインフルエンザの流行についての予測モデルを製作したわけですが、「イギリスや他の国での感染症の拡大を推定するのにもこのデータは役立つ」と研究チームは記しています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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