取材

NVIDIAの新GPU技術「MAX-Q」がGTX 1080を一体どうやって激薄ノートPCで動かせるのか?NVIDIAに聞いてみました


NVIDIAがCOMPUTEX TAIPEI 2017の開幕日にゲーミングノートPC用の新プラットフォーム「MAX-Q」を発表しました。MAX-Q技術によって高性能GPU「GeForce GTX 1080」を18mm以下の激薄ノートPCに搭載して4Kゲームをサクサクプレイすることが可能だとのこと。重くてゴツイという高性能ゲーミングノートPCの概念を根底から覆したMAX-Qの仕組みについて、NVIDIAに聞いてきました。

GeForce GTX Max-Q Laptops | GeForce
https://www.nvidia.com/en-us/geforce/products/10series/laptops/max-q/

MAX-QによってゲーミングPCの世界が一変する様子は、以下のムービーを見れば一発で理解できます。

Introducing the All-New GeForce GTX 10-Series Laptops with Max-Q Design - YouTube


これまでのハイエンドゲーミングノートPCは、高性能GPUの発する熱を処理するために重く分厚い筐体が不可欠でした。必然的に「ゲーミングPC=ゴツい」というイメージに。


MAX-Q DESIGNはこの状況を一変させる技術。


MAX-Qの規格で誕生するゲーミングノートPCは、18mm以下の厚みで重さも5ポンド(約2.27kg)以下。ビジネスPCかと見間違えるようなノートPCのなかに、「NVIDIA GeForce GTX 1080」という高性能グラフィックを内蔵できます。AppleのMacBook Airの厚みが17mmであることから、MAX-Q採用ノートPCのおおよその薄さは想像できるはずです。


この従来のゲーミングノートPCの概念を覆す技術「MAX-Q」は、COMPUTEX TAIPEI 2017初日に行われたジェンスン・フアンCEOのキーノートスピーチで発表され、衝撃を与えました。


COMPUTEX TAIPEI 2017の会場ブースでもMAX-Q採用ノートPCが展示されており、大きな反響を呼んでいます。ASUS ROG ZEPHYRUSは本体に触れるのに順番待ちをする必要があるほど、注目を集めていました。

新時代の到来を予感させる激薄のGTX1080搭載ゲーミングノートPC「ASUS ROG ZEPHYRUS」 - GIGAZINE


一体どのようにしてMAX-Qが誕生したのか?どのようにしてGTX 1080を薄型ノートPCに内蔵できるのかを、GeForce GPU製品のマーケティングを担当するGaurav Agarwal氏に説明してもらいました。


まず、GeForce GTXのGPUを内蔵するゲーミングノートPCはインストールベースでは2000万台を突破。これは過去5年で9倍というハイペースで、2016年にはMicrosoftのゲーム機Xbox Oneを上回ったとのこと。拡大するゲーミングPC市場の中でもゲーミングノートPCというジャンルが一定の支持を集めています。


そこでNVIDIAでは「『理想のゲーミングノートPC』をデザインすればどのようなものになるか?」を考えたところ、必要な要素は大きく3つ。「薄さ」「(ハイレゾの4Kゲーム対応な))高性能」「静音性」だったとのこと。しかし、現実の高性能ノートPCは、これらの要素を満たさないもので、分厚く、フルサイズのグラフィックボードの性能には達せず、排熱用のファンが爆音で回る、というものでした。


大きな原因はグラフィックボードに内在する性能と熱の関係。高性能GPUは性能が上がるほど指数関数的に発熱量が増えます。そのため、性能を追求すれば排熱のためにクーリング性能を高める必要があり、必然的にノートPCの筐体は厚くせざるを得ません。つまり、可能な選択肢は2つで、「薄くて静かだが性能の低いもの」か「高性能だが分厚くうるさいもの」のいずれか。性能と薄さのいずれか一方をとらなければならないというジレンマがあったそうです。

GeForce GTX 1080のTDPは180W。これに対してゲーミングノートPCのシステム全体の消費電力は90W。GPU単体をフォローすることすら不可能で、高性能GPUをノートPCに内蔵するのがいかに難しいかは想像に難くありません。


それを変える「薄くて静かだが高性能」な理想のゲーミングノートPCを生み出すべく開発されたのが「MAX-Q」。MAX-Qとは、スペースシャトルなどのロケットにかかる最大負荷のポイントを指す航空宇宙工学用語。過酷な負荷に耐えうるデザインという哲学をノートPCで実現したのがMAX-Qというわけです。


GTX 880Mを搭載するゲーミングノートPC(左)とMAX-Q対応ゲーミングノートPCとの比較。880MノートPCに比べると、MAX-Q対応ゲーミングノートPCは「性能で3倍、薄さ3分の1で半分の重量」という劇的な進化を遂げたとのこと。まさに次元が違う進化です。


この進化を実現した要素が、「効率化」「GFE(ゲームドライバー)の最適化」「高性能な排熱機構」「レギュレーターの最適化」


以下はGPUの性能(縦軸)と必要なパワー(横軸)の関係を示したグラフ。パワーに対して性能の上昇率は急激に下がります。これは、パワーを大きく下げても性能低下が小さい領域があるという裏返し。緑色の部分は、10%の性能低下と引き替えに40%の省電力化が可能なことを示しています。


以下はパワーを上げるに従って性能上昇率を示すグラフで、あるピーク地点までは右肩上がりにパワーを上げれば性能も上がりますが、ピークを境に急激に性能向上率は下がります。つまり、ピークが「最もおいしい場所」というわけです。この最もおいしい場所を使い続けるために、ソフトウェアやレギュレーター部の最適化を突き詰めたのがMAX-Qです。


ちなみに、MAX-Qの場所をAgarwal氏に指し示してもらいました。GTX 1080本来の180Wの3分の1の消費電力のMAX-Qを実現するために、このポイントより左の「おいしい場所」を使います。


MAX-Qがどれくらいの性能を持つのかは、各ゲームでのパフォーマンスを比較した以下のグラフの通り。GTX 1080を搭載するMAX-Q(緑色)は、GeForce GTX 1060を搭載する「普通の」ハイエンドゲーミングノートPC(灰色)を圧倒する性能をたたき出します。


MAX-Qは、性能だけでなく「音」にまでこだわっています。MAX-Qでは40dBA以下と厳しい静音性能を課しているとのこと。40dBAから32dBAに下がると人間の耳では「半分の大きさの音」に感じるそうです。MAX-Q認証を受けるあらゆるノートPCでは40dBA以下の静音性が保証されており、このような認証はゲーミングノートPCでは初の試みだとのこと。ユーザーは購入前にゲーミングノートPCがどれくらいうるさいのか分かりませんが、MAX-Q対応であれば静音性が保証されるというわけで、これは大きなメリットです。ちなみに、トータル出力も90W以下と定められています。


音にこだわるNVIDIAは、MAX-Qに「WhisperMode」という静音技術を採用。WhisperModeはGFE(GeForce Experience)に取り入れられた新しいセッティングでプレイ中に感じる騒音を低減するもの。


以下のグラフはゲーム「Overwatch」のプレイ中のフレームレートと出力の関係を示したもの。ほとんどのゲームには、出力の増大に比べてフレームレートを稼げなくなるポイント(緑色)があることが分かっており、このおいしい場所を使う設定によってフレームレートを稼ぎつつ、音を下げるとのこと。WhisperModeによる最適化が図られたゲームはすでに400タイトルを超えているそうで、多くのゲームで耳障りな音をシャットダウンできそうです。


MAX-Q対応ゲーミングPCでGTX 1080を搭載する世界初のゲーミングノートPC「ASUS ROG ZEPHYRUS」はG-SYNCにも対応します。17.9mmの筐体はまるでビジネスノートPCのよう。


MAX-Q対応ノートPCはすでに19社ほどのPCメーカーでの製品化が検討されているそうです。


◆質疑応答
GIGAZINE:
MAX-Qは各種最適化が施されているということですが、中身自体はフルサイズグラフィックボードのGTX 10シリーズと同じですか?ノートPC用GPUとしてかつてあった「M」付きのようなものではなく?

Agarwal:
はい。中身は同じです。

GIGAZINE:
ということは、NVSYNCやCUDAも使える?

Agarwal:
もちろん使えます。

GIGAZINE:
最適化設定はPascal世代GPUのみでMaxwell世代など旧世代GPUでは使えませんか?

Agarwal:
Pascal世代のみでGTX 1080/1070/1060が対応します。Maxwell世代では使えません。

GIGAZINE:
MAX-QのGFEを使って、デスクトップPCのGTX 1080を超絶省電力化することは可能ですか?

Agarwal:
MAX-Qはドライバーなどのソフトウェア面での最適化だけでなくレギュレーターなどでも厳しい制限があります。ファンの騒音もそうです。そのため、デスクトップ用のグラフィックボードでは使えません。あくまで、薄くて静かで高性能な理想のゲーミングノートPCを生み出すというのがMAX-Qのコンセプトです。

GIGAZINE:
MAX-Qがあれば、かつての「M」付きモデルは不要になりそうですが?

Agarwal:
はい、M付きモデルは廃止になります。GTX 10シリーズからは「M付き」モデルはリリースされていません。

◆デモ
ということで、MAX-Q採用でGTX 1080を搭載した「ASUS ROG ZEPHYRUS」でゲームプレイを実演してもらいました。

Playing 3D game with ASUS ROG ZEPHYRUS on GTX 1080, NVIDIA MAX-Q DESIGN is literally GAME CHANGER!! - YouTube


G-SYNC対応のROG ZEPHYRUSは120Hzでのゲームプレイも可能。驚くことにプレイ中の騒音はほとんど感じられず。薄くて軽いため携帯性も抜群で、LANパーティが大きく捗りそうで、ゲーミングノートPC新時代の到来を感じさせるものでした。

MAX-Q対応のゲーミングノートPCは続々登場予定。日本での発売に期待です。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
極小サイズのPCにGTX1080をぶち込むASRock「DeskMini GTX/RX」シリーズが変態全開モード - GIGAZINE

GeForce GTX 1080などVR対応をさらに進めたPascal世代のグラフィック技術に関するNVIDIA説明会に行ってきました - GIGAZINE

前ハイエンドTITAN Xの2倍の性能&3倍の電力効率で3割も安いという化物グラボ「GeForce GTX 1080」をNVIDIAが発表 - GIGAZINE

GPUを使ってH.265で爆速エンコードが可能な無料ソフト「A’s Video Converter」を使って4Kムービーをエンコードしてみた - GIGAZINE

GTX 1080をクラウド上でレンタルして非力マシンでも3DゲームをプレイできるPC版クラウドゲームサービス「GeForce NOW」をNVIDIAが発表 - GIGAZINE

世界最大級のITトレンドショー「COMPUTEX TAIPEI 2017」現地取材記事まとめ - GIGAZINE

in 取材,   ソフトウェア,   ハードウェア,   動画,   ゲーム, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.