催眠術のもととなった「メスメリズム」の知られざる歴史
By malavoda
意識がもうろうとして暗示のかかりやすい状態は催眠と呼ばれており、この状態を導く技術が催眠術であり、現代では催眠治療という治療法が確立されています。催眠術のルーツをたどると、18世紀の医師フランツ・アントン・メスメルが考案した「メスメリズム」にたどり着くのですが、その存在はあまり知られていないようです。
メスメリズム(めすめりずむ)とは - コトバンク
https://kotobank.jp/word/メスメリズム-1426295
フランツ・アントン・メスメル - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/フランツ・アントン・メスメル
「メスメリズム」の実際 | 催眠コラム | 吉田かずおの催眠セミナー
http://saimin-seminar.com/「メスメリズム」の実際
18世紀末のオーストリア・ウィーンで開業医をしていたメスメル氏は、ヒステリー発作を患った1人の女性患者に鉄を含んだ調合材を飲ませて、患者の体中に磁石を付けるという治療を行いました。この治療により、患者の痛みは磁石の動きに応じて移動し、そのまま手足から消えたとされています。メスメルは、生命現象をつかさどる物理的流体が宇宙に存在すると唱え、これを動物磁気と名付け、動物磁気を操作することで患者の病気を治すことができると主張しました。
メスメル氏は磁石を使わない動物磁気を使った治療法を考案。その治療法とは、手のひらを患者の体にかざし、接触することなくなでることで動物磁気を与えます。動物磁気を与えられた患者は分利と呼ばれるけいれんを起こし、このけいれんを除去することで病が治ったとされています。
By Mordy Steinfeld
メスメル氏によれば、動物磁気は万物の間に充満していて、運動作用を伝えたり、神経を介して動物へ影響を与えたりする力であり、既存の物理とは異なる力だとのこと。つまり、動物磁気は心理的なものではなく物理的に検出できる力であると主張していたというわけです。
メスメル氏が考案した動物磁気を扱う治療法は「メスメリズム」と名付けられオーストリアだけでなくドイツやイギリスなどに伝わっていきました。1784年にはフランス国王からの命令でフランスに2つのメスメリズム調査委員会が設立され、メスメリズムに対する調査が行われたのですが、委員会は「メスメル氏が考案した動物磁気は物理学的に検出できないゆえに存在しない」とし、メスメリズムには効果がないと結論づけました。
しかし、メスメル氏の弟子のピュイセギュール氏がメスメリズムの治療の際に患者が磁気睡眠という催眠状態に入るということを発見。磁気睡眠は現代で言うところの催眠状態とは少し異なり、患者が知性を示したり体内の病気の箇所を透視したりする状態を引き起こしました。磁気催眠に陥ることにより、医師と患者の間で流体が循環する交流状態が発生し、この状態の間は医師が意図する通りに患者に行動を起こさせる、つまり痛みを取り除けるというのがピュイセギュール氏の理論です。ピュイセギュール氏の理論と治療法は、メスメリズムの大きな転換点とされていて、その後はピュイセギュール氏の理論がメスメリズムの中心となっていったとのこと。
By Ray Scrimgeour
その後は各国で下火になりながらもながらもメスメリズムの研究が続けられ、メスメリズムに感銘を受けたイギリス人医師のジェイムズ・ブレイド氏が、メスメリズムによる催眠状態は動物磁気ではなく心理生理学的な現象によって引き起こされていることを証明し、メスメリズムが迷信的なものではないことを示す論文を提出。後に、メスメリズムに代わり「神経催眠」という言葉を生み出し、凝視法という催眠導入法を考案。そして、神経催眠は「催眠」と呼ばれ今に至ります。
というように、現代の催眠術を語る上で絶対に通るのがメスメリズムというわけ。メスメリズムや提唱者であるメスメル氏についてもっと知りたいという人は以下の書籍を読んでみると良さそうです。
眠りの魔術師メスマー : ジャン チュイリエ, Jean Thuillier, 高橋 純, 高橋 百代 : 本 : Amazon
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4875022034/gigazine-22
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