メモ

学校から学年と時間割をなくすとどうなるのか?

By Yusuke Umezawa

学校といえば、時間割で決められた通りに授業を受け、テストをこなし、進級していくものですが、ドイツには「学年」も「時間割」も存在しない先進的な学校が存在します。

No grades, no timetable: Berlin school turns teaching upside down | World news | The Guardian
https://www.theguardian.com/world/2016/jul/01/no-grades-no-timetable-berlin-school-turns-teaching-upside-down


2015年、アントン・オーバーレンダーと彼の友人グループはイギリス・コーンウォールへのキャンプ旅行に出かけようとしました。しかし、キャンプの費用が足りなかったため、オーバーレンダーはドイツの国営鉄道と交渉して無料切符を手に入れ、その代わりにドイツの国営鉄道に勤める約200人の従業員に向けてスピーチを行うこととなりました。このエピソードの驚くべき点は、優れた行動力で切符を入手したオーバーレンダーが、まだわずか14歳の少年だということです。

わずか14歳にして社会人の前でスピーチを行うこととなったオーバーレンダーですが、その自信を支えるのはドイツの教育機関が従来の教育現場で見られたしきたりを根本から覆して設けた、ユニークな教育プログラムです。オーバーレンダーの通う「Evangelical School Berlin Centre(ESBC)」という学校には、15歳になるまで「学年」というものが存在せず、時間割もないので決まった授業の形式も存在しません。

By Karl Baron

オーバーレンダーの通う学校では、生徒は自分が学びたい教科を自分で決め、さらにはいつ試験を受けるかまで生徒が決められるようになっています。ただし、学ぶことを自由に選択できる科目は、数学・ドイツ語・英語・社会科の4つに制限されており、これに加えて「責任」と「挑戦」というコースも設けられているそうです。例えば「挑戦」というコースは、12歳から14歳の学生が完全に1人でプランを立て、115ユーロ(約1万3000円)という予算で冒険に出かける、というものです。この冒険の内容は多種多様で、ある生徒はカヤック体験に向かい、また他の生徒は農場での就業体験を行うのですが、オーバーレンダーは英語を学ぶためにイギリスのコーンウォールにキャンプに行くことを決めました。

この革新的な教育プログラムの導入の理由について、「スマートフォンとインターネットにより若者の情報処理の方法が変化し、労働市場で求められる条件が変化している」とマルグレート・ラスフェルド教頭。また、ラスフェルド教頭は学校が生徒に教えられる最も重要なスキルは「自分自身のやる気を起こす」能力であると考えおり、「3歳や4歳くらいの子どもは、自信にあふれています。そして、その年代の子どもたちは、早く学校に行きたくてしかたがない、という子どもが多いものです。しかし、実際に学校に通い出すと多くの子どもがイライラしており、これまでの学校では小さい頃に胸に抱いていた自信をうまくトレーニングしてあげることができていませんでした」と、先進的な教育プログラム導入の理由を語っています。

ラスフェルド教頭の学校では生徒が獲得したスキルを示すための方法を考えることが奨励されており、数学のテストを受ける代わりに、コーディングでコンピューターゲームを作成することで成績を得ることもできるとのこと。オーバーレンダーは、コーンウォールでのキャンプに挑戦するまで、人生で自宅を3週間以上留守にしたことはなかったそうですが、数年間学校で英語を学ぶのと同じくらい高密度な英語学習を行うべく、コーンウォールでのキャンプに挑戦することに決めたそうです。

By Rae Allen

ESBCの教育プログラムがドイツでも高く評価されているのは、印象的な結果を残しているからです。2007年に開校したESBCの、初年度入学者数は16人でしたが、現在では500人以上の生徒が通う人気校となっており、入学の順番リストには多くの申し込み者の名前が並んでいるとのこと。ESBCの成功がウワサとして広がり、この新しい教育方針が全国的なものになっても何もおかしくはない、とイギリスの新聞社The Guardianは語っています。

しかし、教育者の中にはESBCの教育方針が簡単に他の学校に輸出できるものなのかを疑問視する人もいます。評論家は「ベルリンならば、学校が多くの申し込み者の中から裕福でプログレッシブな家庭から有望な人材を選択することができる」と言います。しかし、実際にはESBCでは異なるバックグラウンドを持つ生徒を採用することを狙っているそうです。実際、ESBCの生徒の3分の1がカトリック教徒で、30%が移民系、7%がドイツ語を話すことができない世帯の子どもとのこと。また、ESBCはドイツに存在する約5000校もの私立学校の中のひとつですが、授業料はイギリスの一般的な私立学校よりも安く、年間で720ユーロ(約8万2000円)から6636ユーロ(約76万円)です。また、全生徒の5%は授業料を免除されています。

By MC Quinn

しかし、ラスフェルド教頭は「ESBCの教育プログラムに適した教師を見つけることは、生徒を見つけることよりも難しい」と認めています。なお、現在ドイツでは約40校がラスフェルド教頭が編み出した「学年も時間割もない教育プログラム」の一部あるいは全てを採用するべく、調整を行っているそうです。また、ベルリンのある学校では、「挑戦」コースの一環として、生徒にアルプス山脈のトレッキングを行わせています。

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in メモ, Posted by logu_ii

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