メモ

フィルムで知られるコダック社が秘密裏に行われた核実験に気づいた理由

by Jack Aeby

1945年7月16日、ニューメキシコ州にあるホワイトサンズ性能試験場で人類史上初の核実験である「トリニティ実験」が行われました。この実験は準備段階から秘密裏に行われて結果は関係者しか知らないはずでしたが、フィルムなどの写真用品のメーカーとして知られるコダックは、かなり早いうちに「核実験が行われた」という事実にたどり着いていました。

When Kodak Accidentally Discovered A-Bomb Testing
http://www.popularmechanics.com/science/energy/a21382/how-kodak-accidentally-discovered-radioactive-fallout/


「トリニティ実験」は無事成功に終わりましたが、核実験であることは明かされず、一般に向けては「火薬庫での爆発事故があったが、死者・負傷者はなかった」という発表が行われました。

この実験が終わってから後、コダックのもとに、レントゲン用のフィルムを購入した顧客から「フィルムに霧がかかっているようで、使えない」という苦情が多数入るようになりました。


コダックの研究開発部に所属していた物理学者のジュリアン・H・ウェッブ氏が1949年にアメリカ物理学協会に寄せた文書によると、コダックでは1940年代前半にもフィルムに霧がかかるような現象が起きていて、その原因がラジウムにあるとわかったため、フィルム用のパッケージや保護材はラジウムの影響を受けない、インディアナ州ビンセンズやアイオワ州タマのパルプ工場で生産されていました。

それでもなお発生したこの事態を受けて、ウェッブ氏は調査を開始。その結果、フィルムが霧がかってしまったのはラジウムではない別の放射性物質の影響があったこと、パッケージ自体も放射線で汚染されていたことを洗い出します。

そして写真に残った証拠から、この謎の放射性物質の半減期が約30日、つまりセリウム141だと突き止めました。

問題は、いつ汚染されたのかということ。ボール紙の原料となるわらは使用前、倉庫に長期間保存されていました。もしセリウム141が直接わらに影響を与えたのであれば、ボール紙として加工されたころには放射線はほぼ検出できなくなっていたはず。そこでウェッブ氏が導き出した結論は「川の水に由来する」ということでした。パルプ工場は水を大量に使用し、ビンセンズの工場はウォバシュ川に、タマの工場はアイオワ川に面していました。汚染は、遠い場所で行われた何らかの活動によって舞い上がった放射性物質が、雨で落ちたことにより起きたものだと考えられました。

1945年の時点でウェッブ氏がトリニティ実験のことを知っていたかどうかは定かではないものの、1949年に発表された文書の中では、「最もありえる説明としては、1945年7月16日にニューメキシコ州で実施された原子爆弾の爆発に由来する放射性物質が風に運ばれてきたものである」と断言しています。あまりにも重大な情報であることから、1949年まで公開を伏せていたという説もあります。

影響を受けたコダックのフィルムの写真がコレ。

Kodak Film Fogged by the Trinity Test (1945)
http://www.orau.org/ptp/collection/hiroshimatrinity/kodakfilm.htm

by Oak Ridge Associated Universities

ちなみに、放射性物質が風で東へ流されるということは空軍の気象学者だったB・G・ホルツマン大佐も想定していて、実験場を東海岸に作ることを提言していましたが無視され、次の試験場はネバダ州に作られました。

このネバダ試験場での初の核実験は1951年1月27日に実施されました。コダックはニューヨーク州の本部にガイガーカウンターを設けていて、実験から数日後に通常時の25倍の放射線を検出し、原子力委員会に対して1945年と同じようにフィルムがやられてしまうと事態になると申し出ましたが、原子力委員会はAP通信に対して「ロチェスターで放射性物質を含む雪が降ったが、人間や動物への害はない」とプレスリリースを出すだけでした。

1951年3月、コダックは今度は政府に対して「ネバダでの試験、あるいはその他の核実験により、コダックの製品が大きな影響を受けている」と訴え出ました。これを受けて、原子力委員会は、この当時コダックの物理学部門の長となっていたウェッブ氏との間で「今後、実験を行うときはコダックが対策を取れるように、場所とスケジュールを伝える」という内容で合意しました。

ちなみに、コダックはロチェスターにある会社敷地内地下に、中性子画像出力用としてカリホルニウム中性子増幅器「CFX」を設置。そのことを30年以上に周辺住民に知らせず、2007年11月に施設を閉鎖して、高濃縮ウランを搬出していたことが明らかになっています。

コダック社、高濃縮ウランを用いた装置を 30 年以上も地域住民に知らせずに設置していた | スラド サイエンス
http://science.srad.jp/story/12/05/16/0031214/

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in メモ, Posted by logc_nt

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