サイエンス

脳トレーニングによる能力アップは「プラシーボ効果」によって生みだされていたことが証明される

By Neil Conway

脳の機能を高める効果があるとして「脳トレーニング」系の訓練プログラムが関心を集めていますが、その効果をうたう根拠の多くがプラシーボ効果によるバイアスがかかったものであることを明らかにする研究結果が発表されました。

Billion-dollar brain training industry a sham—nothing but placebo, study suggests | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2016/06/billion-dollar-brain-training-industry-a-sham-nothing-but-placebo-study-suggests/

学力の向上や仕事の能力アップ、さらには加齢による脳機能の低下を補うことを目的に、脳を鍛えて認知力を高めるとする、いわゆる「脳トレ」系のコンテンツが大人を中心に人気を集めており、アメリカでは「Lumosity」や「Cogmed」、「NeuroNation」などの大手脳トレーニングプログラムがサービスを提供してきました。しかし、その効果については懐疑的な見方が常に存在しており、実際には脳の機能は向上しておらず、単なるプラシーボ効果、つまりは気のせいであるとする指摘が相次いでいました。


2016年1月には、「加齢に伴う認知能力の低下に対する消費者の恐怖をあおり、ゲームをプレイすることで記憶力の低下や認知症、アルツハイマー病を食い止めることができると示唆したが、その効果を裏付けるための科学的な根拠を持っていなかった」として、アメリカ連邦取引委員会はLumosityに対して200万ドル(約2億4000万円の罰金を課す処分を下しています。

「脳力トレーニング」の効果が認められずサービス提供企業に約2億円の罰金処分が下される - GIGAZINE


これらのサービスの多くは、実際のユーザーのIQがトレーニング後に向上したという結果を根拠にしていたのですが、その結果が実はプラシーボ効果によって影響を受けた、いわゆる「盛られた」結果になっていたことが科学ジャーナルサイトの「Proceedings of the National Academy of Sciences」に掲載された研究結果で明らかにされています。

Placebo effects in cognitive training
http://www.pnas.org/content/early/2016/06/16/1601243113.abstract

その中で研究チームは、過去に実施されてプラスの結果を出していた検証実験においては、被験者の集め方に問題があったと指摘しています。多くの場合、被験者を集める際には「脳のトレーニングを行って脳の機能を高めましょう」などといった謳い文句で被験者を集めていたということなのですが、実はこの段階で既にプラシーボ効果の下地づくりが行われていたとしています。「脳の機能を高めましょう」というキャッチコピーで集められた被験者は、当然のように良い結果を期待しながら検証に参加します。すると、本人が意識するとしないにかかわらず、トレーニング後には良い結果が出てしまうというのが研究チームが指摘する問題点であるというわけです。

この問題を排除するため、研究チームでは次の2枚のポスターを作成してバイアスがかかっていない被験者を集めました。左のポスターには「脳トレーニング&認知力の強化 数々の研究から、流動性知能は向上できることが証明されています。ぜひ実験に参加しましょう!」とのキャッチコピーが書かれ、トレーニングの効果を期待させる内容を伝えています。一方の右のポスターには、同じようなレイアウトのままで「メールを送って実験に参加しよう SONAのクレジット(ポイント)が欲しくないですか?実験にサインアップすることで最高で5クレジットをゲットしましょう ぜひ実験に参加しましょう!」というふうに、実験内容に興味を持っているのではなくポイントを目当てとした被験者を集めています。


この方法で、研究チームは「実験に期待しているグループ」(プラシーボグループ)と、「クレジットをゲットするためだけで参加しているグループ」(対象グループ)の2グループを各25人ずつで構成して実験を行い、その結果を比較しました。

両グループとも、まずはトレーニング前に標準化IQテストを実施して、もとの状態の数値を記録しておきます。次に脳を鍛えるトレーニングを、こちらも両グループ共通で実施させます。そして最後に、両グループにトレーニング後のIQテストを実施して、最初と最後の数値を比較。つまり、実験に参加する際の精神状態が異なる2つのグループのIQの違いを検証することで、プラシーボ効果の有無を検証しました。

するとその結果、プラシーボグルーではトレーニング後のIQが5~10ポイント向上したのに対し、もう一方の対象グループでは数値に目立った違いが生じていなかったという結果が明らかになったとのことです。つまりここから、脳トレーニングによってIQの数値が向上するのは、「脳の機能が向上する」と期待しながらトレーニングを行ったことが原因だったという、まさにプラシーボ効果以外の何ものでもなかったということが証明されたというわけです。

実験からは、脳トレーニングで用いられたコンテンツそのものには効果がないという結論が導かれたわけですが、それでもなお、プラシーボグループの数値が向上したという結果には注目すべきものがあると言えます。実際にはプラシーボ効果だったことが証明された形の脳トレーニングの効果ですが、それによって得られた実際の効果をどのように考えるのかは、また別の判断が求められることになると言えそうです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by darkhorse_log

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