インタビュー

1度やったアクションはやらないように作ったという「牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-」林祐一郎監督インタビュー


「牙狼〈GARO〉」シリーズ10周年記念作品の劇場版「牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-」が2016年5月21日(土)から公開されています。本作はテレビアニメ「牙狼〈GARO〉-炎の刻印-」の4年後を描いた作品で、「炎の刻印」と同じく、林祐一郎さんが監督を務めています。

「牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-」の制作にあたったスタッフとして脚本家の小林靖子さんクリエイティブプロデューサーの丸山正雄さんへインタビューを実施してきましたが、最後は林監督で締めくくります。

劇場版『牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-』公式サイト
http://garo-divineflame.jp/

GIGAZINE(以下、G):
林監督は「牙狼〈GARO〉-炎の刻印-」2クール全24話を作った後、完全新作の劇場版である「牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-」制作にかかられましたが、プレッシャーなどはありませんでしたか。

林祐一郎監督(以下、林):
テレビシリーズの後でしたからプレッシャーはありませんでしたが、制作の最中にお話をいただいたので、その時点では劇場版に向けたプランを立てるよりも、まずはテレビシリーズをどう着地させるかということで頭がいっぱいでした。まず、劇場版をやるとなったときに思ったのは「やってくれるんだ」ということです。テレビシリーズの後に劇場版を、という流れは確かにありますが、中身が総集編というものも多くあります。その中で、完全新作の劇場版ということでしたから、やらせていただけてありがたいなと。


インタビューを受ける林監督のジャケットに光る、金狼感謝祭で関係者にのみ配られたという牙狼〈GARO〉ピンバッジ。


G:
3月に開催されたAnimeJapan 2016のステージイベントの時点で、監督は「すぐにでも見てもらいたい」「手応えを感じている」と語っておられました。

林:
ちょうどAnimeJapanの直前にダビングを終えたので、一刻も早く見てもらいたいという気持ちでした。僕自身も見てみて楽しめたので、テレビシリーズを見ていた人なら楽しんでいただけるだろうと思いました。

G:
クリエイティブプロデューサーの丸山さんが、林監督のことを「牙狼〈GARO〉(以下、牙狼)も含めて、もともと特撮モノとかが好きだったので、彼の中には『牙狼愛』があるんです」と評しておられました。

林:
特撮といっても、たとえば仮面ライダーとかをそんなに見ていたというわけではないんです。でも、ビデオの「未来忍者 慶雲機忍外伝」や映画「ゼイラム」のように雨宮さんの作品は外連味が強くて、「むむ?」と気になる存在でした。とはいえ、業界に入ってしまうと普段はアニメや特撮をじっくり見る事がないので、牙狼についても、時々テレビで見るような状態でした。そこで、テレビシリーズを始めるのを機に、頭から徹底的に見返しました。

G:
改めて見返した牙狼はいかがでしたか?

林:
とにかく「すごい」の一言です。まずはビジュアルの格好良さに惹かれますが、シリーズを重ねるごとに、スタッフさんたちの愛情がにじみ出てくるのを感じるようになって。アイデアも豊富に練り込まれていたので、「これをアニメにするなら、いろいろと生かせるんじゃないか」と、頂戴したものもあります。

G:
なるほど。

林:
アニメも制限がある中で工夫をして作りますが、牙狼も特撮でいろいろな制約があったであろう中で派手なことをやろうと工夫されているのが伝わってくるので、そういう精神性を受け継いで生かせれば、アニメもしっかりと牙狼になるのではないか、いけるのではないかと感じました。


G:
「牙狼ぴあ」掲載のインタビューによれば、監督が「炎の刻印」に参加された時点では、オリジナルで行くこと以外はほぼ白紙だったと。

林:
小林靖子さんの参加が決まっていて、中世ヨーロッパを舞台にするという紙をいただきました。

G:
小林さんが出した「中世ヨーロッパ風」「火刑台で生まれた赤ん坊とその父親の物語」という骨子ですね。これは牙狼シリーズからすると異色の設定です。

林:
そうなんです。牙狼には現代日本風の世界観というイメージがあったので、「これはどうするんだろう?」と最初は想像がつきませんでした。でも、よくよく考えてみると、「騎士」といえば中世ヨーロッパとイメージが合致するし、個人的に中世ヨーロッパの建物が好きだったりするので、「これは面白い」と思いました。

G:
スタジオ・ライブクリエイター紹介のページで、林監督は「中世ヨーロッパ史」をマイブームに挙げています。

林:
ちょうど「炎の刻印」をやっている間にスタジオ・ライブの公式サイトがリニューアルされて、「何か書いて」って言われたんです。なので、実は「炎の刻印」の方が先だったりします。でも、それ以前からゴシック建築には興味があって、「炎の刻印」をやっていく中で中世ヨーロッパの生活を知る必要があったので、参考資料をAmazonで買って読んでは研究しつつ、建築についても調べて……とやっているうちに、だんだんと中世ヨーロッパ愛が強くなったのは事実です(笑)

G:
作品と相まって興味が深まっていったという感じですね。

林:
テレビシリーズから劇場になるにあたって美術がパワーアップしているのですが、いろいろ調べた成果が表現として出せているのではないかと思います。街角の雰囲気1つ取っても、個人的にかなりこだわっています。

G:
おお、劇場版で生かされているんですね。

林:
見る人によっては「テレビシリーズよりも中世ヨーロッパ感が出ている」と感じていただけるかもしれません(笑)

G:
アクションについても、「テレビシリーズとは違ったアプローチで進化している」ということをマチ★アソビのステージで語られていました。

林:
劇場版ということで、美術が重要なのでその点は徹底的に強化しました。そしてアクションは、テレビシリーズの時点でかなり頑張ったので、「劇場版でテレビシリーズのアクションを越えられるだろうか」ということが課題でした。実は、テレビシリーズでは1度やったアクションはもうやらないようにして、全部違うアクションになるようにとアイデアを盛り込んでいたんです。それで、「やりきった」という感があったので、劇場版と言われて「何をやったらいいんだろう」と、ちょっと悩みました(笑)

G:
さらに高いハードルが設定されたわけですね……。そこで出てきたのが、魔導馬アクションだったのでしょうか?

林:
そうです、テレビシリーズでは「魔導馬同士の戦い」はなくて、轟天(黄金騎士ガロの魔導馬)も出ていなかったので、そこから組み立ててみようかと考えました。

G:
まさか、魔導馬が後ろ向きに走るとは思いませんでした(笑)

林:
バイクアクションやカーチェイス、映画で言えば「ワイルドスピード」シリーズみたいなノリが格好いいなと思い、「馬なら逆走できるんじゃないかな?」と思って入れてみました。ドラマ版でも、轟天はかなり無茶なアクションをたくさんしてきているので、当たり前のことはやりたくなかったというのもあります。

G:
アルフォンソの魔導馬が水を割って出てくるというのは、絵映えして、アクションとしても新しかったです。

林:
馬が水の上をまるでジェットスキーのように走り続けるという(笑)、あれは1つの見せ場で、お気に入りでもあります。今回は、テレビシリーズ第18話で演出を担当してくれた朴性厚さんにアクションシーンをお願いして、僕は「朴さんにお任せ」というスタンスだったんですが、上がってきたものを見ると「朴さんに任せてよかった」と思いました。


G:
画面サイズが21:9のシネスコを選ばれたというのも「見せる」というところに重点を置いた結果ですか?

林:
ぱっと見た時に映画の絵作りができる、ということも1点です。レイアウトにはこだわりたいので、美術のこともそうなのですが、キャラと美術が一番美しく収まるのがシネスコサイズなので、完成映像を見たときには「シネスコにして良かった」と思いました。

G:
普段とは違うシネスコでの制作に、難しさはありませんか?

林:
そこは「慣れ」です(笑) 実写の映画と違って、アニメは描く人の問題ですから。ただ、技術的なところでいうと、上下が縮むのでキャラクターを小さく描かなければいけなくなり、人間が描けないようなサイズになってしまうところが出てきて、リテイクになるということがありました。そういう部分では、拡大して作画を行い、あとで縮めるという手間をかけています。

G:
スタジオ訪問時にカット袋の詰め込まれた段ボールが大量に積まれていて、アニメ制作の大変さを感じました。

林:
紙なので、どうしてもボリュームが出てしまいますね。近ごろは、業界全体としてもデジタル化に向けて進めていこうという流れがあるのですが、今まさにみんなきついスケジュールの中で走り続けているので、アニメーターたちが慣れるための時間というのを作れないんです。今日タブレットを渡したとしても、明日からすぐに描けるというわけではありませんから、現場が止まってしまいます。本当は全部デジタルに移行できればいいんでしょうけれど、ジレンマはあると思います。

G:
そう簡単ではないですよね……。

林:
アニメ制作にはいろいろな工程がありますからね。

G:
細かい場面の話になりますが、ヘルマンがレオンに家から蹴り出されるくだりを見た時に、「おっ、この流れは見たことがあるぞ」と思いました。

林:
面白いネタは積極的に入れていこう、と(笑) テレビシリーズのアクションにしろヘルマンの大暴走にしろ、面白かった要素を80分にギュッと収めようというコンセプトなので、テレビシリーズをやったからこそ生きるものになっていると思います。ただ、劇場版ですので、テレビの時よりも谷が深くなっています(笑) そういった部分では、テレビシリーズを見てくれた人が得するものがあると良いかなと思いました。あのシーン以外にも「おっ」と思うようなシーンがところどころにあります。

G:
丸山さん情報では、スタッフの方々の中でヘルマン人気が高く、劇場版でも「ヘルマンを出すためにどうするか」と考えたとのことですが。

林:
そもそも、丸山さんが言い出したんじゃなかったかな?(笑) でも、僕も脚本の小林さんもヘルマンは好きで、他のスタッフにも嫌がる人はいなかったので、「じゃあ出しましょう」と、その点はすんなり決まりました。どうやって出てくるかという理由付けは後にして、まずはヘルマンを出そうと(笑) たしかにヘルマンはいいですけれど、僕はどのキャラクターも好きで……でも、劇場版にはいないながらも、テレビシリーズで付き合いがあるからメンドーサには思い入れがありますね。


G:
その丸山さんからは、自分自身は仲良くケンカすべきと思っているのに、林監督はまったくケンカせずに現場をまとめているというお話もありました。

林:
僕は「平和が一番」ですから。みんなが楽しんでやるのが一番(笑) 現場の雰囲気作りをして、みんなが気持ちよく仕事できるようにというのも監督や演出の仕事だと思っているので、気は遣います。賑やかで仲良しなキャストの方々とはちょっとノリが違って、黙々と作業しているので賑やかではありませんが(笑)、やっていてイライラするような仕事だと作品に跳ね返ってしまいますので、みんなが気持ちよく作画できるような環境が一番かなと。完成した後、イヤな思い出にはしたくないですし。

G:
できた作品を見て手応えがあったとのことですが、思い出としてもいい仕事ができたなと。

林:
僕としてはそうですし、関わったスタッフにもそう思ってもらえているといいなと思います。

G:
再びスタジオ・ライブのクリエイター紹介ページを参考にさせていただくと、携わってみたい・挑戦してみたい作品のところに「ガチのホラーもの」とありました。

林:
いつか自分で監督をするならホラーものをやってみたいなと思っているんです。牙狼にもそういった部分はありますが、ホラーものの部分は要素の1つで、基本は派手なアクション作品だと思うんです。アニメ版は特にアクションよりになったことで、思ったよりもホラー要素が入れられなかったなと感じています。

G:
劇場版の冒頭は怪談のようなエピソードですし、ストーリーもちょっとおどろおどろしい雰囲気が漂っていたと思います。

林:
冒頭はホラー要素を入れられそうだったので、積極的に取り入れてみました。ストーリーについては小林靖子さんの力ですが、その脚本を受けて、演出によって、より盛り上げられていたら幸いです。

G:
小林さんは脚本上必要な動きとセリフは書いているけれど、細かい部分は監督やスタッフさんの力だと仰っていました。脚本からコンテに向けては、どのように膨らませているんですか?

林:
テレビシリーズで何本もコンテにしていたので、僕としては小林さんのシナリオはコンテにしやすいという印象があります。作業としては、じっくりとシナリオを読みながら頭の中で分解して、再構成して組み立てつつ、面白いビジュアルイメージを入れられないかと考えていきます。その段階になって、慌てて新しく映画とかを見てもいいアイデアは出てこなかったりするので、昔から見ている好きな映画などがネタになっているという部分はあるかもしれません。だいたい、風呂に入りながらシナリオを読んで頭にイメージして、次の日にそれを書き出すという感じです。

G:
イメージを1日寝かせるのは、「翌朝まで残るような強いイメージでなければ」というような理由からですか?

林:
いやー、家で作業をしたくないからです(笑)


G:
なるほど(笑)

林:
だいたい、寝る前に1時間ぐらいかけて、妄想とかしながらゆっくり風呂に入るんです。それを忘れないように会社に持っていきます。細かい部分で忘れてしまうところも出てきますが、ほとんどは覚えているんですよ。行き帰りの自転車でもイメージを練っています。がっつりと机に向かっているからといってアイデアが浮かぶわけではないから時間が無駄になってしまうし、しかもじーっとしていると眠たくなってしまうので、あまり効率が良くないなと思っています。風呂だとアイデアが出るんですよ。

G:
そこからのコンテ作業にはどれぐらいかかるものなのですか?

林:
テレビシリーズだと、平均して1本で2週間半ぐらいでしょうか。描くスピード自体はそれほど遅くはないんですが、問題はアイデアの部分ですね……。どうシナリオを映像に落とし込むかというところで、いいアイデアが出ればするすると描けるんですが、悩むと2日ぐらい手が止まってしまうこともあります。

G:
アイデアは、具体的な映像として浮かぶんですか?それとも、静止画ですか?

林:
一連のつながった映像が出てくるようなイメージです。直前までは考えつきもしなかったものがぱっと出てくることもあります。出てくると、そこを取っかかりとして中心に据え、前後に広げていきます。冒頭からやっていくと、シナリオをそのままコンテにするだけになってしまいがちで、バラバラにした方が自分の中にすんなりと入ってくる気がするんです。

G:
なるほど。

林:
テレビアニメって、オープニング、Aパート、Bパート、エンディングと流れがありますよね。その中の波みたいなものを自分で掴まなければいけないんだと思います。


G:
今回はスタッフ・キャスト一丸のいいチームで、「自分としてもエポックな作品ができあがった」と丸山さんも太鼓判でした。その中で、苦労した部分はありましたか?

林:
うーん……「ない」、ですね。

G:
なんと……!

林:
先ほど言ったような、シネスコにしたことでキャラクターが潰れてしまってリテイクというような技術的な苦労というのはありますが、それ以外では、それほどには……。スタッフにも恵まれたおかげで、スケジュールから遅れることもありませんでした。スケジュール通りにやればすんなりいくということですね。

G:
なるほど、監督が完成したものを見て「一刻も早く見てもらいたい」と自信を持って送り出せる作品が生み出されたのもわかる気がします。本日はお話、ありがとうございました。

ポスターと林監督。


劇場版「牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-」は現在絶賛公開中。金曜日は牙狼の日ということで、映画館へ向けてテンションが高まるような、林監督によるイラスト動画も公開されています。

金曜は“金”牙狼の日!黄金騎士“牙狼”イラスト動画到着!
http://garo-divineflame.jp/news/#20160527

また、制作スタッフが語るトークショー付き上映ナイト「GARO CREATOR'S kNight -DIVINE FLAME vol.1-」の開催が決まりました。日時は5月31日21時からで、場所は新宿バルト9。林監督のほか、演出の朴性厚さん、プロップデザインの佐野誉幸さん、撮影監督の淡輪雄介さん、音響監督の久保宗一郎さんらが登壇予定、MCは久保亨プロデューサーが務めることになっています。

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in インタビュー,   映画,   アニメ, Posted by logc_nt

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