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崩壊寸前で抗がん剤新薬の承認を勝ち取った製薬会社の紆余曲折の物語

By Derek K. Miller

血液のがんとして知られる悪性リンパ腫の新薬として、2013年にアメリカ食品医薬品局(FDA)で承認された抗がん剤が「イブルチニブ」です。欧州各国でも承認が続くなど、抗がん剤としての効果が認められているのですが、破産寸前まで抗がん剤新薬の開発を続けたイブルチニブの開発元である製薬スタートアップ「Pharmacyclics」の紆余曲折がまとめられています。

Pharmacyclics' 'miracle cure': A cancer drug - San Jose Mercury News
http://www.mercurynews.com/science/ci_29313049/pharmacylics-miracle-cure-cancer-drug


Pharmacyclicsの共同設立者であるジョナサン・セシラー氏とリチャード・ミラー氏は、1970年代のスタンフォード大学で出会いました。当時のセシラー氏は化学の学士号取得のために勉強に励む学生で、同時にホジキンリンパ腫と呼ばれる悪性リンパ腫とも戦っていました。現在はがんを完治させたミラー氏ですが、スタンフォード大学の腫瘍学者であり、抗がん剤「リツキサン」の製造メーカーであるIDEC Pharmaceuticals(現:Biogen)を支援した実業家としての実績も持っています。

ミラー氏は長年セシラー氏の担当医としてがんとの戦いを支援し、セシラー氏は自らのがんと戦いながら、新たな抗がん剤の研究に励んでいたとのこと。セシラー氏は後にテキサス大学で研究を続け、その結果、がん細胞を縮小させ、形成や転移を抑えられる可能性を持つ分子を発見しました。これらの研究を基に、セシラー氏とミラー氏は1991年にPharmacyclicsを設立。当時、2人は「Xcytrin」と呼ばれる新薬に全てを賭けていました。この新薬は、がん細胞を放射線が効果的なサイズにまで分裂させ、かつ脳に転移させないという効果が見込まれていました。


新薬はFDAに承認されることが最終的なゴールとなります。承認を得るまでの道のりは長く、全ての新薬候補を平均すると、研究段階から患者の元にたどり着くまでに最低10年、および26億ドル(約3100億円)以上もの費用が必要になるとのこと。Pharmacyclicsもまた、FDAの承認を得るために多額の現金を必要としていたところ、新たな投資者としてボブ・ダガン氏が参加。ダガン氏は優秀な投資家でしたが、製薬業界の知識を持ち合わせていませんでした。しかし、セシラー氏とミラー氏ががんと戦っている姿が、がんで亡くなった息子の姿と重なり、個人的に支援を寄せることになったそうです。

しかし、Xcytrinはある程度のがんに対する延命効果などを見せていたものの、FDAの基準をクリアすることができず、2007年を最後に承認申請を停止。Pharmacyclicsの株価は2ドルにまで急落し、取締役会のメンバーであるセシラー氏とミラー氏が辞職。別の多くの生物工学スタートアップのように、1つのプロダクトに全てを賭けてきたPharmacyclicsは、壊滅的状況に追い込まれました。

一方で、Pharmacyclics崩壊前の2006年にミラー氏は、Celera Genomicsという企業が研究開発段階の分子の売却を求めていることを聞きつけ、その中からある化学物質を発見しました。ミラー氏は自身の医学的背景から、潜在的な抗がん剤としての見込みを見い出し、600万ドル(約7億1000万円)でCeleraの研究開発プロジェクトを研究員ごと買い取ったとのこと。その化学物質は「ブルトン型チロシンキナーゼ」と呼ばれるたんぱく質を阻害する可能性を持つ物質で、悪性リンパ腫の治療に効果があると想定されたわけですが、ミラー氏は「Xcytrinのバックアップだった」と語っています。

話は2007年に戻り、取締役会の去ったPharmacyclicsにボブ・ダガン氏がCEOとして就任。ダガン氏は自腹で600万ドル(約7億1000万円)を投資してミラー氏が「バックアップ」と考えていたブルトン型チロシンキナーゼの人間に対する臨床試験に着手しました。臨床試験の結果、なんと新薬ががん細胞に効果があることを証明でき、一部の正常な細胞にも損傷が見られたものの、毒性としては小さなもので、コントロールできる範囲のものでした。


それまで長きにわたってPharmacyclicsの前に立ちはだかってきたFDAですが、ブルトン型チロシンキナーゼの承認を迅速に進めるため、なんと新薬の承認を促進するための「breakthrough therapy」と呼ばれる制度を導入します。そして、2013年にブルトン型チロシンキナーゼは「イブルチニブ」という抗がん剤として承認されたというわけです。イブルチニブはがんを完全に除去するわけではありませんが、毎日服用することで延命効果を得ることができるほか、正常な細胞の増殖に影響を与えないため、従来の抗がん剤治療を根本的に変えることになりました。現在、46カ国でイブルチニブの承認が進められており、年間売上高は50億ドル(約6000億円)に達する見込みです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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