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無料で本が読めるだけではないインフラとしての「図書館」とは?

By * CliNKer *

図書館に行けば数多くの蔵書を無料で読むことができ、貸し出しを受けることも可能です。読書・勉強・調べ物などをこなせる身近な公共設備ですが、図書館には食堂があったり、芸術作品の展覧会が開かれたり、講義室などでセミナーが開催されることもあるなど、本以外の目的で使われることもあります。そんな図書館がコミュニティにおいてインフラとしての役割を果たしている世界中の事例や、今後図書館が発展するための方向性についてまとめられています。

Library as Infrastructure
https://placesjournal.org/article/library-as-infrastructure/

アメリカの図書館学者であるメルヴィル・デューイ氏は、世界で最も多く使われている図書分類法の「デューイ十進分類法」の考案者として知られています。1876年にデューイ氏は、アメリカ図書館協会の設立支援も行っています。

当時はまだ若干24歳だったデューイ氏ですが、すでに図書館用品や調度品、収蔵物を展示・保管するための用具、貸出管理のために用いる道具などを販売する企業「Library Bureau」を立ち上げていました。Library Bureauのカタログで「図書館」を「社会的・道徳的向上および啓蒙のマシン」と定義しており、公教育および公共事業提供の場と考えられていたとのこと。後にデューイ氏はコロンビア・カレッジの図書館長になり、アメリカ初となる図書館学校の「the School of Library Economy」を設立するなど、深く図書館の発展に尽くした人物として知られています。


そんなデューイ氏のように、「図書館」という設備のあり方についての考え方が世界中の識者の間で論じられており、現代に至るまでさまざまな意見が出されています。そんな図書館についての意見の数々を、ニュースクール大学メディア研究科のシャノン・マターン准教授が、自身の見解を交えてまとめています。

◆プラットフォームとしての図書館

By 準建築人手札網站 Forgemind ArchiMedia

1000年以上にわたって図書館は資料を収集しているわけですが、巻物は冊子本に、レコードはCDに、電子書籍や電子データベースが公開データセットへと、資料の形態は変化を続けています。そんな変化に伴って図書館自体も変化しており、近年では「コミュニティーセンター」「公共広場」「シンク・タンク」という形態をとりつつある、とマターン氏は記します。ジョン・ロックフェラーに次ぐ2番目の富豪と言われるアンドリュー・カーネギー氏は、1880年代に図書館を併設したカーネギー・ビルを建てており、スイミングプール・大衆浴場・ボーリング場・射撃場などが書架とともに並ぶ施設だったことが知られています。

その後、1911年に展開されたカーネギー氏の「図書館設立時の注意事項」は世界中で2500以上の図書館で取り入れられており、図書館が読書以外の目的でも使われる場所として広まりました。また近年では、2012年にデイビッド・ワインバーガー氏が、図書館は「開かれたプラットフォームである」と提唱しています。ワインバーガー氏は収集している全ての蔵書・メタデータ・技術などに誰でもアクセスできるようにすることで、デベロッパーが新しいアプリ・サービス・テクノロジーを開発できる場になり、最終的にコミュニティーの発展につながると主張しています。

By bettyx1138

◆社会インフラとしての図書館
近年の公共図書館の利用者は、読書のみを目的としているとは限りません。無料のWi-Fiやネット接続されたPCが目的の人もいれば、日本でいう高卒認定試験にあたるGEDの受験に来る人、履歴書を作成して職探しをする人など、さまざまな目的で図書館が利用されています。ピュー研究所はアメリカ人が図書館に求める設備・サービスを調査した結果を発表しており、回答者の90%が「もし図書館が閉鎖するとコミュニティに影響を及ぼす」と言っており、63%は「その影響は深刻」とも回答しています。

日本の建築家でプリツカー賞を5度受賞している伊東豊雄氏は、東日本大震災以降、被災地で積極的な活動を行っていますが、「震災後に地方公務員が図書館を『文化的避難所』として素早く再開した」ということについて発言しています。社会学者のエリック・クリネンバーグ氏は「図書館のような社会的インフラに誰でも訪れられるように設備や状態を整えなくてはならない」と述べています。クリネンバーグ氏はインタビューで、「都市の復興力」は輸送システム・インフラ・通信網以外にも、公園や図書館などの整備度によって計測することができる、と話していました。

図書館の発展はコミュニティにとって重要な役割を果たしているわけですが、公共図書館は誰にでも開かれている一方で、公的資金で運営されていることから、利益を得ることがありません。しかし、近年ではコミュニティの性質を失うことなく複合化された図書館も登場しており、建築家のデザインを取り入れたユニークな作りの図書館はその1例です。

By * CliNKer *

◆技術・知的インフラとしての図書館
図書館には多様性が求められるわけですが、図書館が持つ収集物の重要性が失われたわけではありません。価値ある書籍がアクセス可能な形で所蔵されていることについて、多くの歴史家・学者・エンジニアなどが重要性を唱えており、電子書籍のシェアが拡大する現代においても、「図書館」という知的インフラの存在は大きい様子。所蔵している蔵書やデータの量がそのまま図書館の価値につながると考えても過言ではないかもしれません。膨大な分量の蔵書を蓄え続けることは困難ですが、一部のアメリカの図書館では膨大な書籍を地下室に保管してロボットやベルトコンベアで管理しているところや、デジタル化を推し進める流れも現われています。

By Corey Seeman

また、異なる形の知的インフラとしては、ピッツバーグのカーネギーライブラリーがGoogleや研究所などと共同で、若者向けのワークショップを毎週開催しています。同じようにテネシー州チャタヌーガの図書館では1万2000平方メートルの4階フロアをまるごと使用し、「公共研究所・教育施設」として開放しています。そこでは3Dプリンターやレーザーカッターなどを使用することができ、簡単にテクノロジーや高性能のツールに触れられることから、主に女性のテクノロジー系起業家などの間で知識共有・体験の場として重宝されているそうです。

By Larry Miller

◆図書館はインフラとしてどのように発展していくべきなのか
マターン氏は、図書館が長期的かつ文化的目標に沿って進むべきであると考えており、インフラの中でどのような役割を果たしていくのか、ということを考えるべきであると述べています。プラットフォームとして、社会的・技術的・知識インフラとしての役割を果たすには「Googleが明日何を行うか」に左右されないような長期的展望が必要であり、生産性の向上を目的としない図書館は、イノベーションの追求とは違った方向を向くべきであることを指摘しています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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