レーザー照射してベーコンを調理する「レーザーベーコン」がなぜ必要なのか?
レーザーを照射してベーコンを調理する、という、謎の取り組みを密着取材したムービーがYouTubeで公開されています。調理に時間がかかり、おいしいかどうかも分からない「レーザーベーコン」が研究者の手によってなぜ真剣に作られようとしているのか、ムービーを見るとその背後にある「自分の制限を取り払う」という考えがよく分かるようになっています。
Food Hacking: Laser Bacon - YouTube
なぜかレーザーが照射されるベーコン。
レーザー照射されたベーコンの匂いをくんくん嗅いで……
「歯医者の匂いがする」という謎のコメントを残す男性の姿からムービーはスタート。
冒頭の男性からも分かるように、ムービーの舞台は日本の東京。
刺身のツマを箸でつまんで……
パクリと食べているのはサイモン・クローズさん。クローズさんはスウェーデン出身のドキュメンタリー映画監督で、今回は世界の食にまつわるトピックを取り上げるYouTubeのチャンネル「MUNCHIES」にて日本で行われているユニークな食への取り組みについて取材します。
毎年、東京では工作好きな人たちのためのイベントMaker Faire Tokyoが開催されます。
机の上を動きまくるロボットや……
人が乗って操縦できるスケルトニクスなど。
会場には多くの人が押し寄せました。
その中で出会ったのが工作大好きな男性。
そしてコンピューターサイエンティストの男性と共に、これまでの「日本における肉の食べ方」とテクノロジーを組み合わせて、今まで誰もやってみなかった可能性を生み出す、というのが今回の試み。
料理の常識に挑戦し、自分のアイデアを試してみたかった、と語るのは明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の福地健太郎准教授。ありふれた「ベーコン」という食べ物と、「レーザーカッター」というテクノロジー、そして「生の肉を食べる」という日本の文化を組み合わせて、新しい「食」のあり方に挑戦するようです。
スーパーをうろうろする福地さん。
ベーコンを手に……
クローズさんと帰路につきます。
到着したのは中野にある「ガレージ・ラボ」
工作人であり映画プロデューサーでもある高井浩司さんは「子どもの頃から自分で手を動かして何か形を作るのが好きだった」とのことで、現在はDIYフリーランスとして映像・執筆・造形・イベントなど多岐に渡る活動を行っています。
「じゃあどうしよっか?」というクローズさんの言葉で、さっそくベーコンを皿にあけることに。
パシャリと写真を撮って……
コンピューターに取り込みます。
今回は、白い脂の部分にだけレーザーを照射して「焼いた」状態にし、肉の部分にはレーザーを当てず「生」のままにしていきます。
レーザーを当てる部分にだけ色をつけてヒートマップを作成。
「美しい」と福地さん。
コンピューターで制御しつつ、さっそくレーザーを照射していきます。
使用しているのはHAJIMEというレーザーカッターで、金属は無理ですが、木・アクリル・紙などをカット可能です。
実際にカットしたものがコレ。
作業を見つつ「アッ」と声をあげる福地さん。
「あれ?」と高井さんも声を上げ、何か異変があった様子。
いったんレーザーをストップし、「レゴを忘れてた……」と言うと共に、L字型のレゴブロックを設置します。
レゴブロックを設置していなかったため、ベーコンの照射位置がずれてしまった様子。本来は脂身の部分だけを加熱するはずが、赤身の部分まで加熱されてしまったようです。
ということで、もう一度やり直し。
レーザーが一度に照射できる範囲は狭く、X軸・Y軸に沿って何度もレーザーを動かさねばならないため、非常に時間がかかってしまうのがレーザー調理法の難点、と福地さん。
時間がかかり、労力に見合った結果が出るかも分からない「レーザー調理法」は一見奇妙なものに見え、「なぜわざわざレーザーで調理を?」と疑問に思う人もいるはずです。
しかし、電気を使った調理法も昔は考えられないことでしたが……
今ではなくてはならないものになっています。
レーザーを使えば、文字を食べ物に書くことも可能。
ジョージ・オーウェルの「1984年」を例に出し、政府が家庭のトースターを制御し、プロパガンダを焼き付けられたトーストを食べる未来が来るかも、と語る福地さんに、クローズさんは「気持ち悪いなあ」とコメントします。
そうこうしているうちにベーコンが完成したようです。
目的通り、ベーコンの脂の部分だけにレーザーを照射させ、赤身は生のまま。
レーザーカッターを使うと、焼きのりに対してもユニークな仕組みが作れるそうです。
焼きのりにレーザーを照射していくと……
どこに具材を載せるべきかマッピングした焼きのりが完成。今はまだ漢字など細かい文字や絵を描けませんが、技術が改良されれば文字や絵ですべきプロセスが全て説明された焼きのりも作れるわけです。
「なんか知らないけれどかわいくなった」ということで、レーザー照射したのりを使った巻きずしが完成。
場所は変わって2014年11月に開催されたMaker Faire Tokyo。
「Maker Faire Tokyoって何?」と聞かれて、「工作が好きすぎる人のお祭り」と笑って答える高井さん。
会場では何かが羽ばたいていたり……
動いていたり。
とにかくみんな楽しそうです。
高井さんは会場の中でユニークな植物育成装置を展示していました。
装置の中で水を循環させ、一定の気温と湿度を保つようにコントロールされているとのこと。
装置の内側はこんな感じ。
「70年代のモジュラー・シンセサイザーみたい。何でこういう風に作ったの?」と尋ねるクローズさんに……
「モーグが好きだから!」と高井さん。
ガレージ・ラボでは、そんな高井さんの育てた野菜も使っていきます。
野菜の上にチーズを載せ。レーザーを照射。
お皿にレーザーカッターを使った食べ物をのせて……
レーザーフードの盛り合わせが完成。「初めて電子レンジがキッチンに入った時みたいな、何か変な感じ」と福地さん。
試食タイム。
パクリとレーザーベーコンを食べるクローズさん。
「まあ、ベーコンだな」とそのままの感想です。
高井さんは「ちょっと苦い。でも不思議」通常のベーコンとの違いを語りました。
「まだ実験は初期段階だから、普通の調理法よりもおいしい、という必要はなくて、いつもとは違う味を作ろうと挑戦しているところ」と語る福地さんに、「でもミシュランのシェフじゃなくて、普通の人がこういう道具を使うことで面白いことができるよね」とクローズさん。
福地さんは「日本はそこに変なポテンシャルがあって、そこらの人がちょっと高いものを買って変なものを作りまくる、ということに関しては、かなり我々は頑張っていると思うので。みんなもっとバカなことすればいいのになって」と語ります。
続いて、レーザーチーズをぱくり。
質感や固さは通常のスライスチーズと全く別で、少しスモーキーな香りもするとのこと。「これは面白いね」と福地さん。
日本は自由な国ですが、慣習に従いがちで、潜在意識の部分で人々の日常生活は大きく制限されています。「食べ物をハッキングする」という行為は「自分たちの文化や自分自身にハッキングすること」と同義だと福地さんは説明しており、「レーザーカッターとベーコンを組み合わせる」といった試みによって自分が捕らわれていることを客観的に見ることができるわけです。
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