「iPadへの入力ミス」が原因でボーイング737型機が機体接触事故を起こしていたことが判明
By Kurt Clifford
2014年8月1日、オーストラリアのカンタス航空が運航するボーイング737型機が、離陸滑走中に機体後部を滑走路にこすりつける「テールストライク」と呼ばれる事故を起こしました。当局がこの事故を調査したところ、その原因は機体の数値をiPadのアプリに入力する際に数値を誤って入力していたためであることが判明しています。
Qantas 737 “tailstrike” was caused by iPad data entry fail | Ars Technica UK
http://arstechnica.co.uk/gadgets/2015/11/qantas-737-tailstrike-was-caused-by-ipad-data-entry-fail/
テールストライクを起こしたのは、オーストラリアのカンタス航空が運行するボーイング737-838型機(機体登録番号:VH-VZR)です。2014年8月1日にシドニー空港から離陸する際にパイロットが機首を引きあげる操作を行ったところ、離陸に十分な速度に達していなかったために機体に角度がつきすぎてしまい、機体尾部が滑走路に接触しました。機体はその後も滑走を続けて離陸し、目的地であるダーウィンまで問題なく飛行を続けて無事に着陸しています。
事故の発生を受けて原因調査を実施したオーストラリア交通安全局は調査報告書を発表。その中で事故の原因を、副操縦士が機体重量をiPadに入力する際に誤った数値を入力してしまったことと結論づけています。操作を行った副操縦士は、重量を「76,400kg」と入力するところを誤って「66,400kg」と、10トンも少なく入力していたことが明らかになっています。
(PDF)Data entry error and tailstrike involving Boeing 737-838 VH VZR - ao-2014-162_final.pdf
◆事故が起こるまでのいきさつ
報告書の中で交通安全局は、2つのミスが「独立して、かつ不注意によって」発生したために今回の事故が引き起こされたと結論づけています。
1つめのミスは、機長が行った重量計算の際に発生したもの。機長は離陸前に、燃料分を含まない機体重量である「無燃料重量(ZFW)」と、機体に搭載した燃料重量を紙のノートに記録して離陸重量(TOW)を計算したのですが、その際に燃料重量の数値から「1」の文字が抜け落ちてしまったために、離陸重量が正しい数値よりも1万kg(10トン)も軽い66,400kgとはじき出されてしまいました。その後、この数値は機長のiPadに搭載された「オンボード・パフォーマンス・ツール」(OPT)に副操縦士によって入力され、離陸に必要な速度とエンジン出力が誤ってはじき出されることに至ります。
iPadを用いるオンボード・パフォーマンス・ツールはボーイングが提供している運行用ツールの1つで、最適なスピード、エンジンを様々な気象条件、滑走路で簡単に計算でき、最適に運航ができるというもの。カンタス航空は2012年からこのツールの導入を進めていました。
ボーイング、カンタスにiPadによるパフォーマンス・ツールを提供 | FlyTeam ニュース
http://flyteam.jp/news/article/14409
2つめの出来事は、副操縦士が離陸重量をOPTに入力する際に発生しました。副操縦士は自らが行った同様の計算では離陸重量を76,400kgと正しく算出していたにもかかわらず、OPTには66,400kgと間違った数値を入力していました。報告書ではこの原因を、数値を機器に入力する際に起こり得る「transposition error(転移エラー)」によるものであるとしています。転移エラーは数値を声に出したり書き留めたりする際に隣り合った数値を取り違えてしまうミスの一種で、今回の事故のケースでは、「7」と入力すべきところを隣り合った「6」と入力してしまったというものです。
報告書では、これら2つのミスが個別的かつ連続的に発生したことで、離陸に必要な速度とエンジン出力が実際の数値よりもはるかに低く算出されてしまい、離陸に必要な揚力が得られなかったことでテールストライクが引き起こされたと結論づけています。
OPTの画面を再現した様子はこんな感じ。この画面は誤った数値が入力されている画面で、画面右上には離陸重量(Takeoff Weight)が「66400 KG」と表示され、画面下部には機首上げを開始して離陸体勢に入る速度「VR」が「146KT」(ノット:時速約270km)であること、そして離陸に必要なエンジン推力は「88.4(%)」と表示されています。また、外気温の入力にもミスがあることがわかっており、本来は「35 C」と入力すべきところを「51 C」(摂氏51度)と誤った数値が入力されています。
正しい画面表示の様子がこちら。機体重量が「76400 KG」と正しく入力されている場合のVR速度は「157KT」(時速約290km)、必要なエンジン推力は「93.1(%)」となっており、間違って算出された数値は実際の数値よりもはるかに低いものになってしまっていたことがわかります。
なお、報告書では機体重量の項目がメインで取り上げられていますが、外気温の入力ミスも算出される数値に少なからず影響を与えます。一般的に気温が高くなると空気の密度が低くなるため、エンジンの出力を増加させる必要があるためです。
◆事故発生後のカンタス航空の対応
事故発生後、カンタス航空は運行前チェックの手順を改善して同様のミスの発生を防止する対策をとったとのこと。現在の手順では、機長と副操縦士が別々に計算を行ったあとに、機体のリファレンスマニュアルを参照して最終的に離陸速度が正しいことを確認する手順が取り入れられているとのことです。
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