メモ

ロードバイクの違法コピー品の実例と、粗悪品を掴んでしまわないための心得


世界的な自転車ブームの影響もあってか、数年前からネットでは「中華フレーム」や「中華カーボン」などと呼ばれるコピー品のロードバイクが出回っています。いずれも違法コピー品といえるものが多く、中には品質的に問題ありまくりのものもあり、「走っている間に自転車が折れた」とコントみたいな事故が起こるケースもあるようです。そんなコピー品の実態はどのようなものか、そして粗悪なコピー品を買ってしまわないためにどのような点に気をつけるべきなのかを、自転車情報サイトのBicyclingがまとめています。

To Catch a Counterfeiter: The Sketchy World of Fake Bike Gear | Bicycling
http://www.bicycling.com/bikes-gear/components/catch-counterfeiter-sketchy-world-fake-bike-gear

アメリカ・カリフォルニア州にある自転車ブランド「スペシャライズド」の本社では、同社の最高級エアロロードバイクであるVenge(ヴェンジ)の耐久テストが実施されていました。専用の機械にセットした状態で車体前面からの衝撃を加えたり、実際の走行状態をシミュレートした状態でペダルを回転させるなどで耐久性をチェックするテストが延々と繰り返されます。


特にペダリング耐久テストは過酷な内容で、レースのゴール直前に繰り広げられるスプリント勝負の時に、プロのライダーが踏み込むのと同じぐらいの力をペダルに加えた状態で、なんと14時間にわたって延々とクランクを回転させるというもの。最終的にクランクの回転数は10万回にまで達するというとてつもないテストが行われています。

このテスト風景そのものは同社でもめずらしいものではないのですが、今回のテストは特殊なケースだといいます。この自転車のフレームを持ち込んだGreg Tombragelさんによると、テストが行われているVengeのフレームは中国のサイトから購入したもので、実際にはVengeと同じ形状をしたコピー品であると疑われているのです。そしてテストの結果、フレームはペダリング時に最も力がかかるクランクの取り付け部であるBB(ボトムブラケット)周辺で破断が発生しました。

フレームの持ち主であるTombragelさんは43歳の男性で、自転車に乗り始めてまだあまり間もないとのこと。2007年にイタリアンブランドのBottecchia(ボッテキア)のアルミフレームバイクを購入したことから自転車の世界に入ったTombragelさんでしたが、ほどなくしてレースに参戦するレベルに達したそうで、レース参戦を視野に入れて完成車価格45万円前後というBMC Racemaster SLX01を導入してどっぷりと自転車の世界に入り込むことに。この自転車は、アルミとカーボンを組み合わせた、いわば「ハイブリッドフレーム」を持つモデルで、より軽くて強靱というレースに求められる性能を備えた自転車といえます。

CYCLINGTIME.com:BMC Racemaster SLX01


Racemaster SLX01の導入から4年が過ぎ、フレームにガタが出始めたことなどからTombragelさんは新車の導入を検討し始めます。その時に見つけたのが、オークションサイトの「eBay」で見つけたスペシャライズドのVengeだったそうですが、何件かのオークションに入札したものの予算の都合でいずれも落札に失敗。オークションでは5500ドル(約65万円)が相場で取引が行われていたようで、一流会社のGE(ゼネラルエレクトリック)に務めるTombragelさんにとっても、おいそれとは手が出せない価格だったそうです。

オークションサイトやGoogleで自転車の検索を繰り返したことで、Tombragelさんには中国のネットショッピングサイト「DHgate」からのメールが多く届くようになったとのこと。皮肉なことに、正規品を探し続けたことで中国のサイトからの広告が届くようになったわけですが、その中には「スペシャライズド」をそのまま名乗るVengeそっくりのフレームがあったそうです。価格は送料込みでなんと500ドル(約6万円)。見るからに怪しさ満点の商品ですが、Tombragelさんは興味があったのか、その商品を購入することにしたそうです。

やがてフレームが無事に到着し、Tombragelさんすぐさま馴染みのショップにフレームを持ち込んで、前型機であるBMC Racemaster SLX01からパーツの移植を開始しました。車体はほどなくして組み上がったものの、Tombragelさんによると乗り出した早い段階からおかしな点がいくつか見受けられたそうです。まず気がついたのが、後輪の角度がきちんとセットできていないこと。正しい角度にセッティングするためにはフレームに対して少し斜めにホイールを取り付ける必要があったとのことで、この時点でフレームのセンターがきちんと出ていない(=ゆがんでいる)ことが伺えます。

By Heiner Adams

さらに、フレームのネジ穴に取り付けるはずのドリンクボトルホルダーがうまく固定できなかったり、あろうことがワイヤー類を収めるパーツがサビはじめるなど、正規価格で100万円を超える自転車には考えられないトラブルが多発。実際に自転車に乗って走り出してみると、その乗り味は全体的にフニャフニャと頼りない感触に支配されており、とても安心して乗ったり、ましてやレースに出るなど到底考えられないレベルのフレームだったそうです。

「謎なVenge」を手に入れてしまったTombragelさんでしたが、馴染みのショップを訪れていたスペシャライズドの営業担当者に見せるとすぐに事態が判明。担当者は即座に「これはニセモノですね」とTombragelさんに告げたそうです。

◆コピーされる高級ブランドの自転車
スペシャライズドでは、入門用のバイクから最上級者向けの「S-Works」ブランドまで幅広い自転車をそろえるほか、レース用ヘルメットのS-Works Evadeや、空力を追求したというハンドルバーS-Works Aeroflyなどさまざまなハイエンド商品をラインナップしています。高額商材が並ぶということはそれだけ安物の「コピー品」が出回るリスクがおのずから高くなってしまうために、スペシャライズドではブランドイメージを損なうコピー品の対策にも力を入れているとのこと。

対策チームを率いるAndrew Love氏は、2006年ごろからコピー品の氾濫が始まり、最初は小さなグッズやサイクルジャージだったものが2009年ごろには同社のハイエンドモデル「Tarmac(ターマック)」の車体そのものにまで及んだことを明かします。同社では会社を挙げて対策に乗り出しており、常勤3名の専任スタッフを含む10名体制でコピー品の調査と対策を行っているとのことです。


しかし、相手はコピー品を違法に製造して販売する業者ということで、その足取りをつかむのはなかなか思うように進まない側面もあるようです。特にそれらのコピー業者はネットを通じた個人売買で商品を売りさばくことがほとんどとみられており、eBayやAmazonのようなネットショップをはじめ、特にAlibaba(アリババ)やCraigslist(クレイグスリスト)のようなサイトを通じてダイレクトにやりとりを行うために、その実態をつかむのは非常に難しいとのこと。こういったコピー市場では、スペシャライズドをはじめ、ピナレロやサーヴェロといった有名ブランドの自転車や、Zippのような1セット30万円はくだらない高級ホイールなどが特に取引されているといいます。


特に、フレーム素材の主流がアルミからカーボンに移行した頃からコピー品の流れが強くなったとのこと。これは、金属のパイプを溶接して作る金属フレームに比べ、金型にカーボン素材を貼り付けることで成型できるカーボンフレームの特性が大きく影響を与えています。世界的に有名な欧米ブランドの自転車でも、実は生産の大部分は中国や台湾といったアジア地域で行われていることはよく知られた事実ですが、アジアに広がる「地下マーケット」ではこれらのブランドが所有権を持つ「カーボン金型」の設計データや現物が取引されており、いちど入手してしまえば同じ形の自転車をいとも簡単に作ってしまえるという現実があります。

ただし、形は同じでも「カーボン生地を何枚積層するか」「カーボン生地の向きはどのように重ねるのか」といったノウハウや、カーボン素材の品質そのものは各メーカーが独自に持っている機密事項であるため、同じ形であっても剛性や精度が全く異なるという「形だけスペシャライズド」のような自転車が生まれてしまうというわけです。

以下のヘルメットの断面図を見てもその違いは明らかです。左がニセモノ、右がスペシャライズドのEvadeとなっているのですが、衝撃を吸収する黒い部分の厚さがニセモノは薄くなっているのに対し、右の本物はしっかりとした厚みがあることがわかります。さらに、本物には吸収素材の中に白い点がいくつかあることがわかります。これはヘルメットの全周を網のように包む「ケージ」と呼ばれる構造物の断面で、このケージがあることでヘルメットの剛性がさらに高くなるように設計されています。ニセモノにはもちろんこの構造がなく、唯一優れている点といえば、本物より数十グラム軽く仕上がっているということぐらい。しかしその軽さで安全性が損なわれていると考えると、どちらが優れているかは考えるまでもありません。


前出のTombragelさんが持ち込んだ「ニセモノVenge」ですが、意外にもフロントフォークの強度テストでは安全基準を満たす性能を見せたとのこと。しかしこれはスペシャライズドの基準を満たすものではなく、仮に同社の製品が同じ性能を見せたとしたら、さらに安全マージンを多くキープするために設計の見直しが行われるはずだとしています。


◆ニセモノをつかんでしまわないために
Bicyclingでは、このようなニセモノを手に入れて「安物買いの銭失い」に陥らないために、以下のポイントを挙げています。中には「常識じゃないか」といえるものもありますが、目の前に格安のフレームがぶら下がっていたらその判断が揺らいでしまうこともあるもの。どんな場合でもこれらの点をよく考慮したうえで判断することが重要といえそうです。

1.売り手をよく確認する
売り手の所在地が中国である場合は特に注意が必要です。正規代理店は例え中国であっても独自のサイトを持っており、オークションサイトなどで販売を行うケースはまずありません。各ブランドのサイトなどで、各国の代理店の状況を調べ、正規のルートであることを確かめることが重要。

2.記載の内容をよく確認する
「カラーやデザインの詳細はメールにて」と書かれているようなサイトは怪しいと考えて間違いありません。詳細を表に出さないのは、デザインが明るみになることでコピーしているブランド名が特定されてしまうことを防ぐためのテクニックです。

3.各ブランドの販売ポリシーをよく確認する
ブランドの中には、サーヴェロのようにオンラインでの販売を禁じているものもあります。また、その他のブランドでも販売ルートを限定しているケースが多く、Amazonのようなショップではなく自己サイトのみで販売しているブランドも多くあるのでこの点にも要注意です。

4.「常識」で考える
正規価格が50万円クラスのフレームがネットで5万円で手に入るというのは、「何か裏がある」と考えてしかるべきです。つい「掘り出し物を見つけた」と思ってしまうこともあるものですが、そのような時ほど冷静で常識的な判断が欠かせません。

ネット上の特有のマーケットで氾濫するニセモノブランドですが、「銭失い」で済めばまだいいほうで、時には粗悪品のために走行中に「ポキッ」と車体や部品が折れて事故につながり、下手をすれば命の危険にさらされることも十分考えられます。うまい話にはだいたい裏があるというのが世の習わしなので、掘り出し物にはよく注意をし、どうしても買いたい場合は自分の責任で対応する覚悟が必要です。また、コピー品を購入した場合には商品を没収されたり、下手をすると法的な責任を問われることがある点もよく理解しておいたほうが良さそうです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ニセモノでいかにして富を生み出すかという芸術作品の「贋作」の知られざる実態 - GIGAZINE

iPhone 6を1万1000円に値切れたニセモノ・コピー品まみれの羅湖商業城 - GIGAZINE

偽物iPhoneから人毛まで販売する中国の「アンダーグラウンド・マーケット」とは? - GIGAZINE

本物か偽物かまったく判別のつかない中国のApple Store - GIGAZINE

PCユーザーの過半数が海賊版ソフトウェアを使用、被害総額は5兆円 - GIGAZINE

マジコンユーザーに大打撃、任天堂がマジコンを動作不能にするファームウェアを提供 - GIGAZINE

in メモ,   乗り物, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.