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ジョブズが大嫌いだったスタイラスがiPad Proの「Pencil」で登場したわけとは


2015年11月に登場するiPad Proにあわせ、Appleはペン型の入力デバイスである「Apple Pencil」を発売する予定です。これまではペン型デバイス・スタイラスに否定的であったことが知られる同社がApple Pencilをラインナップに加えることになった背景には、従来の製品では成し得なかった新しい付加価値の創造が隠されているようです。

Here's why Apple made the stylus that Steve Jobs hated | The Verge
http://www.theverge.com/2015/9/9/9298117/apple-pencil-stylus-ipad-pro-steve-jobs

現代のスマートフォンの前身ともいえるPDA(携帯情報端末)が2000年代前半に使われていた頃は、画面をなぞって操作したり文字や絵を描く「スタイラス」を使ったり、画面を指先ではなく「ツメの先」でタッチして操作する姿がよく見られました。手のひら大のPDAを片手に、スタイラスで画面を操作する姿に「最先端」のイメージを覚えた人も多いハズ。

By Wikipedia

しかし、2007年に開催されたAppleの新製品イベント「Macworld」で初代iPhoneが発表されたころから、その様子は変化を見せ始めることになります。マルチタッチ操作が可能で、指先での操作性を飛躍的に向上させたiPhoneは指を使って操作することを前提に設計された端末となっており、スタイラス不要の操作が可能である点を大きなセールスポイントにしていました。当時のスティーブ・ジョブズCEOが基調講演の中で「誰がスタイラスなんか欲しがるんだ!?」と切って捨てた以下のワンシーンはあまりにも有名。

Steve Jobs: "Who wants a stylus?" - Apple - Steve Jobs at Macworld 2007 in San Francisco - YouTube


「誰がスタイラスなんか欲しがるんだ!?手に入れてもすぐにどこかにやってしまい、なくしてしまう。オエッ!」という強いで口調でスタイラス不要論を唱えるジョブズ氏。このあと「最も優れた入力デバイスがある」として、道具を使わずに指で直接操作を行うことができるiPhoneを華々しくデビューさせたプレゼンは、その後のiPhone・スマートフォンの広まりの原点ともいえます。


ジョブズ氏の発言にはiPhoneの先進性を強調するための狙いがあったとも考えられるわけですが、そこまで強い表現で否定しておいたペン型入力デバイスをラインナップに加えることは、Appleにとっても容易な選択ではなかったはず。そんな過去を否定してまで「Pencil」を登場させる背景には、進化を続ける端末の技術が隠されているようです。

2007年当時と2015年時点での大きな違いは、タッチ操作に用いられる技術の仕組みです。2007年ごろの端末では、指のタッチを感知するために「抵抗膜方式」という2枚の膜(フィルム)を使う方法が一般的に用いられていました。抵抗膜方式は1点以上の検出に向いていないという特性を持っているのですが、2007年に登場したiPhoneは静電容量方式と呼ばれる技術を用いることで、それ以前とは全く異なる操作性の良さを実現しています。

特に、複数のタッチを同時に検出できる「マルチタッチ」の能力はスマートフォンの操作性を大きく向上させました。今やどんなスマートフォンでも操作できる2本指でのピンチイン・アウトや画面の回転、そしてゲームの際に使う操作の多くはマルチタッチ機能によって実現されていることを考えると、いかにスマートフォンやタブレットにとって静電容量方式のマルチタッチ検出機能が重要な技術であるのか実感できるはず。このような優れた技術を搭載することで、ジョブズ氏はスタイラスから決別し、指による直感的な操作性をiPhoneやiPadに与えることに成功しました。今やあたり前のように使われる静電容量方式ですが、この技術を広く世に広めたのはiPhoneを中心とするスマートフォンと言っても過言ではありません。

By Michael Coghlan

しかし、12.9インチという巨大な画面を持つiPad Proクラスになると、別の考え方を取り入れる必要が生じてきます。比較的狭い領域に表示されるスマートフォンに比べ、A5サイズノートPCよりも大きな画面を持つiPad Proは、ゲームや映画を楽しむことはもちろん、ドキュメントを作成したり、外付けの純正キーボードカバー「Smart Keyboard」を使えば画面をキーボードに占領されることなく文書作成を行うことも可能になるとされています。

さらに、大画面を活かしてグラフィック編集に活用することも考えられています。グラフィック業界ではWacomのペンタブがデファクトスタンダード的な位置づけとされているわけですが、iPad Proは専用開発のApple Pencilと組み合わせて使うことで、ペンタブ(ペン+タブレット)とは異なり「タブレットに表示したグラフィックを直接ペンで編集する」ことを可能にするデバイスとしての活用が考えられています。Apple Pencilは操作に対するレイテンシー(遅延)が少なくなるように設計されており、ペン先の圧力に応じて線の太さを変えたり、ペンの傾きで線の濃淡を変えられるなど、高度な製作作業にも耐える実用性を備えているとのこと。もはや、Apple Pencilはアイコンをクリックしてメールの受信ボックスを開くために使うデバイスではないということがよくわかります。


ここ数年のスマートフォン・タブレットのトレンドは「スマートフォンの大画面化・小画面タブレットの『ファブレット』・スマートウォッチ・超大画面タブレット」などでしたが、Appleはこれらの流れを先取りすることはなく、常に1歩から2歩遅れて追従しつつ、最終的にはそのメリットをうまく取り組むことに成功しているといえます。「掟破り」ともいえるペン型入力デバイスの「Apple Pencil」の投入がどのような結果に結びつくのか、今後の推移が気になるところです。

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in ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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