常に時代の一歩先のVR技術を開発する南カリフォルニア大学の知られざる研究施設ICTに潜入
南カリフォルニア大学の研究施設「Institute for Creative Technologies(ICT)」では、時代の一歩先を行くVRやセンサーの開発が行われています。知る人ぞ知る技術の最先端を走る研究を行うICTのVR研究所の内部をThe Vergeが公開しています。
Inside USC’s crazy experimental VR lab | The Verge
http://www.theverge.com/2015/9/17/9333633/usc-institute-for-creative-technologies-virtual-reality-lab
BlueShark: where the US Navy dreams up the battleship interfaces of tomorrow | The Verge
http://www.theverge.com/2014/1/26/5346772/blueshark-us-navy-oculus-rift-virtual-interface
以下のムービーを見ればICTでどのような研究が進行中なのかがよく分かります。
USC's mixed reality lab is creating our virtual future - YouTube
これはICTのVR研究所内にある、実験スタジオ。意外にもこじんまりした空間です。
研究所にある机には、ドローンやその部品、ケーブルや工具などが乱雑に置かれています。
マネキンに取り付けられたVR装置の実験に使用されるヘッドセット。
これは「Wide5」というヘッドマウントディスプレイで、視野角はOculusの「Rift」を凌ぐ150度。なお、Wide5の開発者のマーク・ボラス氏はICT出身で、同じくICT出身のRift開発者のパルマー・ラッキー氏の上司でした。
コンピューターを背負って、頭部にWide5を装着。なお、Wide5には位置を認識するためのLEDが付いたポールが付属しています。
スクリーンにはWide5で仮想空間を体験する人の視界や行動範囲などが表示されているようです。
手にはめたグローブにも赤色のLED。
ブーツにもLED。これらのLEDによって、VR体験する人の動きをキャプチャーして完全に再現するというわけです。
画像左には、VR体験する人が細い通路を進む様子が再現されています。細い道を進むと自然と部屋の中をぐるぐる移動するようにプログラムされているので、狭いスタジオでも実験は可能です。
ICTはアメリカ軍と協力して、兵士養成プログラムも開発中。ICTはアメリカ軍から2004年に1億ドル(約120億円)の資金提供を受け、現在もアメリカ軍や軍事研究部門とパートナー関係を継続中です。
兵士はコンピューターとVRヘッドセットを装着することで……
狭い空間でも広い荒野のような空間を再現することが可能。
安全な場所にいながら軍事訓練が受けられるというわけです。なお、軍事訓練プログラム以外にも、戦地で従軍したことでPTSDを発症した元・軍人の後遺症を和らげ心理的ストレスを解消するためのVRプログラムも開発されています。
なお、複数人のユーザーが「同一のVR空間」でプレイする研究が進められているとのこと。
ICTの研究開発対象はVRだけでなくドローンにも及んでいます。
これはICTが開発中の、人間の動きを検出して応答できるドローン。ドローンに触れようとすると……
指の接近を察知して、ささっと避けました。
ドローンの下に手を入れると、手との距離を一定に保ちながら、ドローンは高さを変化させます。
ICTのドローンはその場所にとどまるだけでなく、外部の変化を認識して反応し、自律的に飛行できるというわけです。
ICTの開発するプロジェクトとして最も有名な一つが「BlueShark」。
アメリカ海軍と共同開発する、戦闘用艦船のコクピットをVR技術を用いて開発中です。
特徴的なグローブを装着して操作します。
用いるVRヘッドセットはOculusのRift。
空中に再現される操縦パネルはタッチ操作が可能。
UIデザインは洗練されているとは言い難い状態ですが、直感的な操縦が可能になっているとのこと。
VR技術を用いれば、まるで航海中であるかのような実践的な訓練も可能というわけです。
「Robot Arm」というボタンをタッチすれば……
ロボットアームを操作可能。
空間に手を出して、自分の手で物をつかむようなジェスチャーをすればOKなので、直感的かつ簡単にロボットアームを操縦することができます。
スマートフォンやPCなどセンサー技術の需要は高まる一方です。
Apple Watchなどのウェアラブル端末でもセンサーは必須の技術。
もちろんドローンでも。
ICTではボディセンシングと呼ばれるモーションセンサーを開発して、VRと組み合わせることで、新しい操作性を模索中。
この技術が実用化されれば、空中に現れたボタンをタッチすることで、さまざまな情報をゲットしたり、命令を出したりできる未来が実現できそうです。
ICTが開発するさまざまな技術には、軍事技術へと転用される可能性が付きまといます。
軍事技術への転用の可能性について指摘されると、ICTのトッド・リチャード氏は「どんな技術も使い方によってはよい結果も生むし、悪い結果も起こり得ます。研究の倫理的な検証は必要です」と述べています。
ICTが取り組んでいる重要な技術に「ハプティクス」があります。ハプティクスとは、振動を使って皮膚感覚のフィードバックを得る技術で、AppleのMacbookやiPhone 6sで使われるForce Touch技術がその代表例に挙げられます。
小さなドーナツのような輪を手のひらに送り出す機械。
蝶が羽ばたくたびに動く葉。
ICTのVR研究所を訪れると、「過去」と「未来」のハードウェアに出会えるとThe Vergeは述べています。
それはICTが使い古された古い機械を使って、見たこともないような最新の技術を生み出しているから。
ICTが研究に用いるハードウェアの幅はとんでもなく広く、GoogleのダンボールVRヘッドセット「Carboard」など、市販されているありとあらゆるガジェットが試されているとのこと。
ICTの元研究者が生み出したOculusのRiftのような機器だけでなく、一見チープなガジェットさえも研究に活用するICTの貪欲なスタイルから、1年後に再び研究室に来れば、まったく違うハードウェアに出会えそうだとThe Vergeは感想を述べています。
ICTは市販される製品を開発することはありません。しかし、ICTで開発された技術は、しばらく経ってから広く世間で用いられる技術として実用化されることも多いとのことで、ICTで研究された技術を使って起業後すぐに頭角を現したOculusのRiftは代表的な例といえそうです。ICTで開発中のまだ見ぬ技術が近い将来、大きなイノベーションを起こすことになるのかもしれません。
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