取材

インドを旅して感じた「穏やかな日常」と隣り合った「秩序のなさ」


2012年インドのデリーで発生した集団強姦事件は、インド国内だけでに留まらず、全世界に波紋を呼びました。インドを旅した方々のブログを読んでも、盗難、詐欺、恐喝と、耳を塞ぎたくなるような体験談の数々。それでもインドを旅したかったので、細心の注意を払って乗り込みました。ところが、いざ降り立ってみると、悪い人なんてそうそういません。何か困ったことがあれば、たいていは親切にしてくれます。それにも関わらず「インドは危ない国なので油断はできない」という結論に至りました。

こんにちは、自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンです。3月20日にムンバイに降り立ってから、ネパール、バングラデシュを挟んで、インドには55日滞在しました。人によって賛否のわかれる国ですが、私も同じような感想でした。自由な空気には癒やされた反面、秩序のない社会には苛立ちます。

◆いや、別に普通かも……?
バス停には行先案内なんてないので、バスの番号だけではどれがどこへ行くバスなのかがわかりません。コルカタの街で、宿へ帰ってくるための方法は「ここに行きたいけど、どのバスに乗ればいい?」と隣の人に聞くことでした。目的のバスが近づいてくると「これに乗れ」と教えてくれます。病院でも、電車の駅でも、困ったらインド人の助けを借りました。街に安宿がなかった時は、地元の人に部屋を貸してもらったりもしました。

お世話になった夫妻。


フレンドリーな街の人。


何より和やかな気持ちさせられるのは、小さな商店であぐらをかいて座るおっちゃんの姿。中南米のように、鉄柵を通してお金のやりとりなんてしません。唯一、酔っぱらいは危ないのか、酒屋だけは檻に囲まれてました。ただ、たいていのお店は、緩やかに営業しています。どこかに出かけちゃうのか、主の姿がない商店も。何より目を疑ったのは、ネパールとの国境で、両替商の机に無造作に積まれた札束でした。銃が日常にあったグアテマラやホンジュラスといった国と比べると、町にピリピリとした空気は感じません。

一般的なインドの商店。


スーパーマーケットが普及していないということから、ぼられたりしないかと値札のない商店での買物が不安でした。しかし、商店が値札を付けないなら、政府が商品に値段をつけてくれます。インドの食料品、日用品にはMRP(Maximum Retail Price)という定価が印刷されていたので、買物は思ったよりもスムーズでした。タージ・マハルのあるアグラや、ガンジス川の聖地バラナシの商店では、少し高い値段を言われましたが、疑問なら手にとって確認すればいいだけ。定価ではない値段を言われたなら、定価で売ってくれるお店を探して買物をしました。

歯ブラシのパッケージ裏にMRP25ルピー(約50円)と値段が記されています。


このミニッツメイドのように、値段をアピールしたパッケージもありました。


◆ただ、マナーが悪い
意外と穏やかな日常、ただ、そこで気を緩めることはありませんでした。残念なことに、マナーが悪すぎます。

インドほど、街中で立ち小便をする人が多い国はないと思います。しかも、座って小用をたす人がいて、かなりのカルチャーショックでした。腰をかがめて、両足の間に男性器を隠して放尿。周りに人が歩いていてもお構いなしという感じです。さすがに街中では大きい方をする人は見かけませんでしたが、田舎の道端では小さな子どもがしゃがんでうんこをしています。道端に残る大きなうんこの痕跡は、子どもではない可能性が高く、踏まないように気をつけていました。ちなみに、インドの列車のトイレは穴があいてるだけで、出したものは線路の上に落ちるという構造です。

こうした場所にも、座って放尿。


交通マナーも、恐ろしかったです。狂ったようにクラクションを連打されても困ります。どの車両も最短距離で曲がるので、くるくると周るラウンドアバウトの交差点は機能しません。バイクのミラーは、ぶつかるのを恐れて畳まれた状態。1つのバイクに3人、4人と乗るのはいいですが、せめてヘルメットは被りましょう。そして、道路は逆走しないで下さい。進行車線にも関わらず、対向車が我が物顔で走ってきます。路上駐車している人は、どうしても駐車する必要があったのでしょうが、もっと端に止められなかったのでしょうか。あなたの車のせいで後ろの車両が前に進むことができません。……そのような自由気ままな人たちが多いので、交差点になれば渋滞が発生します。車が止まったら止まったで、我先にと開いてるスペースに雪崩れ込むバイク。幸いにも事故に巻き込まれることはなかったのですが、私が走っていたときも、何度かヒヤッとさせられました。

遮断機は下りているけど、隙間を縫って踏切を渡るバイクたち。


政治集会によって発生した渋滞。駐車スペースのことなんて考えていたようには見えません。


世界の常識が通用しない、折り畳まれたバイクミラー。


ゴミもそこらかしこに捨てるので、街が汚くて仕方ありませんでした。どす黒い色をした溝は、プスプスプスプスと何かが蠢いているような様子。繁華街を流れる小川も、足を踏み入れたくないほどに変な色をしています。ヒンドゥー教の神聖なる存在として崇められる牛さんは糞尿を垂れ流し、道端を駆けまわる豚さんはガツガツと残飯を漁ります。雨が降るとゴミだらけの道端に加わる、水たまりという新たな不衛生要素。安宿に泊まると、ネズミが部屋に遊びに来ます。いちおう、街を清掃する人がいるので、ずっと汚いままでもないのですが、マナーの悪さはそんなものを凌駕しているので、不衛生な環境での日常を余儀なくされています。

ゴミのすぐ傍で、営業する屋台。


残飯を貪る豚。


川もゴミだらけ。


水たまり。


ATMもこの有り様。


蝿がたかる中、鶏を捌く様子。


まさか、歩いていた足元に犬がいるなんてインド以外では思わないでしょう。疲れていて注意散漫になり、踏みつけたのは地面ではなく犬……。「キャンっ」と、鳴き声と同時にガブリと足首を噛まれて出血。インドでは、年間2万人以上が狂犬病で亡くなっているそうです。夜だったので、翌朝となりましたが何とかワクチンを摂取しました。その日を1日目として、3日目、7日目、14日目、28日目と計5回、病院を探してはワクチンを注射してもらっていました。人々が行き交う道の中央で寝そべっていたり、餌を漁りにゴミ捨て場の周りをうろうろとしていたりと、インドにとって野良犬は日常生活の一部でした。

ワクチンと注射。


街中でじゃれあう野良犬。


これまでに旅をしていて、安全だった国ほど無料のトイレがあり、交通マナーもよく、街にゴミが落ちていることはなく、野良犬の心配も要りませんでした。そういった経験から、インドは危険なので気をつけようと心懸けました。

◆そもそも、インド人が分からない
とある安宿に泊まったとき、英語を話せる1人の青年がどんどん手続きを進めてくれました。「部屋に自転車を入れたい」と聞いてみると「ダメだ、ダメ」という回答。すっかり彼は宿の従業員だと思っていたのですが、よくよく確認すると違う様子。改めて宿の人に尋ねると「問題ないよ」というので自転車を部屋に入れました。彼はバスを待っているだけの通りすがりの青年だったのです。部屋で休んでいたら、その青年がドアをノックします。ドアを開けたら、何も言ってないのに部屋に入ってくるどころかベッドに腰掛ける行動には呆然。「そろそろ出発するから挨拶にきた」という用件だったので、ドアの外に追い出してから話を聞きます。当たり障りのない会話をしていると「あなたの英語、ぼちぼちだよね~」と力比べを挑んでくる始末。何もかもが面倒な人でした。ちなみに、出稼ぎかビジネスかは知らないものの、アラブ首長国連邦で働いているという話でしたが……。

その部屋。もちろん自転車は中に。


「日本人は英語を喋れない」という先入観から、会話の最中に「あなた、英語ちょっとしか話せないのね」と言い放つインド人が多いのにはイライラとさせられました。そもそも、彼らの英語はインド訛りが強くて、何を言ってるのかさっぱり。それでも、向こうから話しかけてきたから、こちらは聞き取ろうとしているのに、遠慮してくれません。私は「聞き取れない自分が悪い」と思っているのに、インドの人たちは「聞き取れない相手が悪い」と考えているということでしょうか。

英語は公用語となっていますが、人によって差があります。


インドの人は列に並びません。バングラデシュのイミグレーションでも、割り込みをされました。そうならないように、多くの窓口には鉄パイプで仕切りが作られています。病院の窓口は、ローマにある真実の口のように、1度には1人の手しか入らない仕様でした。電車の窓口も、台から体をのしあげ腕を伸ばさないといけない距離にあります。こうしたことから、インドで並ぶ必要がある時は、列が守られるということは諦めていました。最初から諦めておけば、そこまで苛立つこともありません。

そんなインドからネパールに入ると世界が一変するから驚きました。ネパールにおける車のクラクションは、インドに比べると控えめ。人当たりも柔らかで、適度な距離を保ってくれます。田舎の山道にあるレストランはバス停を兼ねていました。自転車をおいて情報収集していると、2人の男の子がいたずらしています。サドルに跨がろうとして、危ない危ない。倒れて怪我しても責任は持てないし、「こらーっ」と声を上げると、鬼の形相となったお母ちゃんが飛んできて、有無をいわさず子どもたちを引っ叩きました。肩を寄せてシュンとした2人に、何かを言い聞かせる母親。申し訳なかったけど、こうして大人になっていくのです。一方で、インドだといい歳した大人が、断りもなくベタベタと人の自転車をいじくり回します。

穏やかだったネパール。


旅をしていて「インド人は押しが強い」と思いました。道を歩けば人にぶつかるといっても過言ではない人口圧力。とにかく、前へ前へと出てきます。大した用でもないのに、無闇に人を呼ぶ声。そうやって、話をしたいにも関わらず、自分からは動こうともしない人ばかり。押しが強いだけでなく、謙虚さにも欠けます。狭い路地裏にもかかわらず、クラクションを鳴らしながら、無愛想な顔で駆け抜けるのもどうなんでしょう。スリランカやネパールのように、お金のやりとりに手を添えるという作法も見ませんでした。良くも悪くも、サバサバとした空気を感じました。

人にぶつかる繁華街。


ごちゃごちゃとしていました。


◆気をつけて、いい旅を
文句ばかりを書き綴りましたが、最後の都市となったコルカタは、インドにしては街も綺麗で過ごしやすかったです。中心部にはサイクルリキシャが入ってこられないので、交通の流れも実にスムーズ。着用義務があるようで、街中でバイクに乗っている人はみんなヘルメットをしていました。今回はチェンナイやバンガロールといった南部は訪れていないので、そちらにもまた違ったインドがあるのかもしれません。

一定の秩序が保たれていたコルカタ。


ヘルメット着用の標識。


旅で何もなかったら良かったのですが、ラクソウル(Raxaul)というネパールとの国境の町で、真っ昼間の繁華街にも関わらず若者2人に絡まれたので、近くの商店に逃げ込みました。歩いていると目があって、呼び止められたものの無視、その後も追いかけてきて腕をつかもうとするから訳が分かりません。終始、怒った顔をしていました。何をしたかったのかも分からないままです。

観光地で日本語・英語を問わずに話しかけてくる人間は信用できないことが多いため、無視しました。自分の身は自分で守るしかありません。インドを訪れる方は、くれぐれも気をつけて下さい。もし、インドが安全な国なら、もっと穏やかな社会が築かれているはずです。

(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak
)

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in 取材, Posted by logc_nt

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