取材

光学迷彩を実際に作った教授らがフィクションとリアルを語る「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT in AnimeJapan」


たとえフィクションの作品に出てくる近未来の技術であっても、現実はそこまでかなり近づいていっているというものは少なくありません。実際に、「攻殻機動隊」に出てくる熱光学迷彩と同じように自分を背後の景色に溶け込ませる「光学迷彩」や、離れた場所にも触覚を伝えられるデバイス、手足などを失ってもその機能を十分に補えるだけの義体などが生み出されています。AnimeJapan 2015のセミナー「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT in AnimeJapan」では、この技術を手がけている専門家や、「攻殻機動隊ARISE」「攻殻機動隊 新劇場版」で脚本を担当する冲方丁さんが登壇し、フィクションとリアルについてのセミナーを行いました。

攻殻機動隊 REALIZE PROJECT
https://www.bandaivisual.co.jp/koukaku-special/realize/index.html

攻殻機動隊 REALIZE PROJECTは「攻殻機動隊」発表25周年を記念して、攻殻機動隊の世界をリアルに再現する可能性を追求するという壮大な企画。2014年秋に始動しました。


登壇者の1人、冲方丁さんは小説家であり、「攻殻機動隊 新劇場版」脚本や「攻殻機動隊ARISE」シリーズ構成・脚本を担当しています。


電脳表現や義体表現がわざわざ何なのかという説明をしなくても使えるようになった一方で、フィクションと現実が近づいて表現としてのインパクトが弱くなっていると冲方さん。


慶應義塾大学 大学院 メディアデザイン研究科 准教授の南澤孝太さんは「身体的経験のデジタル化と共有」、つまり身の回りの感覚をいかにシェアするかを研究しています。


具体例として、会場に「TECHTILE toolkit」を持ってきた南澤さん。まるで糸電話みたいですが……。


南澤さんが手に持ったコップに砂を注ぎ入れると……


冲方さんが持っていた方に、まるで砂が注がれるような感覚が伝わっています。


つまり、「触覚を他人に伝える」ということができているわけです。これがさらに進めば、「カチカチ」「ぽよぽよ」「ふにふに」などの触覚をネット越しに伝えることが可能になります。


かなり義体に近いような印象ですが、実際に、ロボットの視覚を使いながら体を動かすという、義体操縦みたいなことも行われているそうです。


この先にあるのは「全身義体化技術(Telexistence:テレイグジスタンス)」。


続いてはソニーコンピュータサイエンス研究所 アソシエイトリサーチャー・株式会社Xiborg(サイボーグ) 代表取締役の遠藤謙さん。


ロボット技術を用いた身体能力の拡張に関する研究に携わっています。


遠藤さんに感銘を与えたのが、MITメディアラボのHugh Herr教授の「身体に障害をもっている人はいない。ただ、技術の方に障害がある」という言葉。


例えば、事故などで足を失った人でも義足を使えばもう一度歩くことができますが、まだ義足の技術に未熟な部分があるため、人間の足と同じように歩くところまでは至っていません。技術が成熟すればその差が埋まるであろう、ということを示すのが、この100m走のタイム分布。赤い折れ線がパラリンピック、青い折れ線がオリンピックの優勝タイムを示したもの。まだパラリンピックの方が1秒強ほど遅いのですが、このペースで技術が進歩していけば、2020年ぐらいには同じぐらいのタイムに到達するのではないかと考えられています。


慶應義塾大学 大学院 メディアデザイン研究科 教授の稲見昌彦さんは技術による人間の能力拡張、つまり「人機一体」と呼べるようなものを研究中。


「攻殻機動隊」に極めて近づいた技術として、作品中に出てくる「熱光学迷彩」のように背景に溶け込む「光学迷彩」を生み出しました。


ただ単にペイントしてある迷彩ではなく、たとえ後ろを車が移動したりしても、その様子をリアルタイムに反映するのでどこにいるのかはわかりません。


光学迷彩だけではなく、これもまた「攻殻機動隊」に出てきた「感覚をハックする」ということも実現しています。それが前庭刺激インタフェースで、他人の前庭を刺激することで、身体をまるで操っているかのように動かすことができます。完全に操り人形のように動かせるわけではありませんが、自分が意図しない動きを他人にさせられるというのは、いったいどんな感覚なのか……。


そんな稲見さんが語ったのが「95%のリアルと5%のフィクション」ということ。つまり、何でもかんでも現実離れしたものにすればいいということではなく、その5%のフィクションの部分をいかにリアルの側に持ってくるのかというのが自分の仕事である、とのこと。


ここで大きな力となるがポップカルチャーの力、「ポップパワー」だそうです。


今やスマートフォンのことをわざわざ「コンピューター」とは表現しないように、テクノロジーがやがては生活の中に取り込まれていくのではないかと稲見さん。


遠藤さんも、目が悪くてメガネをかけている人のことを障害者とは言わないように、義手や義足がもっと広まれば、誰が障害者かわからない時代が来ると、未来の姿を表現しました。


こうして人々の身体が拡張されていくと、攻殻機動隊のような世界が日常になるのではないか、ということで今回は「攻殻機動隊×超人スポーツ協会」が発表されました。超人とはロボットやIT技術で能力を補った人のことで、まさに攻殻機動隊に出てくる草薙素子やバトーたちは「超人」だといえます。


この超人スポーツにおいては「○○製の義足は××が得意」といった解説があれば面白そう、と提案する冲方さん。小説家だからこそ、こうした最先端の技術を知った上でいかにみんなの新たな刺激になるものを書くことができるか、と得るものがあったようでした。


なお、このイベントの様子は後日、公式サイトで配信される予定となっています。

4月からは「攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE」が放送され、6月20日に「攻殻機動隊 新劇場版」の公開も決まっているので、キャラクターやストーリーだけではなく、作中で描かれている電脳技術や義体技術に注目して見てみるというのも面白いかもしれません。

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in 取材,   アニメ, Posted by logc_nt

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