中学生全員にノートPCを配布した結果、何が起きたのか?
By Sen Chang
IT教育熱が高まるにしたがって、生徒にノートPCやタブレット端末を与え、コンピュータ教育に活用するという試みが盛んになってきています。しかし、無償でノートPCを生徒全員に配布するという試みを2009年から続けてきた学校が、生徒全員からノートPCを回収し廃棄することで、ノートPC全員配布型の教育を終了することにしました。
Why a New Jersey school district decided giving laptops to students is a terrible idea | The Hechinger Report
http://hechingerreport.org/content/new-jersey-school-district-decided-giving-laptops-students-terrible-idea_16866/
アメリカ・ニュージャージー州のホーボーケン中学校・高校は、2009年から7年生(日本の中学1年生)の生徒全員に、教育目的でノートPCを無償で配布し授業で使うことにしました。このようなコンピュータ教育の必要性は全米中で共通認識されており、同様のプロジェクトを行う学校は多く、デジタル教育センターによると2013年のコンピュータ教育への予算は前年比2億4000万ドル(約247億円)増の100億ドル(1兆280億円)にも上るとのこと。
しかし、ホーボーケン校は従来のコンピュータ教育プログラムを止め、生徒に配布していたノートPCを全部回収し廃棄することを決定しました。
ホーボーケン校の無償ノートPC支給プログラムは当初からトラブルつづきだったと言います。コンピュータネットワークエンジニアのジェリー・クロカモ氏が2011年に同校のプログラムに参加した時点で、7年生・8年生・9年生の3学年の生徒全員がノートPCを所持している状態だったところ、毎日のようにやってくる修理依頼に圧倒されたとのこと。生徒たちは「本を落としたら壊れちゃった」「上に座られて壊れちゃった」「落としたら壊れちゃった」と画面が割れたノートPCやバッテリーが死亡したノートPCやウイルスに感染しまくったノートPCを絶え間なくクロカモ氏に持ち込んで来たそうで、破損を予防するためにハードタイプのケースを導入しても「完全なまでに破壊されたノートPC」が持ち込まれてくるのを止めることはできなかったそうです。
また、クロカモ氏は盗難防止用の追跡ソフトウェアをすべてのノートPCに導入していたにもかかわらず、紛失して見つかることのないノートPCが続出したとのこと。
ホーボーケン校では配布したノートPCにポルノサイトやオンラインゲームサイトにアクセスできないようにする「Net Nanny」と呼ばれるソフトウェアを導入していましたが、このような対策は「12歳のハッカー」たちにはまったくもって無意味で、ネット上にNet Nannyをハックする方法を詳細に示した掲示板が立ち上がり、次々とハッキングされるのを防ぐ術はなかったとのこと。
By Salim Fadhley
さらに、配布されたノートPCの性能が低かったこともあり、授業では多くのノートPCがクラッシュし、「教育用ソフトウェアを起動させるのに20分もかかる」という「惨事」さえあったとホーボーケン校の数学教師・ハワード・マッケンジー氏は語ります。マッケンジー氏によると、遅すぎるノートPCを諦めて、結局は電子ホワイトボードに頼ることも多かったとのこと。
しかし、教育者の立場からすれば厄介なことこの上ないノートPCですが、それは生徒の立場でも同じだったようです。ホーボーケン高校3年生のマイケル・ラニエリさんは、配布されたノートPCが回収されて良かったと話します。無償提供されたノートPCは、配布される際に「万一、盗難に遭った場合には両親が弁償する」という覚え書きへのサインが求められていたとのこと。ラニエリさんは、ノートPCが回収されたおかげで盗難を恐れる必要がなくなりストレスから解放されたと話しています。
By Dennis Lam Sweden
日本でも生徒にノートPCやタブレット端末を無償で配布し教育に取り込む試みが盛んに行われていますが、ホーボーケン校の事例は、ハードウェアを与えるだけで十分なケアをすることなく教育目的を果たすことは非常に難しいという教訓を与えてくれそうです。
◆2014/08/01 12:30追記
The Hechinger Reportの記事が掲載された直後から、ホーボーケン校に対してはEメール・電話で意見・懸念・苦情が殺到したとのこと。これに対して、2014年7月31日、ホーボーケン教育委員会は、報道では重要な事実が触れられておらず誤解を招いているという旨の声明を発表しました。この声明の要旨は以下の通りです。
WNYCニュースやThe Hechinger Reportによってホーボーケン校が生徒に無償提供したノートPCを回収し「廃棄」したと報道されましたが、ホーボーケン校はノートPCを廃棄していません。元来、第7年生・第8年生にノートPCを配布するという数年前から続けられてきた教育プログラムは、行政からの補助金を得て行われた実験的プログラムであり、今回のノートPC回収はプログラムの終了に伴ってなされたもので、耐用年数を迎えたノートPC100台についてはリサイクル業者に入札方式で買い取ってもらい、残りの200台については教育目的で継続的に利用していくことになっています。
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