取材

TPPに参加するのも悪くないと思えてしまった競争と平等を目指すチリの国内事情


貧しい国の人ほど何もしない。値札のない国では買物一つに手間がかかります。相手によって値段を変えるならまだしも、そうするつもりのない屋台であっても値札がない。何があるかが分からない。「これいくら?」の労力を割いて、別の仕事に回せないかとボリビアでは首を傾げてばかりでした。だからこそ、チリに入ると世界が変わって衝撃的でした。できる国の人はしっかりと働いています。

こんにちは、自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンです。社会主義的なボリビアやアルゼンチンに比べると、自由主義路線を進むチリ経済の強さは目を見はりました。ある程度の町になると百貨店、スーパーマーケット、ホームセンターが揃っていて、ここまでの南米で一番の充実ぶり。小さな町のチェーン店ではないスーパーマーケットにすら物が溢れています。

チリは、虫一匹生息していなかった北部の砂漠地帯から……


鬱蒼とした木々が生い茂っていた南部のパタゴニアまで。


82日間で3963.52kmを走りました。その中で感じたチリ国内の様子を紹介させて下さい。

◆町の景色
メキシコ、ペルーと同様にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加予定のチリでも住環境の格差は目立っていました。首都近郊の高層ビルが立ち並ぶ海辺のリゾートと北部の砂漠にあるトタンの家々は、同じ国の景色かと疑うほど。貧しい人たちの為に公共住宅も用意されているのですが、どうにもならない現実は残っています。

北部の大都市アントファガスタ(Antofagasta)の海岸線


アントファガスタの中心


海沿いの集落


こちらも乾いた北部の町


少し粗さが目立った町の一角


バエナル(Vallenar)という盆地の町。


北部の砂漠地帯では、潰れてしまいそうな家をちらほらと見かけました。


粗末な家が目立った砂漠地帯の集落


チリ中部ラ・セレナ(La Serena)の大通り


首都サンティアゴ近郊にあるビーニャ・デル・マル(Vina del Mar)の高層ビル街は圧巻


超豪華なマンションが立ち並んでいました


ビーニャ・デル・マルに隣接するバルパライソ(Valparaiso)の住宅群


サンティアゴ南の小さな町


◆商業活動
百貨店だとRipley、Paris、Falabella、La Polar、スーパーマーケットではUnimarc、Lider、Santa Isabel、Tottusと、チリの商業活動は活発です。日本と同様にチェーン化されているので、ある程度の町なら同じ店がみつかります。

・Paris(百貨店)ーJumbo(ハイパーマーケット)―Santa Isabel(スーパーマーケット)―Easy(ホームセンター)
・Falabella(百貨店)―Tottus(スーパーマーケット)―SODIMAC(ホームセンター)
といった系列グループもあるので面白いです。こうした国内の競争から、コロンビア、ペルー、アルゼンチンと海外進出を果たすチリ企業も出てきています。チェーン店ばかりではなく、小さな町でも地元の商店が充実しているので旅で困ることはありません。たいてい商品に値札が張ってあるから、買物も快適でした。

チリにはこのような巨大ショッピングモールが点在しています


こちらのモールはクリスマス直前で、たくさんの人で賑わっていました。


衣服なども普通に安い百貨店の店内。PCやスマートフォンといった電化製品も取り扱ったりしています。


Liderはアメリカのウォルマート系列


スーパーマーケットのUnimarcは小さな町にまで進出していたので、滞在中によく利用していました。


ホームセンターのSODIMACは、町の手前によく看板が出ています。


家電量販店のABCDIN


tricotは日本のユニクロのような衣料品店


Claro、movistar、entel、nextel 、vtr、Virgin mobile、Telefonica del Surと携帯キャリアも激戦。


チェーン店に限らず街のメインストリートには肉屋、八百屋、パン屋、雑貨屋、金物店、文房具店と小さなお店が充実しています。


いろんなお店が並ぶ繁華街


路上販売をする人たち


生鮮品などはスーパーマーケットより市場や八百屋の方が安い傾向にあります


トマト1kgで300ペソ(約60円)、オレンジ・青りんご合わせて1kgで500ペソ(約100円)という値段。


チリはサイクルショップも充実していて、街中でも高そうな自転車に乗ったサイクリストが走っていました。


日本のパチンコ店のようなスロットマシーンが置いてある店もあります


チリのファストフードはホットドッグ。アボカドとトマトをペースト状にしたソースは絶品でした。


小腹が空いたらフライドポテトをつまみ食い


居心地のよかったホテルのオーナーと2ショット


◆格差の是正
国内の経済発展は素晴らしいのですが、それについていけない人たちもいて、汚れた服装であてもなく座っていたり、物乞いをしたりしていた人の姿は印象的でした。ペットボトルのコカ・コーラ1.5Lが約200円するのに対し、プライベートブランドの炭酸飲料2Lは約60円と驚くべき価格差。パスタだってプライベートブランドならメーカー品の半額で、クッキーやジャムにも格安品があって、あまりの価格差は少し恐くもありました。

こうして経済発展に取り残される人もあって、チリの政治は中道左派が大統領を務める期間が長く続いていました。しかし、2009年に中道右派で世界屈指の大富豪でもあるセバスティアン・ピニェラが大統領に就任。20年も続いた中道左派の政権が幕を降ろします。前大統領は教育民営化の方針によって、学生たちと衝突を繰り広げていました。


彼の任期が切れる2013年末は大統領選挙を行っていて、決選投票までもつれ込んだ結果、前大統領の後を継ぐ与党右派のエベリン・マテイ候補を破って野党左派で元大統領のミシェル・バチェレが返り咲き。彼女は2006年に同国初の女性大統領として政権を運営。チリは再び格差是正へと舵を取っていきます。旅をしてもチリの公共福祉や公共工事は目につきました。

1つの家を2つに分けあう公共住宅


こちらも同様の形


落書きが目立つこうした公共団地の建物も……


リフォームされることで生まれ変わっていくようでした。


辺境にある町でも公園がしっかりされているのは凄いところ


サンティアゴ北部では道路を片側2車線に拡幅工事中


道路工事現場では鉱山で使われているのと同じ大型ダンプカーが投入されていました。これなら効率も良く作業も進みそうです。


こうして作られるチリの道路は路肩も十分で快適。ただ坂の勾配が急なのには参りましたが……。


こうした大きな橋も架かっていたりします


格差が広がりすぎると治安も悪くなって、マフィアが横行するメキシコのように経済活動に支障が出ます。かといって、閉鎖的な経済政策ではベネズエラやアルゼンチンのようにインフレによる通貨価値の下落が起きる可能性があります。中南米を見ていて、経済の自由化と格差の解消のバランスを取っていくことが大事だと感じました。

◆働くチリ人
チリのスーパーマーケットでは野菜やパンは重量制。自分が詰めた袋を従業員が量って、値段のシールを貼ってくれます。ある時、一人のおばちゃんが二台の機械を使い、片方で量ってボタンを押してシールが出てくるまでに、空いている機械に次の袋を置くという効率的な時間の使い方をしていて感動しました。こういった小さな積み重ねが、大きな国を動かす力となっていて、「できる国の人はちゃんと働く」と思った次第です。

ひと目で何が幾らか分かる袋屋さん


整理整頓が行き届いたこちらの手芸用品店も秀逸


ゴムひもを買ったら、作りおきの袋に入れてくれました。働くことの意味を考えさせてくれます。


チリでは商店であっても領収書が普及しています。貰う側だけでなく、渡す側の金銭管理にも役に立っていそうです。


◆銅山
チリ経済の根幹を握るのが世界一の採掘量を誇る銅の輸出です。2010年に33名が閉じ込められて奇跡的な脱出を果たしたコピアポ鉱山落盤事故は日本でも話題になりました。北部のカラマ(Calama)では世界最大の露天掘りによるチュキカマタ銅山の無料のツアーに参加してきました。

ツアーのバス


展望台から一望できた世界一の露天掘り


巨大な重機が小さな蟻のようにチョコマカと作業をしていました


九十九折の道を上っていく大型ダンプカー


すり鉢の縁はこのような感じに。


展望台での見学を終えると工場の敷地内をバスで案内してくれます。無骨な工場の建物に惹かれてしまうのは自分だけではないはず。


貯水池もあり。銅山は国営のコデルコ(CODELCO)によって運営されています。


巨大な煙突が目立っていたサンティアゴ近郊のコルデコの工場


銅の輸出だけに限らず、木材パルプを生産する林業や……


Doleの工場もある農業に……


サケの養殖もしているという漁業と、モノカルチャー経済からの脱却は進んでいます。


中南米を旅しているとベネズエラ、エクアドル、ボリビアといった社会主義路線とメキシコ、コロンビア、ペルーといった自由主義路線と経済政策が二分化されていて、その中でもTPPに参加予定のメキシコ、ペルー、チリは社会主義路線の国々よりも進んでいるように感じました。アルゼンチンのアルゼンチン航空やボリビアの電話会社エンテルのように資源でもない私企業を国営化したところで非効率化するのではという疑念があります。冷戦後、社会主義の平等の理想より資本主義の競争の現実が生き残ったわけですしね。自分もそうであるように、競争がなければ進んで働きたくありません。

TPPには全面的に賛成ではないのですが、南米で一番進んでいたチリのこうした事例を見て、自由貿易による競争には少し魅力を感じてしまいました。家具のIKEA、服飾のH&M、倉庫型スーパーのコストコのように、外資は次々と日本に上陸しています。何もしなければそのうちに負けてしまうでしょう。国内ではiPhoneの登場で、日本企業の“ガラケー”による市場独占は瓦解してしまいました。何にしたって、動いていかないと変わらないと思います。

(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak)

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in 取材, Posted by logc_nt

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