記憶力にいくら自信のある人でも記憶は簡単にねじ曲げられることが判明

By Pietro Bellini

昨日の昼食に何を食べたか、でさえなかなか思い出せないことがありますが、世の中には10年前の何月何日に食べた昼食の内容を覚えている、という尋常ではない記憶力の持ち主が存在します。カリフォルニア大学アーバイン校の研究チームが超人的な記憶能力を持った人を集めて、記憶の正確性を試す実験を行ったところ、そのような人でさえ誤った情報によって、記憶が簡単にねじ曲げられてしまうことが判明しました。

False memories in highly superior autobiographical memory individuals
http://www.pnas.org/content/early/2013/11/12/1314373110

How Many of Your Memories Are Fake? - Erika Hayasaki - The Atlantic
http://www.theatlantic.com/health/archive/2013/11/how-many-of-your-memories-are-fake/281558/

カリフォルニア大学アーバイン校のLawrence Patihis博士は、子どもの頃から現在までの全てを覚えているという、驚異的な記憶力を持った被験者を20人集め、誤った情報によって記憶が左右されないかどうかを確認する実験を実施しました。実験前に、20人の被験者が実際に覚えている幼少の記憶が正しいかどうか、ビデオテープや新聞などのアーカイブと照らし合わせてみると、その正解率は約97％だったとのことです。

By rbbaird

実験は、20人の被験者にスライドショーを見てもらい、その後にスライドショーの内容を少しだけ改変した本を読ませて、記憶が書き換えられたかどうかをチェックするというもの。スライドショーの内容は「1人の男性が、手を貸すふりをしながら女性から財布をすり、その後に自動車から1ドル紙幣を1枚とネックレスを盗みだす」という内容でした。実験の結果では、記憶能力が異常に優れているのにも関わらず、一般的な記憶力を携えた人とほとんど変わらない数値が出てしまいます。

また、同大学が行った別の実験では、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロの1つであるユナイテッド航空93便テロ事件の飛行機が墜落する瞬間を撮影した映像について覚えているかを20人の被験者に質問。実際には、飛行機墜落の瞬間を撮影した映像は存在しませんが、被験者の20％の人が「映像をテレビなどで見たことがある」と回答しました。

By Matt Hintsa

実験を率いたPatihis博士は「10年前のランチの内容など、ささいな事でさえ覚えているのに、なぜスライドショーの内容を忘れてしまうのか、全くもって不思議なことです。被験者はおそらく、ささいな出来事の中から個人的に意味をなすものだけを抽出し、それらをつなぎ合わせて記憶を生成しているのかもしれません」と実験結果について独自の見解を述べています。

実験を行ったメンバーの1人であるJames McGaugh教授によると、強い感情が込められた出来事ほど記憶に残りやすく、例えば、毎日の出勤途中の出来事などほとんど覚えていませんが、もし出勤時に交通事故を目撃したら、そのときの出勤の様子は強く記憶に残るそうです。この感情と記憶の相互作用は、人間の進化の歴史に大いに関係しており、「草食動物がトラにかみつかれて死にかけたら二度とその現場に近づかない」という動物の本能的な能力と同一。この相互作用がなければ、人間や動物は生存競争に勝ち抜いてこれなかったかもしれないとのことです。

By Saad Faruque

哲学認識論や倫理学などに関する本を執筆したBrian Boyd氏が、自身の本で「心や記憶というものは、ただ単に情報を記録し読み起こすだけではなく、足りない情報を補い、再構築することもあります」と述べている通り、記憶と実際に起こった出来事は多少なりとも違うのが当然なのかもしれません。