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iOS 7のデザインにイスラエル国防軍の軍事情報チームがいかにして影響を与えたのか?

by William Hook

余計なエフェクトがなくシンプルさが印象的なフラットデザインがiOS 7で採用されたので印象がガラッと変わりましたが、iOS 7の見た目には実はイスラエル国防軍の軍事情報チームが関わっていました。

Taskmasters: how Israeli intelligence officers helped inspire the look of iOS 7 | The Verge
http://www.theverge.com/2013/10/9/4817146/taskmasters-how-israeli-intelligence-officers-helped-inspire-the-look-of-ios-7

2009年10月、Facebookに顔認識APIを販売したFace.comの投資家・事業家のEden Shochatさんはイスラエルのスポーツ・トレーニング施設のWingate Instituteにいました。彼が呼ばれていたのはGeekConという集まりで、そこではすごいが一体何に使えばいいのかわからないものが数多く発表されていました。あるチームは熱に反応しオーナーがどこに行ってもついてくるロボティック・スーツケースを作り、またあるチームはトランポリンでジャンプした時のシルエットからパスワードを作り、ジャンプすることでコンピュータにログインできる仕組みを作っている、というふうに。その中で最も人々に衝撃を与えたのが人工知能搭載で会話が可能な膨張式のセックスドール「Alice」でした。


Aliceを発明したのは25歳のOmer Perchikさんが率いるチーム。ShochatさんはすぐにPerchikさんと意気投合しました。「私は彼の考え方をすごく気に入っていて、技術者としての彼を評価している。最低なプロジェクトの中で彼はチームをロックスターに仕立てあげたんだ」とShochatさん。2人は連絡を取り合い、7カ月後、PerchikさんはShochatさんに次のプロジェクトについて話しました。

Perchikさんが話した内容はイスラエルで発表した「Alice」のようなセクシーなものではなく、To Doリストのように目立たない、モバイルデバイスのための次世代タスク管理ツールの構築でした。彼のソフトウェアはすでに何十万ものAndroidユーザーを魅了していたのですが、さらに進化した新たなバージョンを作る計画があったのです。それが「Any.do」、後に世界中の何百万というユーザーにダウンロードされ、iOS 7の見た目や雰囲気にも影響を与えることとなるアプリです。

このアプリを構築するにあたってまず資金を作る必要がある、とPerchikさんはShochatさんに語りました。モバイル世界の生産性管理を徹底的に作りなおし、完璧なTo Doリストを生み出すにはイスラエル国防軍の軍事情報チームから人材を集める必要がある、とPerchikさんは考えていたのです。

写真左がPerchikさん。


イスラエルにはユニット 8200という集団があり、何千人という兵士から構成されるこの組織は国家を脅かす脅威を見つけ取り除くため、インターネットなどに含まれる情報の激流から通信情報およびコードを解読することを任務としています。ユニット 8200がイランの各施設を標的としたコンピューターウイルススタックスネットをアメリカと共同して開発したという話も出ているほどの、情報収集のエキスパートなのです。

イスラエル国内でユニット 8200は伝説となっていて、「干し草の中にある1本の針を見つける専門家である」と言われています。わずか18歳のメンバーであっても、部隊の指揮官にスーパーコンピューターが必要であると言えば、20分後には手元にスーパーコンピューターが届けられるなど、訓練の一環としてなら何でも行える、と彼らは教えられます。ユニット 8200のメンバーは18歳ですでにプロジェクトの中心となってデータセンターで働いているのです。


大学に通っている間、Perchikさんはユニット8200に所属する友人のAvivさんと週末を共にしました。普段はクラブに行く前にPerchikさんがAvivさんの家に寄ってドリンクを1~2杯飲むだけなのですが、ある時PerchikさんはAvivさんの家に着くなり「今日来たのは飲みにいくためじゃないんだ」と切り出します。「今日は君が今まで会った人のリストを作ってほしいんだ、僕はそれを参考にして雇う人を決める」とPerchikさんが伝えると、Avivさんは彼が知るうち最も賢い20人のユニット8200メンバーをリスト化し、Perchikさんは彼らを雇い始めました。

在学中に徴兵されたPerchikさんは3年間の兵役を終えると、ビジネスと法律を勉強するため大学に戻りました。勉強の傍らで、ウェブデザインとサーチエンジンの最適化を小さな仕事として開始しましたが、すぐに飽きてしまいました。ある日、友人のビザ申請を手伝っている時、彼は自分の使っているTo Doリストにいらだたされました。彼はもっと速く、クリーンで、自動化された何かが欲しかったのです。その時Perchikさんが作るものの形がはっきりしました。


2011年、Avivさんのコネクションを通じてPerchikさんは13人のチームを集めます。チームの半数はユニット8200のメンバーでした。Perchikさんの頭の中にあったのは、ユーザーの意思や提案をくみ取ってユーザーを手助けするアプリです。例えばもしユーザーがTo Doリストに商品を載せていれば、Any.doはユーザーが商品を購入する手助けを行い、もしAny.doのカレンダーに何かイベントを入力していれば自動的にタクシーを呼んでくれる、というように。ユーザーの生活をより簡易にして、かつアプリ自体はフリー。収益は関連会社とのつながりから得るという方法です。

このビジョンを現実にするには言語解析のプロが必要であり、そのためPerchikさんはユニット8200のメンバーが持つ文章を解析しアルゴリズムを見抜くという特殊な能力を重視していました。「私にあの年もたらされたのは『すべてのことが可能である』という考えです」と当時のメンバーであり、現在Any.doのエンジニアを務めているYoni Lindenfeldさんは言います。「私たちは自分たちが行ったことの多くを話すことができませんが、とにかく才能のある人々にたくさん会ったのです」

情報チームが仕事に取りかかっている間、Perchikさんはユーザーインターフェースを構築するメンバーを雇い始めます。まずはより簡単に構築できるAndroidから着手しましたが、当時のTo Doリストのほとんどは紙とペンを模したデザインでした。そこでAny.doは実物に似た質感を再現するスキュアモーフィックデザインを用いることをやめます。スキュアモーフィックデザインはフラットデザインとの対比において言及されることが多く、当時はiOSよりもWindowsによく用いられていました。「その頃のTo Doリストは消費者が日常で使うものではなく、ビジネスマンがオフィスで使うアイテムに似ていたのです」とは最初にデザインを担当したJonathan Saragossiさん。「我々が作りたかったのは日々の生活における何かであって、仕事のツールではなかったのです」とのこと。

Any.doアプリの特徴は「Any.do moment」と呼ばれるもの。Any.doによればこれがユーザーをアプリから離さないようにするリマインダー機能で、毎日決まった時間になるとスマートフォンが鳴ってアプリを起動するように通知し「1日の計画を立てる時間です」と知らせます。アプリ内のインタラクションはたった1つのスクリーンに表示され、声の使用を含んだジェスチャーが用いられます。そして2012年の6月にAny.doはiOS版がリリースされ、アプリはAndroidとiOS合わせて700万回以上ダウンロードされました。


Any.doはいろいろなものに影響を与えましたが、その中にApple社があります。今年AppleはiOSをフラットデザイン化し、関係者によればRdioLetterpressClearといったアプリと共にAny.doはAppleにインスピレーションを与えたものの1つだとのこと。Appleのインダストリアルデザイングループ担当上級副社長であるジョナサン・アイブ氏は「iOSがどのように進化するか」を示したアプリのリストを渡され、そのトップにあったのがAny.doだそうです。なお、Appleはこの件についてコメントしていません。

iOS 7が2013年7月にベールを脱ぐと、軽さのあるフォントや最小限のデコレーションなどシンプルさに対する新たな傾向が明らかになりました。カレンダーの中にあった革のステッチ、ゲームセンターの中にあった玉突き台などは消え去り、白いスペースとテキスト・ラベル、シンプルで幾何学的な形があるだけ。「余計なデザイン要素を取り去って、より重要なこと……あなたのコンテンツに焦点を当てているのです」とAppleは語りますが、これはAny.doが最初から持っていた考えです。

2013年6月にPerchikさんらはAny.do CalというなめらかなカレンダーをiOS用にリリースしました。チームの次のプランはEメールに関するアプリを作ること。Any.doのモットーは「毎日、いい日」というもので、すべてのアプリの構築はこのミッションをサポートするものです。「誰も使わない素晴らしいテクノロジーを作っても意味がありません。毎日使われるものを作る必要があるのです」とPerchikさんは語りました。

現在でもユニット8200のメンバーはデータを解析し、ユーザーの望みと彼らの回りにある消費世界の間のコネクションを作っています。「我々は人々が何を行っているかを理解し、彼らを手助けすることに多くのテクノロジーを投資しています」と語るのはLindenfeldさん。「私たちには未来に大きな計画があるのです」と語る、かつて秘密のために働いていたAny.doのメンバーがオープンな形で彼らの作品を世界に発信していく未来も近そうです。

by Danelle Joy Abalos

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in メモ,   ソフトウェア, Posted by darkhorse_log

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