取材

「目を疑いたくなるようなことは多々あります」とグアテマラで起業した日本人起業家が語る


中米グアテマラにて旅人が世界一周中に立ち上げた、オンラインスペイン語会話サービス「スパニッシモ」。ローンチから1年、異国の地で奮闘し続ける男たちの日常にお邪魔してきました。

こんにちは、世界新聞特命記者の清谷啓仁です。世界一周中のわたくし、現在、グアテマラケツァルテナンゴ(通称シェラ)という町にいます。今後はホンジュラスに入り、そのままパナマまで中米を下っていく予定です。

シェラはこの辺り

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シェラの中央広場。シェラはグアテマラ第2の都市です。


路上駐車が目立つシェラの町並み


市場には活気が溢れています


「キヨタニくん、シェラにオンラインスペイン語会話サービスを立ち上げた若者がいただろう。ボクが取材した時(2012年1月)はサービスが立ち上がる前だったっけ。彼らは元気でやってるのかなぁ……」とウチのデスクが遠い目をするので、会いに行ってきました。

この建物の3階の一角に、彼らの拠点とするオフィスがあるとのことです


スパニッシモを創業したのは吉川恭平さん(写真左)と有村拓朗さん(写真右)の2人。彼らは大学時代からの友人で、大学卒業後、有村さんはリクルートの法人営業で企業の採用支援を、吉川さんはマースジャパンという外資系メーカーで人事を務めていました。こうして別々の道を歩み始めた2人でしたが、2011年1月、会社を辞めた2人は世界一周の旅へと出発。「どうせ世界一周するなら単に観光するだけではなく、ビジネスの種も見つけたい」と約9ヶ月中南米を旅した後、グアテマラにてオンラインスペイン語会話サービスを起業することになったというわけです。


入居時のオフィス。当然ながら何もありません


現地で調達した停電用の回避装置と蓄電池。グアテマラでは停電が多いのだそうです。


「夢」と書かれた色紙を見つけました。これは路上詩人からのメッセージ。


先生たちが授業で使う机を作っています


卵パックを布で覆って作っているのは音漏れ防止アイテム。布は古着屋で1200円で購入し、卵パックはスーパーで譲ってもらったのだとか。


完成!


世界新聞(以下、世と省略):
スパニッシモとはどういうサービスですか?

スパニッシモ(以下、スと省略):
スパニッシモは、グアテマラのスペイン語講師のレッスンをSkypeを使ってマンツーマンで受けられる、オンラインスペイン語会話サービスです。日本時間で21時~翌12時30分まで営業しており、1レッスン50分を500円から受けていただけます。

世:
なぜグアテマラだったんですか?

ス:
「自分たちがお世話になったスペイン語の先生たちに、恩返しをする方法はないか」という個人的な想いから出発しています。世界一周の序盤、僕たちはグアテマラでスペイン語学校に通っていたのですが、スペイン語が話せるようになるにつれて先生たちの劣悪な労働環境がわかってきたんです。

世:
それはどういった?

ス:
「スペイン語を学ぶならグアテマラで」と言われるほど、この国は語学学校産業が盛んなのですが、それは観光に依存している部分がかなりあるんです。要は、ここで学校に通う人のほとんどが旅人なんです。観光シーズンには需要が高まりますが、逆も然りで閑散期になると副業を余儀なくされる、あるいは失業してしまうという状況がありました。

世:
そこでオンラインというわけですか?

ス:
そうなんです。オンラインを使えば、先生たちはグアテマラにいながら世界中の生徒さんと授業ができ、生徒さんも自宅で気軽にスペイン語を学ぶことができる。シーズンに依存しない新たなモデルを創り出すことで、スペイン語学校業界の体質を改善し、先生たちの収入の柱を増やすとともに、より多くの雇用を生み出せる。僕たちが目指すのは、スペイン語を習いたい全ての人が適切な値段で学べ、それがグアテマラの講師の生計の一助になる知的フェアトレードです。

世:
サービス開始から1年余りですが、現在の規模感は?

ス:
おかげさまで、現在、数百人の有料会員様が、スパニッシモを通して授業を受けてくださっています。生徒さんの数が爆発的に増えているわけではないのですが、売上は毎月伸びています。以前までは生徒さん1人あたりのサービス使用期間が2ヶ月ほどでしたが、今では4ヶ月近くになっています。先生たちの教え方がうまくなってきたし、オンラインにも馴染んできた。そこを評価していただけたのではないかと思っています。

世:
先生の数も増えてきましたか?

ス:
最初は数人から始めて1人1人採用・育成していき、現在では40人以上の先生がスパニッシモで働いてくれています。ただ、運営側の人手はまったく足りてないですね……なのでもしこの記事を見て「お前ら面白そうやん、手伝ったる!」という方がいらっしゃったら、ぜひ有村・吉川までご連絡ください(笑)

学校でオンライン授業中の先生たち


真剣な眼差しです


机の横には、日本とグアテマラの時差が書かれたプリントが。


先生たちとの研修風景


提携先の語学学校の校長先生とのミーティング


先生たち、いい顔してます!


スパニッシモの授業を通して出会った先生を実際に訪れる生徒さんも。グアテマラまで来ちゃいました!


世:
いよいよアメリカ進出されると聞いたのですが。

ス:
ようやく、今月の21日に、アメリカに向けて英語版スパニッシモをリリースできます。これからは日本とアメリカの二本柱で打ち手を考えていきます。当然、日本でもできることはまだまだあるので、それを実行していきながらも、アメリカに仕掛けていきます。アメリカには既にスペイン語のオンライン事業がたくさんあるので、ガチンコ勝負です。

世:
どうしてアメリカに?

ス:
起業当初から海外展開を視野に入れてやってきました。最初に日本で始めた一番の理由は、サービスの質を向上させるためでした。アメリカの市場規模は日本の200倍ほどあり、スペイン語を話せることが、キャリアにおいてプラスになるという状況になってきています。学生たちの間でもスペイン語を学びたいという欲求は高まってきていますが、中には大学で必修科目になって初めてスペイン語を勉強する学生もいて、結構勉強に苦戦しているんですよね。マス市場を狙いにいくのも1つですが、そうした学生をフォローできるようなシステムを構築できれば、かなり優位に立てると思っています。

世:
勝算は?

ス:
もちろん、あります。スパニッシモは、ユーザビリティの観点から優れていると認識しています。例えば、生徒カルテを導入していて、どの先生といつ授業をしても常に最新の状態から授業を始めることができる。生徒さんが継続して学びやすいような環境はできていると思います。オンライン語学学習の業界では、機能面ではほとんど差別化がつかないんです。だからこそ使ってみてどうだったか、良さをわかってもらえるかが大事だと思っています。

世:
アメリカ進出でスパニッシモはどう変わるのでしょう?

ス:
アメリカに進出することで、これまで生徒さんが来ていなかった時間帯に先生たちが授業をすることができる。先生1人あたりの収入が増えることはもちろん、今いる先生たちでは受け止め切れないほど生徒さんが増える可能性が高いので、そうするとグアテマラにさらに雇用を生むことができる。そうした新しい流れをこれから作っていきます。

2人が暮らすアパート。シェアルームのような物件で1人あたり1ヶ月1万円ほど。


ようこそ有村・吉川家へ!


1人1部屋あります


雑然としたキッチン……


ちゃんと自炊している証拠です


炊飯器は必須アイテム。有村さんがスーツケースに入れて日本から持ち込んだそう。


冷蔵庫の中も拝見。


日本から持参したふりかけは「明日への活力!」


友人からの差し入れ!まだまだ募集中です(笑)


アパートの屋上からの風景


洗濯物はコインランドリーにお任せ。1袋で170円。


路上市場では果物がたくさん。


マンゴーを買ってご満悦。なんと1個12円。


世:
それにしても異国、しかもグアテマラで働くというのは大変でしょうね。

ス:
そうなんです……。「日本人の価値観では考えられへん!」ということが日常茶飯事で、基本的に何もかもが違います。特に苦労しているのは、人に関する部分ですね。例えば、グアテマラの人たちは時間にルーズで、授業に時間通り来なかったりするわけですよ。

世:
それは困りますね……。

ス:
日本でサービスをするにあたってこれは致命的でした。だから、そこの意識の違いを埋める研修をしたり、システムを使って出勤時間を管理できるようにしたりしました。時間通りに授業に来ると1レッスン分の給料の一部が支払われることが確定して、授業が完遂すれば残りが支払われるという仕組みにしています。

世:
他にもありますか?

ス:
挙げればキリがないです(笑)。そうですねぇ……。もう1つ挙げると、グアテマラの人たちを絶対に人前で怒ってはいけないということ。彼らは叱られるという経験が極端に少ないんです。そしてプライドが高い。人前や名指しで怒ったりするのは、この国ではNGなんです。他にも、先生たちが勝手な解釈で物事を進めてしまったり、忘れっぽかったり、マルチタスクが苦手だったり、できないことがあっても、絶対にNOと言わなかったり…….。

世:
壮絶ですね……。

先生の自宅でリラックス


先生の妹の結婚式にお呼ばれ


学校でお昼ご飯を作っています


みんなで食べると美味しい!


パーティーにて。誰もこっちを向いてくれません(笑)


僕も混ぜてもらってイェーイ!


世:
挫折とかはなかったんですか?

ス:
挫折というわけではないのですが、悲しい気持ちになることはあります。スパニッシモのビジネスは、自分たちの利益のためではなく、基本的にすべてグアテマラの人たちありきでやっている。なのにこれは何の仕打ちですかと、目を疑いたくなるようなことは多々あります。

世:
裏切られたような?

ス:
思った通りにいかないときはやっぱり悲しいです。どこまで彼らを信じ続けたらいいのかなと思うときもありますが、僕たちが信じられなくなったら、もうスパニッシモは終わりなんです。だから信じてやっていこうと、2人で誓い合ったんです。

世:
最後に、スパニッシモへの想いを聞かせてください。

ス:
グアテマラの雇用に貢献する、世界一のオンラインスペイン語会話サービスを創る。スパニッシモにかけるこの想いは、今でも身を焦がすほど熱いです。先生たちが仕事を通じて、これまでできなかったことができるようになる、仕事に対してもっとプロフェッショナルな意識を持つようになる、単純に彼らの収入が増える。それが僕たちの喜びなんです。彼ら自身の生活も変わってきていて、自分の家を建てたいと言っている先生や、父親の医療費を負担できるようになった先生もいる。自分の力で未来を切り拓いていけるように手助けをして、彼らが実際に変わっていくのを目の当たりにするのはすごく嬉しいですし、そういう人をもっともっと増やしたいです。先生たちに安定して仕事を提供し続けるためにも、何としてでもこの志を貫きたい。僕たちは負けられないんです。無い道は切り開き、踏み固め、いい道にしていきたいです。

富士山頂上にて。スパニッシモへの意気込みを宣言する有村さん。


特定非営利活動法人SPANISIMO JAPAN
オンラインスペイン語会話サービス「スパニッシモ」
http://spani-simo.com/


文・取材:清谷啓仁 @t_kiyotani
http://kiyotani.com


監修:世界新聞
http://sekaishinbun.blog89.fc2.com/

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in 取材, Posted by logc_nt

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