コラム

日雇い宿無しフリーターをターゲットにする「貧困層ビジネス」の実態


平均稼働率は50%、年商8億円。それが日雇いの仕事で食いつなぐ宿無しフリーターや就職氷河期によって取り残された若年ワーキングプア(働く貧困層)のための簡易宿泊施設「レストボックス」というビジネスの実態です。

こういうビジネスは、生活に困窮するフリーターなどをターゲットにしているので、「貧困層ビジネス」というジャンルに属します。わかりやすいところでは、悪条件でも働かないと食べることすらできない点につけ込んでいる派遣・請負業(古くは手配師と呼ばれていた)、そういう自転車操業状態で働いているときに急にお金が必要になった場合に活躍する消費者金融業(昔は闇金融が多かった)、そしてマンガ喫茶やネットカフェ、今回のレストボックスなどの宿泊業もこの市場にいるわけです(昔で言うところのドヤ、あるいは飯場)。

というわけで、現代の「貧困層ビジネス」事情を見ていくことにします。
■レストボックスとは何か?


レストボックスは最安値の場所は1日1000円、平均して大体1日1780円~1880円程度が多く、一泊目は無料。いわゆるマンガ喫茶やインターネット喫茶で寝泊まりし、完全にその日暮らしとなって社会問題化している宿無しフリーターたちをターゲットにしており、先日は「日経スペシャル ガイアの夜明け」でも取り上げられました。一番最初に書いた「平均稼働率は50%、年商8億円」という数値もその番組中で解説されていたモノ。このレストボックスを利用すると二段ベッドや三段ベッドのうちの一つが割り当てられ、共同の洗濯機や台所・シャワー・トイレが利用できるようになり、洗濯物も干せます。ここを利用することで社会の底辺から這い上がってもらおうという、れっきとしたビジネスです。マンガ喫茶などのリクライニングシートと違って、ちゃんと横になって眠れるので体力の回復度合いも精神的安定度もかなり違ってくるようです。

今回のレストボックスの場合、「ガイアの夜明け」内で「稼働率は50%」と説明されていましたが、この数値が低いか高いか、ホテル業や観光業に関心がないと理解しづらいと思うので、国土交通省の最新のデータを見てみましょう。


宿泊旅行統計調査第二次予備調査の結果について

これによると、宿泊施設の定員稼働率は全国平均で46.1%。今回のレストボックスは東京をメインに営業しているので、東京都の数値を見てみると、稼働率は62.0%。これだけで一概に利益率が高いか低いかは判断できませんが、このページに書かれている2004年のインタビュー内容によると、当初は1日980円だったらしく、こちらのページによると2005年度は1日1580円、そして2007年の現在は最初の2倍近くに値上がりしており、やはり相当「厳しい」と見る方が実態に即していると考えられます。

また、産経新聞ではこのレストボックスを「若者ドヤ」というように書いています。

若者ドヤ、OKWave…経営者はホームレス出身-リビングのニュース:イザ!

1泊1780円「ドヤ」にいるのは20-30歳代-リビングのニュース:イザ!

ちなみに「ドヤ」というのは「宿」=「ヤド」を逆さまから読んだもの。昔々にこういう安い宿に泊まっている人たちが自嘲気味に「こんなヤドは人間の泊まるところじゃねぇよ」ということで逆から読んだのが語源らしい。

なお、ただ単純に泊まるだけであれば、例えば大阪の場合、相場はざっとこんな感じ。

大阪の安い宿

東京の場合も探せばあります。需要があれば供給というのはどこにでも発生します。それがたとえ消費者として捉えられにくい貧困層相手でも同じです。

東京の安い宿

■貧困層ビジネスの特徴と問題点


こういう貧困層ビジネスの特徴は、貧困者の労働だけでなく、消費も収益源にしている点。実例を挙げるとこんな感じ。

最強都市 THE西成 -このまちに未来はあるのか- - 大阪民国ダメポツアー

釜ヶ崎ー人と街ー(本文3)

「日雇い労働者のつくりかた」Webマガジンfactree

家族持ちの貧困層ではなく、「単身の貧困層」をターゲットにしているサービス業が数多く存在して地域を構成しており、労働も消費も娯楽も何もかもが貧困層向けにできあがっています。つまり、現在のワーキングプアとかフリーターとか、いろいろな呼び名で読んでいる単身の貧困層状態の行き着く先はまさに上記の「釜ヶ崎」が既に体現している状態であり、そういう場になってしまってもそこにはそれはそれで市場が存在しているわけです。

この市場についてもっと積極的に利用していこうという動きははるか前から始まっており、2005年にはこういう本も出ています。世界には1日2ドル未満で生活する貧困層が40億人いるので、利潤は低くても工夫すれば莫大な利益が見込めるというわけ。

ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略

こういう「貧困層ビジネス」の問題点は言うまでもなく、実際には相手が貧困から抜け出すと成立しなくなることが多いという点。上記の本で描かれているような貧困層の方が圧倒的大多数である巨大市場ならともかくとして、日本のように貧困層が社会の大部分を占めているわけではない市場の場合、いわゆる「囲い込み」に近い状態が発生します。それは地区丸ごとの囲い込みであったり、あるいは貯金できないレベルの給料しか与えないことであったり、あるいは魅力ある消費物やサービスを並べて誘惑しまくって離れられなくすることであったりするわけです。

レストボックスも例外ではなく、運営している株式会社エム・クルーの一番下を見ると「建設雑工請負業務」も行っており、日雇いなどを行っているようです。つまり、宿泊場所と労働とをセットにしている、と。昔ながらの日雇いビジネスの仕組みを再現してしまっています。

■貧困層ビジネスは絶対的貧困発生の予兆


しかし、こうやって見てみると「レストボックス」というのは確かに利益が出るものの、ただの貧困層ビジネスに徹しておらず、囲い込みを行わずにそこから巣立たせているため、人道的にはどちらかというと正しいことを行っています。ですが、巣立たせてしまうということは顧客を離すということになるので、ビジネスとしてはそのうち行き詰まってしまうという問題点を含んでいることがわかります。おそらく値上げが年々続いている理由もそこにあるのではないかと予測できます。

今後、日本の経済状態において格差がさらに広がり、労働における「階級」というものがより強固に確立されてしまった場合、一体どうなってしまうのか?もはや相対的視点による「格差」などという甘いものではなく、「絶対的貧困」というレベルの問題ではないのか?「貧困層ビジネス」の出現と行く末がそれを暗示しています。

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in コラム, Posted by darkhorse

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