取材

中米グアテマラにて世界一周中に起業してしまった男達


旅人が世界一周旅行中に起業して立ち上げた、スペイン語オンライン学習サイト「スパニッシモ」。グアテマラでツテなしコネなしの状態からスタートした事業も2012年1月21日、正式オープンを迎えることに。異国の地で奮闘する男達に会いに行ってきた。

こんにちは。世界新聞社の松崎敦史です。世界一周中のわたくし、現在、ホンジュラスの首都・テグシガルパにいます。1月末には中米を切り上げて南米へ移動する予定です。

ピンクが現在地、青が経由地

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さて、今週はちょっと変わった旅人について。グアテマラはアンティグアの日本人宿に、世界一周中にスペイン語オンライン学習サービスを起業してしまった男達がいるというので、急いでインタビューに行ってきました。

アンティグアはこの辺り

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グアテマラの古都・アンティグアにある日本人宿・ペンション田代。その屋上に旅人達の事務所兼寝床がある。簡素なベッドの上には「スポンサーからいただいた」ノートパソコン、床には何故か蓄電池 、壁には業務内容の付箋がずらり。家主である有村拓朗のケータイがひっきりなしに鳴る。パートナーである吉川恭平からだ。「3時間後に、プロジェクトを日本で応援してくれる大学生達とスカイプで決起会をするんです」。その出演の打ち合わせをしているのだという。

奥に見えるのが事務所兼寝床


手前にあるのは宿泊者の洗濯物


部屋の中


雑然としている


壁に貼られた付箋


目標は可視化しておく


「僕らはあくまで旅人。この起業も僕らの旅のひとつのファクターなんです」。2012年1月21日、彼らが3ヶ月かけて準備してきたサービスがスタートする。スペイン語オンライン学習サイト「スパニッシモ」。中米グアテマラにて「旅中」に起業してしまった「旅人」・有村拓朗 に話を聞いた。

作業中の有村くん


世界新聞社(以下、世と省略)
――まず確認したいんですけど、旅人なんですよね?

有村(以下、有と省略):
はい(笑)。他の旅人からは「観光もせずに、お前ら旅人じゃない」って言われますけど(笑)。

世:
いつから旅をしてるんですか?

有:
去年の1月からです。9ヶ月中南米を旅して、今回の起業準備でアンティグアに3ヶ月います。1年間で世界一周するつもりだったんですが……。

世:
何でまた旅中に起業を?

有:
学生時代の友人3人と旅に出たんですが、みんなで決めた旅のコンセプトが「自分たちの見聞を広める」 なんです。そのためのチャレンジは厭わない。だから、今回の起業もそのチャレンジのひとつです。

世:
えーと……具体的にはどういう旅なんですか?

有:
普通に旅をするだけじゃおもしろくない、どうせなら旅する国を深く知りたいじゃないですか。観光だけじゃなく、その国の情勢・社会背景なんかも知りたい。具体的にはJICAのプロジェクトを手伝いながら旅をしています。JICAが支援している国の現場(中米)に行って取材をし、動画などで情報を発信していました。

世:
それが、どうして起業に!?

有:
中南米を旅行する前にグアテマラで1ヶ月半、スペイン語学学校に通ったんです。おかげで、日常会話なら困らないくらい喋れるようになって。こっちの先生の教え方がわかりやすくて感激したんですね。その時は「何かサービスができないかなぁ」くらいに皆で話していたんですが。

世:
それでそれで?

有:
グアテマラから中米を南下するうちに「もう一度スペイン語を勉強したい」って気持ちがどんどん膨らんできて。でも、どこの国も学校の授業料が高くて通えなくて。でも、待てよ……と。これって日本にいる人も同じなんじゃないかと思ったんです。スペイン語を勉強したいけど、費用がハードルになって留学に二の足を踏んでいる人はたくさんいるはずだと。それに、既存のスペイン語学習サービスはどれも高いしユーザービリティもイマイチだと思っていたので、だったらこっちの先生と協力して自分たちが納得できるサービスが作れないかと思ったんです。

世:
それにしても……よく踏み切れましたね。

有:
「チャレンジする」っていうのが僕らの旅のコンセプトなんで、起業することで自分達が成長できるなら「やっちゃおう」って。

一緒に旅に出た2人とは日本でルームシェアをしていた


キューバで起業について語り合った


キューバはトリニダーのレストランにて。


旅ではたくさんの人と出会った


パートナーの吉川恭平と。

以上写真提供:有村拓朗

こうしてパナマの安宿で決まった起業。彼らは競合の調査から乗り出した。その時点で日本人向けのスペイン語オンライン学習サービスは6社ほどあった。しかし、どこも1時間マンツーマンで1000円以上と安いものではなかった。その時、彼らは誓い合った。「業界最安でいこう」。

そして、サービススタートまでの期限を決めた。「3か月」。2011年10月、彼らはそれを実行すべくグアテマラに戻った。

世:
何で3か月だったんですか?

有:
スポンサーさんと約束したんです。僕らにはJICAのプロジェクトを応援してくれるスポンサー(レノボ・ジャパンエバニュー)がついてくれてまして。「プロジェクトをストップさせて起業なんてムシのいい話だよな」と思いながらも話してみたら、「面白い。やってみな」というポジティブな反応をいただいて。でも、時間をかけすぎるのは違うなと思ったんで、期限を決めることにしました。

世:
なるほど。で、まず何から始めたんですか?

有:
まず、供給側のニーズを探りました。グアテマラに戻って知り合いのスペイン語の先生達に聞いてみたんです。「こういうサービスをやろうと思っているんだけど、やりたいですか?」って。そしたら10人中、9人がYESと言ってくれた。

世:
意外ですね。もっと保守的かと思っていました。

有:
グアテマラのスペイン語の先生は今、苦しいんです。グアテマラはもともと語学学校産業が盛んなのですが、それは観光に依存している部分がかなりあって。要はここで学校に通う人のほとんどが旅人なんです。みんな中南米を旅行する前に少しでもスペイン語を習得したくて学校に通うんです。でも、今、グアテマラの観光客は尻すぼみ。さらに、語学学校が乱立することにより、先生が増えて、給料が下がったんです。知り合いの先生は学校のかけもちどころか、清掃や裁縫の副業をしてるんですよ。仕事にありつけないということが1ヶ月以上続く、ということも起こっています。

世:
サイト作りはどうしたんですか?

有:
サイトは一緒に旅をしていた栗林というのが、そっちに明るい人間なので、大丈夫でした。でも、システムを作る人間がいなかった。なので、知り合いを通じてあたりまくって「協力してくれる」という人をなんとか探し出しました。

世:
肝心の先生は?

有:
なんせ僕らグアテマラでツテなし、コネなし……。提携できそうな学校をリストアップして校長先生に会いにいきました。要は、オンラインがきてますよというデータを見せて、メリットを理解してもらい、僕らはシステムを作ることができるんで、一緒にやりませんか?と。

世:
反応はどうでした?

有:
大抵は興味を示していただきました。校長先生も語学学校業界の現状を痛感してるようでした。結局、授業中の停電のリスクを考えて、アンティグアとシエラ(アンティグア同様に語学学校がたくさんある)の1校ずつを提携先に選びました。それから、2人で先生を面接しました。条件としては、「システムを使いこなすネット耐性があるか」「英語ができるか」の2点です。サイト作りと先生探し。これを同時進行でやりました。

世:
3ヶ月で立ち上げですもんね。時間がない。

有:
複数のことを同時に回していかないと、とても間に合いません。やるべきことをリストアップして、優先順位を決め、さらに3ヵ月という期限とそれぞれの完成までの時間を照らし合わせて、どれとどれをどの時期から回していかないといけないのかを、事前に決めました。

世:
ところで、有村くんは10月末からアメリカに行っていたそうですね。

有:
1ヶ月かけてコンピューター、発電機、ルーターなどのインフラの調達に行きました。アメリカのほうが性能がいいし安いですし。その間の進捗は恭平とSkypeで報告しあってました。

アンティグアの街並


街の中に廃墟が残る


アメリカで調達した蓄電池


机に積まれた資料


ロゴも自分達で考え作った


ホームページの設計図


11月末にインフラが整い、HPもできた。しかし、そこからもやることは山積み。そして、この起業における最大の難関が待ち受けていた。先生の教育である。

世:
先生達に研修を行ったそうですが、具体的には?

有:
2人でシエラとアンティグアに分かれて、数日間研修を行いました。あの日々はハードでしたね。 システムの使いこなし方、そしてもっと根本的な「ビジネスをやる上での違い」を埋めることが目的でした。事業を進めていく中で、やっぱり、日本人に比べると時間にルーズだったり、そういう「違い」 を感じていたんです。何といってもグアテマラ人は家族が第一。それは変えようがない。だから、理解を示しながらも「意識してほしい」と言い続けました。

世:
そうは言っても、先生の意識を変えるのは難しいでしょう?

有:
それはもう(笑)。だから、システムの中に時間通り来るだけでボーナスを出したり、色々考えています。今の段階では彼らのモチベーションはお金ですから。でもそれは仕方ない。あと、授業に使うパソコンは最初はそれぞれの学校の中に設置することにしました。でもこれは、先生たちが慣れてくれば自宅でできるようにすると話しています。彼らがスパニッシモを一つのライフワークとして使ってもらえるか。まずはこの部分で信頼を勝ち取っていきたいです。

世:
そろそろ現在に近づいてきましたか(笑)?

有:
細かいことを言えば他にもあるんですが……(笑)。現状、12月21日にサイトをプレオープンして、日本の生徒とのSkype接続テストを先生全員が終わった状態です。

世:
これからやるべきことは?

有:
先生達にはさらに慣れてもらうために、テストを継続します 。あと、提携校と一緒に授業の指針となるカリキュラムを作ったのですが、そのスペイン語→日本語の翻訳ですね。そして、これからはTwitterやFacebookを使って、オープンに向けてウェブのマーケティングを本格的にやっていきます。

世:
スパニッシモとしての今後のビジョンを教えてください。

有:
「オンラインのスペイン語学習といえばスパニッシモ」という風にしたい。そうすることで、先生の雇用を創り出し、先生の生活が少しずつ楽になる。そういった状況まで持っていきたいですね。だからこそ、業界一番にならないといけない。そのためにも年内には世界(英語圏)に進出したいと考えています。

世:
サービスの料金としてはどのくらいになりそうなんですか?

有:
最終調整中なんですが、1回のレッスン50分で、最安値で500円程度ですかね。価格にはとことん挑戦していきたいと思います。もちろん利益は相当薄いですが……。

世:
そもそも今回の起業でいくらかかったんですか?

有:
50万くらいです。パソコン代20万円(6台)が一番大きいです。起業資金としてはかなり安いと思います。やれることは全部自分たちでやりましたからね。例えば、ホームページの写真は自分で撮影したり、旅行者にモデルのお願いをしたり。写真撮影のレフ板なんか、自作で画用紙の上にアルミホイルですからね(笑)。あとはシステムも200万くらいかかるところを投資して頂きましたから。


世:
ここまでやってきて一番強く感じていることは?

有:
本気でやったら応えてくれる人たちが必ず現れて実現に向けて道が開いていく、ということを実感しています。一番近くにいる恭平にはもちろん毎日感謝していますし、日本で「手伝うで!」と言ってくれた仲間の存在や、「もっとお前こうしたほうがええんちゃう?」とストレートに言ってくださった先輩方。僕一人じゃとてもできませんでした。本当に感謝しています。

世:
で……、こんな時に何なんですが(笑)。旅はどうするんですか?

有:
サービスが安定して提供できるようになるまではここで頑張りたいと思います。その後、旅を再開します。僕らはあくまで旅人ですから。

先生との研修風景


システムの予約の使い方、ファイルの送受信の仕方、緊急時の対応など、想定されることを全て伝えた


そして彼らはまた旅へ戻っていく

以上写真提供:有村拓朗

スパニッシモ
http://spani-simo.com/

有村拓朗
1985年生まれ。兵庫県出身。3歳~7歳までアメリカで過ごす。2011年1月、(株)リクルートを退社し、世界一周へ。twitter:@muros

吉川恭平
1985年生まれ。兵庫県出身。2011年2月マースジャパンリミテッドを退社し、世界一周へ。twitter:@kyohei_today

(文・写真:世界新聞社/松崎敦史
http://sekaishinbun.blog89.fc2.com/

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in 取材,   インタビュー, Posted by darkhorse