取材

80億電子ボルトのビームを打ち出す全長1.5キロの巨大研究施設「SPring-8」に行ってきた


はやぶさが持ち帰った小惑星イトカワの微粒子の分析やトヨタ自動車の燃料電池研究から和歌山毒物カレー事件の捜査まで、幅広い物質の分析に使われる巨大研究施設「Super Photon ring-8 GeV」、通称「SPring-8」が年に1回の大々的な施設公開イベントを行っていたので、実際に現地に行って日本が世界に誇る最先端の研究施設の中を見学してみることにしました。

空から見ると小さな町1個分くらいサイズがあることがわかります。


まずは、「SPring-8」がどれくらい桁違いに巨大な研究施設なのかをサクッと数字で見てみると以下の通り。

面積:ディズニーランドの約3倍、東京ドームの約30倍
装置の全長:約1.5キロメートル
利用者数:約1万4000人(年間)
総工費:1100億円
電気代:約19億円(年間)


所在地は兵庫県の播磨科学公園都市内で、佐用郡と赤穂郡にまたがって存在しています。

大きな地図で見る

なお、この施設を作ったのは独立行政法人理化学研究所(理研)で、運転や維持管理などは公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。

◆行ってみた

という訳で、どれほど巨大な施設なのかこの目で確かめるために、実際に現地に行ってきました。

最寄りはJR相生駅。


改札を背にして左側にある階段を下りるとバス停があるので、そこから「SPring-8」行きのバスに乗車します。


年に1度のイベントとあって、早朝にもかかわらずバスを待つ人が行列を作っています。


乗車するのはこんな感じのバス。


所要時間は約40分。車窓からは緑いっぱいののどかな田舎の景色が見られます。


「SPring-8」に到着。


大学のキャンパスのような雰囲気です。


施設の玄関口となる中央管理棟。


銀色のオブジェが立っています。


まずは受付に並んで、名前を書き込んで見学用のパスをもらいます。


施設のマスコット的存在のニャンハカセ


中央管理棟に入り、階段を上がって中央制御室に向かいます。


窓から見える風景。


周囲は山に囲まれています。


中央制御室に到着。


中は既に見学の人でいっぱい。


正面には18枚の大型ディスプレイがあり、施設の状態を監視しています。


机の上にも監視用のディスプレイがズラリ。


非常停止ボタンもあります。装置に触れることは厳禁なので、下の写真ではボタンを指でさしているだけです。


◆施設の目的と仕組み

「SPring-8」と呼ばれる施設群は、さまざまな物質の特性を解析するために作られたものです。

例えば、レントゲン撮影技術はその発見以来、「いままで見られなかったモノを見られるようにする」ことで病気の治療や研究に多大な貢献をしてきましたが、「SPring-8」は、医療用レントゲンの1000万倍以上という強力なX線などを生み出すことで「見られなかったモノを見られるように」してタンパク質や鉱物などの解析を行っています。

ざっくりとまとめると、一般的な施設では発生させることができない強力なX線を作り出せるのがこの施設の強みで、このX線を利用していろいろな機関がそれぞれのビジネスや科学研究に必要な実験を行っているという訳です。

なお、「SPring-8」が発表している主な用途は以下の通りです。

物質科学への利用:先端材料の原子・電子の構造、極端条件下の材料物性、新物質創製、材料改質など
生命科学・医学への利用:タンパク質などの生命物質の立体構造解析(→ 生命のメカニズムの研究、医薬品開発など)、および屈折コントラスト映像法による生体試料の高解像度イメージングなど
環境科学への応用:環境浄化用触媒の分析、生体試料中の環境汚染微量元素の分析など
地球科学・宇宙科学への利用:地球深部物質の構造と状態解析、隕石・宇宙塵の構造解析など
産業利用:産業界における材料評価やタンパク質の立体構造解析などに活用


また、施設の基本構造を大まかに分けると以下のような感じになります。

◆電子を打ち出して第1段階の加速を行う「線形加速装置」
◆電子に第2段階の加速を行う「シンクロトロン」
◆電子に蓄えられたエネルギーを維持し、X線などに変換する「蓄積リング」
◆電子から取り出したX線などで研究を行う「ビームライン」


という訳で、ここからは各設備の詳細を見学していくことにしましょう。

◆線形加速装置

以下の施設俯瞰写真で見ると、赤枠の場所にあります。


建屋の外観はこんな感じ。


放射線管理区域を示す黄色と赤のサインが貼られています。


ランプが緑の時は停止中なので中に入ることが可能。


中に入る事ができる研究者は全員が専用のカギをもっており、コレを抜かないと建屋に入れないようになっています。また、このカギが1本でも抜けた状態では施設が作動しないので、全員が外に出てカギを正しい場所にさしていない限りは放射線が発生しないため誰かが閉じ込められたまま動かしてしまう危険性をなくすことができます。


全てのスタート地点になる電子を発生させる装置はこんな感じ。


この部分では、バリウムを含んだタングステンを1000度近くに加熱して、熱エネルギーで金属内部に束縛されている電子を取り出しているそうです。


電子を取り出す金属はこんな感じ。


取り出された電子は、真空の筒を通って約2000倍の重さを持つようになるまで加速してエネルギーが加えられていきます。


以下の部分で電磁波を使って、電子を波で押し出すような感じで加速していきます。


加速した瞬間に電子のまとまりが拡散しすぎないように、強力な電磁石で周囲から力を加えます。


ズラっと並ぶ装置で段階的に加速を行っていきます。


強力な電磁石で電子の軌道を曲げることで速く進む電子はカーブの外側へ行き移動距離が長く、おそく進む電子はインコースを通ることで移動距離が短くなり、結果として速度が均等になるように調整されます。


◆シンクロトロン

上で見てきた設備を使って作り出された電子をさらに加速し「80億電子ボルト」という大量のエネルギーを持たせるようにする施設が以下の「シンクロトロン」です。

俯瞰の地図で見ると赤枠の位置にあります。


基本的な構造は線形加速装器と同じですが、より強力に加速するために全体的に大型化されています。


電磁波による加速を行う装置はこんな感じ。


断面はこうなっています。


ドーナッツ状の筒の中で電子を回して何回も加速器を通すことで段階的に速度を上げていくためには、電子を曲げなくてはいけないのでコーナー部分には以下のような巨大な電磁石が設置されています。


電磁石の断面はこんな感じ。


電子が中グルグルと回る筒や加速器などの装置は成人男性の腰から肩くらいの高さに設置されています。


将来的には、別の場所にあるさらに高性能な電子ビームを発生させる「SACLA」から電子を呼び込むようにするとのことで、そのための準備も進められています。


筒の中を電子が進みながらどんどん加速されていきます。


主要ブロックへの出入りのためには専用のタッチキーが必要。


停電時でも使用できる黒電話が緊急連絡用に設置されています。


今度は電子ビームを上方向に曲げて、「蓄積リング」と呼ばれる施設に導きます。


「蓄積リング」の位置はこの辺り。


リングの周長は約1.5キロで、横から見るとこんな感じ。


「アンジュレーター」と呼ばれる装置で電子ビームを振動させることで強力な放射光(X線や赤外線)などを取り出します。


以下のような放射光の出口はリングの回りに50ヵ所以上あり、その部分に各企業や研究機関が解析用の設備を作っています。


放射光を止めたい場合は銅製のブロックを進路に置きます。


放射光が通過する筒はこんな感じ。


取り出された光は以下のような分光器を使って解析に使うX線などに分けられます。


分光器の内部は以下の通り。


◆ビームライン

ここまで見てきたような施設に接続された、実際に研究を行っている場所は「ビームライン」と呼ばれており、以下のようになっています。構造としては、ドーナツ状の「蓄積機」の中を回っている放射光を各ビームラインで取り出して使用しているという感じ。


ビームラインとつながった研究施設が並ぶ様子をパノラマ写真で見るとこうなっています。


とにかく広い。


歩くには広すぎるので、内部の移動は共用の自転車で行います。


研究者や施設のスタッフは以下のように移動しています。


たまに「下車せよ」という注意書きが床にあるのですが……。


その先には低い配管などがあるので割と危険。


現在は50以上の企業や研究機関がこの場所で実験を行っています。


例えば、以下の場所では90気圧、2500度の状態を油圧プレス機とヒーターで作って地球の深部を再現。その状態でできた物質に「SPring-8」から取り出した放射光をあてて解析を行っています。


最も硬い金属、タングステンと炭素の合金などが分析の対象。


さらに、超高圧の環境では水に沈む氷などもできるそうです。


かなりカオスな感じの配管が張り巡らされた場所もあります。


新型の電池のために触媒を分析しているプロジェクト。


「47XU」のビームラインは、かつてはやぶさが採取したイトカワの粒子を分析した場所です。


年末年始を除く平日は自由見学や予約見学ツアーに参加することができるので、興味のある人は実際に現地に行って巨大な施設と最先端の技術の一端を実際に見てみるとかなり楽しめるはずです。

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in 取材,   ハードウェア,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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