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放射性物質による汚染を除去する「除染」の具体的な方法まとめ

by euthman

除染」とは、放射性物質による汚染を除去するということなのですが、その詳細な実践方法について説明します。

実際にどのような処置を行うべきなのか、また洗剤を使う場合はどのような種類が適切なのかといった点について、放射性物質を扱う研究者向けのガイドライン書籍を参考にまとめてみました。一般人が行うのはかなり難しいと思われる処置などもありますが、一歩踏み込んだ専門的な方法を知っておくことで、「除染」と一口に言っても汚染された物によってさまざまな処置方法があることが分かり、いざという時の心構えができるはずです。


除染の具体的な方法まとめは以下から。<除染する際の注意>

◆汚染を生じたらできる限り早目に除染するのが原則
汚染直後であれば、一般に水による洗浄で容易に除染できる場合が多いです。ただし、汚染してからの時間が経過すればするほど、除染はしだいに困難となってきます。これは汚染が器具表面の微細な割れ目や傷口に入り込んだり、あるいは表面の材質と化学反応をしたりするため。このような汚染物へは、活性度の大きい除染剤を使用することになります(除染剤についてはさらに下記具体的手順で後述、いろいろな種類があります)。

◆汚染している部位を広げないようにする(汚染の局所限定)
多量の除染剤を使用したり、また汚染の箇所を確実に把握しないで不必要な部分までも除染処理を行うと汚染の面積が広がり過ぎてしまいます。たとえば、皮膚面や床面を汚染したときは、まずろ紙や布片で拭き取ってから除染剤を用いるようにします。また、汚染を空気中に舞い上がらせないように、なるべく湿式除染(乾燥させない状態で除染すること)をこころがけるようにします。

また、使用した除染剤や資材は「放射性廃棄物」になるので、これらをあちこちにばらまいて二次被害を出さないように気をつけ、所定の容器へまとめて捨てましょう。

<人体の除染>

by gfpeck

◆皮膚の除染
除染中に爪の中に放射性物質が入り込まないよう、爪は短かめに切っておきましょう。ひだ、毛髪、爪の間、指の股部、手の外縁などの部位は除染しにくいので、ネイルブラシやハンドブラシを使って特に注意して洗います。この時使うブラシはプラスチック製ではなく動物毛製の物を使用するのが望ましいです。

顔の除染をする場合、眼と唇に汚染水が入りこまないように注意して行います。

<軽い汚染の場合>
アルカリ石けんは使わず、粉末状中性洗剤(ソープレスソープやアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)をかけて、ぬるま湯でぬらし、ネイルブラシなどで軽くこすりながら流水中で洗い流します。この時、有機溶媒は皮膚から浸透することがあるので除染剤として使用しないでください。

除染によって皮膚が荒れてしまったら、ハンドクリームなどを十分にすりこんで、傷口を作らないよう保護しておくことが大切です。

<やや汚染度が高い場合>
酸化チタンペースト(アナタース型の酸化チタン100gを0.1mol/lのHCl60mlでペースト化)を十分な量だけ塗りつけ、2~3分放置した後、湿った布でこすりとってしっかりと水洗いします。

<汚染度がかなり高い場合>
粉末状中性洗剤:キレート形成剤の割合が1:2となる混合物をかけた後、ぬるま湯で湿らせてから、ネイルブラシなどでこすりつつ水洗します。キレート形成剤にはさまざまな種類がありますが、Na-EDTA、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、リン酸ナトリウムが適しています。

<汚染度が非常に高い場合>
KMnO4の飽和溶液と0.1mol/l H2SO4溶液を同量ずつ混ぜた混合液をかけて、ネイルブラシなどで軽くこすりながら水で洗い流すという手順を3回くり返します。その後、10%NaHSO3を使って脱色します。混合液を作る作業と、NaHSO3を水に溶かす作業はこれらを使う直前に行ってください。この方法は皮膚に対する作用が強いので、髪の除染には使いません。

◆眼や鼻、唇などの粘膜や傷口の除染
眼、鼻、唇といった粘膜が汚染されたら、すぐにたくさんのぬるま湯で洗い流します。

傷口の汚染もぬるま湯で洗い流して除染しますが、内部被ばくを防ぐため、汚染から15秒以内に洗浄を行います。この時、失血が心配されるような出血の多さでなければ、傷口の周辺を圧迫して出血をうながし、汚染物質を体外に流し出します。傷口の状態を見て、必要であれば柔らかいネイルブラシで傷口を掻くようにして洗います。

傷口に塵やグリースなどが付着している場合はすぐに手当します。手当には液体洗剤(非イオン活性剤0.5%溶液)をしっかり含ませたガーゼを使い、傷口を静かにこすりながらぬるま湯で洗い流します。

また、傷口が非常に危険な核種で汚染された時は、汚染から15秒以内に静脈を止め、多量のぬるま湯でしっかりと洗い流し、三角布で傷口をしばります。

◆放射性物質を飲み込む、あるいは吸入した際の除染
放射性物質を飲み込んでしまったら、指をのどまで入れ、胃の中の物を吐き出してから、食塩水や水を飲みます。

放射性物質を強く吸い込んでしまったときは、何度もせきこんで物質を体外に出してから、水でうがいをするという一連の行動をくり返し行います。

<物の除染>


繊維やその他の物質、部屋の床などは、一般的には下記の方法でおおよその除染は可能です。ただし、表面の汚染限度を超えた物を一般人が扱うのは非常に危険なため、検査で衣服や持ち物から高い数値が出た場合や、正確な除染に不安のある場合は廃棄してください。

手順1:水または中性洗剤で洗浄する。
手順2:キレート剤単独、またはキレート剤と中性洗剤の混液を使用し洗浄する
手順3:希鉱酸で洗浄する

これ以降は材質ごとによる詳細な除染方法となります。すぐに実行できる内容は少ないですが、物質によって対処法が異なることを頭に入れておくと、いざ処置することになった場合や処置される側に回った場合に役立ちます。

◆繊維類
・放射性溶液(放射性物質が水に溶けている物)で汚染された場合
中性洗剤(1%)とキレート形成剤(0.1mol/l)の混合液の温度30~40度にしてから、15分間洗浄する作業を計2回くり返します。洗浄液は再利用せず、毎回新しい液を使ってください。その後、ぬるま湯で10分間すすぐのを2~3回くり返します。

※使用に適しているキレート形成剤にはEDTA(pH10)、ヘキサメタリン酸ナトリウム(pH3)があります。また、クエン酸は絹、ナイロン類の除染に適しています。
※pHの調整剤には塩酸、シュウ酸を使います。また、炭酸ナトリウムは木綿、レーヨンの除染に適しています。

・放射性不溶性物(固体や粉体)で汚染された場合
1%中性洗剤の液温を40度にした状態で約20分間ほど洗濯機にかけてまぜ続け、その間発生してくる泡はふたを開けておいてあふれさせておきます。

◆アルミニウム
手順1:水かうすめた中性洗剤で洗い、そのまま乾燥させずに手順2に移ります
手順2:10%クエン酸で表面をぬらして、ブラシでこすりながら水で洗い流します
手順3:10%硝酸で表面をぬぐいます
手順4:5%NaOHと1%酒石酸ナトリウム、そして1.5%H2O2の混合液に浸した後、しっかりと水で洗い流します

◆黄銅、銅
手順1:アセトンまたはアルコールを布につけてぬぐいます
手順2:紙やすりで軽くこすります。表面をぬらすことができる時は、5%クエン酸アンモニウムをブラシでなじませた後水で洗い流すか、あるいは市販されている黄銅みがきを使います
手順3:手順2をくり返します
手順4:2.5%クエン酸ナトリウムと0.2%中性洗剤の混合液(pH7)に浸してから、十分に水で洗い流します

◆鉄
手順1:水または薄めた中性洗剤で洗います
手順2:10%クエン酸と5%中性洗剤の混合液をかけてこすった後、水で洗い流します
手順3:6mol/l硝酸で除染できない所を部分的にこすったら、すぐに水で洗い流します

◆ステンレススチール
手順1:水または薄めた中性洗剤で洗います
手順2:30%硝酸でこすってから、水で洗い流します
手順3:10%シュウ酸で表面をぬらして約15分放置し、水で洗い流します
手順4:6~12mol/l HClを表面にすばやく塗りつけてから、しっかりと水で洗い流します

◆鉛
手順1:水または中性洗剤で洗います
手順2:1mol/l硝酸にひたして20分間洗います
手順3:1mol/lクエン酸に入れて20分間煮ます

◆ガラス
・大きなもの
手順1:水または薄めた中性洗剤で洗います
手順2:4%Na-EDTAまたは0.1mol/lヘキサメタリン酸ソーダを使ってブラッシング
手順3:2%フッ化アンモニウムで表面をこするか、溶液につけておきます

・小さなもの
手順1:水または稀中性洗剤で洗います
手順2:濃硝酸、または発煙硝酸ガスに数日間さらしておきます
手順3:2%フッ化水素アンモニウムに30分浸けてから、水で洗い流します
手順4:クロム酸混液で表面を処理します

◆磁器
手順1:水または薄めた中性洗剤で洗います
手順2:炭酸アンモニウムの飽和溶液で20分煮てから、水で洗い流します
手順3:5%フッ化水素アンモニウムに30分浸けてから、水で洗い流します

◆ペイント塗装面
手順1:水または薄めた中性洗剤で洗います
手順2:Na-EDTA+2%中性洗剤をふりかけてから、水でぬらしてこすり、水で洗い流します
手順3:5%クエン酸アンモニウムに浸けて、ブラシでこすります
手順4:除染後の汚染が少ない場合は塗装を上塗りし、それでもまだ高度の汚染が確認される場合はペイントをはぎとります

◆プラスチック
・アクリル樹脂
ガラスの除染方法と同じ。ただし、濃硝酸は表面をひどく損傷させます。

・アクリル樹脂以外の樹脂
ガラスおよびステンレススチールに対する方法と同じ

◆ゴム
手順1:水または薄めた中性洗剤で洗う
手順2:5%Na-EDTA+1%中性洗剤でこすり水で洗い流します
手順3:1%クエン酸ソーダ+5%水酸化ソーダでこすり水で洗い流します

◆リノリウムその他の床材
手順1:ペイントに対する方法と同じ
手順2:有機溶媒の使用は避けた方がよいですが、やむを得ない場合は、CCl4や灯油などを布につけてぬぐいとります

◆タイル
手順1:あらかじめ、その面をペイント塗装しておきます
手順2:酸化チタン+Na-EDTAのペーストでこすりぬぐい去ります
手順3:液体除染剤はあまり適していませんが、やむを得ず使う場合は、0.3%クエン酸アンモニウム、4%Na-EDTA、10%Na3PO4などを使います。
手順4:可能であればタイルをはがして取り替えます

◆コンクリート、レンガ
手順1:酸化チタン+Na-EDTAを散布してから、水でぬらした布でぬぐいとります
手順2:30%HClでぬらし、こすってから水で洗い流します。この時、作業している部屋の換気をしっかりと行います。
手順3:タガネではがしてしまうか、塗装して塗り込めます

◆木材
表面から約1cmぐらいの部分を削り取ります

なお、上記に記載した除染に関する内容については、通商産業研究社発行の「放射線安全管理学」(平成20年3月25日発行の改々題第1版第1刷、2011年3月時点での最新版)から、除染方法の部分(P125~P130)を使用しています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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