第二次大戦中にイギリス人兵士が盗んだ18世紀のピストル、66年ぶりにイタリアの美術館へ返還
第二次世界大戦末期の1944年にイギリス陸軍の司令部が置かれていたフィレンツェの美術館で紛失した一丁の拳銃。サンゴと銀で装飾された250年前のアンティークは、今日の価格で1万5000ポンド(約200万円)の価値があるとされ武器というより美術品と呼ぶにふさわしい逸品なのですが、イギリスの関係当局に対し捜索への協力を求める美術館側からの度重なる懇願にもかかわらず、長らく行方不明のままでした。
そのピストルが66年目にして、「父の最期の願いをかなえたい」というイギリス人女性により美術館へ返還されたそうです。
詳細は以下から。18th century pistol taken from Italian museum is returned 66 years later after deathbed wish of British soldier with 'troubled conscience' | Mail Online
第二次世界大戦中にイギリス陸軍第8師団に所属していたStanley Parry軍曹は北アフリカ戦線を経てイタリア戦線に参加しました。終戦時にイギリス海峡を渡る船の上で、ほかの兵士が美しいピストルを海へ投げ捨てようとしているところを止め、ピストルをイギリスへ持ち帰ったそうです。
Stanley Parry軍曹は長い間ずっとピストルを返さなければと思っていたのですが、ピストルを盗んだと糾弾されることをおそれてか、なかなか返すことができませんでした。Parry氏の娘June Cookeさんによると1962年には美術館に状況を説明しようと家族でフィレンツェを訪れたこともあったのですが、結局その時も返還には至らず、死の床までこのピストルのことを気にかけていたとのこと。
Parry氏は昨年亡くなったのですが、娘のJune Cookeさんは父の最期の願いをかなえようとロンドンのイタリア大使館へ連絡をとり、ピストルは先日行われた式典で、Cookeさんの手によりピストルはフィレンツェのStibbert美術館へ返されました。式典が行われた日は最後のイギリス軍の美術館からの撤収が完了した日からほぼ66年目だったそうです。
Stibbert美術館は、元はイギリス人の父とイタリア人の母を持つFrederick Stibbert氏(1836-1906)が、祖父でありイギリスのインド最高司令官であったGiles Stibbert将軍から相続した邸宅で、Frederick Stibbert氏が収集した3万点以上の西洋・東洋の美術品や工芸品などを収蔵しています。コレクションの中心は世界各地から集められた15世紀から19世紀の武具約1万2000点で、日本のよろいも80点以上、日本刀は数百点あるそうです。邸宅とコレクションはFrederick Stibbert氏の死後フィレンツェ市に寄付され、美術館として公開されました。
イギリス人の父を持ちケンブリッジで教育を受けたFrederick Stibbert氏の名前を冠し、氏のコレクションを収蔵したStibbert美術館ですが、第二次世界大戦中には美術館の建物を接収し司令部を置いていたイギリス陸軍との関係は円満とはいかなかったようです。
当時の館長による報告書は「建物で寝泊まりし飲食し風呂に入りヒゲをそる数百人の兵士たちにより、ありとあらゆる損害を受けました。館内のあらゆる場所を動き回りそこら中に武器や装備を置き、好きな場所にマットレスを敷いて寝る兵士たちは、気が向くと壁からはがした盾やヘルメット、よろいを身につけポーズを取って遊び、展示棚の中身を好き勝手に取り出しました。展示物の多くが今では行方不明です」と明かしています。
紛失が報告された展示物の一つが、銀とサンゴで装飾がほどこされたこの18世紀のトルコ製フリントロック式のピストルでした。
美術館の現在のディレクターCristina Piacentiさんによるとほかにもイギリス陸軍による接収時に紛失した展示品のいくつかは今も行方不明とのことで、「今回66年ぶりに展示品が戻ってきて、わたしたちは本当に感激しています。Parry氏の一家には感謝してもしきれません」と語っています。
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