サイエンス

光の玉が宙をただよう不思議な自然現象「ボールライトニング」は本当にあるのか


雷雨の時に空中を発光体が浮遊する大気電気学的な現象「Ball Lightning球電)」は、目撃例は多く報告されているものの科学的データに乏しく、その正体は解明されていません。

写真や映像での記録がほとんどなく、多くの人が同時に目撃しているということだけが実在の証しともいえるのですが、オーストリアの物理学者たちが唱える新説によると、球電の目撃例の大多数は幻覚で説明できるそうです。


詳細は以下から。Mysterious ball lightning: Illusion or reality? - Presseinformation der Universität Innsbruck

「Ball Lightning」と聞くとその名前から直感的に「球型の」と思うかもしれません。球電の多くは落雷と同時に目撃されているのですが、地面近くの低空に現れ、一瞬で消える雷光とは違い数秒間~数十秒間かけて目の前を横切って行ったという目撃例が多いようです。静止していた、ジグザグに動いた、といった目撃例もあります。形は球型や洋なし型で輪郭はぼんやりとしていて、大きさは直径10cm~20cm程度が多く、大きいもので1mほど。色は黄色や赤・オレンジ系統のものが多いとされていますが、白や青のものや、途中で色が変わったという報告もあります。硫黄やオゾンのようなにおいがしたという人も多いようです。

球電を描いた版画(19世紀)。


University of Innsbruckの物理学者Alexander Kendl博士とJosef Peer修士が、雷雨の際に起きるさまざまなタイプの雷の電磁場を解析した結果、ある一定のクラスの、長時間にわたる連続的な落雷は、医療現場で使われる経頭蓋磁気刺激法(TMS)と同じような性質を持つことがわかりました。十分な強さを持ち時間的に変化する磁場は、脳内に電場を誘起します。これにより視覚野でニューロンの活動が活発になりPhosphene(眼内閃光)を引き起こすと考えられるそうです。論文はPhysics Letters A誌に掲載されています。

「TMSの臨床使用では、患者や被験者が視野内にさまざまな色や形の光を見たという報告が多数あり、この現象はすでに検証済みです」とAlexander Kendl博士は語っています。

長く続く至近距離への落雷はTMSと同じ原理でこの幻視を引き起こし、その目撃談から「球電」という現象の概念が生まれ、「球電」について聞いたことがある人は同じような幻視を体験したときに「球電を見た」と思う、というわけです。


科学者たちの多くは、「球電」と呼ばれている目撃例のすべてが同じ原理で説明できる現象ではなく、同じような見え方をするさまざまな現象が「球電」という言葉でひとくくりにされていると考えています。そのため、「球電」の目撃例すべてが幻視であるとはいえず、中にはプラズマで説明できるケースやホコリに光が反射しているケース、セントエルモの火が「球電」として報告されているケースもあるようです。

実験室でプラズマにより再現された「球電」。たしかに「球電」に似ていないこともないのですが、目撃例のすべてをプラズマで説明することはできないとのこと。


しかし、目撃例の多くは幻視で説明できるだろうとKendl博士らは自信を持っているようです。「これまでに浮遊する火の玉を説明するために登場してきたさまざまな説が『仮定の上に立つ仮説』だったのに対し、今回の『幻視説』では、新たな仮定や推測を受け入れる必要がないのです」とKendl博士。

Kendl博士によると、連続的な放電で数秒間にわたり脳を刺激する磁場を発生させるようなタイプの落雷は珍しく、100回の落雷で1回ほどしか起きないとのことですが、そういった落雷を数百m以内の距離から見た人は、磁気的刺激による幻視で光る球を見たり、幻臭を体験することは十分あり得るそうです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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