NHKの先進的番組「未来観測 つながるテレビ@ヒューマン」にインタビュー
NHKで毎週日曜日よる11時から放送されている「未来観測 つながるテレビ@ヒューマン」にインタビューを行ってきました。
民放などに先駆けて「ねこ鍋」や、ガムテープを用いた標識の「修悦文字」を紹介するなど、今までのNHKでは考えられなかったような先進的な番組作りを始めた理由、テレビ番組作成の舞台裏、NHKの巨大食堂など、興味深い内容盛りだくさんでお届けします。
詳細は以下の通り。
これがNHKの建物です。
そして番組収録中のスタジオ。
モニターの数が半端じゃありません。
今回お話を伺ったのは、「未来観測 つながるテレビ@ヒューマン」のプロデューサーで、日本放送協会 制作局 第2制作センター(経済・社会情報番組)チーフプロデューサーの小山好晴さんです。
GIGAZINE(以下、Gと省略):
「未来観測 つながるテレビ@ヒューマン」はどのような番組なのでしょうか?
小山(以下、Kと省略):
日曜23時に「明日からまた仕事かと」と思っている、寝る前のひとときをゆったりとしながら見られて、面白くてためになる、明日の月曜日からの一週間の活力になるような番組にしたいと思っています。主にターゲットとしている視聴者は、従来のこの時間帯の視聴者よりも若い、30~40代のビジネスマンや女性の方々です。
G:
テレビメディアとしては珍しく、割と積極的にネット関係の話題を扱っていますが、そもそもどのような経緯で企画されて、今のような形に落ち着いたのですか?
K:
この番組は去年の1月に始まりましたが、ターゲットである30~40代にとって、ネットは関心事なのでこれまでのNHKの番組にないほど、積極的に取り扱うようにしました。
ネットというものは漠然と広大なことに加えて、実用的な部分だけでなく危ない部分があるので、NHKとしてもなかなか切り込んでいけなかった分野でした。しかしあえてネット社会を取り上げることで、特に若い方々などの新しい視聴者層を取り込んでいこうという取り組みになりました。
ネットの社会は表面的に情報が上げられてはいますが、すごい勢いで情報が流れていく一過性の部分があります。テレビよりも早いです。そのせいかどうしても「広く浅く」という部分がありますが、そこで立ち止まって、情報を出している人のところにまでカメラを持っていって生の声をインタビューするというところは、これまで誰もやってきていないのではないかと思っています。
G:
今現在「つながるテレビ@ヒューマン」の想定視聴者と、実際の視聴者層はどのような感じになっていますか?
K:
NHKの視聴者層は基本的に高めなのですが、やはりほかの番組よりも若い人たちに見ていただいています。軸足は30~40代という若い層を狙いつつ、それよりも上の年齢層や女性にもインパクトを与えられる番組を作りたいと考えていますね。今手応えを感じ始めているところですが、楽しいネタもささいなネタも含めて、リッチな情報を扱っていきたいです。
G:
視聴者からは毎回、どのような感想や意見、反応が来ますか?
K:
ホームページでテーマやネタの提供を募集していますが、自薦他薦を含めてさまざまな人たちが「これを取り上げてくれ」という風にくるようになりました。反響のメールの数がバロメーターとなっているところがあるので、徐々に増えていることを考えると、番組の知名度が上がってきているという確かな手応えを感じています。取り上げる内容に関してですが、基本的にほかの番組が「ちょっとこれはどうだろう」といった内容でも取材に行ってみるというように、フットワークを軽くしています。
G:
反響は電話、FAX、手紙、ネット経由でくるもののどれが最も多いのでしょうか
K:
僕が「プロジェクトX」に携わっていた5~6年前は、反響というと電話がほとんどでしたが、今は逆にメールがほとんどで、電話がかかってくることは極めて少なくなりました。また、「番組で使われている音楽はどんな曲なのか」や「再放送はあるのか」といった問い合わせの多くがメールに変わりました。
G:
公式サイトのページビューやブログ運営などを実際に行ってみて、どのような感じでしょうか?
K:
我々の一番大きな課題は「番組を見てもらう」ことなんですよ。これが一番大変なことなのですが、番組を世の中の人たちに知ってもらわないといけません。「見てもらう」ようになるまでの敷居がとても高いのですが、見てもらうためにどうするかという時に、大きなツールとなるのが番組のホームページですね。そしてホームページを見てもらうには、いかにブログなどを早く更新していくかにかかっています。
逆にブログなどで番組のことを書かれることもすごく重要ですね。有名なサイトなどを取り上げるなどしてコラボレーションすると、そのサイトを見ている人たちが新たな視聴者となってくれます。雑誌なども含めて、ほかのメディアでの露出を多くすることは重要です。番組を一度見ていただければ、面白さや他のNHKの番組とも一味違うと分かっていただけると思っています。まずは、番組の存在を多くの方にアピールしたいのです。
G:
始めた当初と比べてページビューは伸びていますか?
K:
もちろん伸びていますね。どの番組にも言えることですが、ページビューが増えると視聴者が増えます。そしてある一定以上になると、ページと番組が相乗効果を生み出すようになりますね。
G:
1回の番組が完成するまではどのような企画・取材・編集・放送の手順で行われているのでしょうか。
K:
コーナーごとに分かれていますが、放映2週間前~1週間前までにテーマを決めて、放映される週の月曜日と火曜日に手分けしてロケに行きます。水曜日にはロケを終えて編集を始めて、金曜日に編集を終えて、土曜日に丸1日かけて効果音や音楽を入れて、スタジオ収録を21時から1時間ほどかけて行います。
打ち合わせをしています。
K:
そして日曜日の午前6時ごろに作りあげてテロップなどの追加を行い、19時ごろに完成させます。チームワークで一丸となって一気呵成(かせい)に行うので、怒濤(どとう)のような勢いです。やはりネタが新しい方がいいので、ギリギリに出来上がるように作った方が、テーマがイキイキとした面白いものが出来上がります。
これが番組ごとに用意されているオフィスです。
奥には進行状況を管理するカレンダーがあります。
G:
番組製作の中の人たちについて、どのようなスタッフを揃えていますか?
K:
プロデューサー2人とデスク1人、そしてディレクターの方が15人ほどいて、それが3グループくらいに分かれて番組を作っています。それだけでなくホームページの作成を行う人やバイトの人、スタジオを行き来する人やカメラマン、音楽を付ける人など、番組1本を作るのに延べ人数で30人や40人、多いときは50人くらいになるのではないでしょうか。
G:
代表的な誰かの一般的な一日のスケジュールは?
K:
例えば担当のディレクターが火曜日にロケに出ている場合、カメラマンや音声さん、ドライバーの人を連れて午前中にインタビューを取ってきて、昼食を食べたら違う現場にロケに行って、夜に帰ってきたらほかのスタッフと集まって会議をして、撮影したものを編集さんに説明して…というようになります。間違った情報がないかどうかのチェックなども、リスクヘッジを兼ねて何人もの目によって何度も何度も行われます。そして木曜日に編集作業に入ると、朝からずっと編集室にこもりきりになったりします。
これが編集室。テープや機材が積まれています。
実際に編集をしているところ。
奥にも部屋があります。
G:
一体いつ休むのですか……?
K:
休みが取れなくなることもしばしばです。番組日が決まっている以上、穴を空けることはできませんので、プレッシャーを常に感じています。締めきりがゴールになっていますが、ゴールになってから次のネタを考えると間に合いませんので、常に次のことを考えていますね。テーマ選びが一番厳しいです。体力がないとアイディアも思い浮かびませんので、精神的にも体力的にもタフであることが大事だと思います。
G:
昼食などはどうしているのでしょうか?
K:
昼も食堂、夜も食堂ですね。なかなか外なんかでは食べられません。その代わりにNHKの建物のいたるところにパンや冷凍食品、カップラーメンなどの自動販売機があります。それでも夜中に行くと売り切れていますよ(笑)。土日でも業者さんが中身を補充しているほどです。
これがNHKの巨大食堂です。
メニューのバリエーションがすごい。
いろいろなコーナーがあります。
お寿司のコーナーも。
そして建物の至る所にある自動販売機コーナー。
パンが売られている販売機も。
おにぎりやサンドイッチまであります。
「ペヤング ソースやきそば」まで…。
G:
@ヒューマンの自慢、ほかにはここだけは絶対に負けないというアピールポイントはありますか?
K:
「他のNHKの番組とちょっと違う」と異彩を放っているところが大きなアピールポイントだと思っています。これまでのNHKが扱えなかった話題を扱っていくところを積極的に押し出していきたいですね。それが自慢であったり、特徴であったりと思っています。
G:
この番組に限らず、今までの番組作成や取材で苦労したエピソード、伝説のエピソードを聞かせて下さい。
K:
@ヒューマンで「猫鍋」や「ガムテープ文字」などを一番最初に取り上げていきましたが、民放さんが後追いをしただけでなく、電話で「どうやってアプローチしたのですか?」という問い合わせまで来ました。「それはないだろう」と思いましたが、我々にとっては誇れることでした。我々が先読みしたものが、その後実際に注目されたときは楽しいですね。これからも「あの番組は変わったことをやる。大胆にいろんなテーマに飛びつく」ということで、これまでのNHKにはない番組にどんどん加速していきたいです。
G:
番組視聴のコツはありますか?
K:
上の質問で申し上げたように、「ほかの民放やこれまでのNHKの番組とは違う新しい番組だ」ということで、見ていただければと思います。3つあるコーナーのうち、どのコーナーでもNHKが取り上げていかないようなことを、我々は取り上げていきます。
G:
一度、全面的なリニューアルが行われていますが、どのような事情からだったのでしょうか?
K:
これまでよりも若い視聴者層である30~40代といった年代の層に見ていただくために、前年度の反省を踏まえて、新年度をきっかけにより分かりやすく、より先鋭化した形でリニューアルを行いました。
G:
同じNHK内、あるいは他局の番組、あるいはその他のメディア全般で、あえてライバル視しているものはありますか?
K:
あえてライバル視している番組はありませんが、我々はまだ試行錯誤の途中なので、常に今に疑問を持ち、前に進むとは何かを考えながら、少しずつ前進していくことで、これまでのNHKや民放さんの日曜23時台の番組とは違う番組であるという個性を出していきたいです。
G:
今後のテレビメディアとネットの関係(YouTubeやニコニコ動画などの存在)について、何か思うところがあればどうぞ。
K:
YouTubeなどの動画配信サービスにたくさんあるコンテンツの中には、とても面白いコンテンツがあると思います。その中にある面白いものを発掘して取り上げていく中で、テレビの力を使って「どうしてこの動画が投稿されたのか」などといった背景にまで踏み込んでいき、動画投稿の中だけで見えない世界に踏み込んで明らかにしていくことで、今までにはないネットとテレビの親和性を見出すことができました。そうやって踏み込むことはテレビだからこそできると思います。
G:
今後の番組の方針を聞かせて下さい。
K:
ネットの表面的な部分をさらに踏み込んで、もっと奥にあるものを明らかにすることや、これまでの取材活動ではできなかった、ネットを利用した視聴者との気軽なメールのやりとりで取材が進んでいくといったことも含めて、これまでになかった広がりや繋がりを生み出していけたらという理想を持っています。
G:
ありがとうございました。
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