インタビュー

ラジオとスマホの関係・ラジオと震災・未来のラジオの姿、NHKラジオセンター長 山田建インタビュー


NHKラジオセンターを統括し、ラジオという世界をマネジメントという立場からも深く見つめ続けてきた、NHKラジオセンターセンター長である山田建さんにお話をうかがいました。


今回のインタビューは「知られざるNHKラジオセンターの舞台裏を取材してきました~激闘編~」「~潜入&技術編~」「~生放送編~」の最中にインタビューした3本(残り2本は「「必要なのは常識です」NHK勤続30年超の大ベテラン伊藤博英アナウンサーインタビュー」と「一度も仕事を休んだことがない皆勤の秘密、NHKラジオキャスター有江活子インタビュー」)の最後の1本となります。

NHKラジオセンターセンター長 山田建さん(以下、山田):
何でも聞いてください。

GIGAZINE(以下、G):
ではNHKのラジオの、今日に至るまでの大ざっぱなというか概要というか歴史みたいなものを、ざっくりとお話していただけますでしょうか。

◆NHKラジオの始まり


山田:
NHKのラジオはテレビより先ですから、NHKの放送が始まった時期を考えると、ラジオは今から86年前に始まりました。

G:
すごい歴史ですね。

山田:
放送というものが大正14年に始まりました(社団法人東京放送局)から、NHKの放送が始まってもうすでに86年が経ったことになるわけです。きっかけというのはいろいろあったんですけれども、一つ大きな役割として、大正14年の放送開始の前々年(大正12年)に関東大震災という大きな地震がありましたが、その際、今のようにテレビやラジオ、ましてネットなどそういう情報を得るものがありませんでした。新聞社も非常に大きなダメージを受け、なかなか正確な情報が被災民に伝わりませんでした。そういうこともあり、当時で言いますとデマ、流言が飛び交って朝鮮人の方が虐殺されるという、大変不幸な事態も起きました。

要するに、きちんと情報を伝えるメディアがまだまだなかったということで、その翌々年に誕生したラジオという新しいメディアには「速報性」と同時に情報を大量に、一気に皆さんに伝えるという使命というか、役割というものがタイミング的にも担わされていたわけなんですね。


その後、太平洋戦争という時代はラジオ、テレビばかりじゃなく新聞も含めて、時の政府の言うことを一方的に伝えてきてしまったということで、これは放送機関としては非常に反省しなきゃいけない部分がありました。そして敗戦と同時に、それをとても大きな教訓として放送というか、メディアの方の民主化というものも進んできて、公正中立にものごとの事実をきちんと伝えましょう、あるいは対立する意見や考え方があった時はそれを平等に放送しましょう、ということになりました。それで「聴く人に、正しい判断をしていただくための情報をきちんと伝えましょう」ということで、今の公共放送としてのNHKの土台というか使命というものもできてきたわけなんです。

◆震災時に見直された、ラジオの役割


山田:
そこでラジオでよく言われるのは、誕生当時のように「速報性」です。あとは、「利便性・簡便性」です。例えばテレビのような大きな受像機がなくても、小さなポケットラジオで放送を聴けます。後は、いわゆるバッテリーというか電源をどう取るかという問題があって、ラジオなら単3・単4でも比較的「何日」という単位で聴けるという、利便性があるわけですよ。災害時に家庭の電源や一般のAC電源が停電になった時も、電池のバッテリーさえあれば聴けるということが挙げられます。

G:
電池だけでも聴けると?

山田:
聴けます。それも何時間ではなく何日間単位でね。それで大災害、今回の大震災の時も何日間か単位で聴けたわけですよ。ただ、今はワンセグや携帯電話、スマートフォンでも情報が取れたり画像を見ることができたりしますけれども、これはやはり、つけっぱなしだと何時間という単位でしかもちませんよね?

G:
あっという間に電池がなくなりますもんね。

山田:
バッテリーの問題で言うとですね、やはり災害というのは最初の一日、二日とか三日とか、そういう時にいかに正しい情報を受けられるか、送れるかということがかなり勝負になりますので、そういう部分でラジオが見直されたということが大きくあります。今はもうインターネットなどでも非常に早く情報が得られるし、ブログやTwitterによって情報を共有できる世界はものすごく大きいのですけれども、肝心のバッテリーとか電源がダウンした時に、やはりエネルギーをそこから取っているメディアというのはいずれも早めにダウンしてしまうおそれがあります。しかしラジオの場合、そういう意味で端末としてはちっぽけなものではあるんですけれども、バッテリー・乾電池さえある程度確保していれば、比較的長い、何日スパンで情報を聴けるということで、大変見直されたという部分があるんですね。

ハード面でのラジオの側面を言いましたけれども、ソフト面でも、大震災の時は「今何が起きているか情報」の他に、「逃げてください情報」というものを発信できるという特性があるわけです。要するに客観的事実うんぬんという前置きよりも、「とにかく津波が来るかもしれない、大津波警報が出ていますから逃げてください」ということを、盛んに何度も言える。そういうメディアとしての特性があるわけです。

それから、発災直後は正しい情報の提供が必要です。「逃げてください」という、命・財産を守るための呼びかけや「今どこで何が起きているか」という客観的な情報というものが非常に大事になるのですけれども、発災後ややもうちょっと長いスパンの時間というと、例えば12時間とか24時間経った時に被災した人はどういう情報を求めるかというと、やはり「家族や知り合いが今どうなっているか」、「自分は避難所にいるけれども、外の世界は一体どうなっているのか?」などの情報です。被災地は一種、情報の途絶された世界になるわけですから、そういう時に情報をきちんと送り届けられるかどうか、というより送り届ける努力やそういった放送を実際にしなきゃいけない、ということもあったわけですね。

さらにもうちょっと時間が何日か経ってくると、今回も被災者の方にNHKラジオの反響としてうかがったんですけれども、例えば普段聴き慣れているパーソナリティなりMCの「声」が「非常に支えになった」「聴いて安心できる、ほっとできる材料になった」と言うんですね。発災当初は着のみ着のままで逃げるので精一杯で、家族がどうなったかというようなことがものすごく心配だったわけですが、やや時間が経ってくると「家はどうなった」「周りの人はどうなった」「これからどうなるんだろう」という気持ちになったわけです。そういう時に、やはり普段聴いている人なり知ってる人(アナウンサー)が「大丈夫ですよ」「元気になってください」という言葉の働きかけが非常に気持ちを奮い立たせることに、あるいは安心感を持つということに役立ったということなんです。

それに加えて、後はやはり「童謡を流すこと」ですね。懐かしい歌を流す。子供さんたちだけばかりでもなく、そういう音楽による何というか、癒しの効果というものも後で大変感謝され、「静かな音楽が聴けて良かった」とか、そういうお話もうかがいました。だから、ラジオ放送のスタートというものがたまたま関東大震災の翌々年だったということもあるんですけれども、今回の大震災を経てやはりラジオの役割が放送が、始まった当初の役割と期待みたいなことを見事に果たしているんじゃないか、そういう気がすごくするんです。

だから、それを含めて我々が大震災の後に言っているのが「安全・安心ラジオ」ということなんですね。やっぱり「安全」ということは、正しい情報を素早く送って皆さんの生命・財産を守ってもらうことの役に立つこと。「安心ラジオ」というのは、それからもうちょっと時間が経った部分で先ほども言いましたけれども、力づけるための呼びかけをするということです。よく知っている人が呼びかける。それも優しく呼びかけるということですね。後は、よく知っている音楽を流す。我々は「安全・安心ラジオ」が一つのラジオの役割だということを、強く、東日本大震災で認識しました。

さらにもう一つ、大震災後にラジオを聴いてもらうためにいろいろと考えたのは、こう言っては何ですけれども、災害の時はやはりラジオが役に立つのだ、ということですね。今度の大震災というのは、未曽有の大変大きな災害だったわけですけれども、例えばそれ以前も台風とか地震とか、今回の大津波ほどじゃないけど津波の被害というのがあったわけですよね。そういう時はやはり「ラジオから情報を得た」「ラジオが非常に役立った」という話があるんです。

◆全体として進行するラジオ離れ


山田:
しかし、災害時には見直されるラジオではあるんですけれども、じゃあリスナーが増えているかというとそういうことではないんですね。やはりだんだん忘れられかけてきているメディアじゃないかという認識もあるわけですよ。これはテレビもそうなんですけれども、若い人にやっぱり聴いてもらってない、といのが非常に大きいんじゃないかと思います。今、「ラジオ深夜便」という形で深夜放送をしていますけれども、それはある意味、高年齢の方がリスナーとして付いてくれたという部分が、多分にあるんです。

では若い人、働き盛りの人、サラリーマンの人は聴いてくれているのかというと、「車に乗った時に聴きます」とか「移動している時は聴きます」とかなんです。後は「スポーツ中継は聴きます」というのはありますけれども、じゃあ普段どれだけラジオに接してもらっているかというと、こう言っては何ですけれどもやはり「ジリ貧状態である」とも言えるんですね。災害があると「やっぱりラジオだ」と見直されるんですけれども、それがちょっと時間が経つと、「じゃあどれだけ実際聴かれているのか?」となるわけです。NHKはラジオを売っている会社じゃないですけれども「ラジオの販売台数が伸びた」とか、そういう話は一切聞かないですよね。

G:
確かに聞かないですね。

山田:
そうですよね?震災の後は、経済産業省がメーカーから預かって保管していたラジオを、NHKがテレビの復旧に合わせてお配りしたというのはあるんですよ。でもそれは本来的な仕事ではないですから。「電波をあまねく届ける」というのは仕事ですけれども、端末を送り届けるというのはNHKの仕事ではない。あの大震災の時は、非常災害時でしたから、そういうことでお配りしたという事情はあるんですけれども。ではどうやってもうちょっとラジオを普及させるか、より聴いてもらうかということを考えることが、やはり普段からも非常に大事じゃないかと思います。普段から聴いていただいていれば、やはり「災害の時にも役に立つから電池を買っておく」とか、そういうある意味普段からのリスナーだと言えるゆえの備えみたいなこともできるんじゃないかと思うんです。

普段から、我々ラジオセンターというのはニュースや番組を含めてラジオのソフトを作っているわけですから、やはり「たくさんの方に聴いてもらいたい」というのが我々の一つの原動力というか、役割です。そこで、ラジオのリスナーを広げるために「ではソフト面でどうしていこうか」ということが問題となってきます。例えばラジオというのは昔からリクエストはがきを読んで「東京都何とか区の何とかさんのリクエストにお応えして」「この何とかさんはこんなことを言ってくれました」というように、何と言うんでしょうか、今の言葉で言う「双方向性」で成り立ってきたわけです。つまり、お互いに一方的に送り届けるのではなくて、リスナーからの声を届ける、それに反応する、またそれを聴いたリスナーからの反応を届ける、ということです。そして、今ははがきではなくてもうネットやメールなどという世界になってきました。ですからそういうことをもう一度見直して、「双方向性」を一つキーワードにして、リスナーの方々の意見や要望や質問、いろんなことにお応えするということを頻繁にやっていこう、というのがまず一つあります。

「電話相談」ってあるじゃないですか?「ラジオ電話相談」。大人の場合の法律相談もあれば、NHKでよくやっているのは「夏休みこども電話相談室」というものですね。そういう場でも「双方向性」というか、非常に身近な部分で応えてくれる敷居の低いメディアとしての「双方向性」をキーワードにして一つやっていこう、と考えています。

◆年代層や時間帯を区切り特定の層にアピールする


山田:
あとは、やはり対象のある程度年代層を区切った時間帯やソフトを編成していきましょう、という考え方があります。

G: 
というと、具体的にどんな感じですか?

山田:
例えば、午前中はラジオを聴いている人はどういう人が多いのかということを考えると、普通のサラリーマンは大体会社へ行って仕事し始めますよね?後は、営業の方とかは車に乗られている方が多いけれども、リスナーとしてやはり圧倒的に多いのは家庭にいる婦人なんですよ。そこでNHKの場合は、先ほど「深夜便」の話もしましたけれども、これまでも60代・70代の方々が中心となってリスナーとして非常に厚い層を形成しています。逆に言うと若い世代にはまだまだ聴いてもらっていないということなので、なるべく若い主婦層、それも「30代・40代の主婦に聴いていただけるソフトを考えましょう」というのが午前中の時間帯の大きな課題です。だから、話題も「そういう主婦が考えていること、期待していること、悩んでいるようなことをどんどん放送の中で取り入れていきましょう」と。先ほどの話の、「双方向性」で悩みにお答えするということもそうですし、パーソナリティとかMCをどういう方にするのかということも課題というか、やはり大きな問題だと思うんですよ。だからそういう意味で、ウィークデーの午前中をある程度若い主婦層、30代・40代まで年齢層の下がった主婦層に聴いてもらえるソフトを作りましょうということが、来年度からの新番組の一つの考え方なんです。

それともう一つは、もっと時代が下がって中学生・高校生に聴いてもらえないかなとも思っています。我々、というか私ももう50半ばですけれども、意外と若い頃ってラジオを聴いていたんですよね。

G:
僕も聴いてました(笑)

山田:
そうでしょう?私は受験世代まで聴いてたんですよ、実は。でもなぜかラジオから離れていってしまっている部分が、私の一生というかこの半生の中でもあるし、それで今はどうかと言うと、やはり、若い人つまり中学生、高校生、大学生も含めて聴いてもらえてないんですよ。かなり限定されてしまっている感じがするんですよね。だからそういう方たちに聴いてもらえれば、もっとラジオを聴くリスナーの裾野が広がっていくと思います。

これまでは例えばローカル放送というのがあって、夕方6時くらい、特に夕方のFM放送の時間帯では、これまでも「夕べのひととき」などという形で、例えば圏域内の放送でFMのローカル放送の時間帯というものがあって、リクエストアワーのような番組やリクエストコーナーのようなものがあったんですね。何かちょっと添えて「まあこの音楽をかけてください」とか、古い言い方をすれば「このレコードをかけてください」(笑)というのがあったんですけれども、それも時間帯がだんだんなくなっていってしまったんですよ。やはりテレビの方が主力になり、夕方の時間帯もローカル放送というか、地域放送局もどんどんテレビに力を入れるようになってしまったので。

そういうわけで、なかなか若い人に間口を開いている番組も時間帯もなくなってきたので、これは去年・一昨年ぐらいからですが、NHKのラジオセンターでも「やはり若い人に聴いてもらえるような番組を作りましょう」ということで、例えばAKB48のメンバーの方に出てもらうとか、大学生に対する就活を激励する番組とか、番組個々に、いろいろなことにトライし出しているんです。


そこで、この4月からは個別にあちこちの時間帯でそうした試みをするよりも、要するに若者に聴いてもらえる時間帯、ゾーンをまとめて作りましょうということになりました。土日の夜の8時から12時までは、中学生から大学生までの「若者時間帯」ということで……これまでやってる継続の番組も一部あるんですけれども、「土日の夜8時から12時までは、ティーンエイジャーから大学生までの時間帯です」ということで、集中的にそこで若者向けの番組を放送するということを、ちょっと今考えています。

そのようにして若い人に聴いていただいて、ラジオに触れていただいて、それでその後もずっと聴いていただけるような、継続性のあるリスナーになっていただければ、災害時ももちろんですけれども、そうでない時も、やはり定期的にいつもラジオを聴いていただけるんじゃないかなと。災害時など困った時は、従来の放送を全部脱しても災害情報をどんどん流していくわけですから、そのためにも、普段からやはり聴いておいてもらいたいなと思います。

◆PC、スマートフォンとの連動


山田:
それと、若い人なり、リスナーを広げるという意味でもう一つ画期的なこととして、「ラジオ放送の同時再配信」と言うんですけれども、普段ラジオでやっている放送と同じ放送をインターネットを通じて送り届けるということを、去年9月から始めたことが挙げられます。

NHKは公共放送ですから、本来は放送法に限られた事業しか許されてていません。インターネットで番組を同時再配信するということは、放送法の本来の趣旨とは外れた媒体というか形態を付けてやるということになるんです。ですからこの試みは、総務省から臨時措置というかトライアルとして認可を受けた事項なんですよ。というのも、現在日本海の方とかは混信がかなりすごいんですね。具体的に言うと夜間、特に中国と韓国の電波が強く「混信が強くて非常に聴きにくい」という状況があります。あるいは今、高層マンションやビル陰でやはり電波が聴きにくいという状況があります。

G:
うちの近所もちょっとそうですね。高速道路の陰になっていて。

山田:
ラジオとパソコンというのは相性が悪くて、近くに置いておくとよく……。

G:
ノイズみたいなものがありますね。

山田:
そう、ありますね。だからそれを解消するために、「パソコンでも聴けるようにしましょう」ということで、2年間に限って試行の許可をもらって始めたんです。9月からパソコンに配信を始めて、10月からスマホ……スマートフォンでも配信を始めて、最初はAndroid系、10月末からはiPhoneのアプリをリリースし、サービスを始めたんですけれども、これがやはり非常に好評です。非常にクリアに聞こえるということがまず第一の要因です。若干時差はあるんですよ、何秒かから何十秒かぐらいまで。時差があるので時報とかそういうのは出せないんですけれども、非常にクリアに聞こえるということで、大変好評です。

後は、いったんラジオのチャンネルをセットするとネット環境の中で別の作業もできるわけですよ。「ながら」でメールを打ったり、別のブログに入っていったりとか。音楽を鳴らしっぱなしで。ということで、ネット環境の中で「ながら」ができるということで、大変好評なんです。

それとやはり、スマホの場合は移動しながら聴ける。音楽ソフトを聴いていただくのもいいんですけれども、同じような感じでスマホからラジオなり、ラジオによる音楽も同時に聴いていただけるということです。既にスマホの場合Android系・iPhone系と併せて、10月・11月末まででアプリケーションのダウンロードが合わせて46万件あるんです。


G:
そんなにいったんですか!?

山田:
そんなにいってるんですよ。ものすごく好調なすべり出しなんですよ。これは大変ありがたいですよね。それでパソコンの方もユニークIPと言ってですね、これは一日の単位なんですけれども、延べ台数じゃなくて、純粋な一台として「R1」なり「R2」なりインターネットラジオで聴いてもらった台数が一番多い時で10万台あったんですよ。

G:
すごいですね……。

山田:
今でも平均で5万3000くらいあります。だから、いったんパソコンで「R1」を聴いていたものをやめて「R2」を聴いたらもう一台分、というカウントはされないんですよね。これは延べ台数じゃないんです。ですから、これもどんどん広がっていってほしいですね。これはそもそも難聴というか、聴きにくいことの解消という目的で認可をもらって始めた事項なんですけれども、我々ラジオを作って送り出す側からすれば、末端のツールが劇的に増えたということなんですよ。しかもパソコンは今やあらゆる年代層もやりますけれども、やはりスマートフォンというのはある程度若い世代のツールですよね?ですからそこで、他のゲームなどのソフトと同じように、アプリをダウンロードすればラジオが聴けるということが常態化していくと、やはりラジオに触れていただく機会が飛躍的に増えるんじゃないかと思っているんですよね。

G:
確かに僕も聴くようになりましたからね。

山田:
聴くようになりましたでしょ?民放さんが「radiko」ということで去年の秋ですか、一年以上前からラジオの配信を始めてますけれども、民放さんの場合、エリアが決まってしまう部分があるんですよね。首都圏とか名古屋圏とか福岡圏とか……。NHKの場合は全国放送を一律に3波でどーんと流しているということになりますので、これを機にいろいろ触れてもらって、気に入ったものを聴いていただいていければ非常に良いなと。だからさっき言いましたけれども、ソフト面ではウィークデーの午前中は若い主婦の方、土日の夜はいわゆる中高生・大学生などの在宅率が高いという、ある程度狙った時間帯にラジオを聴いてもらいたい。それで「面白いな」と思っていただけたらと思っています。ただ高校生の場合、まだスマホはそれほど普及してないと思うんですよ。

G:
そのようですね。

山田:
まだまだ高価なものだと思うんですよね。親御さんにとっても。よくは分かりませんけど、ひょっとしたら大学生でもまだ半分もいってないんじゃないですかね、しかし全体として見ればスマホはもう既に1000万台以上いってるんでしょうか……まあちょっと数字は定かじゃないんですけれども、まあ大学生ぐらいになっていれば、ある程度持っているのかな、という感じもあるんですけれどもね。もうちょっといろんな、廉価なものも出てくるんじゃないかという期待感もあるんですけれども。そういう形で聴いていただければ、こちらとしてはこれまでのああいうラジオとかポケットラジオではなくて、スマートフォンでもパソコンでも聴いていただけるということで、リスナーを広げるためのある意味大きなチャンスというか、機会になっているんじゃないかと思っています。


G:
実際のところそれだけダウンロードされたというのは今聞いてびっくりですね(笑)

山田:
びっくりでしょ?

G:
大ヒットアプリですね。

山田:
一時期iPhone系で、公開マーケットでのダウンロード数が一週間くらい1位だったんですよ。

G:
すごい。大人気ですね(笑)

山田:
それで、こう言ってはなんですけれども、最初はもの珍しさがあるかもしれないんですけれども、やっぱり聴いてもらって「つまんないな」と思われるとだめなんですね。だから聴いてもらって結構ためになる、「面白い」とかそういうことを感じていただかないとだめだと思います。やっぱり最後はソフトのコンテンツの勝負になるんですよ。後は意外なリアクションとして、「R2」ってあるんですけど、これは主に語学講座とか趣味・教養講座を放送しているんですが……。

G:
「第2放送」の方ですね。

山田:
その「R2」は、インターネットの「らじる★らじる」で聴いてみると「非常にいい」ということで、リスナーが増えているんですよ。「ハングル講座」とかいわゆる「英会話」とか、そういう番組においてですけれども、やはり音がクリアだと大変いいんですよね。

G:
本当に思いますね。パソコンで聴いたら異常に音がクリアなんで(笑)

山田:
クリアでしょ?やはり語学系というのはものすごくハマるというか親和性がある気がするんですよね。

G:
確かにきれいな音の方がいいですもんね。

山田:
それも、一種予想外の嬉しいリアクションではありますね。

G:
言われると納得ですね。確かに(笑)

山田:
納得でしょ?

G:
クリアな音の方がそれはいいに決まってますもんね。なるほど、それは非常に面白いですね。あと何か、実際インターネットのアプリなり、インターネットで流すなりの趣向の試みをしてみて、何か他にも意外というか、予想外だったことはありますか?

山田:
まずは、アクセス数の「数」としての増加です。流しているソフトによって、ピンと来る時があります。やはり今までで一番多かったのは台風15号が来た時の放送時ですね。基本的にそうしたニュースとか台風情報でしょうか。他には、今FMで「何とか三昧」と言って、ほぼ一日か半日かけて、例えば一人のアーティストや一つの音楽ジャンルを特定した企画の番組をやっているんですが、ネットラジオでアクセス数がぐーんとはね上がったのが「山下達郎三昧」というもので、ものすごく上がりました。普段のラジオはなかなかそういう一日の「波」って取りにくいんですけれども、ネットラジオというのは取れるんですよね。統計的にね。

G:
アクセス数で。

山田:
後は、「プログレッシブ・ロック三昧」というもの。

G:
それも、ガーンと……。

山田:
ガーンと上がりました。そういう傾向というものは、見てとれるものなんですよね。

G:
今後2年間、最低限するということは、また年末あたりもまた「何とか三昧」をやるということですか?

山田:
そうです。これは極めて有力ソフトであるということが分かりましたね。

G:
一年ほど前にも、年末年始あたりのインターネット騒ぎで非常に印象に残ったのが、僕もあのタイミングでもう一回ラジオを聴くようになったんですが、「アニソン三昧」か何かをやった時にネット上で大騒ぎになりましたね。「(NHKが)本当にやりやがった」って騒がれて、ちょっとあれも下手したらほぼ確実にまたネットでもやることになるんですよね。そしたらエラいことになりそうですね(笑)

山田:
今も、「渋谷アニメランド」というものと、「エレうた!」という、パソコンの音楽ソフトを使って歌を作るという極めてアキバ系オタッキーな番組をやっているんですよ、実は。それも今、さきほど言った土日の時間帯の中に入って来るんですけれども、これなんかも極めてパソコンなんかと親和性が強いものなので、ちょっと期待している向きはあるんですけれども。

G:なるほど。だんだん何やら「弾」が揃ってきて、快進撃に向けて、という感じになってますね(笑)

◆昔からの良い部分も残していくことの大切さ


山田:
いやいや、まだです。でも大切なのは「深夜便」とか、普段の放送をずっと聴いてらっしゃるリスナーもいるということです。これはテレビでも同じですけれども。何と言うのか、こう言っては何ですけれども「うるさくない」とか「あまり早口でしゃべられても困る」とか、そういう理由でNHKを聴いてくださっているこれまでのリスナーの方もたくさんいらっしゃる。そうした方々は大事にしつつ新しいリスナーを増やしていくという、そういう部分の整理というか、兼ね合いのバランスをちゃんと取っていかなければならないという風に思っています。

G:
新しい局面に突入している感じがしますね。

山田:
そうですね。ネットラジオ「らじる★らじる」という一種新しいツールも持ちました。非常に大変な災害だった大震災で、ラジオの役割というものをいろいろな形で見直していただいて、その中で「やっぱりもっと聴いてもらうためにできることをどうしよう」ということになりました。ですからハード面で新しい「ネットラジオ」というツールを得たということ、ソフト面でも「もっとリスナーの裾野を広げることをやっていきましょう」ということが、今の課題であり、ラジオセンターでやっていることなのです。

G:
ソフト面で新しく裾野を広げる、ということに対して、新たな人材面などでの都合の付け方というのは、どのように調整してらっしゃるんでしょうか?

山田:
NHKは、人員については今はある程度限られているんですよ。大量採用しているというわけではないですから、ある程度の人員の中で、必要な時は、外部の力を借りるという形をとっています。番組プログラム作り方面のスタッフも活用したりしますし、あるいは逆にMCとか登場人物の方でも、アナウンサーだけじゃない方の力を借りたりもします。その一方でやはりアナウンサーを若い時から育てていくという役割も十分担わなければならないし、アナウンサーが話す訓練されたきれいな日本語を聴いてもらう、ということも依然重要なことです。また、リスナーをひきつけるためには、ある意味その世代に支持を受けている俳優さんなりタレントさんなり歌手さんなんかを出してくるということもあります。

そう大量に職員をラジオとかある特定の部分の番組だけに集めてどうのこうのということはなかなかできないですから。今日取材されている「夕方ニュース」なんかもかなり必要最小限の人員で頑張ってもらっているんです。職員とシフトで。「ここはデイリーで今日は国会があるから毎日2時間」といったように、かなり厳しい時間帯でやってもらっているんですよね。というのは、一日の終わりかけの5時頃というのはニュースが殺到する時間帯なんですね。

G:
そうですよね。突然来ますものね。

山田:
だからこそリアルタイムで伝えなきゃならないことというものがあると思います。まあそういう意味で、これはラジオの速報性を極めて特徴づけた番組だし、ニュース系では夜10時になると「ラジオジャーナル」といって、一日をちょっとせき止めて振り返るという形の番組があります。ちょっとしたラジオドキュメンタリー風の、少し掘り下げた企画をやるような部分もある番組です。だから先ほど申し上げたように、若い人だけに特化した時間帯は作りますけれども、そうじゃない部分で旧来の良いところというのは、そのまま引き継いでブラッシュアップしながら残していく。だからこれまでのリスナーの方もずっと大切にした上で、新しい層でも聴く人を増やしていくということですね。

◆運営状況や勤務形態、人材育成について


G:
今日は一日中朝からずっと一緒にくっ付いてあっちを見たりこっちを見たりというようにやっていたわけですが、‌印象的だったのがまずは、朝のあの会議の模様ですね。出席者たちがそれぞれマイクを持ち回りで話し合っている。ああいうスタイルというのはいつごろから完成されたんでしょうか?

山田:
いつからなんでしょう……?ラジオに限らず、例えば報道局内であれば、NHKは24時間体制ですから、ラジオセンターの全センター内で一斉に会議を行う、ということはせず、ローテーションの変わり際とか、必ず引き継ぎをやったりということをやっているんですよ。24時間体制でテレビもラジオも回しているわけですから、どこかでせき止めて引き継ぎしたり「今日の情報」を皆で共有する時間というものを持たなきゃならないということですね。いつからこういう形式になったのかはともかく、そういう勤務の変わり目の引き継ぎというのは、必ずやっているところです。ほぼ放送始めた時からずっとやっていると思いますよ。皆が集まってというような形ではないのかもしれないですけれども。

G:
ああいうように、皆でマイクまで持ってやるという形はちょっと印象的だったもので。

山田:
ちょっとこっちの方に座る人もいればね、部屋は広くはないけど狭くもないのでね。それなりに声が聞こえなければならないということです。

G:
あと何か、実際ラジオセンターの中には、機器や装置がいっぱい「どかーん」と置いてあるじゃないですか。ああいうものを見て「なるほど。これはすごい」「これはすごい特化したものを作っているけれども、実は汎用品の集合体でできている。そういう意味でもすごいな」と感動したわけなんですが、ああいった装置というものも、どんどん順番に新しいものに入れ替えていっているんですよね?

山田:
そうです。

G:
ああいうものは、どういうタイミングで入れ替えていっているんでしょうか?

山田:
「装置」というのはどういう装置を見ました?

G:
例えば、NHKで一番最初はラジオとテレビとで両方同時に国会中継に行っていたけれども、それは非効率的だということでラジオの方が「まあテレビの方でやっているからそっちの方から音を抜き出すようにしよう」ということで、ずっと24時間廊下で(国会の模様を)聴くようになり、一番最初は3時間だったけれどもだんだん時間がずれてきて今は19時間くらい録画できるようになってきて、という装置です。

山田:
それはテクノロジーの進歩とニーズとの合致ですよ。例えば映像の録画媒体だってずいぶん変わってきたじゃないですか。始めはテープや円盤を使っていて、今は内蔵のHDDもあれば……ということです。日進月歩ということですよ。我々はプロですから、利便性とか、どういう風にやればもっと放送を出しやすくすることができるかとか、聴きやすくすることができるかとか、リスナーの立場を考えた上で変えています。それも「えいやっ」と一気に全部を、という感じじゃなくて、マイナーチェンジを経ながら、後はテクノロジーの変化に合わせながら、それこそ日進月歩です。徐々に変えてきている、ということです。

G:
その際、フィードバックと言いましょうか、業務をしていて現場の方から「これが不便だからこういう風にしようよ」という要望のようなものがある程度あるんでしょうか?

山田:
それはあると思いますよ。

G:
そのサイクルというのは、どのように回してる・回っているというか、例えば皆さんは普段顔を突き合わせているから、勝手にフィードバックされて回っていくという感じなんでしょうか。

山田:
「こうなったから」といって、すぐ「明日全てがガラッと変わる」というわけじゃないですけれども、変えようというところは大きな機械だったらお金も必要だし予算も必要ですからあらかじめ「来年度ぜひお願いします」というような形でリストアップしておくとか。そういう形でハードを変えています。

G:
NHKの渋谷のラジオセンターには、それぞれある程度お仕事ができるようになった方が来て働いているという話なんですけれども、人材育成の話というわけではないですけれども、誰でも一番最初には新人の頃ってあるじゃないですか。そこからどのようなステップアップを経て皆さんこのラジオセンターにやって来るんでしょうか?

山田:
そういう意味ではラジオセンターには一番いろんな業種の人がいらっしゃいます。アナウンサーがいれば記者もいるでしょ。それからニュースのデスクにPDと言われるディレクターがいる。歌謡番組作ったりしていますから。そういう意味では、最初のうちはそれぞれの部門で育成とか活躍をしてきて、ある程度その基礎ができた方がやはりここに来るんですよ。そうじゃないとなかなか仕事にならないという部分もあります。後はラジオ独特の、さっきも言っていた特殊な決まりごとである「テレビとの関係でどうする」という部分もあるので、それはラジオセンターに来てから勉強しなきゃいけないことです。しかしニュースの場合は基本的にはニュースデスクといって、皆もうベテランばかりですよ。報道局の出稿部がやはり原稿を書いてるんですが、原稿が出てきて、それをラジオで読む・聴かせるためにリライトしてやるというのがもっぱらの仕事ですから。そういう意味では表駆け回ったりするのは、どちらかと言えば「番組系」とか、この「夕方ニュース」とか「ジャーナル」とかそういう人たちですけれども、アナウンサーもいればディレクターもいます。

皆「ジャーナリスト」としてくくることはできると思います。ある事象があるとして、それを調べるのに専門家では「誰が」「どういう人たちが」いて「このテーマの場合誰に聞けば一番いいのか」と考え、その交渉をしていく。そういう基本的な部分は皆変わらないわけですから。それはラジオセンターでもNHKの他の場所でも訓練されたり教えを受けてやったりしていくわけです。

あるいは、NHKは渋谷のセンターを入れて全国で放送局が54ありますが、大体最初の時は、新規採用されますと、地方の放送局に派遣され赴任するわけです。そこに何年かいて、自分のジャンルのことをローカルで徹底的に叩き込まれるわけですよ。それからその地方のもっと大きな放送局に行ったり別の地域に行ったり東京へ行ったり大阪へ行ったり、その後の異動構造はいろいろあるんですけれども、放送部門やジャーナリスト部門で言うと、そういう中で基礎的なことを覚えていくことになります。

◆これからラジオの現場を目指す人へ


G:
ラジオセンターなりラジオの現場で「こういう番組を作りたい」というような人が、「NHKラジオで働きたい」「こういうところを目指したい」という人がいる場合、どういうスキルと言ったら変ですけれども、どういった能力があると良いと思いますか?

山田:
テレビでもラジオでも特別なスキルは一切いりません。

G:
いらない?

山田:
ええ。だってどんな職業もそうじゃないですか?法学部へ行った人が全部法律家になるわけでもないですし。

G:
「こういうのをやっていたら」とか「今振り返って考えてみればこういうことができていたら多少は楽だったろうな」というようなものは何かありますか?

山田:
やっぱり、これはよく一般論でメディアでもよく言われることですけれども「好奇心を持つこと」ですね。物事に対して好奇心を持って、そして自分でできる限りで調べてみることです。「面白いな」と好奇心を持ったことを調べる。今はネットやスマホも含めて、昔なんかよりはるかに調べる手だてはあるわけです。でもそれが「本当に正しい情報かどうか?」ということを判断するのはなかなか難しいんですよ。そのためには一歩進んで、それら情報のダイジェストではなく原典を読むとか、それを書いた人に会うとかすることです。そこまで行けばある意味我々の領分というか、プロフェッショナルの領分になるかもしれないですけれども。だから、自分で「面白いな」と好奇心を持ったことを、どんどん調べて歩く。何と言うか、自分のモチベーションがあるかどうかも大事です。それでやっぱり好きなことを、面白いと思ったことをとことん調べてみるというような、そういう発想力とかが大事なんです。後はあまり物おじしないとかね。そういうものがいいんじゃないでしょうか。

G:
物おじしない、ということですか。

山田:
物おじしないとか、人見知りしないとか、どちらかと言うと遠慮がちじゃないとかね(笑)でも、出しゃばりがいいというわけではなくて(笑)そういう方がいいんじゃないでしょうか。後は特別なスキルというのは、社会人になってからでも十分間に合います。それはその業界、業界であるわけで。確かに、写真家になるために写真学校へ行って勉強するという、そういうスキルの付け方はありますよ。カメラマンの中にもやっぱりそういう人たちはいますけれども、NHKのカメラマンのほとんどは、そういう……学生時代そういうことをやってきたわけじゃないと思いますよ。だからそういう機械的な操作とかそういうスキルは会社に入ってきてからでも十分間に合うわけですよ。

G:
やはり重要な部分は「好奇心」になる、と。

山田:
そう。物事にやっぱり興味を持つということです。「ああ、これ何でなんだろう?」というような発想を持つとか。そういうことの方がやはり大切なんじゃないでしょうか。だからそのためにも、学生時代にいろいろなことを経験して、という方がいいと思います。これはどの企業にも当てはまるかもしれませんが。「私はテレビのディレクターしかできない」などと思ってガチガチになられる方が、逆にきっと困るんじゃないでしょうか?やっぱりアナウンサー一筋で「台本読むだけが私の‌人生です」と言うんじゃ、俗に言う「潰し」がきかなくなってしまうでしょ?

G:
なるほど。「あれもこれも」というわけではないですけれども、いろいろできていろいろ経験して、という方が……。

山田:
若いうちは特にそうですよ。

G:
面白いですね。普通の会社の仕事だと業務内容が専門化していくじゃないですか?本日他の方(伊藤さん、有江さん)のお話を聞いても、皆いろんな経歴を経てやってきているケースが多いので「ああ、やっぱりこのNHKのラジオの仕事はこういう風なんだな」と感じました。ジェネラリストじゃないですけれども、皆それに似たような感じでいろいろ経験してきているんですね。それでいてベースの部分では「一体何が大事なんだろう?」という事がそれぞれあり「ああ皆いろいろあるんだ。一家言あるなあ」というのが、聞いていて非常に面白いです。

◆優秀な人材はネット系に流れる?


山田:
でも今、逆にネット関係とかそっちの方が、昔と言ってはおかしいけど、昔テレビとかそういうメディアに集まっていた人材が集まっている気がしますよ。好奇心旺盛で、何かもっと面白い世界があって、ある意味まだ若いメディアだから「俺も一発やってやろう」とか、俗に言ういい意味で「成り上がれるんじゃないか」とかね。

G:
これも全然今回と関係ないですけれども、今回の取材でいろいろ聞いて思ったのが、そもそも我々なんかもインターネット系ですけど、ネットのニュース系のメディアはどこでもそうなんですが「人がいない」んですよね。どんなに当たっていようがどんなに大きい会社であろうが上場しているところも人がいない。だから誰も「来ない」。ではそういう人たちは「どこに行ってるの?」となると、そういう意味では新聞であるとか雑誌であるとかテレビであるとか既存のメディアに人が行ってしまっている気がします。

モバゲーなどもネット系とは言ってもあれはもう完全にシステムを作る方じゃないですか。だからああいうところに人材はどんどん行ってしまうんですけれども、システムの上の部分でコンテンツを供給する機関、つまりソフトの方を作る人材といったら、さっぱりなんですよね。要するにそういう人は皆勝手に自分でブログを作るであるとか、Twitterで発信できるであるとか。そういう形でもう個人個人で勝手にやってしまうので、そうすると我々の会社もそうですけれども、やはりそうした人材がなかなか来ないという感じになってしまいます。ある程度以上の能力を持っていると自分でやってしまうんです。だからそこら辺の部分については逆に、NHKなどを見ていて「いいな」と思います。やはり「そういう良い人材が来るんだな」というのが見ていて分かりますよね。

大学のメディア学科などでも、雑誌であるとか新聞であるとかジャーナリズムであるとかテレビであるとか、そうした分野の講義はあってもインターネットを専門に扱う、という分野はまだないですから。だからそのあたりでいくと、まだまだ若いというよりは、もう完全にこっち側のインターネットの仕事をしている立場からすると「見捨てられているのかな?」と思ってしまいますね。要するにメディアとしては各自が勝手に個人個人でやってしまう。かと言って大手のちゃんとした記者なり報道なりを目指すような人は要するに既存の企業の方に行ってしまう、と。

山田:
でも、今は新聞も出版も、ひょっとしたらテレビなどの放送もそうかも分からないですけど、やはりネットとかスマホとか、これらは逆に既存のメディアはそちらにも力を入れていかないと生きていけないという認識をすごく持っていると思いますよ。新しいメディアだから、それこそいろんな人材もいれば、ある意味ジャンル的に偏った人しかいないというイメージもありました。要するに昔はオタクしかいなかった時代もあるわけですけれども、最近はだんだんそうじゃなくなってきてるわけでしょ?社会的認識として。

やはり生放送でこのようにやっているわけですから、朝決めたことが、どんどん変わっていく番組なんですよ、基本的に。台風が来たらどこかへ出なきゃいけない。直接スタッフが出て、アナウンス経験者が行って、リポートとかをするんですよ。ラジオの生中継で。またいきなり記者会見がどかーんと入ってくるなんていうことがありますし。さっきも言いましたけど、一番切ない時間帯なんですよ、5時や6時台というのは。後はゲストをバーッと決めて、スタジオへ呼ぶっていう時、ゲストが忙しければそちらへ行って電話でやってもらうとかします。そういうコーディネーションとかもいろいろやるわけです。それを午後の3、4時間くらいのうちに一気にやるわけで、そこが一番面白いところであり醍醐味でもあります。人が決まって放送がなされるというように段取りが決まってしまえば、もうその後はどちらかというと……でも、本当はそうじゃいけないんですよ(笑)もちろんいい結果を出す、ということが一番大切なことに変わりはないんです。だからその時のコーディネーションとかネゴシエーションとか、そうした作業が本当は一番面白いんです。

G:
なるほど。やりがいといった部分はそこにあると。何かいい締めですね。分かりました。ありがとうございます。

山田:
とんでもないです。

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in インタビュー, Posted by darkhorse

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