インタビュー

あの無菌充填スープを生み出した、明星食品の研究所に行ってきました


以前GIGAZINEで明星食品の「職人の神髄 ロックンロールワン THE・醤油」の無菌充填技術を使ったスープがあまりにもうまいということを取り上げましたが、今回この無菌充填技術を使ったスープを開発した明星食品の研究所に取材することができました。

無菌充填技術のメリットや、社内の雰囲気、ラーメンの新商品を開発するにあたっての苦労、1年間に発売されるラーメンの種類、そして女性向けのカップラーメンについてなど、さまざまなお話を聞かせてもらいました。

詳細は以下から。
お話を伺ったのは明星食品株式会社の研究開発本部 商品開発部 第一グループ長の青木さん(右)と、研究開発本部 商品企画部 第一グループの跡部さん(左)、経営統括本部 経営企画部 経営管理課の岸さんです。


◆無菌充填技術について

GIGAZINE(以下、Gと省略):
今回、「職人の神髄 ロックンロールワン THE・醤油」という商品の発売にあたって、スープに「無菌充填技術」というものが使われていますが、どのようなメリットがあるのでしょうか。

青木(以下、青と省略):
今まで肉のエキスを常温で保存をしようとすると、濃縮する、または塩分をかなり多くする必要がありました。そうすると肉のエキスを炊き出した直後の風味が損なわれてしまいます。今回無菌充填にすることで、炊き出した直後の味で保存ができるようになりました。これによって炊き出した時の旨みがそのまま保存できます。

G:
どういう経緯でこの「無菌充填技術」を開発しようと思ったのでしょうか。

青:
先ほどの通り、肉の旨みを最大限に引き出すためということで開発を行い、今回採用いたしました。

G:
開発にどれくらいの期間がかかったのでしょうか。

青:
2年ちょっと前から研究してはいました。ようやく技術的にハード面、ソフト面で良い具合に仕上がってきたので、この商品に関しては半年くらい前からですね。

G:
無菌充填技術を用いたスープのようなレトルト商品を出す可能性はありますか?

青:
基本的にレトルトと無菌技術が相反しますので、レトルト商品としては考えにくいですね。

G:
一番最初に「鶏だし」を選んだのは?

青:
二年程前から無菌充填技術を研究してきて、ようやく技術的に畜肉系の無菌だしができるようになりました。今回「職人の神髄 ロックンロールワン THE・醤油」の企画が「鶏だしの効いた」スープということだったので、この技術を生かす絶好の機会と考え、商品化致しました。

G:
「無菌充填技術」の殺菌方法は、いったいどのようなものなのでしょうか

青:
簡単に言うと、牛乳や紙のパックに入ったジュースと同じような方法で、殺菌しています。瞬間加熱をして、即座に冷却する殺菌方法なので、素材の味が損なわれません。

実際に無菌充填を行う機械が動いている様子。


G:
質問は変わりますが、そもそも明星食品の開発部のスタッフの方たちは、どうして開発部に行くことになったのでしょうか?

青:
人それぞれだと思いますが、ここにいるスタッフは基本的に食べることが好きですね。食べること、食べ物に関することへの興味が人一倍強い人が多いとは思います。特にやはり麺類が好きな人が多いですね(笑)ここに同席している跡部もそうですが、年間何杯(ラーメンを)食べるんですか?

跡部(以下、跡と省略):
まぁ…数百杯ですね(笑)

打ち合わせをする跡部さん。


G:
すごいですね。

青:
TVチャンピオンに出た男ですから(笑)

G:
ちなみに開発スタッフの人たちは、大学のどのような学部を卒業されているのでしょうか?

青:
やはり農学部系の人などが多いです。

◆1日のおおまかな平均的スケジュールは?

G:
1日の平均的な開発スタッフの方々のスケジュールはどうなっていますか?

青:
開発スタッフのスケジュールというのは、だいたい「処方の作成」と「試作」と「確認」の3パターンの繰り返しですね。一日に自分の試作品、それから部下の試作品を少なくとも10杯~15杯くらいは食べるのではないでしょうか。といっても完食するわけではありません。そしてそれをさらに改良といった作業ですね。

実際にスープを試作している様子。


計量しているところ。


G:
何時出社で何時退社といった具体的なスケジュールは?

青:
当社は8:45出社で、17:45退社ですね。お昼休みは12:00~13:00です。私の場合はだいたい19時か20時に帰ってます。

◆昼食などはどうしているのか

G:
昼食や夕食、休息時のおやつなどはどうしていますか?

青:
(研究所の)周辺にあまりお店がないので、昼食はコンビニで買ってくる人や、自社商品または他社商品を試食を兼ねて食べる人が多いですね。外に食事に行く人はそんなに多くありません。私の場合、夕食は自宅で食べています。

G:
開発に携わっているスタッフの方々は、パートやアルバイトを含めてどれくらいいらっしゃるのでしょうか。

青:
スープを担当している部門で10名くらいですね。全員正社員です。

◆働く上で自慢になるようなことは?

G:
明星食品で働く上で、自慢になるようなものはありますか?

岸:
あまり皆さんが聞いて驚くような大きな福利厚生などはありませんが、「働きやすさ」のある、雰囲気の良い会社だと自負しております。

◆伝説的エピソード

G:
開発において苦労したエピソードや伝説的エピソードはありますでしょうか。

青:
そうですね…苦労することといえばですね、「苦労」と言ってしまっていいのか分かりませんけど、「職人の神髄 ロックンロールワン THE・醤油」のように、よくラーメン屋さんと当社がタイアップして商品を出すことが多いのですが、店主さんは自分の味に対して強くこだわりを持たれていることが多いので、それを再現することが一番大変ですね。

G:
やはり「この味じゃないとだめだ!」といったようなものでしょうか。

青:
そうですね。基本的に我々は工業的に作られた、濃縮された原料などを使って大量に作りますので、店主さんがお店で寸胴鍋を使って作るような味を再現するには、正直なところなかなか時間がかかりますね。例えば「職人の神髄 ロックンロールワン THE・醤油」で3ヶ月かかりました。

G:
ちなみにこの「職人の神髄 ロックンロールワン THE・醤油」のような、提携やタイアップはどういうきっかけで決まるのでしょうか。

跡:
例えばこの「職人の神髄 ロックンロールワン THE・醤油」は、講談社さんの雑誌「TOKYO一週間」の誌上で毎年11月に行われている「ラーメン大賞」という企画でノミネートされたお店と、当社がコラボレーションしてやらせてもらってます。TOKYO一週間さんと当社が一緒に「業界を盛り上げよう」ということで、タイアップしています。「ロックンロールワン」さんは昨年11月に発表された新人賞のお店なんですよ。新人賞を含めて年に2回コラボレーションしています。

TOKYO一週間で新人賞を獲得した「職人の神髄 ロックンロールワン THE・醤油」。味を再現するのに3ヶ月かかった。


◆新商品の企画について

G:
新商品の企画というものは、どのようにして決まっていくのか。

跡:
バックグラウンドはさまざまですね。カップ麺の新商品は業界全体で年間数百種類出ていますが、それぞれにそれぞれのバックグラウンドがあるのでひとくくりに言えませんが、このようにして雑誌やテレビとタイアップしたものや、素材メーカーとタイアップしたものなどもありますし、「一平ちゃん」のようなブランド物として出す場合もあります。

G:
なるほど。以前「夜店の焼そば」の佐野実監修のものもありましたが、あれもタイアップ企画ということでしょうか。

跡:
あれは佐野さんと組むことで、「佐野実が監修すると、一平ちゃん 夜店の焼そばはこんなに変わるんだよ」ということで販売した、プレミアム企画商品ですね。

◆年間何種類の商品が発売されるのか?

G:
ちなみに新商品ですが、だいたい年間どれくらい出ているのでしょうか。

岸:
イメージとしてはですね、リニューアル商品を含めて毎週一回月曜日に必ず何かが発売されていると思っていただければ。そして1アイテムの場合もあれば、何アイテムかの場合もありますね。ほかにも大手数社があって、そのほかにも地方のメーカーさんなどを含めるとものすごい数が発売されています。業界全体で言うと年間800位の数になるでしょうか。それが今、スーパーさんやコンビニエンスストアさんの棚を争って激しい争いを繰り広げている状態です。

最近発売された新商品。


G:
すごいですねそれは…。

跡:
並ばずに消えていく商品もあるんですよ。実は。

G:
あるんですか!?

跡:
ええ。以前のように必ず発売した物が全部コンビニエンスストアさんに並べてもらえるとは限らなくて、今はコンビニ各社さんが独自性を出そうということで、PB(プライベートブランド)商品を用意していますので。そしてそれが指定席という形で棚に並んでいますから、その分ほかの新商品が並ぶスペースが減るわけですね。そうなると採用枠が減るわけですよ。そこを各社で奪い合いになるんですよ。だから商談の時点で駆け引きというか、勝負が重要になってくるんですよね。

G:
では消えていった商品はどこに並ぶのでしょうか?

跡:
たとえばPB商品が充実しているコンビニエンスストアさんには並ばずに、ほかのコンビニに並ぶことがありますね。そういうのがあります。昔はどこでも同じ物が並んでいたのですが、今は独自性で差別化を図りたいコンビニエンスストアさんの意向が反映されています。

G:
北海道フェア専用商品のような商品も出されていますが、やはり依頼が来るのでしょうか?

跡:
そうですね。営業を通して「今度フェアをやりますので」という話が来まして、例えば「北海道フェア」でしたら、北海道の雰囲気に合わせて、北海道を連想させるPB商品を開発したりといったこともありますね。今ではよくある話です。コンビニエンスストアさんも競争が激しいですから独自性を出そうということで、我々が出している「チャルメラ」や「一平ちゃん」のような、どこのコンビニエンスストアさんでも並べているNB(ナショナルブランド)商品以外の物で、差別化を図ってお客さんを囲い込みたいという思惑はあるようです。それは我々即席めんメーカーだけではなくて、飲料メーカーさんやお菓子メーカーさんも同じようですね。今はそういうのがとても増えています。

会議風景。


◆今後の方針について

G:
今後の方針についてはどうでしょうか?

岸:
私どもは即席めん業界の中ではシェア的に3番手、4番手という、チャレンジャー的な位置付けにありますので、もちろん皆様に長く愛されております「チャルメラ」や「一平ちゃん」「中華三昧」といったブランドを大事に育てて拡大してゆきつつ、チャレンジャー精神を失わないで、バランス良く新たなものを作りあげていきたいと考えております。

あと最近はお客のニーズも本当に変わってきまして、昔は即席めんというものは「簡便で、すぐ食べられて、保存がきいて、買い置きができる」という商品の代表だったのですが、今は24時間営業のコンビニエンスストアさんや、外食店などの簡便にすぐ食べられるお店などもありますから、ライバル的な存在があふれていると言えると思います。


その中で即席めんの価値を見出していくには、いろいろなことを考えないと生き残っていけないと思っています。いわゆる即席めん市場が成長してきた時代と今の時代では、ヘビーユーザーである若者のお金の使い方も携帯電話代などに多く使われていたり、食に対する考え方も変わってきていますので、社会のさまざまな変化にも対応できる、今までの常識にとらわれない商品作りを目指そうと考えています。

◆女性向けのカップラーメンは?

G:
女性向けのカップラーメンというものは考えておられますか?

跡:
過去に当社だけじゃなくて、他社さんも何度か挑戦しておられるのですが、なかなかうまくいかないんですよ(苦笑)カップめんというよりは、「中華ダイニング」のような春雨が人気です。

青:
あとはカップスープですね。

跡:
何回も新しい市場を興そうと取り組んだのですが、やっぱりカップめんで女性を取り込むのは難しくて、春雨がやっとそれを超えることができた形です。

青:
調査の場で聞いたことがあるのですけれども、女性は「カップラーメンの売り場に入っていくことに抵抗がある」そうなんです。そこからカップラーメンを持ってレジに行くことは、女性として恥ずかしいということで。やっぱりそういう市場に商品を投入しても、まず売り場に行っていただけないということであれば、市場は伸びないのかなということです。

それをようやく脱却したのが、最近コンビニにある「スープ売り場」に春雨やカップスープを投入したことですね。やっと商品を手に取っていただくことができるようになりました。

岸:
若い女性は「どんぶり型」のカップめんを職場のデスクで食べることに抵抗があるんですね。ですがカップスープや春雨なら、ちょっとオシャレにサンドイッチやおにぎりを組み合わせられますし、低カロリーでお腹もいっぱいになれますし、味のバリエーションもありますので。当社には飲茶三昧や中華ダイニングなどのシリーズがありますが、女性向けにコラーゲンを入れたり、繊維をプラスしてみたりしています。徐々に支持を広げてきていますね。そしてそれを見た体形を気にしている男性が買っていく現象もおき、市場が広がっていくと言うこともあります。

女性の美容を意識してコラーゲンを1000mg配合した「中華ダイニング 玉子スープ春雨」。


こちらは食物繊維を配合した「中華ダイニング 野菜スープ春雨」。どちらもとても低カロリー。


逆にカップラーメンに低カロリーなノンフライめんなどを導入することで「ラーメン=高カロリー」ということで敬遠していた方が「こんなカップめんもあるんだ」と手に取っていただけることもありますね。意外に女性もカップラーメンを食べたかったりするんです。あと大盛りでないと満足できない女性も、すごく少数ですがいたりもしますし(笑)、これからも従来の常識にとらわれない、幅広いお客様に受け入れられる商品作りを目指したいと思っています。

G:
本日は有難うございました。

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in インタビュー,   動画, Posted by darkhorse_log

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