インタビュー

GIGAZINEの仕事術


酒は飲まない、たばこは吸わない、休日に誰かと遊びに出かけることもない。ずっとパソコンに張り付きっぱなしでも、それを苦とも思わない。珍しく外に出たと思ったら自分の記事で紹介したおやつや飲み物の買い出し…。

「おかげで引っ越す先々で半径500メートル以内に何の店があるのか分かるまで1年以上かかります」

そんなクレイジーな人物が率いる「GIGAZINE」は、ネットの最先端を最後尾から眺めるニュースサイト。ソフトバンク、ライブドアといった企業を経験し、現在は自分の会社の代表取締役となったGIGAZINEの「darkhorse」こと、株式会社OSA代表取締役である山崎さんの一風変わった仕事術に迫る。
・仕事術は基本的に「ない」


2000年4月からニュースサイト「GIGAZINE」(最初はウェブマガジンだった)を運営する山崎さん。現在、ブログ検索エンジンテクノラティのランキングに400万個あるブログ中、常に上位。話題の内容が非常に豊富で幅の広いGIGAZINEを更新し続ける上で、どのような仕事術を編み出したのだろうか。

「仕事術は基本的にはありません。また、持つ気もありません」

理由は、そういうことばかりに血道を上げていた身の回りにいる人物が、その割には全く効果があるように見えなかったためだという。また、スタイルを固めると応用が利かなくなり、視野が狭くなるためだ。

「どうしても専門化するのが普通です、ニュースサイトであろうが知識であろうが趣味であろうが。そういう専門性を排除し、それらすべてを横断的に見渡すことのできる視野が今の日本人には必要だと考えています。あるジャンルには詳しくても、違うジャンルについては全くの素人では、発想が貧困になります。また、違う側面からモノを見る癖をつけないと我田引水になってしまいます。時々に応じてスタイルは変えてみるのがいい。正解なんてないです。だから、自分にあった仕事術を探すのではなく、あらゆる仕事術を試してみるのが、きっとベストではないがベターだと考えます」

そのスタイルはニュースのチョイスにも反映されている。

「あなたの知っていることは誰かにとっては知らないことであり、あなたが知らないことは誰かが知っているわけです。また、自分が知っているから誰もが知っているわけではない。GIGAZINEは誰もが知っていることであっても、知らない人がきっといるという前提で更新されています。そのため、情報に精通している人から見れば既出の内容とか、なぜ今頃この話題なんだ?というようなものが多いはずです。ですが、世の中の大部分の人はいつも最先端の情報ばかり追っかけているわけではない。だからあまり専門化せず、話題を幅広く取っています」

・すぐに忘れること


昔から忘れ物はクラスで1位だった。連絡帳に明日の持ち物を書いても、家に戻ると連絡帳を見るのを忘れる。高校の頃には手帳を持ち歩いてあらゆることを書きまくったのでかなりミスは減ったが、今度は書く面積が足りなくなった。大学受験で浪人したのをきっかけにモバイルギア2を使うようになり、記録できる情報量が飛躍的にアップ。大学の中盤まではそれを活用し、後半はレッツノートに完全乗り換え。今はノートパソコンが代わりにあらゆる事を覚えている。

「いつもノートパソコンに向かっているからできることですね。携帯電話は電話以外には使わないです。また、電話がかかってきても出ません。というかずっとカバンに入れっぱなしで音も消しているので気づかないだけなのですが…。携帯電話はこっちからかけるだけです。情けない話ですが、一時期、仕事のメールや電話が延々と来続けるので、それが気になって集中できなくなり、メール恐怖症になりました。メールが来たかな、また来たかな、と1分ごとに受信し続けたわけです。ほとんど強迫神経症寸前でしたね。でもこれだとやってられないと思い、やめたわけです。忘れないことに邁進していたのに今度は忘れることに邁進したわけです。だから、電話やメール、メッセンジャーで密に連絡を取るとかは今もできない。人とのつながりや連絡方法は最低限でいいと考えます。つまり、つながりも何もかも一時的でいいから完全に忘れること。仕事が終わったらとりあえず全部忘れます。ストレスがかからなくて良いですから。だから、完全にネットから切り離されることがかなり多いです。携帯電話は持たないし、ノートパソコンは部屋に置きっぱなし、完全にオフライン状態になります」

・予定は立てない


スケジュール帳にびっしりと整理してものすごく完璧に埋めていく人に限って、その予定を消化できていないと山崎さんは話す。それどころか、予定が詰まっているのが目に見えて分かるから余計に焦る。だから予定は最低限、決まっているもの以外は無視するのだという。

「出張するときも行きの切符は買いますが、帰りの切符はもう買いません。そろそろ帰るか~と思ったらノートパソコン開いて、PHSでネットにつないで、サイトから予約を入れる。それで無理だったら自腹を割いてどこかに泊まり、翌日の朝一で帰ればいいだけです。これはさすがに普通の職場では無理ですね。こういう適当なスケジュール管理ができるのは、自分自身が自分の会社の社長だからでしょう。社員の皆さんにはいつも大変な迷惑ばかりをかけて尻ぬぐいばかりさせていますが…あばばばば」(遠い目、あーあー聞こえな~い)

・できるだけあらゆるものをなくすこと


転職や引っ越しを経験しているので、身の回りの持ち物は極限まで減らすことにしている。お気に入りのモノは作らず、どんなものでも使えるように心がけているという。例えば、このペンでないとダメとか、そういうのはできるだけなくしていき、必要な道具があればその場で創意工夫して何とかできるようにする。

「これはソフトバンク時代、仕事の〆切直前にパソコンのハードディスクやマザーボードが全部ぶっとんだ経験からですね。バックアップしているから1日前のデータに戻すことができても、使い慣れたマシンが手元にないわけです。そのときの教訓から、日常的なバックアップも大切ですが、そのバックアップも何もかも全部失ってもなお失わない自分の頭と腕で、そのときその場所ですぐ仕事を再開できるようにしておくことが大事だと考えるようになりました。だから基本的なノーマル状態のウインドウズからでも短時間で自分の環境を構築できるようにしています」

・1日に最低でも1つずつ処理していくこと


なんでも先延ばしにする代わりに、1日1個ずつ処理していく。

「仕事というより、あらゆる用事についてなのですが、なんでも1個だけです。一度にたくさんのことをしようとすると、抜け落ちやすくなるもので」

1個だけでも完遂しておくと、とりあえず1歩前に進むので、いつか終わるのだと言う。

「会社の社長になった当初、あれもこれもやろうとして結局、半年以上、一歩も前に進まなかったわけです。それを見かねた母親が、一日1個ずつにしなさい、その代わり絶対に1個だけは必ず処理していきなさい、とアドバイスしてくれたわけです。最初はそんなことを言われてもやることはたくさんあるのに何を言っているんだ、分かってないな~と思っていたのですが、分かっていなかったのは私の方でした、ごめんなさい」

あらゆることが行き詰まり、気力・体力ともに限界に達し、どうしようもなくなって、1個ずつしか処理できなくなった。だがその途端に少しずつ前に進み始めたのだという。

「とりあえず100才まで生きる予定なので、まだまだたくさんできますね」

・置く場所を作らない


GIGAZINEを更新しているオフィス環境にも気を配る。床の上にはものを置かない。置くとそこを起点にドンドン物が置かれる。置かれると奥のものには手が届かない。すると奥にある有用なものがゴミと同じ存在に成り下がる。また、机の上にも積み上げない。積み上げると下にあるものは取り出せないからだ。机の上に置くしかない場合には必ず帰る前に整理して水平垂直に保つ。同様に、関係ないものはとにかく捨てる。ペーパーレスが理想だが、無理だった。

「だから捨てるわけです。これあとで使うかも?という場合は捨てる。確実に使う理由が明確でない限りはとにかく捨てます。そして逆の発想、捨てるものを作らない。これらは単なる心構えなので完璧にはできませんが、意識しているだけで随分違います」

結果、なんと会社から2.5トンもゴミが出てきたのだという。

「ゴミ回収業者の方も驚いていました。大体、家1軒をつぶしたときと同じぐらいの量だそうです。でも会社だったらドコでもそれぐらいの量のゴミは出ると思いますよ。それらを捨ててすっきりすると空間が広くなるわけです。そうするとそれがきっかけになって仕事をする気分が変わっていく。いい仕事はいい環境からだと信じています。今後、GIGAZINEを大きくしていくにあたって今後1年以内に人材を広く募集する予定です。職種は多岐にわたります。最大の特徴は年齢を問わないことです。亀の甲より年の功とはすなわち経験の差です。私は年若く、経験に乏しい。だから誰よりも業界に精通し、豊富な経験を持っているが、定年退職せざるを得ない方も迎えたいと思っています。逆に若い方も大歓迎です。経験が無い分だけ気力と体力、やる気がありますし、適応力も高い。経験者でなくてもいいんです、必要なのは自助努力する才能ですから」

・デスクトップに「temp」フォルダをつくり、とにかくそこに入れる


思いついたらとりあえずテキストファイルにしてしまう。そして、ダウンロードしたファイルなどといっしょに、なんでもデスクトップの「temp」フォルダに入れる。デスクトップは常にすっきり。そして定期的にこのフォルダをまるごとバックアップして、移動させる。

「人間は基本的に時系列で物事を覚えているという整理術があったでしょう?あれの手抜き版です。パソコンのいいところは自動的に作成した日付や更新した日付がファイル付くところ。パソコンの内蔵時計さえ正しければきっちりと日時を記録してくれますし、日時順に並び替えるのも簡単ですよね。すぐに予定とかは忘れるくせに、あのときに確かあんなこと書いたよな~とか、そういうことはぼんやり覚えているわけです。また、忘れていてもそのフォルダを開いてざっとファイル名を見ることで記憶がよみがえることもあります。忘れないようにしようと言うより、思い出せるようにしようといった感じでしょうか」

以前にネットランナーでファイル分類関連の記事をいつも書いていただけのことはあり、tempフォルダ以外のファイルはすべて細かく分類され、整理されているという。

「リアルでは散らかし放題だし、だらしないのですが、パソコンの中であればソフトウェアさえ使えば後は自動的にやってくれます。怠け者ほどちょっとした便利な作業を効率化して全自動化するスクリプトなどを書くのが上手になると言いますが、あれと同じ理屈です。あと、パソコンの中は拭き掃除とかワックスがけとか必要ないですからね、ラクチンです」

・スケジュール管理は壁掛けカレンダーに書き込んで行う


グループウェア導入も考えたが、ログインが面倒でやめた。最低限の予定だけをカレンダーに書いておく方が簡単だという。終わったら線を引いて消す。意外にアナログだ。

「これは今年に入ってから導入したわけですが、非常に簡単で見通しもよく、わかりやすい。書く面積が限られているのでパッと見てすぐに分かるタイトルだけにする癖が付きます。簡単なタイトルに集約するのは、訓練によって可能となる技術です。ですから、タイトルへのうまい集約の仕方、概要へのまとめ方は記事作成の訓練みたいなものです。あと、GIGAZINEには新しく発売される食品や飲料などのニュースとレビューが頻繁に掲載されますが、あの管理も壁掛けカレンダーで行っています。朝出勤してから、オフィスの壁にあるカレンダーを見て、あ~今日はアレの発売日か、じゃ、買いに行ってね~、となるわけです。おかげで社員はこのカレンダーを見る度に泣いています」

・理想的な会社へ


以前勤めていたライブドアも、その前のソフトバンクも、理想的な会社ではなかったという。

「ソフトバンクにいた頃、企業の方が会社に来て説明会を開いてくれるわけです。時間になると営業の方が呼びに来るのでいそいそと会議室へ向かって話を聞いたり、新商品を見せてもらったりするのですが、なぜか10人ぐらいいつも来る中で私だけがノートパソコンを開いてメモを取り、他の方々はみんなペンと紙のメモ帳でした。IT関連雑誌の編集部の人ばかりなのにこれは意外でしたね。それどころか後日、他編集部から文句が来たわけです。あいつはどうしてノーパソを持ち込んでいるんだ、説明会の最中に遊んでいるんじゃないか、と。衝撃的でしたね。私は紙にメモすることを否定する気は全くないのに逆にこっちは否定されるわけです。そのときに、ああ、ネット上のニュースをメインとする媒体に移動したい、ニュースサイトに行きたい、と思うようになりました。ソフトバンク自体は非常にいい会社だと思いましたけどね」

そしてソフトバンクを飛び出し、当時、脂の乗りまくっていたライブドアへ転職する。

「自宅でGIGAZINEの編集作業中に、ライブドアが報道部門の人材をサイトで募集するという記事が目にとまり、ライブドアの就職関連サイトを見たわけです。すると、ニュースサイトの記者・編集募集の記事が目にとまった。速攻で応募して、面接を受けて、採用となりました。迷いとか不安とかはありませんでした。最終的には祖父が亡くなったので辞めざるを得なくなりましたが、環境としては非常に良かったです。ネットランナーのお仕事で知り合った方々にはライブドアへ転職したことを教えると驚かれましたね、今度はライブドアですか!といった感じで。今のGIGAZINEの更新スタイルはライブドア時代に培ったもので、運営のスタンスなどはソフトバンク時代に培ったモノです。最終的にはどちらも理想の会社ではありませんでしたが、今の会社の基本となっています」

山崎さんの考える理想の会社とは、一体どのようなモノなのか。

「ひとことでいえば、ストレスのかからない会社です。だから会社のオフィスでは基本的に仕事さえきちんとこなせば、何をしても良いということにしています。ネットオークションだろうが、ネットショッピングだろうが、掲示板への書き込みだろうが、メッセンジャーでチャットだろうが、BGMにアニソンやゲームのサントラを流していようが、一切禁止していません。逆に、そういったことをしながら仕事もできるマルチタスクな人間でないとだめだと思います。私はそういったことのできないシングルタスクな人間なので、余計にそう思いますね。また、会社の理想型としては、うまいたとえが思いつかないので恐縮ですが、攻殻機動隊に出てくる『公安9課』のようなプロフェッショナル集団でありつつも、HUNTER×HUNTERに出てくる『幻影旅団』(クモ)のように、誰かが欠けたからといって倒れることのない組織が最適だと考えています」

・GIGAZINEは今後、どうなるのか


現在、社員は10人近くいるが、そのうち半分ほどがGIGAZINEの担当になる予定だという。

「以前からしている仕事と、GIGAZINE自体と、その両方を自分の会社の仕事としていく予定です。これは経営の多角化みたいなモノで、これによってビジネス展開としての速度は多少遅くなりますが、リスクの分散が可能です。また、現在、GIGAZINE自体は黒字ではありません。全部サーバの維持代金などで消えていて、完全に赤字です。GIGAZINE以外のネットと全く関係のない事業が支えている形になっています。当初の予定では今の規模になるまで1年から3年はかかると覚悟していたのですが、時代が変わったのでしょうね、急速に多くの方々に受け入れられるようになりました。
そして今、GIGAZINEは私個人のサイトから法人が運営するサイトというスタイルに変わってきています。しかし、いくらバックに会社があると言っても、私一人が支えている現状にほとんど今は変わりが無く、私が倒れたらオシマイです。更新している個人が倒れるとオワリになる、これが私の考える個人ニュースサイトの定義です。だから、GIGAZINEはまだ個人ニュースサイトです。
今後はGIGAZINEを『ニュースサイト』にすることが仕事です。海外ではよく有名ブログがそのまま商業化という例が多くありますが、日本でここまでやるという例はあまり聞いたことがありません。これによって、先に述べたようにより多彩な人材を採用し、今までの既存ニュースサイトとは違ったブランドを持ったニュースサイトとして成長していく予定です。これによって今までの個人ニュースサイトレベルでは無理だった取材やレビュー、レポート、インタビューなども増やし、より質のいい記事を作成して読者に還元していく予定です。読者の皆さんあってこそのGIGAZINEなので、今後もより幅の広い展開を実現していきます。なので、有益な情報やネタ、あるいは取材依頼や仕事依頼などなど、どんな些細なことでも協力していただければ助かります」


次回、「ITmedia Biz.ID編集部に行ってきました」…乞うご期待。

・関連リンク
ITmedia Biz.ID:「キミはGIGAZINEを知っているか?――山崎恵人さん」

in インタビュー,   コラム, Posted by darkhorse_log