サイエンス

太陽光を宇宙空間でカットして地球温暖化を食い止める「スペースバブル」プロジェクトとは?


世界各国の政府や研究者は破滅的な地球温暖化を食い止めるべくさまざまな努力を重ねていますが、「地球温暖化は既に人類の制限目標を超えるほど進行している」と報告されるなど、現状の努力では気候変動を十分に抑えることができていません。そこで、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らは地球ではなく宇宙空間に目を向け、宇宙空間に展開した反射膜で太陽光をカットする「スペースバブル」プロジェクトを提唱しています。

Space Bubbles
https://senseable.mit.edu/space-bubbles/


MIT Scientists Suggest Wild Plan to Ease Climate Change: Space Bubbles : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/mit-engineers-propose-cooling-our-planet-with-a-raft-of-space-bubbles

MIT Researchers Propose Space Bubbles to Stop Climate Change - Universe Today
https://www.universetoday.com/157073/mit-researchers-propose-space-bubbles-to-stop-climate-change/

近年、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが人為的に排出されることにより、地質学的にみても前例がない速度で地球温暖化が進んでいます。地球上では温室効果ガスを削減するためにさまざまな努力が行われていますが、すでにこれらの取り組みは遅すぎる可能性があります。


そこで注目を集めているのが、温室効果ガス削減といった緩和策ではなく、地球の気候を人為的に操作するジオ・エンジニアリング(地球工学)です。しかし、炭素の隔離やエアロゾルの放出といった地球工学的な解決策が地球上で実施される場合、生態系に多大な影響を及ぼす懸念があるとのこと。

これに対しMITの学際的な研究チームは、「宇宙空間にシールドを展開して太陽光を減らす」という宇宙ベースのソリューションを真剣に検討しています。研究者らの試算によると、地球に降り注ぐ日光などの太陽放射を1.8%削減することができれば、今日の地球温暖化を完全に逆転させることが可能だそうです。


MITの研究チームは、宇宙空間で太陽放射を偏向させるために最も効率的な薄膜構造は「バブル(気泡)」である可能性があると主張。すでに-50度の真空チャンバー内で、厚さ500nmの安定した固体薄膜球状シェルを作成することに成功していると述べています。

スペースバブルは宇宙空間で製造され、地球と太陽の重力が釣り合うラグランジュ点に直接展開されるとのこと。


複数のスペースバブルが連結すると、大きさはブラジルほどになるとみられています。スペースバブルの材質や実現可能性については不透明で、研究チームは追加の資金を得て将来の研究ができることに期待してアイデアを出している状態です。MITのSenseable City Labでプランニングディレクターを務めるCarlo Ratti教授は、「太陽光シールドの実現可能性調査を次のレベルに進めることは、今後数年間で地球工学的アプローチが必要になった場合、より多くの情報に基づいた決定を下すのに役立つと信じています」と述べています。


科学系メディアのScience Alertは、溶融シリコンのように均質な物質からなる気泡を利用して太陽放射を遮ることは可能だと指摘。また、巨大な布や傘を折りたたんで地球から運ぶ方法と比較すれば、現地で気泡を膨らませる方がコストも最適化できる上に、予想外の問題が発生した際の撤収も気泡を割るだけなら簡単だと述べています。一方、宇宙関連メディア・ Universe Todayのライターである Paul Sutter氏は、「個人的にはかなり懐疑的です」とコメント。材料や実現可能性に疑問が残るほか、スペースバブルは太陽放射の圧力や微小隕石(いんせき)の衝突といった障害に耐えなければならず、長期的に太陽光を遮り続けることの影響も不透明だと主張しています。

そして、Science AlertとUniverse Todayのいずれも、スペースバブルの構想があるからといって、依然として温室効果ガスが気候と生態系に悪影響を与え続けている事実は変わらないと指摘。派手なプロジェクトに目を奪われず、温室効果ガス排出の削減という根本的な課題に取り組み続ける必要があると述べました。

なお、「太陽光を遮断して地球温暖化を防ぐ」という発想自体は古くから存在しており、1980年代後半にはラグランジュ点付近に大型の日傘を展開することが提案されていました。他にも「成層圏に二酸化硫黄をまく」「大気中に炭酸カルシウムの粉末を散布する」といった手法が考案されています。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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