人工衛星から撮影した世界120カ所以上の超高解像度写真集「SATELLITE(サテライト)」で「いつか人類が見る最後の絶景」と語る奇界遺産フォトグラファー「佐藤健寿」インタビュー
南国の島や砂漠、火山、計画都市や工業地帯など、世界120カ所以上を人工衛星から撮影した超高解像度写真集「SATELLITE(サテライト)」が9月18日(金)に発売されます。著者の佐藤健寿さんは写真集として異例のベストセラーとなる「奇界遺産」を刊行し、最近ではTBS系列「クレイジージャーニー」に出演するなど活躍の幅を広げていますが、かつては世界の奇妙な現象を集めた老舗ニュースサイトX51.ORGの主宰としても知られていました。そこで「SATELLITE」の発売前に佐藤さんにインタビューする機会があったのでいろいろと話をうかがってきました。
これがSATELLITEの表紙。
本の中面の一部は以下のようになっていて、美しい透明の海に囲まれた島はアメリカ・フロリダ半島南部のドライ・トートゥガス国立公園。カリブ海の海賊からフロリダを守る砦(とりで)として作られたものの、使われることなく未完成のまま保存されています。
一面緑色のモザイク模様が広がっているのは、中国・長江の三角州に作られた巨大農園。日本の人口と同じ約1億4000万人程度が暮らしているそうです。
GIGAZINE(以下、G):
今回はどういう経緯で本の企画が進んでいったのでしょうか?
佐藤健寿(以下、佐藤):
もともと2014年に出した「奇界遺産2」では、20世紀的世界を象徴するイメージとして、チェルノブイリという廃虚と、バイコヌール宇宙基地を撮影しました。それから2015年初めに「世界の廃墟」という本を出して、「廃虚」については発展させることができていたのですが、「宇宙」について今後どうアプローチするべきか考えていました。そんな時に朝日新聞出版の谷野さんから連絡をいただき、形になっていきました。
編集担当 谷野友洋(以下、谷野):
企画成立にはいろいろ要因があるのですが、僕がX51.ORGを全部読んでいて佐藤さんのファンだったこともあり、「なにか佐藤さんと仕事ができないか」とずっと思っていたのがスタートといえばスタートです。佐藤さんが確立した「奇界遺産」というブランドは、あの本の値段と判型では類を見ないくらいヒットした作品です。昨今、なかなか高価な本は出版しにくいのですが、佐藤さんのアイデアと実績でこのような形になったと思います。2000年代初頭にネットを見ていた僕たちの世代だと「X51.ORGの佐藤さん」という感じですが、若い人たちは断然「奇界遺産の佐藤さん」という感じですね。
佐藤:
そうなんですよ。トークイベントでUFOの話をすると、みんなポカーンとする時があって。
G:
(笑)
佐藤:
「あ、そういうこともやってるんですね」みたいな。
G:
なるほど、世代がもう1つ進んでいるのですね。今回の本では、写真を選ぶプロセスはどういうように行なったのでしょうか?まさか全部Google Earthでしげしげ見ていくわけではないと思うのですが、ある程度アタリをつけて探したのでしょうか?
佐藤:
割と、その「まさか」ですね。「今日は、僕はアフリカの砂漠を見ておきますので、海岸沿いを見てください」とか。
G:
それはすごい!(笑)
佐藤:
「東南アジアの海岸沿いは結構おもしろいので、ちょっと見ておいてください」とザックリとした指示を出したりとか、「中東方面の写真が少ないので探します」とか。もちろんピラミッドなど最初から有名な場所もある程度ありますが、それ以外はゼロから探しました。表紙の場所は最後の最後に見つかりましたね。
表紙の場所は、上空から見ると砂時計のようなユニークな地形を描いています。「これは一体どこなのか?」の答えは本の中に書かれているので、ぜひ本を手にとってご覧ください。
G:
原稿を最初に見た時に、「一体これはどこなんだだろう?」から始まって、全然見たことも聞いたこともない場所がばんばん出てきてすごいなと思いました。どうやったらこんな場所が見つけられるのかという場所ばかりでしたが、本当に地道に探したのですね。
佐藤:
ありがとうございます。
G:
GIGAZINEでも衛星写真を扱った記事を今までに書いていますが、ほとんど重複しない場所ばかりでビックリしました。
マグニチュード7.8の地震に襲われたネパールの衛星写真画像が公開中 - GIGAZINE
福島第1原発3号機爆発直後の衛星写真をDigitalGlobe社がネット上で公開、ダメージの度合いが確認可能に - GIGAZINE
佐藤:
当然、「Google Earthでこんな面白い場所を見つけました」とか「宇宙から地球を見るとこんなに美しい」という記事はネットにそこそこあると思うので、そういう記事とは差別化しないといけないということで、結局最後は「地道に見る」という作業でした。谷野さんは昔バックパッカーをやっていた経験があり、割とマニアックな話が成立するんです。普通は「アラビア海」と言われてもパッと場所が思い浮かばないものですが、すぐにそういう話ができたのでやりやすかったです。
G:
読んでいると、写真の説明文が短い中にも「普通はこんなこと書かないよ」みたいなことがサラッと書いてあるので、見ていて非常に面白かったです。写真を見るだけでも面白く、プラスで文章を読むと写真のことが簡潔に説明してあるので、なかなか面白い構成でした。
佐藤:
文章に関しては、とにかく場所の数が多いのと、写真をなるべく大きく見せたいということでああいうフォーマットになりました。写真を見て文章で答えを知るという見方も面白いと思います。あとは本全体としてのパッケージや、カバーから表紙、奥付の文字に至るまで、「なんとなく」や「雰囲気」で配置されたものは一つもないというくらいにこだわりました。本自体としての完成度もぜひ見てほしいですね。
G:
2015年に入ってから1月に1冊・4月に2冊・5月に1冊・9月に1冊、そして今回の本、というようにすごい勢いで本が出ているのですが、たまたま偶然なのか、それとも今年を狙って出しているのでしょうか?
佐藤:
狙ってはいないです(笑)。2007年に「X51.ORG THE ODYSSEY」が出て、そのあと3年空いて2010年に「奇界遺産」の1冊目が出て、2冊目は4年空いたので「僕はこういうペースでやっていくんだろうな」と思っていたのですが、2014年末からバババッと。
G:
テレビの番組も突然ばんばん出演しはじめている感じです。
佐藤:
前にもちょくちょく出ていたのですが、定期的にテレビに出るようになったのは確かに2015年からかもしれません。
G:
突然ブレイクしてしまった印象があります。
佐藤:
ブレイクというほどでもないですが、いろいろと重なったのは重なりましたね。
G:
また今回の本の話に戻りますが、章立ては最初から決まっていたのでしょうか?写真をいろいろ見ていくうちに分類したのか、それとも違う理由があるのか、章立ての理由は何でしょうか?
佐藤:
うーん……最初はもちろんカテゴリ分けを意識しないで、ざーっと集めていました。僕もこういう本を何冊か作っていく中で、だんだんカテゴリを意識していくのですが、例えば「人の住んでいる場所」とか「農地」とか「自然」とか、いろいろな景色があっても何かのカテゴリに収まっていくわけですよね。そうなってくると、さすがにこのページ数の本なので、なるべくカテゴリ分けした方が見る側にとっても見やすいかなということになりました。最初はカテゴリなしで一気に通しでやってもいいかなという話もありましたが、見ていく途中でやっぱりある程度整理した方が伝わりやすいかなと。一旦分類した後は、逆に「このカテゴリが少ないからなるべく重点的に探そう」という感じでした。
G:
企画が始まってから実際に完成に至るまではどのくらいかかっているのですか?
佐藤:
どのくらいですかね?
谷野:
半年から、7~8カ月くらいですね。
G:
かなりの時間がかかっていますね。
谷野:
時間もですが、普通、衛星画像を使うとなると、すごく値段が高くなります。
G:
そうですよね。「デジタルグローブ社の画像」と書いてあってビックリしました。
谷野:
今回はデジタルグローブ社から「佐藤さんなら」ということで使わせてもらったので、他ではできない書籍ではないかと思いますね。
佐藤:
今回、帯と前書きに「絶景」という言葉を使ったのですが、これは「あえて」みたいなところもあります。
G:
「あえて」というと?
佐藤:
2010年くらいから絶景ブームが世の中に出てきて、本屋に行くと「絶景本」がいくらでもあって、ネットの中でもキュレーターメディア的なサイトで「死ぬまでに行きたい」みたいな言葉をみんなが安易に使いまわしているじゃないですか。なにかが流行れば類似本や同じような判型、キャッチコピーが節操なく量産されるメディアに対して、一石を投じたいという意味です。だから「絶景」という言葉を本来は使いたくなかったのですが、他の量産型絶景本とはまるで違うという意味で、あえて使い古された「絶景」という言葉を使いました。実際、今回はデジタルグローブに全面的に協力して頂きましたが、同じ本を正攻法で作ろうとしたら写真使用料だけで多分数千万円はかかるかなと。そういう意味でも、誰にも真似できないかなり独自性が強い本になっていると思います。
G:
谷野さんから話を聞いたときには、一体どんな本なのかさっぱり分からなかったのですが、実物を送ってもらって、全部読んでみて「これはすごいな」と思いました。届いたときに、とりあえず見てみようと思って最初のページをめくってから、気がついたら最後まで見てしまったので「もっと写真がたくさん載っていればいいのに」と思ったのですが、今回の本でボツになった写真はあるのでしょうか?
佐藤:
ありますね。最後は泣く泣くというか、削らざるを得なかったです。マップコードで約3倍、調整してからは倍くらいの数を見ています。あと、衛星写真というのは要するに地球全部の写真がどこでもあるのですが、日によって雲が多いだとか、状態が全然違うので、いい状態の写真を探したり、最後まで粘って天津の爆発の写真を入れたりとかしました。天津の前は南沙諸島が最新だと思っていたのですが、校了直前に天津の爆発が起きたので、すぐに座標を見つけて、ギリギリで入れましたね。他にも、同じ場所でも最後の最後まで粘りつつ、印刷所に持っていく朝に新しい場所を見つけて最後に急きょ入れ替えたものもありました。
G:
選んでいて印象的だった写真や、意外だった写真はありますか?海外のあちこちに行っていても「これは衛星写真ならでは」というものは?
佐藤:
それはある種、本のコンセプトみたいなものでもあって、例えば表紙の場所は、実際に町に行っても面白いかどうかは分からないです。でも、衛星から見たからこそ形が面白いわけです。本の1ページ目のオルドスとか、中国の計画都市とか……。
例えば中国・特克斯(テケス)の要塞都市は、中国古来の八卦(はっけ)に基づいて作られた八角形の都市。
G:
本を見るまで、そんな計画都市があるとは知りませんでした。
谷野:
作業後半になると、佐藤さんはもう「計画都市マニア」になってしまって(笑)
G:
(笑)
谷野:
最初は雄大な自然を集めていたのが、徐々に世界のあらゆる計画都市を集めるようになっていきました。
佐藤:
多分、実際にこの場所に行っても景色は普通で、「上から見たからこそ」みたいな景色がすごくたくさんあります。Google Earthでも、もちろん低解像度のものは見られますが、これだけ高精細で高解像度な写真はありませんね。
G:
はっきりくっきりとした写真にビックリしました。全然印象が違って、「写真」的な感じがするなと思いました。
佐藤:
基本的にはいつも僕が場所を指定して、谷野さんが画像を取得して、それを結合してもらうという、だいぶマニアックな作業でした。エリアで指定すると10GB以上の膨大な画像が時には100以上に分割された状態で送られてくるので、谷野さんがパズルみたいに組み合わせていって、25000pxくらいに落としてもらって、僕が補正とかをいろいろやって送り返すという作業です。後半は写真を見ただけで、「これは多分、WorldView-2の写真なので、WorldView-3で撮った写真はないですかね?」とか、写真を見ただけで撮影した人工衛星が判別できるようになっていました(※WorldView-3は2014年にデジタルグローブ社が打ち上げた高解像度の最新人工衛星)。デジタルグローブの人にも言われましたが、多分日本で一番衛星画像を使いこなしているチームだと思います。まあ、他にやる人もいないと思いますが(笑)。
谷野:
絶景と言えば出てくるウユニ塩湖はすごく広くて、真っ白なブロックばかりをスキマがないように延々と積み重ねました。揚げ句、「やっぱりダメだなこれ」ということで、ボツになりました。
G:
地上で見るのと、上空から見るのとは、やっぱり違う話なのですね。
佐藤:
僕は最初MacBookProで作業していたのですが、作業の後半で「もう無理だ」と思ってMacProを買いましたからね。
G:
(笑)
佐藤:
解像度が高すぎたので、メモリが16GBだと全然足りなくて、64GBでやっとどうにか。
G:
どうやって写真をつなぎ合わせたのだろうと思っていたのですが、本当に人海戦術だったのですね。GIGAZINEでも、3.11の時にデジタルグローブが画像を提供してくれたのですが、画像サイズが大きすぎて掲載するのが大変でした。リサイズするだけでも時間がかかったのに、今回の本では画像を合成したということを聞いて「マジで?!」という感じです。
佐藤:
谷野さんはもう本当に「職人」になっていましたね。
谷野:
普段から私物のMacで作業することが多いのですが、最初、5年くらい前のMacで画像取得のレッスンを受けたらVRAMが足りなくて画面が真っ暗になってしまいました。「これは買わなきゃ作業できない」と思って、翌日に一番高いMacBook Proを買いに行きましたね。
佐藤:
だからこのプロジェクトのために二人ともMacを新調してるんです(笑)。200MBくらいの画像を見ると「あ、ちっちゃいな」と思ってしまうくらい、本当に感覚がおかしくなってきました。
G:
(笑)
佐藤:
「これ、ちょっと解像度足りないっすね」と。数GBくらいでないと安心できなくなってしまうという、変な感じになっていました。
G:
この本に載っているだけでも元データがものすごい量になっているのですね。
佐藤:
そうですね。必要なサイズギリギリまでダウンサイジングしながら使っていたので、最終的にはTB(テラバイト)までは行っていないですけれども、相当な量です。
G:
見たことや聞いたことがある場所でも、ここまで高精細な写真は初めて見たものが多かったです。確かに言われてみれば、普通は雲がかかっていたりしますね。
佐藤:
例えばオランダのチューリップ畑だと、1年を通して3~4週間しか花が咲いていないのですが、その時期の衛星画像を探すのがまた大変で、見つかっても雲がかかっていたりして結構気の遠くなるような作業でした。他には、面白い写真でも、そもそも地名すらない場所が結構あるので、仕方がないから近くの地名から探して、そこから類推していって地名をつきとめるとか、そういうこともよくありました。
谷野:
モン・サン=ミシェルを一応見ておこうと思って、モン・サン=ミシェルより近くの場所の方がよかったとか。
G:
中京工業地域の写真は「中国かな?」と思って説明文を見てみると「日本かよ!」と思いました。こういう風に見えているのかと分かってショックを受けました。
佐藤:
この本がどういう層に伝わるのかまだよく分からないのですが、見方によっては子どもが見ても面白いと思いますし、それこそ大人が見ても面白いと思います。
G:
みんなで見ていると話の種になりそうです。
佐藤:
地理の先生に是非見てほしいです。子どもが興味を持つと思いますね。
G:
それぞれの写真があまりにも圧巻の風景なので、言われてみれば究極の絶景という印象です。飛行機からは見えない、かといって衛星に乗るわけにいかない、ということで、確かに人工衛星からの画像が究極形ですね。
谷野:
帯コピーには「いつか人類が見る最後の絶景」と書いています。
佐藤:
それが本のコンセプトでもあります。解説にも書いているのですが、1968年に出た有名な「全地球カタログ(Whole Earth Catalog)」という雑誌がありますが、創刊者のスチュワート・ブラント氏はわざわざNASAにロビー活動をしてまで地球を撮影した衛星写真を公開させて、その写真を創刊号の表紙にしています。それまでNASAは地球の写真を公開していなかったので、「もし衛星写真で地球を客観的に見ることができたら、人類の意識が変わるかもしれない」という発想から表紙に選んだそうです。そういう人間の基準や認識を変容させてしまうような強烈さが、衛星写真にはあると思います。
G:
船や飛行機の墓場など、「一番最後の場所」というのを想像もしなかったけれど、言われてみれば確かにどこかにこういう場所があるのだなというものがたくさんあり、すごい本だなと思いました。
佐藤:
中国・天津で大爆発した倉庫の写真は、僕は何も問い合わせていないのですが、谷野さんから「天津ですが、今日はまだ穴が写っていなかったです、引き続きチェックしていきます」みたいなメッセージがきましたね。
G:
新しい「ひまわり」の力を見せるためのデモ写真がまさしく天津の穴の写真だったので、「気象庁がこんな写真をアップするのか」とビックリしました。本に掲載されているそれぞれの写真は、GIGAZINEの記事のネタとしてやったことはあるけれど「上空から見るとこんな風に見えるのか」という場所もあり、余計にビックリしました。せっかくこんな面白い写真が撮影できる衛星があるので、こういう衛星をもっと増やしてほしいなと思いましたね。
佐藤:
今後はある種、究極のドローンとしての利用も考えられているようで、例えば農地の1年間のデータがほしいという場合に小さい衛星を打ち上げて撮影する、というサービスがこれから行われそうだという話も聞きました。
G:
まさにその話がKickstarterでもあり、「出資すれば1年間に10回シャッターを切るチャンスがもらえて、指定した座標に人口衛星を動かして上空から撮ってくれる」という企画がありました。よっぽと出資しようかなと思ったのですが、その後に同じような企画がぼんぼん出てきたので、今はどれが生き残るのか見送っている最中です。それでも以前では考えられないような、地上からスマートフォンアプリで地図上の地点を指定すればその上を衛星が通ったときに写真を撮って画像を10枚くらい送ってくれる、というコンセプトで実際に衛星を打ち上げる直前まで行っているところがいくつかあるので、すごいなと思います。
佐藤:
おそらくドローンもそういう方向になっていくと思います。宇宙事業の民営化や宇宙旅行の一般化という流れも踏まえた上で、今回の本に「いつか人類が見る」というコピーを載せています。ただ、Kickstarter系の人工衛星だとここまで高精細な写真がないと思います。デジタルグローブの人工衛星は通信速度がむちゃくちゃ速くて、無線で最大800~1200Mbpsくらい出るそうです。本でも言い方を使い分けているのですが、人工衛星は地球を撮影しているのではなく、地球をスキャンしてデータを送っているということらしくて、我々の考える写真の概念とは少し違いますね。
G:
データから作っていくので、どちらかというと「現像」という感じがしますね。
佐藤:
そうですね。一番分かりやすいのは「スキャナーが地球上空をウィーンと動いている」というのが近いそうです。
G:
以前GIGAZINEで記事化した中で一番衝撃を受けたのは、Googleがやっている人工衛星プロジェクトで、リアルタイム映像を受信して見せるというものです。リリースを見て一瞬意味が分からなかったのですが、衛星の映像をリアルタイムで受信して処理したものを今見せている真っ最中ですよ、いうサービスがあり、「リアルタイムの映像を見ているのか!」と衝撃を受けました。写真のように見えるのですが、よく見ると小さい影が動いていて、「これは自動車か!」と分かったりします。「今現在はここが限界だけれども、解像度を上げてズームできるようにすればいろいろ使い勝手が出てくるはずだ」と書かれていて、まさに「動くGoogle Earth」みたいなものですね。
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佐藤:
僕が代表して話すことでもないのですが、そこまでいくと結局、プライバシーや安全保障上の問題が出てくると言っていました。今は31cm四方までの写真撮影が許可されているのですが、それ以上の解像度で写すのは軍事目的以外では禁止されている場所もあるそうです。実際にはもっと高解像度でいけるのだけど、そこまで高解像度の写真は公開できないという規定があるみたいです。
G:
まさしく今回の本を見て「こういうクオリティで地上が見えるんだ」という気持ちでした。理屈的には3.11の時にデジタルグローブ社の写真を見て知ってはいたのですが、ここまで露骨に見たのは初めてでした。確かにこういう本はありそうでないですよね。
佐藤:
そうなんですよ。だからある程度完成形が見えてきたときには、専門家の方々が逆に驚いていました。
谷野:
あとは佐藤さんの力なのですが、調整テク、色の出し方もあります。「色を作っている」ということはないのですが、衛星画像の色は特殊らしくて、紙でこのように見せるには相当苦労してここに至った感じです。
佐藤:
衛星画像は面積がものすごく巨大で解像度にこだわっているので、実は色の情報はあまり必要とされていません。だから地球にデータを落とす前に極力容量をしぼっています。どういうことかと言うと、何万ピクセルという巨大な面積があるのですが、画質そのものが極限的に絞られていて、例えばRAW画像だと補正の幅があるのですが、衛星画像はデータの調整幅がペラペラです。色を少し補正するとすぐに色が転んでしまうとか、白飛びしてしまうとか、可視範囲以外のデータを極限まで削って作られているので、補正が本当に難しいです。
G:
これまで見たことがない、信じられない写真の数々でした。
佐藤:
衛星画像を撮影している人たちに言わせると「正しい色がない」そうです。どの波長をくみ取るか、という話らしいですね。
G:
完全に宇宙望遠鏡と同じ発想ですね。
佐藤:
こんなに補正の幅がないんだ、というくらい本当に特殊な作業でした。例えて言うと、解像度だけは現在の民生カメラの数千倍の性能なのに、ダイナミックレンジはiPhone以下、みたいな不思議な画像なんです。「物体の有無」の識別が至上命題で、そもそも色味はあまり重要なデータではないので、可能な限りまで絞られているようですね。
G:
説明文の内容も、写真をパッと見て分からないのでタイトルを見て、「ふーん」と思って説明文を読んで、また真ん中の写真を見てやっと理解する、みたいな感じでしたね。
佐藤:
もちろんそれも踏まえた上で、最初は説明文を上に置くか下に置くかということも考えてなるべく先に写真を見てもらって最後に説明文を読む、という感じにしました。
G:
写真によっては「面白い」を通り越して「すごい」の領域ですね。
谷野:
写真の隅までよく見てほしいですね。町や人家が写っていたりして、写真によってスケールも違っています。
G:
最後の写真は「Fujiyama」と書いてあるのを見て、「フジヤマって何だろう?ああ、富士山か!」と思いました。
佐藤:
別に「Mt. Fuji」でもよかったんですが、最後は愛着とユーモアを込めて日本にしたという感じです。世界を巡って最後は日本に帰ってくることで、「これが実際に自分が暮らす地球なんだ」というリアリティを持てるような構成にしました。子どもが見たら、すごい場所だらけでリアリティがないかもしれない。でも最後に富士山があれば、子供でも「あ、自分の暮らしている場所なんだ」という実感が持てるかなと。世界中に地名が曖昧な場所もたくさんあって、何が正式名称がよく分からない場所も結構ありました。
G:
次に、2003年に佐藤さんが開始されたサイト「X51.ORG」についてうかがいます。X51.ORGは総計で3億ページビュー近くまでアクセス数が増えていて、「不思議情報サイトの元祖」とでも言うべきサイトですが、開設した経緯を教えていただきたいです。過去のインタビューを調べた限りでは、2008年のサイゾーのインタビューで「サイトを開設したのは2003年なんですが、その当時、奇妙なニュースや情報を集めたサイトがなかったんですよ。だったら自分で作ろうと」というように答えていて、さらにwebDICEのロングインタビューでは、「大学生の頃にちょうどウェブが流行り始めたんです。まだブログという言葉がなかったときに、海外でちょっとずつブログが話題になっていたんですね。で、新しいブログ形式のシステムでつくってみようと思ってコンテンツを考えたときに、UFOとか超常現象などの話が一番好きだったから書き始めたんです」と書いてあるのですが、そのあたりをもうちょっと詳しく教えていただきたいです。
佐藤:
ほぼ過去のインタビュー通りではあるのですが、別に目的意識を持って立ち上げたというわけではないです。
G:
そういう情報に対して子どもの頃から興味があったという感じですか?
佐藤:
子どもの頃はオカルト的なものがみんな好きじゃないですか。1980年~90年代にそういうテレビ番組がたくさんあったことも影響しています。今でこそ、例えば普通のニュース番組の中にも「民家に隕石が落ちた」というような話題が結構混じっていますが、日本のネット黎明期にはそういうニュースがありませんでした。商業価値のないニュースがそんなに翻訳されなかったのだと思うのですが、ましてや「どこかのおばあちゃんが幽霊から何かをもらった」とか、いわゆる海外のこぼれ話のようなものは日本にほとんど来ませんでした。僕はそういうニュースがすごく好きで、サイトで扱いはじめたのですが、2年くらい経ったあたりから、ロイターの「世界のこぼれ話(oddlyEnough)」というセクションをエキサイトニュースが取り上げはじめました。多分、エキサイトニュースがこぼれ話を取り上げはじめたのも、もともと個人ブログをやっていた人たちが会社の中で扱いはじめたのではないかなと思います。そういったニュースは割とアクセスが多くて、「PVを得る価値がある」と企業が認めはじめたのが2004年~2005年ぐらいだと思います。今でこそゴシップニュースの方が中心になっているくらいの世の中ですが、当時はまだそういうニュースがありませんでした。僕は当時アメリカに住んでいて、日本のニュースに比べて海外のニュースの方が面白いなという気持ちは常々ありました。
G:
アメリカに住んでいたという話が出ましたが、Wikipediaには「佐藤さんが北米在住時にX51.ORGを開設した」と書いてあったのですが北米に元々住んでいたのですか?それとも日本から北米に行ったのでしょうか?
佐藤:
もともとは日本で大学を卒業した後で、アメリカの大学に行ったのが2003年くらいでした。
G:
それでアメリカのニュースサイトをよく見ていた、ということですね。
佐藤:
そうですね。
G:
僕はX51.ORGが始まってから更新が止まるまでずっと読んでいたんですけれども、「X51」というのは一体どういう意味なんですか?
佐藤:
ありがとうございます。由来はいろいろとあるのですが、「エリア51」の存在がまず一番大きいです。よく「後付けじゃないか?」と言われるのですが、初めからあるんです(笑)。後付けとしての意味では、当時テレビで放送されていた超常現象番組で「信奉派と否定派の討論」という見せ方しかなく、僕のスタンスとしては「フィフティー・フィフティーだけれども51%くらいは信じています」という意だったり、いろいろな意味を含んでいますよ。他には、人間のDNAのらせん構造が判明したX線写真はたまたま撮影された「51番目」の写真だったという話があって、サイトでいつか取り上げようと思っていてまだ取り上げていないですね。
G:
サイト名の読みは「ごーいち」か「ごじゅういち」なのか、何と読むのでしょう?
佐藤:
読者には「ごーいち」と呼ばれていることもありますけれど、僕は「エリア51」から取って「ごじゅういち」だと思っています。
G:
X51.ORGをずっと読んでいていつも気になっていたのが、3文字のドメインが非常にめずらしく、どうやって取ったのかなという点です。普通に空いていたのでしょうか?
佐藤:
普通に空いていましたね。取ったのは2002年くらいだったような気がします。
G:
ドメインを取った時は、サイトの中身はまだ詳しく考えていなかったのですか?
佐藤:
もともと、僕は2001年に大学を卒業して、卒業後にみんなと別れても連絡が取れるような掲示板を作ろうという話をしていました。当時はウェブ関係のバイトをやっていてPerlも書けたので、2ちゃんねるのスクリプトを改造して掲示板を作りました。ただ、2ちゃんねるはコンテンツがオタク寄りなので、「いわゆるアートとかWIRED的な話題を扱うような掲示板を作れたら面白いよね」と友達と話して、掲示板を立ち上げたのが大学の卒業式の日でした。そうしたら掲示板にだんだん人が来るようになって、何かドメインを取った方がいいかなと思って調べたらたまたま3文字のドメインが空いていた、という感じですね。ブログが流行してからはブログのシステムをインストールしましたが、最初は2ちゃんねる式掲示板のようなものを作っていました。
G:
アスキーの記事には「X51.ORGの更新システムにMovableTypeを使っている」と書いてあったのですが、どういう基準でMovableTypeを選んだのでしょうか?当時MovableTypeが流行していたというのが一番大きいと思いますが、実際の理由は何ですか?
佐藤:
流行していたというよりも、当時はMovableTypeしかなかったですね。有名無名なシステムはたくさんあって、僕もいくつか試しましたが、当時まだバージョン2か3だったMovableTypeが一番スタンダードになっていくぞ、という流れを感じました。2003年に初めてWIREDで「海外でウェブログ、ブログが流行っている」というニュースが出てきて、その中でサーバインストール型のものを探したらMovableTypeがよさそうだと思いました。GIGAZINEのシステムはExpressionEngineを使っていますよね?
G:
そうですね。当時、僕も同じようにして調べたときに、MovableTypeにするかExpressionEngineにするかと考えました。佐藤さんがまさしく以前のインタビューでお答えになっていた「再構築の時のCPU」にGIGAZINEの過去ログを全部放り込むと耐えられなくて、かといって動的生成のWordPressにすると通常時のリソースが必要になってくるので、半動的生成みたいなシステムが当時ExpressionEngineだったので選んだという感じですね。
佐藤:
ExpressionEngineも、その前に何かありましたよね。
G:
「pMachine」という名前でしたね。
佐藤:
そうそう。あのあたりが当時争っていてExpressionEngineになったのですが、ExpressionEngineは結構高いですよね?
G:
最初は十数万円でしたが、僕が買ったときは1万円台に突然値下がりしたこともあって選びました。
佐藤:
僕も2007年あたりにExpressionEngineを試したのですが、いかんせんサイトが完成してしまっていたのでコンバートが難しくて、サードパーティ製プラグインもあまりなかったので結局断念しました。CMSは結構いろいろ試しましたね。
G:
なるほど。続いて、こんなことは聞かれたくないかもしれないのですが、こういう機会でもないと聞けないので質問します。2014年3月25日のX51.ORGの記事には「いずれは何らかの形でサイトを再開し、奇界遺産とX51.ORGを統合してよくわからない何かが作れればと考えている」と書いてあったり、アスキーの2007年のインタビューでも「最後にはウェブに戻りたいと思っています」と答えていたりしますが、X51.ORGの更新が止まったのは仕事が忙しいからという以外に、何かモチベーション的な理由があったのでしょうか?
佐藤:
そうですね……今でこそ「ブログで食べていく」とか「ニュースサイトを運営して仕事でやっていく」というのは成り立っている話ですが、僕が更新をやめた2007年くらいは仕事で成り立つのかどうかが結構曖昧でした。昔のサイト管理人やブロガーは、今で言えばYouTuberみたいなものですから。海外でも「専業ブロガーは成立するか」とkottke.orgで有名なJason Kottkeという人が実験してたり、世界的にもウェブサイトを仕事にするというのはまだ実験的な時期だったのだと思います。個人ニュースなのか企業運営ニュースなのか分からないサイトが出始めた頃で、僕の場合は特に1人でやっていたのでサイト自体、ひとつの作品というか、本を作るような感覚で作っていたので、ニュースの内容を考えても組織化してみんなでガツガツ取材に行くというような方向は考えられなかった。だから「このまま続けていってどういう風になるかな」と考えたらそこまでやりたいことが見えなかった、というのがあります。あとは、猫も杓子もみんなネットになってくると「だったら紙やろ」みたいな感じがありました。
G:
「逆張り」みたいな感じですね。
佐藤:
そうですね。この前、文庫版の「空飛ぶ円盤が墜落した町へ: X51.ORG THE ODYSSEY北南米編」と「ヒマラヤに雪男を探す: X51.ORG THE ODYSSEYアジア編」のあとがきにその話を書いたので、もし良かったら読んでみてください。
G:
少し話がずれますが、Twitter、Facebook、Instagramでアカウントを持っておられて、ものすごい勢いで更新されています。2014年あたりまでさかのぼって見てもずっと更新され続けているのですが、いつごろから更新しようと思ったのでしょうか?
佐藤:
そんなにすごい勢いというほどではないと思います。最近ちょっと多いかな?というくらいですね。Twitterは登録したのが2007年あたりで、一度確認してみたところ津田大介さんと同時期で、かなりのアーリーアダプターだと思います(笑)。でも、ツイート数がやっと1000を超えたくらいです。
G:
ここ最近で突然更新が多くなったのですね。
佐藤:
告知でツイートが増えたくらいで、Instagramも150くらいしか投稿していないので一般的なユーザーに比べると少ない方だと思います。
G:
ひとつあたりの投稿が濃厚なのでそう見えるのかもしれません。
佐藤:
とりあえずアカウントを取るだけ取っておいて放置、ということはよくありますね。
G:
アカウントも全て「X51」になっているのがすごいですね。かなり最初の方に取ったのかなという印象です。
佐藤:
SNSは2013年~2014年くらいから告知の方向に切り替えてやっています。
G:
Instagramに「タイにて9月発売の本の校了作業しつつ、次の本の撮影」という投稿があったのですが、世界各地を視察しながら現地でそのまま仕事をするというスタイルなのか、それともたまたま出先で仕事をせざるを得なかっただけなのでしょうか?
佐藤:
「ノマドワーカー」というつもりはないのですが(笑)、今回の本に関しては、作業が佳境に入っていた5月はチェルノブイリに行ったりヨーロッパを転々としたり、6月中はイースター島にいたりバヌアツやタヒチに行ったり、8月はタイと台湾に行ったりして、各地で仕事をしながら、谷野さんには相当ご迷惑をおかけしました。どうしても本の制作中に雑誌の取材依頼などが入ってしまうので、必然的に視察先で仕事をするという風になってしまいました。イースター島は本当に大変でしたね。
谷野:
日曜日に公園にいたらイースター島から電話がかかってくる、という奇妙な日々でした。「夜になるとネットがだめっぽい」みたいな連絡が来て。
G:
ネットがだめっぽい?
佐藤:
それも皮肉な話なのですが、人工衛星に頼りながら人工衛星の本を作るという奇妙な状況が続きました。イースター島やバヌアツの離島はまさに人工通信衛星経由でインターネットにつながっていて、衛星が地球の影に入ってしまう時間帯は島全体でネットがつながらない。要は島全体で巨大なパラボラアンテナをシェアしているような感じで、基本的に速度がものすごく遅くて、データのやり取りやゲラの確認ができなかったりしました。
谷野:
今回の本は画像が超高解像度で容量がバカでかいんです。1枚64GBの写真を海外でダウンロードして調整して日本に送ってもらう、といった常軌を逸した作業がありました。
佐藤:
あとは、例えばイースター島にいたときは「ここの火山が面白いから座標を送るので、衛星写真で確認してください」と谷野さんに連絡を送って、写真を探してもらったりもしました。
G:
それはすごいですね!佐藤さんはインタビューごとに肩書きがコロコロ変わっていて、一番新しいインタビューには「奇界遺産フォトグラファー」と書かれていました。
佐藤:
「奇界遺産フォトグラファー」は僕が名乗っているわけではなく、テレビ番組がつけたものだと思います。基本的に肩書きにはこだわっていなくて、普通に「フォトグラファー」と言っています。
G:
現地に行って撮影するというのが活動のベース、ということでしょうか?
佐藤:
そうですね。そういう意味では、今回の本は「フォトグラファー」というより「編集」みたいな感じです。
G:
実際に世界中に足を運んで撮影しているのを見てふと思ったのが、写真撮影に一体何の機材を使っているのかというところです。
佐藤:
今日ちょうど実際の機材を持ってきたのですが、そんなに変わった物は使っていないですよ。ほとんどの場合はキヤノンのEOS-1D X、ソニーのα7R II、ライカM-Pの3台を使い分けています。
G:
結構いろいろ使うのですね。
佐藤:
オールマイティで撮れるのはキヤノンで、雨とか風にも強くて連写も速くて感度も強く、何でも撮れてソツがない絵を出せるので一番使用頻度が高いです。旅雑誌など、味のある写真を求められる時はライカだけで撮ったりしますね。α7R IIには、ライカのレンズをつけているのですが……こんなマニアックな話をしても大丈夫ですか?
G:
大丈夫ですよ。
佐藤:
アダプターが進化してソニーのカメラでキヤノンのレンズが普通に使えるようになったので、基本的にはこの3台のうち2台を持っていきます。カメラに関しては結構オタクだと思いますね。たまにカメラ雑誌にレビュー記事を書いたり、ライカの本にも寄稿していたりします。
G:
今の組み合わせにたどり着くまではどんな感じでしたか?
佐藤:
ずっと、ライカかキヤノンでやっていました。多分、市場で一番個性的なカメラと、一番汎用的なカメラですね。ただ数年前からは「これからソニーの時代になる」と思っていたのが最近本当にそうなりつつあります。フィルムからデジタルになると結局カメラも「家電」なので、そうなると家電メーカーの方がやっぱり強い部分は多々あります。キヤノンやライカは昔のレンズ資産が多いから有利なのですが、多すぎるがゆえに新しいセンサーを搭載してもレンズがついていけなくて、レンズをアップデートしようとすると大変なんですよ。ニコンもそうですね。逆にソニーは資産がなくてゼロから、それもミノルタの資産とツァイスのライセンス下で作っているので、レンズのクオリティもある程度高い。コンシューマー全体ではやはり安心感でキヤノンが強いですが、ハイアマチュア向けのカメラ需要はソニーの注目度がだいぶ高まっている感じですね。まだキヤノンやニコンほど個性というか色が定まっていないので、プロは避けている感じもありますが。
G:
ソニーからは「本体がレンズ型のカメラ」とかも出ていますね。
佐藤:
あのQX100は、ちょうどカリブ海を巡りながらプロモーション用の撮影をやらせてもらったのですが、斬新すぎて使いこなすのがなかなか大変でした(笑)。
G:
(笑)
佐藤:
火山の噴火やジャングルなど、過酷な環境で押さえなきゃいけない瞬間がある時はキヤノンのEOS-1D X、今回のタヒチとかバヌアツなどの人物やドキュメンタリー的な写真を撮る時はライカM-Pで、サブにアダプタでどちらのレンズも付けられるソニーのα7R IIを持って行く、というのが今のスタイルですね。フィルムもごくたまに使うので自宅にはCP32という現像機もありますが、最近は仕事ではほとんど使わないですね。あとは11インチのMacBookです。
G:
おおー。
佐藤:
別に「おおー」と言われるほどのものでもないですけど(笑)
谷野:
久々にそのリンゴシールを見ました(笑)
G:
昔からずっとMac派なのですか?
佐藤:
大学の時は両刀遣いで、Vistaが出るあたりまではThinkPadとMacを両方使っていました。OS XがだいぶよくなってからMac一本ですね。
谷野:
あとは最近、DJIのドローンが佐藤さんの武器となっていますよね。
佐藤:
「DJI Inspire 1」ですね。
G:
編集部でもInspire 1を買おうかなと思っているのですが、佐藤さんはいつ頃からドローンを使おうと思ったのでしょうか?
佐藤:
2015年に入ってからですね。
G:
実際にドローンを撮影に使ってみて、どんな印象ですか?
佐藤:
テレビみたいに、そこまで解像度が求められない媒体ではなんとか使えますが、動画はともかく、写真はまだちょっと弱いかなという感じですね。「コンデジで撮ったいい写真」くらいの画質なので、写真集にまで使えるかというと微妙かなという印象です。しかしそれも時間の問題だと思います。
実際に、佐藤さんがInspire 1を使って撮影したという、南国の港を空撮した写真は以下のようになっています。
G:
どのようなものを撮るときにドローンを使ってみようと思ったのですか?
佐藤:
そういうシチュエーションは本当に多々あるんです。例えば、昔はヘリコプターをチャーターして空撮できないかなと考えて問い合わせてみても、「空撮はできるがコストがものすごく高いから無理だ」ということがよくありました。そういう時にはドローンがあるといいなと思います。
G:
cakesに載っている2015年1月のインタビューを見ると、GoProも使っていると書いてあったのですが、GoProはどのような場所で使っていますか?
佐藤:
GoProは取材場所によって持っていくこともありますが、いまのところ画として使ったことはないですね。
G:
GoProは今後、どういう使い方を想定しているのでしょうか?
佐藤:
洞窟の中や、水中ですね。
G:
なるほど。ドローンやGoProなど、新しめの機材も使う方針なのですね。
佐藤:
そうですね。僕は割と新しいもの好きです。「プロ」というと、いかんせん保守的になりがちだと思います。若い人たちがドローンやGoProを使っていると「そんなものは写真じゃない」と言われがちですが、実際に今はハイアマチュアの方が面白い写真を撮っています。例えばロシアで高所から人がぶら下がっている写真があって、いい写真か面白い写真かという議論は置いておいて、「今まで撮れなかった画を撮っている」ということに対しては注視しておきたいと思います。
佐藤:
日本の写真業界は、はっきり言って保守的で、デジタル化で誰でもそこそこ写真が撮れるようになった今では、もはや「写真家」というアイデンティティを保つためだけにフィルムで撮っている人もいます。でも最近ではどこまでを「フォトグラファー」の仕事と呼ぶのかはだいぶ曖昧になっています。例えばドローンで撮影するのはフォトグラファーと呼べるのかとか、写真を撮影せずにエディットするのはフォトグラファーの仕事と呼べるのかとか。現代美術の世界でも有名なアンドレアス・グルスキーやトーマス・ルフも、今回の本と同じように人工衛星が撮影した写真をスティッチしたり編集して、それを作品として発表していますからね。今作でも、そういう写真界の動向みたいな文脈は多少踏まえているつもりです。なので、僕としてはいい意味でフラフラしていろいろ試したいというのがあります。
G:
Twitterの投稿で「昔はエリア51に行こうと思ったら、アメリカの怪しい掲示板に書いてある投稿を見てやっと行き方が分かったけれども、今だったらスマートフォンのGPSでサクッと行けていいね」と書いてあったのですが、スマートフォンは何を使っているのでしょうか?
佐藤:
iPhone 6 Plusです。昔は結構PDAオタクで、HP200LXという折りたたみのPDAの時代から使っていて、ニューヨークにいる時はTreo 600やPalm、Nokia 9500も使っていましたね。
G:
それはすごいですね。ありとあらゆる端末を渡り歩いているのですね。
佐藤:
そういうことはとっくにやっていたので、今頃になって世間で「SIMフリーがいい」とか無条件に信奉されているのを見ると、「そうかなあ……」と思いますね(笑)。ただ、昔はSIMフリーの携帯電話と普通の携帯電話の2台を海外に持って行っていましたが、今はWi-Fiも普及してきたのでSIMフリー的な部分はiPadに任せています。日本のiPadはキャリアで買っても海外に持っていくとSIMフリー端末として使えます。常々不思議なのが、「海外によく行く人はSIMフリー端末がいい」と言うじゃないですか。だけど海外でSIMを差し替えてしまうと日本からの着信を受けられない。完全にバカンスで海外に行く人だったらいいかもしれないけれど、みんな何となくファッションで「SIMフリー」って言っているのでは?と思います。
G:
(笑)
佐藤:
バックパッカーとかならともかく、仕事で行く人だったら、海外で電話を一切受けられないという状況は困るはずですから。
G:
確かにありえないですね。
佐藤:
だから、仕事で行く人は、海外に行くなら携帯電話を2台持たないといけないと思います。今は海外でも1日980円で数MB使い放題になっているので、僕は日本の携帯電話をそのまま持って行っています。よっぽど長期で滞在する場合だけSIMカードを買ってiPadに入れたりしますね。あとは安全上の理由があります。海外のプリペイドSIMだと、たまに場所によっては圏外になったり、制限を超えるとパケット通信もできなくなりますが、ローミング前提ならば電波がある限りはだいたいどれかのキャリアには繋がるので、万が一、人気のない場所で迷ってマップが必要になるなど、緊急時に備えて国内の回線は確保しておいた方が安全だと思います。
G:
確かにX51.ORGを見ている段階から「割と分かって書いているな」みたいなことがちらほらと見えていたんですが、なるほどそういうことなのですね。先ほどの続きになりますが、Twitterで「エリア51は10年以上前初めて行った時には海外の怪しいUFO掲示板で行き方を聞いてどうにかたどり着く感じだったものの、最近ではラスベガスからのツアーさえある。が、今でも警備は当然厳しく、立入禁止看板をわずかでも過ぎると罰金650ドル、車の撤去に1200ドルが取られる」と投稿が印象的でした。スマホのGPSと地図の連携などができるようになったからこそ行きやすくなった場所はありますか?
佐藤:
エリア51もそうですし、それこそ今は廃虚でも、そもそも山の中で住所もない場所だったりしても座標で出ますよね。
G:
むしろGPSやスマホのない時代はどうやって場所を突き止めて行っていたのですか?
佐藤:
もう本当に地図だけですね。
G:
エリア51だと今でこそ「ココだ」と露骨に分かっていますけれども、「掲示板で聞いてどうにかたどり着いた」というのも、地図の情報と照らし合わせて足でかせいだ、という感じでしょうか。
佐藤:
本当にそうでしたね。近くまで行って、聞いて、また歩いて……という繰り返しです。大体近づくと現地の人が「ああ、こっちに行けばあるよ」と話してくれます。
G:
エリア51に初めて行った時はどんな感じだったのですか?
佐藤:
そうですね……当時は本当に物好き、UFO好きな人しか行っていなかったので、緊張感がすごかったですね。緊張感もあるし、「ああ、本当にあるんだ……」という感動もありました。今でこそ、そんなにレア感がないですが、当時どのくらい人が行っていなかったかというと、僕がFlickrに上げていたのエリア51の立入禁止場所の写真を英語版Wikipediaの編集者が見て、「使わせてほしい」と僕に連絡が来たくらいです。だから、今、世界各国のWikipediaの「エリア51」のページに僕の写真が掲載されていますよ(笑)
File:Wfm x51 area51 warningsign.jpg - Wikipedia, the free encyclopedia
https://en.wikipedia.org/wiki/File:Wfm_x51_area51_warningsign.jpg
G:
そうなんですか!
佐藤:
つまり何が言いたいかというと、そのくらいまともに行っている人が少なかったです。しかも写真がちゃんと撮られていなかったということで「レアな場所」と言えます。
G:
確かに当時のX51.ORGの記事の中身は、「実際に行って写真を撮った」みたいな内容が割と多くて、「ああすごいな、本当に行くんだ」という感じが当時からありました。今の読者にしてみれば「何がすごいの?」と思われるかもしれないのですが、今おっしゃったように当時は「実際に自分の足で行く」というのは大変でしたよね?
佐藤:
いやあ、大変でしたね。
G:
そういう大変さが今の若者にはあまり通じないのかなと思いますが、逆にいつ頃からハードルが下がってきたのでしょうか?
佐藤:
いつでしょうね……2010年くらいから急にテレビなどで海外ブームが起こって、いわゆる「絶景」とかが流行しはじめて、「奇界遺産」の本が売れた理由も無関係ではないです。何がキッカケなんでしょうね……多分、日本だけではないと思うのですが、ネットで海外のすごい景色をみんなが見られるようになって、例えばTV番組を作っているリサーチャーがそういう景色を見てテレビ番組に出すと、視聴者が行きたいというようになり、出版の方もそういう場所を見てストックフォトを探して「じゃあこれで1冊作ろう」みたいな話になります。直接のキッカケはないと思うのですが、ネットによって漠然と世の中に「海外にきれいな景色がある」ということが盛り上がったのでしょう。ソーシャルメディアの影響もあると思います。
G:
確かに言われてみればGIGAZINEでも2010年頃から突然、絶景風景系記事に問い合わせが急激に増えはじめて、今もそういう連絡が来ています。GIGAZINEの場合は記事に元ソースがあるので、「GIGAZINEに許諾を取りに来るのではなく元ソースに連絡してね」と言っていますね。
佐藤:
その連絡を返すだけ親切ですね。業者の問い合わせは、僕はほとんど無視してしまいますね(笑)。
G:
GIGAZINEでは問い合わせが来たら「どういう風に使うのか」を聞いています。大体は風景の写真を使いたいということが多く、GIGAZINEが撮影したものであれば許諾が出せるのですが、例えばWikipediaやFlickrの場合はCCライセンスにのっとって使えばいいので、「うちに問い合わせないでね」と返していますね。
佐藤:
でも、そこまで教えるだけすごく親切だと思います。テレビの人はCCライセンスとか高尚な話が分からないですから。
G:
テレビ番組のワイドショーで新聞の紙面を貼り付けて解説するような扱い方で、「GIGAZINEでこういう記事が取り上げられてます」という感じであればギリギリGIGAZINEの権利の範疇で出せるので、そうやって回避しているテレビ番組も割とありますね。あと、以前までは「完成版のテープを送ってくれ」と言っていたのですけれども、言っても全然来ないので、「どこの番組でいつの時間に放送しているのか」という情報も申請してもらうようにしています。慣れているところは最初からFAXでそういう情報を送ってくることもあります。そうしてやっていると向こうもだんだん賢くなってくるので、ある時期以降は問い合わせの量が減ってきました。読者からタレコミがあったのが、どこかの2時間番組で最初から最後まで全部GIGAZINEのネタだけで作ったものがあって、「よくこんな放送が通ったな!」とビックリしましたね。
佐藤:
全然ありますよ。
G:
それに比べると最近は常識的なADさんも増えてきたみたいなので、時代の進歩みたいなものを感じますね。
佐藤:
ADの中には若くてネットネイティブな子もいますからね。でもやっぱり、話が通じない人は多いですね。
G:
昔だったら普通にGmailで連絡が来て、「いや、Gmailで来てもどこの誰か分からないので名乗ってもらえませんか」みたいなことが割とありました。
佐藤:
Yahoo!メールで連絡が来ると、何かげんなりしますね(笑)
G:
しかも「テレビ局の○○デスクです」みたいに名乗られても、「本当にテレビ局かどうか、どうやって確認できるの?」ということが割とありました。今でも慣れていないところだと、18時にメールが来て「19時のニュースに使いたいので今すぐ連絡ください」という連絡がありますね。「間に合うわけないじゃん!」みたいな。でも速攻で使いたいニュース番組系の場合は問い合わせが結構ありますね。GIGAZINEのヘッドラインに入っているTwitterの埋め込みを使いたいと言われても、「そのTwitterユーザーに直接聞いてよ」としか言えません。Twitterを見に行ってみると、案の定ユーザーに頼んでいるけれども返事が来なくてもう時間がない、ということがあったりするので、そのあたりは時代を感じますね。
佐藤:
あとはメールで連絡が来て「こちらに電話をください」みたいな問い合わせはしょっちゅうあります(笑)。
G:
また話がずれますが、トカナのインタビューで「行きたい場所はほぼ行った」と答えている一方で、それでも「今回も行こうとした場所がいくつか断られました。またいずれは、という形になるかもしれませんが…」とも答えているのですが、行きたいが断られてしまった場所というのはどこですか?
佐藤:
主に少数民族系の場所で、立ち入りに許可が必要なところです。申請しないといけなくて、その申請期間が間に合わないとか、予算がすごくかかるとか、そういうことですね。
G:
そのあたりの場所はいつか機会があれば行きたいと考えているのでしょうか?
佐藤:
はい。
G:
「行きたい場所はほぼ行った」というのは、何年間かかって行きたい場所を行き尽くしたのですか?
佐藤:
ほぼ行ったかどうかは分からないですが、最近は場所を思い浮かべようとしてもパッと思い浮かばないくらいには、ある程度行きました。海外に行き始めたのがちょうどサイトを始めた2003年くらいからなので、かれこれ10年くらいという感じですね。
G:
やはり10年くらいかかるのですね。年によって違うとは思いますが、一番激しく行き来した年だと、海外にどれくらいの期間滞在していますか?
佐藤:
昔はそれこそ3カ月行きっぱなしとかがありましたが、今はそれなりに日本でやらないといけないこともあるので、割と行ったり帰ったりしていて、多くても半年は行かないですね。のべ4~5カ月くらいだと思います。
G:
それでもすごいですね!海外に行く時に「一人旅の心得」のような、準備で気をつける装備などはありますか?
佐藤:
よく聞かれるのですが、僕は装備に関しては、なるべく特殊なものを持たないという主義です。
G:
特殊なものを持たない、というと?
佐藤:
特殊なギアに頼らないというか……「これがないとダメ」みたいなものを作ってしまうと、それがなくなることが怖いじゃないですか。コンタクトレンズにしないのもそれが理由です。
G:
なるほどなるほど。できるだけ汎用的なものを使う感じですね。
佐藤:
そうです。「汎用」がキーワードで、どこの国に行っても代替が効くものです。カメラとかは仕方ないですけどね。いつも海外に持っていくものも、結局洋服とカメラくらいで、それ以外の歯ブラシとかは現地で買ってしまったりします。あと、抗生物質は持って行った方がいいという感じがします。
G:
要するに、現地で絶対に調達できないようなものを持っていて、現地で買えるものは現地で買ってしまうということですね。
佐藤:
最近は割とそういうことが多いですね。飛行機に乗るときも小さめのキャリーとカバンだけで、両方預け入れ荷物にせずに持って行くことが多いですね。
G:
割と身軽な感じでしょうか?
佐藤:
身軽な方だとは思いますね。
G:
あと、先ほどから気になっていたのですが、時計がえらくゴツイですね。
佐藤:
これはG-SHOCK製で、衛星を使って時刻がどこでも合うという腕時計ですが、これが全然衛星を拾ってくれず……(笑)。このボタンをピッと押せば世界中どこでもGPSデータを受信して時刻が合うという機能があるのですが、今まで時刻が合った試しがないです(笑)
G:
(笑)
佐藤:
買う前に価格.comで見たらいいレビューがついていたのですが、1人だけすごく怒っているおじさんがいて、「これを作った人は海外で本当に使ったのか?」と言って逆に愛好者たちから批判されていました。海外に持って行ったら見事におじさんの書いていた通りで(笑)。実際に海外で使うと本当に受信が悪くてビックリしました。2015年5月~8月の3ヶ月だけでも合計10カ国くらい行きましたが、結局いつも手動で合わせていて、ただのデカイ時計という感じです(笑)
G:
時計としては丈夫だからいいかな、という話になりますね(笑)。丈夫といえば、2010年のサイゾーのインタビューで、世界の奇妙な場所へ行く際にアドバイスはあるかと問われて「やっぱり死んだら終わりなので、無茶はしないことと、野犬に注意ってことですね」と答えていますが、最後の「野犬に注意」というのは、何かそういう出来事があったのですか?
佐藤:
野犬は結構よくあることなのですが、昔はアジアの農村に行ったら野犬に囲まれて、というシチュエーションが本当にありました。この前もタヒチの海沿いの廃虚に行った時に、行きは何もなかったのに帰ろうとした瞬間、犬にぶわーっと囲まれました。狂犬みたいなのが向こうから走ってくるんですよ。
G:
それは怖いですね。
佐藤:
本当に怖いですよ。
G:
そういう時はどうするのですか?
佐藤:
たいていは、木の棒を持って振ります。あとは石を投げるとか、対処法は本当にそれくらいしかないですね。犬もビビっているので、こちらが一瞬でもビビった態度を取ってしまうと、おびえているのが見えて途端にガッと来ますから、「こちらは全然平気だ」という態度を示すことですね。それだけの話ですけど、あれは本当に怖いです。なぜ怖いかというと、狂犬病があるからです。
G:
海外に行く前にワクチンや予防接種など、打てるものは全部打ってから行く感じですか?
佐藤:
黄熱病とかは打っていますが、そこまで網羅してはいないです。
G:
行く場所が行く場所だというのもあると思うのですが、野犬の他にも危険なことはあるのでしょうか?
佐藤:
普通の人は別にそういう場所に行かないじゃないですか。例えば「中東に行って銃を持った民兵に何か聞かれた時にどうしたらいいか」とかそういうレベルの話をしても、何の参考にもならないし……。
G:
参考程度に聞きたいのですが、銃を持った民兵に遭遇した場合はどうするのですか?
佐藤:
僕もどうしたらいいかは分からないですが(笑)、とにかくビビらないことですね。ビビらないというか、どこに行ってもオドオドしないことは大事です。「ここは入ったらマズイんじゃないか」みたいな場所に入っても、見つかった時に毅然(きぜん)としていることが大事で、そこでビビってしまうと「何やってんだ」という話になってしまいます。そういう「慣れ」みたいなものがいりますね。自分でも感覚的な話なのであまりうまく言えないです。
G:
ビビらないことが基本、という感じですね。
佐藤:
そうですね。「ここは写真を撮っちゃいけないのかな」みたいな場所でも、写真を撮っている時の立ち振る舞い方があると思います。慣れない人がビクビクしながら写真を撮っているとすぐに囲まれて「何をやっているんだ」という話になるけれど、堂々と撮っていると、少なくとも観光ではないとは伝わるので、相手も相応の態度で注意してくるというか。そういう話は経験でしかないので、何とも言えないですけどね。
G:
いろいろな場所の記事を読んでいていつも不思議に思っているのですが、現地の言葉はある程度勉強してから行くのでしょうか?
佐藤:
よっぽど長期でいる場合でないと、ほとんどしないですね。極力英語だけで通すようにしています。なまじ現地語で質問しても、答えられたらサッパリ分からないじゃないですか。
G:
英語だけでも割とコミュニケーションができてしまう感じですか?
佐藤:
そうですね。でも、例えば南米に行った時は、タクシーの運転手とかレストランで出会ったおばちゃんとか、英語を話せる人をその場で見つけて、「ちょっと明日ここに行くんだけど、お金払うから一緒に来てくれない?」みたいに言うと、割とついてきてくれます。タクシーの運転手に頼むパターンはよくありますね。ホテルで英語を話せる運転手を手配してもらって一緒に行くと、運転手が現地で通訳になってくれます。基本的に行く場所が変わったところが多いせいで、タクシーの運転手が「俺も知らなかったから見に行きたい」というので、そういう人についでに翻訳してもらう、というパターンが多いですね。
G:
本日は非常に面白い話を聞かせていただいてありがとうございました。
なお、「SATELLITE」は2015年9月18日発売で、記事作成時点ではAmazonなどで予約受付中となっています。
Amazon.co.jp: SATELLITE (サテライト): 佐藤健寿: 本
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