インタビュー

大友克洋監督に「SHORT PEACE 火要鎮」の映像表現の凄さを語ってもらった


7月20日に公開されるオムニバスアニメ映画「SHORT PEACE」の一編で、大友克洋監督が担当した「火要鎮」は江戸の大火を舞台にしたスペクタクル作品となっています。第17回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞にもなった本作品の、昔ながらの日本画や絵巻物っぽさをモチーフとしたこだわりの映像表現や、大友監督のネタ作りのコツや次の予定など、いろいろなお話を聞いてきました。

映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト
http://shortpeace-movie.com/jp/



火要鎮 PV - YouTube


GIGAZINE(以下、G):
「火要鎮」を見たとき、絵巻物語風という感じがしたと同時に、普通の遠近法とは違って逆向きの逆遠近法を使っているシーン、つまり奥行きのあるところでだんだん小さくなるんじゃなくてほとんど平行みたいな感じになるっていうところがあったんですが。

大友克洋(以下、大友):
平行パースですね。

G:
あれを使ってるシーンとそうではないシーンとは、どういう区別を付けていたんですか?

大友:
前半は商家の娘であるお若の静かなシーンになるので、なるべく絵巻物風にやりたかったっていうことと、後半はアクションになるので普通に戻したというか、カメラが進んだりしますからね。他の部分はほとんどミックスになっていて、前の方ではフィックスとか横ロールとかにしました。前半の「静」と後半の「動」というように分けている感じですかね。

「火要鎮 PV」より、平行パースになっている部分。


こちらは通常パース。窓の桟に注目してみると、違いが分かるかも。


G:
なるほど、そういった違いがあるんですね。途中辺りに出てくるわりと重要なシーンでは扇を投げる投扇興が出てきましたが、どういうきっかけで投扇興を使おうと思ったんですか?

大友:
お若が最初の方にすごろくをやっていたりしますからね。一応、当時の町人でもかなりお金持ちという設定なので、少し公家か宮様のような意外な遊びを教わったりしているんだろうなということで使いました。

G:
制作にあたっては作品全体のプロットを作って作業していると思いますが、そのときにイメージしていたよりも実際にやってみたらうまくできた、あるいはイメージ通りにできたという部分はどのあたりでしょうか。

大友:
それはどこだろうな……火消しが屋根に上っていって、その向こう側に火事の炎が出てくるところは絵コンテで描いて、レイアウトも自分でやっているんですけれど後で直したんですよ。最初は普通に火事だったんですけど、火事の様子がもっと絶望的じゃないといけないなと思ってね。


G:
「絶望的」ですか(笑)

大友:
そうそう、普通に燃えてるんじゃなくて「燃え尽くされてる」みたいな感じにした。あれはよく出来たかもしれないね。

「火要鎮」より、絶望的な火事の様子。


G:
そのために実際に参考にしたものもあるんですか?

大友:
資料写真がちょっとだけあるんですけど、それを見た上で、もっと絶望的な火事にしたんですよ。

G:
炎の感じが非常に独特ですよね。煙が激しくわき出てきて、一気に襲いかかってくるような。

大友:
そうですね、あれも絵巻物風な、昔の日本画の手法をそのまま動かそうということでやりました。みんな、作業が難しそうでしたけどね(笑)


G:
普通の炎の量と違いますもんね(笑)

大友:
普通であれば止め絵で炎を表現するところなんですが、それを動かすということで、ちょっとみんな悩んでました。

G:
なるほど。では、想像していたよりも実際にやってみると難しかったというのはどの辺りですか?

大友:
さっき言った炎というのは、考えていたより難しかったですね。普通のアニメーションだと透過光を使ってもっと光らせるんですけれど、最初の炎は全部塗りなんですよ。ベタッとした、フラットな感じにしたかったので。絵巻物というのは後ろからライトを当てられるわけじゃないからベタッとしているので、そういう意味では平面的な作り方をしているかもしれませんね。


G:
見ているときに印象的だった点でいうと、体に入っている入れ墨もものすごいことになっていました。

大友:
そうですね、あれは実際描いてもらったものを回転図に起こして、それを貼りこんでいくんですけど、大変なんですよ。

G:
なるほど、それであんなにも緻密なものになっているんですね。

大友:
でも、みんな入れ墨の上から法被を着ているからもったいないんですけどね(笑)。実はちゃんと肩の所まで入れ墨が入ってるんですよ。なので、何人か肩を出しているやつがいるんです。

「火要鎮」より、出動する火消したち。


G:
そういうことだったんですね。
ここで少し話がずれるんですが、以前雑誌に別の企画でも時代劇っぽいものがあるというお話が掲載されていたのですが、この「火要鎮」とは何か関係がある作品なのでしょうか。

大友:
関係はないものですね。

G:
アイデアとしては「火要鎮」の方が先だったんですか?

大友:
えーと……覚えてないな、どっちだろう(笑) アイデアはずいぶん前からあるんですけど、思いついてもすぐには描かないので。思いつきでやると失敗するから寝かせておいて、何回思い出しても「まだできそうだな」と思うやつをやるんですよね(笑)


G:
「寝かせる」というのは、いったん作業を進めるのはやめて資料とかを集めたりするのか、それとも作業も調査もなにもしないで、ということなのか……。

大友:
1回完全に忘れてしまうくらいで良いんじゃないですか。

G:
頭を1度真っ白にするような。

大友:
そうそう。それで他のことを考えたりして、また思い出したときに「これはやれそうだな」と思うものをやるという感じにしていますね。

G:
なるほど……ということは、アイデア自体は常に浮かんで来ているのでしょうか。

大友:
何か、いっぱい来ますよ。この前も頭の中だけでやるのではしょうがないから、せめて企画書の形にはしておこうかなと思ったりして。その前にはアニメーションの企画をいっぱい出していて、なかなか決まらなかったりしますけどね(笑) 劇場用アニメーションも3本ぐらいはネタがあるんじゃないですかね。


G:
形になるものとならないものでは、どのあたりに差があるんでしょうか。「火要鎮」であれば、一気に形になって世に出てきていますけれど。

大友:
そうねぇ、どうだろう……あまりにも寝かせすぎて飽きちゃったというものもあるから、その旬を見極めるというのが難しいよね。


G:
なるほど。そのあまり古くならないようにということも気にしながらなんですね。

大友:
あとは、その時々の状況とかね。「SHORT PEACE」で何となく日本に向かい合うような作品になっているのは震災の影響もあるかもしれないです。そういう状況に応じて弾みがついて「じゃあ、あれをちゃんとやろう!」という感じになったりするんじゃないですかね。

G:
「SHORT PEACE」の場合は、企画はどのように生まれたんですか?

大友:
「SHORT PEACE」だと、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭のサイトを見たときに「自分たちも短編を作りましょうよ」ということになったんですよ。作品は10分ぐらいのショートショートということだったので、江戸モノをやりたかったので「火要鎮」を作ることになったんですが、スタッフも必要になってくるし作るからには興行も考えなければいけないので、オムニバスという形になっていったんだと思います。

G:
「江戸モノ」という点は、最初から江戸が好きであるとか、なにかきっかけとなるアイデアがあったんですか?

大友:
これよりも前に「火要鎮」は短編の漫画を描いていたからその影響もあったかもしれないし、着物の柄だと今はコンピュータでできるけど、そこまで柄を入れて着物を作るということはあんまりみんなやっていないようだったから。安藤さんがやった「GAMBO」で女の子の着物に柄が入っていますが、お若ぐらいのものになるとなかなかできないんですよ。

G:
ということは、CG技術があるからこそできた部分も強いということでしょうか。

大友:
それもありましたね。

G:
最近はいろんな技術を投入した映画が続々と作られていますが、最近見たオススメの作品などありますか?

大友:
映画ですか……見なきゃいけないんですけど、近ごろあまり見ていなくて(笑) 最近だと「岩波映画の1億フレーム」というDVD付きの本があって、羽仁進監督の「絵を描く子どもたち」というのを見ましたね。羽仁監督は「教室の子供たち」という作品も撮ってるけど、昭和30年くらいの小学校を舞台にしていて、入学式の最初のときから教室にずっとカメラとカメラマンを置いているんですよ。そうすると子どもたちがだんだんその環境に慣れてきて、カメラを意識せずに生き生きと授業を受けたり絵を描いたりしている。それを、みんなが慣れたあたりから撮り始めていて「これ、よく撮れたなぁ」と思いました。

もう1本は高村武次監督の「佐久間ダム」っていう、静岡県の天竜川に佐久間ダムを造るという戦後初の大規模工事の記録映画があるんですけど、これも面白かった。昭和30年に行われた工事を全編カラーで撮影していて、素晴らしいと思いました。ダムができる前には峡谷があって、そこに発破をかけるところから始まるんですけど、谷を全部壊して川の流れを止めて、それから穴を掘っていって岩盤まで行って、岩盤をみんなで磨いているんですよ。あれはすごい、面白いですよ。


G:
なるほど、そんな本が出ていたんですね。

大友:
教育映画というより国策映画に近いんだけど、上映したら結構ヒットしたらしくて、やっと今、この素晴らしいものがDVDに収録されているんですよ。

G:
話を聞いているだけでも非常に面白そうです。

大友:
めっちゃくちゃおもしろいよ!ほんとにおもしろい。その辺のつまんない映画を見てるよりよっぽどいい(笑)、すごいよ。みんなが知らないだけで面白いものというのはいっぱいありますよ。岩波じゃないけれど、昔からNHKの教育テレビで教育用映像のコンクールみたいなものをやっていて、地味な粘菌がどうしたこうしたとか、じわーっと動いていくやつとか、大好きだからよく見てるなぁ。あとは深海生物とか。この前のダイオウイカは素晴らしかったね。

G:
あれはすごかったです。

大友:
ああいうのが好きなんだよ。


G:
そういうことの延長線上にいろんな作品が作られているんだと思うと、わりと納得です。

大友:
別にネタ探しじゃないんだけど、面白いね。

G:
また話は変わりますけれど、映画を作るときにスタッフはどういう基準で選んで集めているんですか?

大友:
いろんな人間に話を聞いてから、頼んでみても忙しくてできないということもあるので、プロデューサーと話をしながら決めていきますね。スタッフも持ち回りみたいなもので「今は別の作品をやっているから」と言われてそれが終わるのを待ったり、その間に他の作品が動き始めてそちらへ人が流れたりとか、ありますね。上手な人間というのは数が限られていますから。


G:
取り合いになるんですね。

大友:
そうそう。みんなが年を取って作画監督とか監督になってしまい、昔みたいに気軽に声をかけられなくなってしまったのもちょっと大変なところですね。僕は若いアニメーターをあまりよく知らないので、もうちょっと出てきてもいいかなと思いますけど、そういうのは本当にアニメーターに聞かないと分からないね。アニメーターはみんなよく知ってますよ、「NARUTOのアイツが上手いですよ」とか。そういう情報を聞きながらプロデューサーと相談したり。

G:
口コミみたいなところがあるんですね。最後の質問で、今回「SHORT PEACE」の中で「火要鎮」を作ってらっしゃいますが、次回作の案は……

大友:
今、いろいろと企画を動かしているところです。今の時点では発表できないんですけど、いろいろ動いてます。

G:
期待して大丈夫ですか?

大友:
「SHORT PEACE」がヒットするかどうかも大事なところですね(笑)、皆さんから評価があれば「SHORT PEACE 2」が作れるかもしれません。


G:
では、次に繋げていくためにもこの「SHORT PEACE」をみんな見てください、ということで、本日はお話ありがとうございました。

「SHORT PEACE」は日本を舞台に、固有の文化・歴史・サブカルチャー・未来を描いた4つのショートストーリーで構成されるオムニバスアニメーション映画。オープニング映像は「アニマトリックス」などで知られる森本晃司さんが担当しています。


大友克洋監督「火要鎮」


森田修平監督「九十九」


安藤裕彰監督「GAMBO」


カトキハジメ監督「武器よさらば」


本日7月20日から大阪ステーションシティシネマやなんばパークスシネマほか全国にて公開となります。

©SHORT PEACE COMMITTEE
©KATSUHIRO OTOMO/MASH・ROOM/SHORT PEACE COMMITTEE

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