インタビュー

特撮にかける思いや「東宝式」「大映式」の違いについて川北紘一が語る


特撮界の偉人たちをゲストに招いて、後世に残すべき特撮作品について語ってもらう日本映画専門チャンネルの特別企画「特撮国宝」で、第4回・第5回ゲストとしてゴジラシリーズや「ガンヘッド」などで知られる川北紘一監督が登場します。川北監督には以前、ウルトラマンの変身シーンを生み出したエピソードをお伺いしたので、今回はまた別のエピソードについて伺ってきました。

特撮国宝|7月4日(木)よる11時スタート 3カ月限定企画、企画監修・出演:樋口真嗣|日本映画専門チャンネル
http://www.nihon-eiga.com/osusume/tokuho/



GIGAZINE(以下 G):
今回、特撮国宝で取り上げられた作品はテレビ放送されたセミドキュメンタリー「さらば海底空母-イ401」でした。

川北紘一(以下 川北):
これは懐かしいね、もう何年前だろう(笑) ずいぶん古い作品でねえ、二十数年前だと思うよ。

G:
イ401が水の中から浮上してくるところと潜行していくところ、すごく迫力ある映像で撮られていましたが、あれは結構大きなモデルを使って撮られたものなのでしょうか。

川北:
いや、モデルはそんなに大きくないんだ。司令塔があるけれど、その司令塔の半分から前だけ作ったの。


G:
おお、なるほど!

川北:
それでカメラを据えて沈めることで浮上するシーンとか潜るシーンとかを撮ってるわけ。

G:
水を割って上がってくるところを主観視点で見ると迫力がありました。

川北:
晴嵐を積んでいる部分とかも同じセットを使って、その船体のない部分が見えないように撮ったりしていて。全体が映ってるモデルはほんとに小さいんですよ。

G:
そうなんですね。

川北:
だから、海がキラキラと光っているところを潜水艦がスーッと進んでいくところなんかはすごく小さい。あれは「東宝式」というより「大映式」だから、我々がそれまで東宝でずっとやってきたやり方とは違うんだよね。大映には「あゝ零戦」とかの戦争映画シリーズや「あしやからの飛行」みたいな映画があったから。

G:
やり方というのは全然違うものなんですね。

川北:
たとえば、飛行シーンでいうと、飛行機を留めておいて回転バックを使うことで、まるで飛んでいるように見せたりする。これが意外と東宝式にはないんだよね。そういう違いがあったりするけれど、大映は大映なりにいろんな歴史があるので凄いなと思いますね。

G:
「さらば海底空母-イ401」に出てくる潜水艦もそうですが、「水は縮尺が効かない、ごまかしが効かない」という言葉があるそうですね。

川北:
うん、効かない。本来なら水飛沫はスプラッシュっていってただ単純にパシャって上げるだけなんだけれど、そうすると変になっちゃうんだよ。だから、それをごまかすために水滴を風で飛ばすことで、飛沫を少し小さくすることはできる。だから、暴風雨だったら簡単にできるわけよ。

G:
ふむふむ。

川北:
ただ、凪の海なんかでそれをしてしまうと、浮上してくるシーンならいいんだけれど、普通にザーッて飛沫が出るだけだとどうしてもスケール感が出ない。水滴と司令塔から出ている潜望鏡の大きさが一緒だったりね(笑)


G:
あぁー、それはいけない。

川北:
そういう難しいところが結構あるんだよね。そこで、さっき言ったような、ジェットファンみたいな扇風機やエアーで飛ばすことで飛沫を少し小さくするという手があるんだけれど、「さらば海底空母-イ401」ではそういうことが出来ていないんだよ。そこまでフォローし切れてない。古い作品で僕も若かったから、拙いところが多分にあるんだ。

G:
作品は晴嵐が運河を爆撃するシーンから始まったので「おっ!?な、なんだこれは!?」とインパクト抜群の出だしだったと思います。

川北:
お客さんに対するアイキャッチ的なものだよね。僕の先輩だった松本正志という方が監督をやって、宝田明さんや平田昭彦さんが出てきて、水野晴郎さんが狂言回しとして出ているという、今見ると実力ある人の揃った歴史ドラマ部分とフィクション部分と、色々な要素があって面白い作品ではあるよね。

G:
実際の乗組員の方も出演していて、今ではもう作れない作品ですよね。

川北:
当時の艦長さんが出てきていたりしたから、これはすごいなぁと思ったよ。

G:
水に続いて空の話もお伺いしたいのですが、1976年に公開された映画「大空のサムライ」でラジコンミニチュアを使用して、「あんなにも大々的に使ったのは大空のサムライが初めてだった」と。

川北:
そうねぇ、今までの東宝特撮だと「吊りのゼロ戦」って言っていて、ピアノ線で釣って動かすやり方だったんだけれど、これだとどうしてもスピード感が出ないんだよね。バーンと機銃を撃って、それが敵に当たってバッと火が噴き、本当は煙がワーッと来なければいけないのに、釣っていると弾が当たっても煙が上に行ってしまって……。だから「大空のサムライ」ではラジコンを使うことにしたんだ。ラジコンだと時速80kmから100kmぐらいのスピードが出せるので、着火したら煙がワーッって出てきて、これはいけるだろうと。


川北:
ただ、そういう目的の方はうまくいったんだけれど、実際にはラジオコントロールというのはその当時、あまり精度が良くなかったんだよ。ラジコンを飛ばせる場所が少ないから伊豆の海岸でやったんだけれど、漁船や海上保安庁の無線と混信しちゃって、飛ばすとまず止まらない(笑) 実際に飛ばして何機くらい戻ってきたかなぁ、ずいぶん居なくなっちゃったから、映らないままに謎の失踪をした機体もたくさんありますよ(笑)

G:
うわー、そうだったんですね……。

川北:
それから、同じようにラジオコントロールで、手元の着火スイッチを入れるとラジコン飛行機が爆発するようにしていたんだけれど、ちょっと変調をきたしてしまったみたいで勝手にスイッチが入ってしまい、飛行機が戻ってきたところでバーンと爆発したこともあったりね。ただ、効率は悪いんだけれど、効果としては良いことが多くあるんですよ。こういった新しいものにチャレンジしていかないと、新しい映像ってできていかないからね。

G:
川北さんは以前「アナログ的手法の良さの見直しを」いうことを仰っていました。新しい技術であればきれいな映像を撮れるのは当然だけれど、アナログならではの良さもありますよね。

川北:
うん、そうそう。アナログの良さというのは、まず作り手がアナログの人間で、見る側もアナログのものだし、まず自然界にあるものってほとんどがアナログであってデジタルで存在しているわけがないから、映像技術だってそうなんだよね。映像技術の中でもベーシックなものというのは、アナログでやってきたことと、今現在のデジタル技術ではそんなに差はないんだよ。それをデジタルに置き換えることで効率が良くなっている。その上で、無駄な部分を削いでしまっているからデジタルの方が「幅が狭い」んだよ。アナログというのは結構幅広く、無限大なわけ。そういうことを、これからの若い人にもっともっと知ってもらって、アナログのことも勉強して欲しいなと思う。


G:
ふむふむ。

川北:
家電量販店に行けば映画を撮れるようなカメラが安く買えて、実際に映画を撮れる時代なんだもの。もっとそれにまつわる技術のことを考えて、ベーシックなものをちゃんと勉強していないと、デジタルだけに頼っていたのでは先が見えないよね。

G:
「特撮文化」については廃れてしまうんじゃないかと危惧する声がありますが、残していくためにしなければいけないこと、すべきことというのはありますか?

川北:
今はフィルムをほとんど作らなくなってしまったけれど、まだアメリカでもフィルムで撮っている作品があるし、日本でも数少ないながらフィルム撮りはある。アメリカもそうですけど、日本の文化というのはデジタル情報では保存しないんだよ。フィルムセンターというところがあるけれど、フィルムしか保存しない。それはなぜかというと、フィルムには120年ぐらいの歴史があって、現存しているものはずっと生き延びているわけだね。一方で、デジタル情報はどうだかわからない(笑) DVDみたいな光学メディアは20年~30年くらいでダメになっちゃうんだ。メディアがころころ変わっちゃうと困るから、今はデジタルで撮ったら、全部セパレーションして、三色分解してフィルムにしているんですよ。


G:
デジタルで撮ったのに、わざわざフィルム化する、と。

川北:
うん、撮ったものを起こしてモノクロフィルムに分けるテクニカラー方式みたいな保存の仕方をする。こうすることで、また120年生き延びられるわけだ。この方法なら歴史的に継承されてきているしね。そういうものを大事にすることによって、映像文化はこれからまだ生き延びるんじゃないかなと思うし、先ほど言ったように、今の若い人たちはもうちょっと安直な映像ではなくてちゃんとした映像を残すために勉強しないといけないなぁとは思ってるんですけどね。

G:
川北さんの最近のお仕事でいうと、特撮ヒーローものの「超星神」シリーズや、着せ替え人形を使った「Kawaii!JeNny」など、かなり挑戦的な作品も手がけられています。子どもだけではなく大きなお友達からの反応も大きかったとのことですが。

川北:
そうだねぇ、Kawaii!JeNnyは特に反応が大きかったね。ニコ動なんかでやったときには反響が結構すごかったね。

G:
番組が始まる前に情報を集めていた時点ではジェニーちゃんを使った人形劇的な作品かな?と思っていたのですが、始まってみると「これは……なにか違うぞ!」と反応してしまう作品でしたね。

川北:
あの作品はテーマもしっかりしてたし、子どもから大人まで見られる作品にはなってるはずで……ゴミ問題を扱ったり、いろいろなことをしたので飛躍した作品だったかな(笑)

G:
良い方向での誤算だった、という感じでしょうか。

川北:
そうだね、ただ、あれを続けなかったのは残念でした。ああいう手はあるんだろうなと思いますけどね。


G:
こういった色々な作品をふまえた上で、次にこういう作品をやってみたいなぁというものはありますか?

川北:
来年ちょうど終戦から70周年なので、NHKさんでももちろんやられるんでしょうけれど、歴史的検証も含めて日本が生んだ戦艦大和、武蔵、信濃という巨艦三部作を映像に出来たらいいなぁと思うし、それとやっぱり、日本の飛翔体としてのゼロ戦。日本の飛行機文化、飛行機の歴史をもう一度見直してもいいのかなと思います。三菱がMRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット)を、ホンダがHondaJetを作っているところですしね。


G:
監督は以前、著書「特撮魂」の中で、「戦車ものや戦車が好きだ」という風に書いていましたが、戦車ものはいかがですか?

川北:
はっはは、戦車もおもしろいけどね(笑)。おもしろいのがなぜかって、歴史によって装甲が違うんだよね。昔は鉄板をどんどん厚くすれば良かったんだけれど、今はそんなに厚くしてもしょうがないからセラミックのサンドイッチ構造になっている。熱源を隠したり、対戦車弾をはじき返したり……それから、形状も変わっているよね。昔は流線型だったのに、今は鋭角になっている。最先端の10式戦車は、あまり台数がないだろうけれど、だんだんとそちらに変わっていくだろうと思うしね。


川北:
いま日本だってステルス戦闘機を作っているし、昔はライフルだったのが今や核兵器だもんね。そういう風に進化していくんだろう。人を殺す……というと語弊があるんだけれど、日本を守るためには、そういう兵器というのはやっぱり不可欠だから、知っておかなければというのは頭にあるね。

G:
なるほど。この「特撮魂」の中では、今回の特撮国宝に出てきた「ガンヘッド」についてリメイクしたいというお話があって、2007年にはDVDが出て盛り上がり、さらに5年後にはプラモデルが出るということで川北さんが改めて映像を作られることになりましたが、どうでしょう、夢は叶いましたか?

川北:
そうだね、「ガンヘッド」は23年前にブレイクしたわけだけれど、23年経ってもそんなに色褪せていないというのは、今の産業ロボット的な要素が「ガンヘッド」に多くあるんだろうな。


G:
今見てもガンヘッドはかっこいいですし、実寸大のものが出てきても古臭く感じることはないと思います。

川北:
ガンヘッドってそんなに大きくないんだよね。バルカン砲や対戦車砲みたいなのがついていて、武器で障壁をぶち破って自走していき、天井高が低いところでは自動的に車高を低くする。戦車も今は自在に車高を低くしたりできるので、そういう点がガンヘッドと同じだね。ただ、日本のメカ技術というのはガンダムに代表されるようなアニメから始まって、その夢が現実的になっていき、今は現実の方が進んでいたりするところがあるので、そういうのも楽しみだよね。我々なんかよりも現実の方がもっと最先端に行っているかもしれない。大学で研究している人が「なんでそういう発想になったんだろう?」と思うようなことをしていたと思ったら、ガンダムを見てそこから着想を得ているというようなこともあったなぁ。そういうのが好きなんです。そういうところからロボットを目指したり宇宙を目指したり、いろんなことを目指す人がいるというケースがたくさんあるんだよね。

G:
本当に、すごい時代ですよね。SF映画の中の存在だったものが現実になっていたりして……。最後に、今後特撮という世界に入ってくる人に向けて何かメッセージなどありますか?

川北:
僕は今学生さんに教えているんだけれど、学生さんの中では「特撮」というと戦隊モノや仮面ライダーのようなヒーローものをイメージするんだよな。


G:
なるほど。

川北:
僕なんかはそういうイメージが全然無いから、もうちょっと現実的にいろんなことを勉強した方が良いのかなぁと思うんだけどねぇ……。ただ、一般的には特撮といえば戦隊モノとかライダーという方が分かりやすいんだろうね。ミニチュア特撮とか、いろいろあるんだけれど。昔の映画人は映画の技術を覚えれば良かったけど、今の技術者はCGでやる、それは化学、機械工学、いろいろな技術の複合の産物なんだよ。だから、その中で「映画屋」、映像クリエイターというのは本当に一握りだけなのかもしれない。

G:
なるほど……今は学ぶことがたくさんあるんですね。

川北:
ありますよ。ただ、夢を形にするため、夢が一つだけだと挫折したときにショックが大きいから、夢をいっぱい持って、その中でいろんなことをするのが良いんじゃないかなと思います。


G:
いろいろな作品のことについて、お話いただきありがとうございました。

トークを行った樋口真嗣監督と川北紘一監督、収録は原鉄道模型博物館で行われました。


8月8日ほかに放送される「さらば海底空母イ-401」はかつてドキュメンタリードラマとして放送されたものでパッケージ化されていない“幻の作品”なので、この機会にぜひ見てみて下さい。また、川北監督は9月5日ほかに放送される特撮国宝第5回にも登場、こちらでは「消えたタンカー」が放送されることになっています。

さらば海底空母イ-401(TV)|日本映画・邦画を見るなら日本映画専門チャンネル
http://www.nihon-eiga.com/program/detail/nh10005403_0001.html



消えたタンカー(TV)/ガンヘッド2025|日本映画・邦画を見るなら日本映画専門チャンネル
http://www.nihon-eiga.com/program/detail/nh10005422_0001.html



日本映画専門チャンネルの公式Facebookページ「特撮」では特撮国宝に認定された人たちに関する逸話が見られるほか、8月3日に開催された「燃えよ特撮!祭2013」のアーカイブが見られるようになる予定となっています。

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この「特撮国宝」シリーズ、最後に話をうかがったのは音楽家でビー・プロダクション社長・うしおそうじ氏の息子でもある鷺巣詩郎さんです。

特撮を後世に残すのは、我々のノブレス・オブリージュでもある、鷺巣詩郎さんに特撮についてインタビュー - GIGAZINE

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in インタビュー,   映画, Posted by logc_nt

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