単なる「いろんな姿形の女の子の日常系アニメ」じゃない「セントールの悩み」の原作者・村山慶&追崎史敏総監督にインタビュー


2017年7月からテレビアニメ「セントールの悩み」の放送が始まりました。キービジュアルに描かれているのは人間の女の子とはちょっと姿形が異なる3人の女の子。PVを見ても、そんな女の子たちの日常が描かれる作品であるかのような印象を受けるのですが、ただそれだけではないところがこの作品のポイント。今回は原作者である村山慶さん、そしてアニメの総監督を務めている追崎史敏さんに、作品の細かいところまでいろいろなお話を伺ってみました。

【公式】TVアニメ「セントールの悩み」PV - YouTube


GIGAZINE(以下、G):
「セントールの悩み」という作品には、学園モノみたいな雰囲気やSF的な部分など、いろんな要素がぎゅっと詰め込まれています。作品を読んでいると、学校のお話ばかりかと思いきや、そうではないエピソードが入ってきたりもしますが、エピソードの順番はどのようにして決めているのですか?

「セントールの悩み」原作者・村山慶さん(以下、村山):
全体のバランスを考えています。基本的には「女の子が出てきて明るい話」なのですが、プラスで戦争の話だったり、ホラーの話だったりを、ちょっとずつ混ぜていくような感じです。

基本の「女の子が出てきて明るい話」にピッタリなアニメのキービジュアル


G:
シビアな話のあとにはソフトな話を入れていこう、という感じでしょうか。

村山:
基本的にはそうです。読者の方からすると、「女の子の明るい話だけを読みたい」という方もいますから、やはりバランスですね。

「セントールの悩み」総監督・追崎史敏さん(以下、追崎):
このあたりのエピソードはこういう構成にしようと決めているんですか?

村山さん&追崎総監督


村山:
3巻ぐらいからは、「この巻は明るい学園モノを6割ぐらい入れよう」ということも考えるようになりました。

追崎:
コミックスの巻のまとまりで考えてる感じですか?

村山:
はい。時には「今回はコレが多すぎた」と目測が外れることもあります。ただ、サスサススールが4巻で出るというのは最初から決めていました。

G:
委員長に三つ子の妹がいますが、読んでいると自分の兄弟のことを思い出すような生々しさがあります。どなたかモデルがいるのですか?


村山:
モデルとしては特にはいませんが、妹がいるので、子ども時代を思い出して……ぐらいの話です。

G:
昔の記憶をコアにして肉付けしていくイメージですか?

村山:
そうですね。あとは、「セントールの悩み」のキャラクターたちはみんなそうですが、「子どもだったらこう考えるだろう」「こういう境遇でこういう風に生まれついたらこう考えるだろう」ということをもとにして作っています。

追崎:
それにしても、リアルですよね。絶対にこれは実体験だろうと勝手に思っていました。

G:
めちゃくちゃリアルだと感じました。あれは、なぜ三つ子なのですか?

村山:
コミティアによく出ているなかせよしみさんの「でもくらちゃん」という作品があって、双子がそれぞれ双子を産んで、その4人の子どもがそれぞれ四つ子で合計16人いるというマンガなんですが、そっくりの子どもが16人もいる面白さを描いているんです。それが念頭にあったのは確かです。

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G:
なるほど。今回、事前に読んだ東京マンガラボ掲載のインタビューの中で、「世界観の設定は、資料としてまとめていたりするのでしょうか?」という質問に対し、「いえ、全て頭の中に入れています」「プロットも書きません。」と答えておられましたが、それは今もですか?

村山:
プロットは書かないですね。

G:
すごい……なぜプロットを書かないのに、あんな複雑な話が描けるのですか?

村山:
プロットは手作業が多いからです。ネームもそうですが、描くのには2~3日かかるけれど、そのうち、ものを考えている時間は30分とかその程度で、ほとんどは単純な肉体労働なんです。

追崎:
作品全体のメモみたいなものはないんですか?

村山:
特にないですね。

追崎:
それもないんですか。世界観ノートとかは絶対あるんだろうと、勝手に思ってました。

G:
設定資料集みたいなものを作ったり、あるいは先ほどの「肉体作業」をしなくても、頭の中にあるものを参照した方が早いということでしょうか。

村山:
それも1つです。あとは、キャラクターが世界観と乖離していると記号的な羅列ということなので、絶対にメモしておく必要があります。それは電話番号を覚えるとか、年号を覚えるとかみたいなものなので……記号的な記憶というのは僕自身もぜんぜんダメです。でも、物語は世界観からキャラクターが作られているので覚える必要がないというか「世界がこうだから、キャラクターはこういう造形がされてるはずだ」というのがありますね。

G:
すごい、数学の公式みたいですね。頭の中に最初から世界があって、あとはそれをアウトプットしているというイメージですか?

村山:
そうですね。

G:
そこからああいった作品が生み出されているんですね。「設定的なものをセリフで説明するのではなく、絵でできる限り説明したい」というインタビューの回答を見て「普通はそんなに簡単にできないんだけれど、なぜできるのだろう」と思っていたのですが、頭の中に作品世界が広がっていると。

村山:
「原理」がある感じですかね。この世界はこういう原理で社会が動いてて、そこから敷衍してすべてが考えられる、という感じです。

G:
「セントールの悩み」の世界では、ベースとして「なんでもかんでも平等にならないとダメだ」という思想があると以前お答えになっていました。この思想は一体、なぜ出てくることになったのでしょうか。

村山:
単純に言えば「そうしたほうが勝てるから」です。ナポレオンの話が途中で出てきたと思いますけれど、結局、結局差別して奴隷とか作っているよりも、それを解放して協力させた国のほうが単純に強い、国力として強いっていう結果が出ちゃったからです。

G:
ということは、ナポレオンの話みたいなものは描く前からある程度考えておられた?

村山:
そうですね。

G:
そうやって、最初から頭の中にあったものと、描いている最中に思いついて追加した部分というのがあると思いますが、作中のどれぐらいの部分が最初から考えていたものなのでしょうか。

村山:
その場で肉付けしていることも多いですが、「どういう原理で社会が動いてるか、世界史がどういう原理で動いてたか」というのは最初から決まっているので、それに沿っているだけです。

G:
「こういう思想を入れよう」というのはどうやって作り上げていったんですか?

村山:
どういう考えをもとにどういう世界が成り立っていくのかという部分では、現実の世界史とかを参考にしています。最初に歴史モノを描こうと思ったのも、現実の歴史が参考にできるからなのですが、歴史というのはすでに起こったことですからリアリティがあるというのもあります。それに、ネタを拾い放題でネタ切れがないですからね(笑)

G:
なるほど(笑)

作中には「人間の由来」を勉強するシーンも登場


追崎:
世界の歴史の中身を置き換えたらこうなるかな、というように作られたのですか?

村山:
そうです。世界史の中の原理を別のものに置き換えたらこう動くはずだ、ということです。

G:
世界史や日本史、いろんな国の歴史を縦横無尽に描いている印象があったのですが、歴史自体が好きなのですか?なにか、好きになるきっかけとかありましたか?

村山:
好きは好きですね。特に理由はないですけれど。

追崎:
気がついたら好きだったっていう感じかもしれませんね。

村山:
そうですね。小学生の時、三国志とかすごくハマりました。全国的なものかはわかりませんが、全クラス的には流行っていました。

追崎:
三国志は詳しいやつが必ずクラスに何人かいましたよね。

G:
いましたねー。

村山:
僕らが子どものころ、ちょうどNHKで「人形劇 三国志」をやっていて、マンガだと横山光輝とか「天地を喰らう」とかもあって、三国志が好きな人はものすごく多かったです。

G:
なるほど。改めて、今回こうして「セントールの悩み」がアニメ化されますが、最初にその話を聞いたときはどう思いましたか?

村山:
話をいただいた時点で13巻まで出ていたので「今更?」という感じはありました(笑)

G:
アニメができあがっていく過程を見て、感想などはありますか?

村山:
なんか……そんなに心がついていかないというか(笑) アニメの作り方とかは全然知りませんでしたから「ああ、こういうものなんだ」と感じています。

追崎:
アフレコ現場には毎週来ていただいていますが、いつもニコニコしながら見てもらっていて、その姿を僕は横目で「よかった」と思いながら見ています。

村山:
ちょっと面白いですよね。漫画で描いていることとアニメで口に出して演技してるところにはギャップがあったりして「こういうのは意外だな」とか「想定と違うけどこっちの方が面白い」とか。今回だと、羌子の声は僕が考えてたものとは違うんですが、あれはあれで面白くていい感じだなと思います。

ケンタウロス族(人馬)の君原姫乃


竜人の獄楽希


角人の名楽羌子


翼人の御魂真奈美


南極蛇人のケツァルコアトル・サスサススール


G:
追崎さんは、「セントールの悩み」のアニメ化の話が来たときはどんな印象でしたか?

追崎:
原作を読ませてもらって、女子高生が可愛い……というところよりも世界観に圧倒されて「これ、どうしよう」「どう作ろうか…」と、最初は頭を抱えました。

G:
わかる気がします。

追崎:
アニメの場合は自分ひとりでつくるわけではないので、そこをシリーズ構成の待田堂子さんや、紺野監督や、いろんな人の力を借りて、なんとか形にしたという感じです。

G:
いくらでも深読みできる原作ですが、アニメ化するにあたって気をつけたところなどはありますか?

追崎:
カバーを取ったところの情報とかも含めて「すげえ……」と圧倒されましたが、放送話数が限られていて全てを拾うということはできないので、アピールする部分を作りつつ、細かいエッセンスも盛り込んで、作品全体の、世界の雰囲気を少しでも再現できるようにとやってみました。全部となると、広大すぎて再現できませんから、さわりの部分を感じてもらえればというところです。アニメを作品世界の入口として見てもらい、放送が終わったあとは原作を読んでいってもらえれば幸いです。

G:
今回、追崎さんは「総監督」で、紺野直幸さんが「監督」となっています。総監督はどういった仕事をしているのですか?

追崎:
現場での作業は、基本的に紺野監督にやっていただいていて、僕は企画立ち上げ時の方向性の指示や、シナリオ会議の立会い、音響現場の立会いなどです。あとは、宣伝部長みたいな感じですね(笑)。コンテも少し手伝いましたが、基本的には紺野監督がやりやすいように、何かあったらサポートするという立場です。

G:
今回、COMICリュウの猪飼副編集長から、脚本面では何を入れてどの順番でやるかという点について原作者の村山さんもかなり関わっておられるというお話をうかがいましたが、なにか具体的に「この話数を入れて欲しい」というような要望があったのでしょうか?

COMICリュウ副編集長 猪飼幹太さん:
要望というより、みんなでディスカッションしたという感じでした。

追崎:
なにせ広大な世界観の作品ですから「コレはここに配置していいのだろうか」ということを最終的に確認していただいたりしました。

G:
放送がはじまったばかりの段階で出せる範囲で、印象に残っているお話はありますか?

追崎:
時間をかけたのは怪談話で、アノマロカリスあたりの流れです。漫画的表現とアニメーション的表現では違いがありますから、漫画なら分かるものでも映像では分からないかもしれないので、細かい文言まで含めてどうしようかとやりとりをしたことが印象に残っています。

村山:
やっぱり、漫画とアニメーションの作り方の違いというのはありますね。漫画だと、隣り合ったコマであっても必ずしも連続していなくていいんです。たとえコマAとコマBの間でまったく不可能なことが起こったとしても、補完して読めちゃうんです。でも、アニメーションは連続しているから、そういうことはできないだろうというのは素人考えでもわかるので……。

追崎:
どうしても時間軸がある以上、理詰めで流れが通らないと苦しいだろうと考えるんですが、エピソードやネタによっては、理詰めで考えていくと「ここはどうしよう」という部分が出てくることがあります。そういうときには、原作通りになぞって映像表現として成立するだろうかと探りながら作業しています。

G:
今回、「セントールの悩み」は全12話ということですが、14巻まで刊行されている原作からエピソードを選ぶのは難しかったのではありませんか?

追崎:
シリーズ構成の待田堂子さんに原作を読んでいただいて、紺野監督からは1巻から6~7巻ぐらいまでの前半をベースにセレクトして欲しいというオーダーがあったので、待田さんがピックアップして、あとから順番を若干調整して、という感じで作りました。

G:
なるほど、7巻ぐらいまでの内容なんですね。原作を読んでいて「これは途中で切るのが難しそうだな」と思っていました。

追崎:
現在刊行されている部分の後半にはコアな話が多く出てきますが、そこを拾うと、何の作品なのかがよく分かってもらえないかもしれないので、先ほどお話ししたように、「アニメは原作を知ってもらう入口になればいい」という考えから、まずは「ちょっと姿形の変わった女の子たちの日常」を大前提に前半を拾っていきました。その上で、活かせそうな話をピックアップし、プラスアルファの刺激を加えるというイメージで構成しています。

G:
単純に頭から作ればいいわけではなく、大変ですね。村山さんは、アニメが作られていくのを見ていていかがでしたか?

村山:
構成案を見せてもらいましたが、うまく選んでいてさすがプロだなと思いました。

G:
原作だと、わりとタイムリーな話題も反映されているイメージがあります。時々、めちゃくちゃシビアな国際情勢や戦争の話も挿入されたり、でも何事もないような学校の光景に戻ったり。こうした話題はどういった形でインプットしているんですか?

村山:
テレビを見て気になったトピックスを追いかけていますが、常時すごく時間をかけてやっているというわけではないです。

G:
いろいろな話題が取り入れられていますが「これを入れよう、こういう風にしよう」という選定基準というのはどういったものですか?

村山:
たとえば、世界を構成している人たちの中に両生類人というのがいますけれど、彼らは一体どういう生活をして、どういう思考でどういう情勢の中にいるんだろうっていうのを考えて、それを描きたいなと思ったらその時に描くという感じです。そして描くときには、普通の人間と同じくらいの具体性というかリアリティを持った存在として描き出したいと思っています。

G:
なるほど。

追崎:
お話を聞いていると、ある意味で「究極の日常系」だなと思いますね。ニュースでミサイルの話だとか国際情勢だとか流れているというのは、現実と一緒だなと感じました。

G:
こうした部分をアニメで表現するのは大変ではないかと思いますが……。

追崎:
テレビで放送する作品なので、残念ながら言えないこと、描けないことというのもいっぱいありますが、原作のエッセンスを出せるギリギリのところまでやるところはやっています。漫画は媒体が違うことで表現の幅も違うので、そこはうらやましい部分でもあります。

G:
なるほど。
ここで作品からちょっと離れて、村山さんの過去についてお伺いしたいのですが、COMICリュウの銀龍賞を獲ったのが37歳の時で、それ以前には社会人経験があると。東京マンガラボのインタビューでは「漫画家の場合、編集さんが気を使ってくれますしね。仕事として考えるなら、編集者がクライアントで、漫画家が下請けなわけじゃないですか。下請け企業に気を使ってくれる仕事なんて、この世の中に普通は有り得ないですから!」と書いてありました。

(一同笑)

G:
さらには「普通ならこっちがお金を出して接待して仕事を取ってきて、ペコペコしながら納品して遅れたら違約金を払って……という世界なので。普通ならこっちから連絡して進行状況を逐一報告しなければいけないのが、編集さんの方から連絡を取ってくれますし」と、これを読んでいると社会人時代、一体何があったんだろうかと思うんですが、相当辛いお仕事だったんでしょうか?

村山:
まあでも……そうですよね?不具合があれば朝7時に電話が来て、こちらは腰を折りながら「申し訳ございません」と……。

(一同笑)

G:
これを読んで「すごい、とても漫画家のセリフとは思えない」と感じました。SEから漫画家というのはすごい転身だと思うのですが、これはSEになる前からいつか漫画家になろうと考えていたんですか?それとも、SEをする中でやはり漫画家になろうと思う出来事に遭遇したとか……?

村山:
微妙なところです。もちろん、SEをやる前からちょろっと描いたりはしていましたが、それはぼんやりと「なれたらいいな」ぐらいの話だったんです。ところが、2009年に政権交代絡みでいろいろあって、早期退職することになりました。退職するころには、ある程度「漫画家になろう」とは考えていて、すぐに連載が取れるとは思っていなかったのでお金を貯めて、準備はしていました。

G:
それが、実際にはあっという間に連載が始まりました。当初は、もっと時間がかかると想定されていたんですね。

村山:
2~3年はかかると思っていました。経験的に貯金が100万を切るとやばいので、それまでになんかの賞を取って、ぼちぼちと読み切りを描かせてもらって、さらに1~2年でようやく連載がもらえたらいいな、と考えていました。

追崎:
「漫画は趣味で描いています」と割り切っている人もいる中で、なるべくして漫画家になったんだという印象があります。

G:
最初からすごくプロフェッショナルな感じがありますよね。

村山:
そんなことないですよ、原稿も遅い方ですし。……でも、漫画家のいいところは、納めた仕事がバグを起こさないことです。

(一同笑)

村山:
作画でミスがあったとしても「掲載されたものが見られない」ということにはなりませんから、心臓が痛くならないですよね。

G:
前の仕事だと心臓が痛くなっていたんですね……。

村山:
痛くなりますね。

追崎:
SEは精神を削る仕事だと聞きますもんね。

村山:
あと、睡眠が取れないです。漫画家に比べて仕事がギリギリまでできちゃうので。たとえば、漫画家は直線と曲線が見分けられないと描けないので、そうなったら絶対に休まないといけませんが、SEだと「疲労で色が分からなくなっても仕事を続けた」って人もいますし。

G:
SE時代には、通勤電車で対面に座った人を観察して描いて絵の練習をしていたとか。今も観察は続けているんですか?

村山:
それがちょっと困るんです、茨城は人が歩いていないので。

G:
ええっ(笑)

村山:
たとえば風景写真ですよね……。人が歩いている風景写真というのが撮れないんですよ。だから、作品を見返したときに「人が歩いていない、ダメだな」と思うんですが、撮った写真の中に人が歩いてないものですから……これはちょっと、田舎住まいの欠点です。

追崎:
なるほど……確かに、昼間でも人が少ないですもんね。

村山:
ファッション雑誌だと着飾っているし、有り体にいえばメーカーの意向がかなり入ってきますよね。そうなると、子どもの服装とかは実際に見ないとわからないんです。

追崎:
確かに、日常ではないです。

G:
話が更に過去に戻るのですが、太田出版の公式サイトに掲載されている「『きのこ人間の結婚』刊行記念 村山慶ロングインタビュー “『菌類が人間の形をしていたらどういう社会を営むか』を考えた”」の中で、学生時代の専攻が分子生物学だとありました。なぜ分子生物学を選んだのですか?

村山:
「バイオ」とか、遺伝子をいじって生物を作るのとかが面白そうだと思ったからです。あと、僕らが高校生のころがちょうどバブルで、もうそろそろ弾けることが予測できたので、大学卒業のころは就職難になるだろうと。それで、実用的なことをやらないと働き口がないだろうなと思ってバイオの方へ行きました。企業に就職するとき、有益な技術を学んでおいた方がいいだろうと思って、それはたぶんそんなに外れていなかったはずです。でも誤算もあって……。

G:
誤算?

村山:
実験動物を扱うとき、菌を遮断したクリーンルームに入るんですが、その時には全身を覆ってゴム手袋をするんですよ。ところが僕、ゴム手袋で肌がかぶれるんです。

G:
なんと!

村山:
これがもう耐えられなくて……でも、入れないと実験にならないんです。予想はある程度はできていたんですが、そこは高校生の甘さでした。賢く見ていたつもりで、足元がおろそかになっていました。

追崎:
実際つけてみないとわからないならしょうがないですよね……。

G:
分子生物学や歴史の話もそうですが、原作を読んだだけでも「この作者はきっと博学に違いない」というイメージがありました。こうした知識は、学校で積み上げてきたものが生かされたのですか?それとも、「セントールの悩み」のような作品を描こうと思って一生懸命調べたのですか?

村山:
どちらもですね、基本的に本は好きです。

G:
連載の真っ只中ですが、本はどれぐらい読んでいますか?

村山:
今は起きている時間はほとんど仕事をしているので、それほど読み進められていませんが、年間100万円分ぐらいは買っています。

G:
これも過去についての質問になりますが、同人活動をやろうと思ったきっかけはなんでしたか?

村山:
作品を発表しようと思ったとき、いきなり商業誌に掲載するなんてことはできないので、同人でということでした。僕が社会人になる直前、大学院のころだったか、ようやくインターネットができたんです。でも、当時のネットは回線が遅いし、テレホーダイだし、ホームページの容量も少ないし。ジオシティーズとか、最初は2MBでしたよ。

G:
一番普及していた保存メディアがフロッピーディスクで1.44MBの時代ですもんね。

村山:
それで同人誌を出したいなと思って検索していて引っかかったのが「コミティア」でした。他にも即売会はありますが、大抵はパロディ同人誌とかがメインなのに、コミティアはオリジナルだけで、ある程度規模も大きかったんです。

追崎:
同人活動の友人に誘われるとかありませんでしたか?

村山:
漫画はいなかったですが、小説を書いている友人はいました。なぜ小説かというと、少ないホームページ容量でもテキストベースなら結構入るじゃないですか。

G:
ファイルサイズから逆算なんですね(笑)

村山:
当時もウェブ漫画を描かれている方はいましたが、重いし、読み込みに時間がかかるし……。

G:
当時の速度だと非現実的でしたね……。

追崎:
画面上からじわじわ見えてくるんですよね(笑)

G:
ということは、もしネットの速度が遅いままだったら小説家になっていた可能性もあるんですか?

村山:
小説はジャンル分けがきつくて、可能性が低いなと感じていました。たとえば純文学なら純文学、推理小説なら推理小説と分かれていて、そのジャンルにあったものを書かなければいけないじゃないですか。でも、漫画はその境目があまりないですから。

G:
なるほど。そのあたりも理詰めで考えておられるんですね。

村山:
後付けといえば後付けですけれど。

G:
続いては追崎総監督にもちょっと昔の話をお伺いしたいのですが、2010年2月にWEBアニメスタイルで「追崎史敏が選んだ『個人的な想い出と印象に残っているアニメ17本』」という記事が掲載されています。筆頭が「聖闘士星矢」で、コメントとして「中学の時に美術部の先輩方(今思えば腐女子の方達)にアニメーターって職業がある事を教えてもらった作品」と書いてありましたが、どういう経緯でアニメーターの存在を教えてもらったのですか?

追崎:
元々、アニメや特撮を見たり、絵を描いたりするのは好きでした。でも、それ以外には得意なことがなくて、運動もできないし、勉強も大してできなかったので、「将来、絵を描く仕事ができたらいいな」ということを漠然と思っていました。中学で部活を選ぶときにも運動がダメだからどうしようかと思っていたんですが、「美術部」があったんです。そこの先輩方が今でいう腐女子の方々で(笑)、当時、何も知らないままに、そのお姉さん方の中に入ってワイワイやっていました。

G:
おお、なるほど。

追崎:
「キャプテン翼」や「聖闘士星矢」が受けていたころで、ちょうど男子も好きな作品だったので、一緒になって話をしていて、その中で将来絵を描く仕事がしたいという話が出て、「だったらアニメーターっていう仕事があるよ」と教えてもらいました。そこで、アニメーターになるのはどうしたらいいのかというところから調べて、「もっと絵の勉強をしよう」と絵画教室に行ったりしました。僕は地元が大分なんですが、運よく美術・音楽系の高校があるとわかったので、推薦を取るためにいろいろ勉強をしました。

G:
すごいですね、中学のころから。

追崎:
運良くやりたいことが見つかったので、それを目指そうと思いまして。それで、普通は美術系高校からは美術系の大学を目指すものなんですが、僕は「アニメを早くやりたいんで、専門学校に行きます」と(笑) 「なぜ美大に行かない!?」と散々言われましたが「いいです。遠回りなので」と断って専門学校へ行きました。今思えば、違うこともできただろうから行ってもよかったかもしれないと思いますが、その時はとにかくアニメの仕事がしたい、やりたくてしょうがないという思いで、まっすぐ進みました。

G:
ということは、小さいころの夢を叶えたということですね。

追崎:
他にやりたいことがなかったというのもあります。他には建築が好きで、小学校のころ、自分が社宅住まいだったから一軒家に憧れて、「自分の部屋が欲しいな」というところから「自分の部屋があればこんな感じかな」と部屋の間取りとかを妄想しながら絵を描いたりしていました。もしアニメに出会わなかったら、そちらの道に行っていたかもしれません。

G:
アニメを見ていたことで人生が決まったと。

追崎:
そういうことです。恐ろしいですよね(笑)

G:
(笑) そういえば、村山さんは過去のインタビューで「小さいころはあまり漫画は読んでいなかった」と答えていたと思います。

村山:
小学生のころはそんなには読んでいませんでした。買ってもらえるわけでなし、読めるところがあるわけでもなし、と。週刊少年ジャンプも中学生ぐらいからです。

G:
しかし、漫画家になられたということは、どこかできっかけとなる漫画との出会いがあったのだと思いますが、どういった作品でしたか?

村山:
高校のとき、ふゅーじょんぷろだくとから出ていた「ギョロス大帝の創音機械」というハードカバーに出会ったんです。すごくいい紙を使っていて丸ペンで描かれた、今考えるとメビウス風のタッチで描いたアートっぽい漫画で、こういうものを描きたいと思いました。

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G:
他にはどういった作品を読まれましたか?

村山:
「風の谷のナウシカ」は好きでした。あれも全クラス的に、すごく流行りました。

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追崎:
今、ナウシカの名前が出て、すごくしっくりきました。

村山:
あとは……もっと遡って、親父が持っていた「のらくろ」とかになっちゃいます。でも、横山光輝の「三国志」にはすごく影響を受けました。何かというと、あまり画面に凝ってもわからないものだという部分です。横山三国志のキャラクターって、顔が似ているけれど話はすごくわかりやすいじゃないですか。コマもすごく工夫が凝らされているわけではないのに、なぜ話がわかるのが、なぜ面白いのかというと、情報量がしっかりしぼれているからなんです。

G:
なるほど。

村山:
アメコミの分析で、日本の漫画が落書きに見えるぐらいにアメコミは絵が上手なのになぜ読みづらいのか、それは背景とかがきっちり入っているからだという話を読んだことがあります。要するに情報量が多すぎて、テンポがいいはずのアクションシーンでも読みづらい、テンポが悪いのだと。そういう情報は参考にしています。

G:
あと、わりと最近のアニメを見ておられるような印象がありますが、アニメを見る時間はどうやって作っているんですか?

村山:
アニメは仕事をしながら見られますので(笑)

G:
(笑)

村山:
映画を流しながら、とか多いですよ。

追崎:
僕は映像にどうしても目がいっちゃうので、「ながら見」ができないタイプです(笑)

村山:
でも、見ていて画面をみちゃうような映画と、興味がなくなっちゃう映画、両方ありますよ、僕、「ホテル・ルワンダ」がすごく好きで何度も見ているんですけど、「ながら見」しててもそのうちに画面を見ちゃうんです。あれはなんでだろうって考えます。大好物の要素を抱えている、たとえば「シャークネード」とかも面白いのに、見ていると飽きちゃうんです。あと、テレビ東京の「午後ロー」はずっと見てます。つまんなかろうがなんだろうが。

G:
結構テレビでご覧になっているようですが、映画館に行って見た作品などはありますか?

村山:
聲の形」とか「君の名は。」とか「シン・ゴジラ」とかは一通り見ています。

G:
メジャーどころはしっかり押さえているということですね。追崎さんはいかがですか?

追崎:
最近だと、アニメーションの表現として気になっていた、湯浅政明監督の「夜明け告げるルーのうた」を見に行きました。湯浅監督の表現力に純粋にすごいなぁと思いつつ、Flashによる作画技術も違和感なく見れましたが、どうしても自分のことと照らし合わせてしまったりして、大変だなとも思ったりしつつ……。

G:
(笑)

追崎:
アニメ作品を見てるとどうしてもラッシュチェックみたいになってしまって(笑)。あとは、クレジットを見ながら自分の知っている人が参加しているな、とか、こんな会社さんが参加してたのかとか。テレビアニメでも、オープニングやエンディングのクレジットを見るだけで画面の向こう側の状況がわかってしまうので、どうしても、純粋に楽しむというよりは「ああ、この作品はこういう状態で作ってるんだな」と思ってしまったり。

G:
ああー、なるほど。

追崎:
それこそディズニーやピクサーのように、今の自分と環境とまったく関係のないくらいの作品になれば気にはならないんですけれどね。ただ、それでメイキングを見るとちょっと凹むこともありますが(笑)

G:
凹む要因はどういったところですか?

追崎:
まず、作っている環境がとても贅沢ですよね。当たり前ですけど(笑) その作品をよくするためにどうしたらいいかというところに特化して全ての環境が整えられているのがいいなぁと。日本のアニメーターにもすごい人はいっぱいいるのに、環境や、経済的理由などで専念して仕事ができなかったり……。昨今、業界の賃金問題が話題になりましたが、ディズニー、ピクサーなどはそういった問題とは全然違うところにあるんだろうなと思いました。もちろん別の問題も持ってはいるんだと思いますが。

G:
確かに……。

追崎:
ディズニーやピクサーほどではなくても、ちゃんとひとつの作品に集中して、やりたいことをやれるような環境にしなきゃいけないなってところも含めて……メイキング映像見ながらいろいろ考えてしまうわけです。

G:
村山さんは他の人の制作環境を知って凹んでしまうとか、そういうことはありますか?

村山:
僕はそういうのはないですね。小説家が原稿用紙に書いているのと変わりないですから。ただ、PCで描いた線だときれいすぎて好みじゃないので、ペンで紙に描いて取り込むスタイルにしていますが。

追崎:
入稿する時はデジタル原稿ですか?

村山:
楽なのでデジタルです。トーンを貼るのが苦手なんです。あれはやるとわかりますが、とにかく面倒くさいです。トーン自体の管理も大変ですし。ただ、画面に映るものは実物とはちょっと違うので、そこにちょっと歯がゆさはありますが。

G:
なるほど。絵柄については「あまり古臭い絵柄にならないように絵柄はマイナーアップデートしていかないと」というお話がありました。

追崎:
読んでる方からすると、漫画家さんは描き慣れて時間が経っていくので自然と絵が変わっていくんだろうなっていう認識で読んでいましたけれど、そこをあえて調整するという感じですか?

村山:
「手癖にならないように」ですね。手癖でやっちゃうと、それがどんどん変な方向に手癖が強化されてしまうので、アニメとかの模写をしたりしています。ただ漫画の絵というのはデフォルメですが、どういう原理でデフォルメしているのかは人によって違うので、原理を理解しないで模写してしまうと手癖の矯正がされないで、単に本当に写真のようにまねているだけになってしまいます。

G:
ありがとうございます。では最後にそれぞれ一問ずつうかがいたいと思います。まずは追崎総監督、作品によっては「○話までは助走みたいなものなので、とにかくそこまでは見て欲しい」というものもあるのですが、「セントールの悩み」の場合、ハマるかどうか、ここを見て欲しいというところはありますか?

追崎:
本作の場合は第1話から順に時間軸を置いているわけではないので、それこそ途中から見てもらっても大丈夫ですし、後の話を先に見てから前の話へ遡ってもらっても大丈夫です。

G:
途中まで見逃していた人でも、6話や8話から見ても大丈夫だと。

追崎:
シンプルにいえば「全部見て欲しい」ですが(笑)、「最初見てなかったから全然分からないよ!」という作りにはなっていませんので、そこは安心して見ていただけると思います。もちろん、最初の段階でこの世界の成り立ちとかっていう説明をしてる回はあったりしますが、それを知らなくても楽しめる話はたくさんあります。

G:
続いて村山さん、ちょうど7月13日に15巻が発売されたということで、読者へなにか伝えておきたいことがあればお願いします。

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村山:
漠然としたことですけど、引き続きよろしくお願いします、と(笑) ネタ切れとかは全然ないんで、安心してください!

追崎:
それはなかなか言えないですよ。

G:
僕もファンなので非常に楽しみです。本日は長時間、ありがとうございました。

©2017 村山慶/徳間書店・彼方市思想教育委員会

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in インタビュー,   動画,   アニメ, Posted by logc_nt