サイエンス

「低所得の母親に現金を給付する実験」で子どもの老化に変化が生じたことが判明


さまざまな研究によって貧困が子どもの発達影響を与えることが知られており、貧困によるDNAの変化が生涯にわたって持続する可能性もあると指摘されています。アメリカで行われている「低所得の母親に現金を給付する」という実験では、現金給付によって「子どもの老化」に変化が生じたことが示されました。

Effects of a randomized controlled trial of unconditional cash transfers on epigenetic measures of ageing and cognition in children and mothers | Nature Human Behaviour
https://www.nature.com/articles/s41562-026-02568-4

Cash transfers to mothers with low income may slow biological aging in children | Max-Planck-Gesellschaft
https://www.mpg.de/26960975/cash-transfers-to-mothers-with-low-income-may-slow-biological-aging-in-children

Scientists Gave Cash to Low-Income Moms, And It Altered Their Babies' Aging : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-gave-cash-to-low-income-moms-and-it-altered-their-babies-aging

これまでの研究では、貧困家庭に育つことと子どもの発達との関連性が報告されてきましたが、これらはあくまで相関関係を示すものに過ぎませんでした。そこで今回、マックス・プランク人間発達研究所やテキサス大学オースティン校などの研究チームは、アメリカで実施されている無作為化比較試験である「Baby’s First Years study(赤ちゃんの最初の数年間研究:BFY研究)」に目を向けました。

BFY研究ではアメリカに住む低所得の母親1000人を無作為に分類し、「月額333ドル(約5万1300円)を無条件で受け取るグループ」と、「月額20ドル(約3100円)を無条件で受け取るグループ」に割り当てられました。母親は赤ちゃんの誕生から生後76カ月(6年4カ月)まで、毎月現金給付を受けたとのこと。


「月額333ドルを無条件で受け取るグループ」の母親が受け取った総額は年間約4000ドル(約61万6200円)に達し、これは年収が約18%増加したことに相当します。そして、対象となった子どもが4歳に達した時点で子どもと母親から唾液サンプルが採取され、そのDNAパターンが分析されました。

研究チームは、DNA分子にメチル基が付与されるDNAメチル化に基づいて生物学的老化を測定する「DunedinPACE」という指標を用いて、現金給付の金額によって子どもと母親の生物学的老化のスピードが異なるかどうかを調べました。


分析の結果、母親が月額333ドルの給付を受けている子どもは、母親の給付額が月額20ドルの子どもと比べ、生物学的老化のスピードがわずかに遅いことが判明しました。一方、母親の生物学的老化のスピードには差がみられず、現金給付の効果は幼児期の発達段階に特有のものであると示唆されています。

今回の研究で確認された子どもの生物学的老化の差は比較的小さかったものの、心理社会的介入や栄養介入を伴わない単純な現金給付だけでも、子どもの生物学的機能に重要な影響を与えられる可能性を示すものです。

論文の筆頭著者であり、マックス・プランク人間発達研究所の研究グループリーダーであるローレル・ラフィントン氏は、「これまでの研究では、貧困が子どものエピジェネティックな老化を加速させる可能性があると示唆する相関関係の証拠が報告されていますが、相関関係だけでは介入によって老化のプロセスを遅らせられるかどうかは判断できません。したがって、現金給付に因果的な影響がみられたことは注目に値します」と述べています。

子どもたちは記事作成時点でも7~8歳程度であるため、今回観察された生物学的老化のわずかな減速が、将来的に測定可能な健康上の利益として現れるかどうかは不明です。それでも、論文の共著者であるコロンビア大学ティーチャーズカレッジのキンバリー・ノーブル教授は、「これらの違いが持続する場合、この研究は健康・病気・寿命の格差を減らすことを目的とした幼児期介入に役立つ可能性があります」とコメントしました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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