サイエンス

貧困は若い脳にどのような影響を与えるのか?

by Living Water International

平等な教育を全ての子どもに」ということで、現在では新しい教育の形も開かれてきていますが、貧困は教育を受ける機会だけでなく、脳そのものの発達に影響すると考えられています。ということで、貧困が胎児から青年にかけての脳にどのような影響を及ぼすのか、The New Yorkerがまとめています。

What Poverty Does to the Young Brain - The New Yorker
http://www.newyorker.com/tech/elements/what-poverty-does-to-the-young-brain

人間の脳のうち、感情のコントロールや意志決定など、高いレベルの認識能力を行う場所は幼児期に発達していきますが、脳の根幹そのものは胎児の時、母親の子宮内で作られます。分裂細胞がニューロンやシナプスなどに変化していき、4~5カ月の胎児の大脳皮質は既にしわを刻みだし、産後、発達していく準備が整えられるわけです。

1990年代、アメリカでは妊娠時にコカインを摂取した母親を持つ子どもは成長が著しく害される、という研究が大きく取り上げられました。ロサンゼルスのこども病院に勤める発達神経学者のパット・レビット氏も胎児に対するコカインの影響について調べていた研究者の1人です。レビット氏はウサギを使った実験に20年もの時間を費やした結果、現在では当時騒がれていたような害は「誇張である」とことを明らかにしています。胎児の発育段階でコカインにさらされた「クラック・ベビー」と呼ばれる子どもたちは認識能力に欠如が見られることがあったものの、正常である場合がほとんどだったとのこと。当時の研究ではコカイン使用者の多くに喫煙の習慣もあったことから、正確な結論が出されなかったのだと考えられています。

by Juliana Coutinho

そのレビット氏が近年注目しているのが「貧困の胎児に対する影響」です。ハーバード大学のNational Scientific Councilによると、「人口の過密な場所や騒音、標準以下の家、親との別離、暴力にさらされるなど、極度のストレス下に置かれることは脳の発達にとって毒である」とのこと。

人がストレス下に置かれると、副腎皮質ホルモンの一種であるコルチゾールが分泌されるのですが、近年の研究ではコルチゾールが人間の記憶形態に深く関わるとされる脳の海馬を収縮させることが分かっています。胎児は母親の胎盤を通してホルモンを摂取しますが、「胎盤を通してコルチゾールの影響を受け脳の神経回路を変質させられた胎児は、生まれた後、成長していく段階で自分が分泌したコルチゾールに脳の成長を阻害される可能性がある」とのこと。

Acta Paediatrica誌には口を動かしたり顔を触ったりする子どもの超音波写真が掲載されましたが、これは母親にストレスがたまったり、母親がタバコを吸った時に現れるもので、神経系の発達が遅れのサインと考えられています。

また2015年3月、9つの病院や大学が協力して1000人の子どもを対象とした研究が行われ、Nature Neuroscienceに論文が掲載されました。研究では、子どもからDNAサンプルを採取し、MRIスキャンを行い、家族から家庭の収入や教育に関するデータが集められた上で、読解能力や記憶力に関するテストが行われました。DNAサンプルを収集することで、子どもの脳に対する影響のうち遺伝的要因を取り除き、MRIスキャンによって大脳皮質に焦点を当てるとともに、海馬の大きさや大脳皮質に刻まれたしわの深さが観察されたわけです。

実験の結果、最も教育的な家庭で育った子どもは大きな海馬を持ち大脳皮質も大きいことが判明しており、同時に最も収入が低いグループの子どもは高いグループの子どもに比べて大脳皮質が6%ほど小さいことも分かりました。しかし、中流階級の家庭の子どもと裕福な子どもの脳に違いはさほど見られず、「豊かな富は必ずしもよい脳を作るとは限らないが、貧困は脳を弱くする」と言えるわけです。

by Leanda Xavian

この時、家庭の収入と大学進学がどのくらい関係あるのか?ということが気になってきますが、The New York Timesではグラフを描き、自分の予想と実際の数値にどれくらい差があるのかを調べられるようになっています。

You Draw It: How Family Income Predicts Children’s College Chances - NYTimes.com
http://www.nytimes.com/interactive/2015/05/28/upshot/you-draw-it-how-family-income-affects-childrens-college-chances.html


横軸が親の裕福さを、縦軸が大学進学率を示すので、自分の予想をグラフにして「I'm done」をクリックすれば、自分の予想と現実のズレが分かるわけです。


さらに、2013年に4大学が共同して行った研究では、24歳の被験者の脳がスキャンされたところ、9歳の時に貧困環境にあった人は脳のうちネガティブな感情に反応する部分が他の被験者に比べて頻繁に活動しており、反対にネガティブな感情を抑制する部分の活動があまり活発でないことが判明しました。そのほか、子どもの時にストレスにさらされると、大人になってから依存症になりやすいことや、うつ病や心臓病を患う傾向が高いことが分かっています。

上記のように、これまでの研究で貧困が脳に影響を及ぼして次の世代の貧困を生みだしていくことがハッキリしており、問題のある親や子どもが非難されることがありますが、レビット氏らは「健康な脳を作るために貧困のサイクルを断ち切る必要がある」と主張しています。

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in サイエンス, Posted by logq_fa

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