創作

国立美術館からのピカソ「泣く女」盗難事件は未解決のまま


パブロ・ピカソの「泣く女」として知られる一連の絵画のうち1枚は、1986年8月にオーストラリアのビクトリア国立美術館から盗み出されました。現代に至っても完全には解決されていない「泣く女」盗難事件について、オーストラリアの公共放送であるABCがまとめています。

You’ve robbed the Louvre… now what? | If You're Listening | ABC NEWS In-depth - YouTube


「泣く女」は連作絵画で、大半はイギリスのテート・モダン美術館に所蔵されています。連作のうちの1点である縦55センチ、横46センチの油彩画は、1985年12月にビクトリア国立美術館が160万オーストラリアドル(現代のレートで約1億6000万円)で購入しました。これは、当時のオーストラリアの美術館による美術品購入の中で最高額でした。


購入翌年の1986年8月2日、ビクトリア国立美術館に侵入した泥棒によって、「泣く女」は盗難に遭いました。「泣く女」は一般には手に入らない特殊なドライバーが必要な額縁で飾られていたため、美術に精通した泥棒の犯行だと考えられています。泥棒が「絵画が定期メンテナンスのために持ち出された」ことを示すカードを残していたことで、盗難が発覚するまで2日かかりました。

そして盗難から約1週間後となる8月10日、「オーストラリア文化テロリスト」と名乗る人物から、当時の美術大臣であったレース・マシューズ氏宛に手紙が送られました。手紙では、「この田舎の州における美術への資金援助の少なさ、そしてその資金の管理と分配の不器用で想像力に欠ける愚かさに抗議するため、ナショナルギャラリーからピカソの絵を盗んだ」と記されており、「泣く女」を返す代わりの要求が示されています。


オーストラリア文化テロリストの要求は以下の2点。

・今後3年間で芸術への資金援助を実質的に10%増加させる公約を発表する。芸術家が利用できる芸術への資金援助の仕組みを調査する独立委員会を任命する。
・30歳未満の芸術家を対象とした新しい年間絵画賞「ピカソ身代金賞」を発表する。

そして、「7日間経過しても要求が満たされない場合、絵画は破壊され、目的のために絵画を狙うキャンペーンは継続される」と脅迫が書かれていました。


ビクトリア州政府はオーストラリア文化テロリストの要求を一切受け入れず、犯人逮捕につながる情報提供者に5万オーストラリアドル(約500万円)の報奨金を提示しました。犯人から名指しで批判されたマシューズ氏は「芸術や芸術愛好家の利益を心から願う人間が、このような行為に及ぶとは想像もできません」と述べたと記録が残っています。

犯人たちから要求が送られた9日後の1986年8月19日、匿名の通報を受けて警察が捜索した結果、スペンサーストリート駅(現在のサザン・クロス駅)のロッカーで、丁寧に包装された「泣く女」が発見されました。作品にはオーストラリア文化テロリストからの手紙が3通同封されていたそうですが、その内容は公表されませんでした。手紙の一部のみ公開されており、「私たちは要求が満たされるとは思っていませんでした。私たちは常に、政府を脅迫する手段を持たないグループの窮状に世間の注目を集めることを目的としています」と書かれていたとのこと。


「泣く女」は傷付けられることなく取り返され、記事作成時点でもビクトリア国立美術館に所蔵されています。しかし、オーストラリア文化テロリストと名乗った人物ないしグループは逮捕されておらず、「泣く女」窃盗事件以外での犯行も確認されていません。犯人の要求はいずれも満たされていませんが、国全体にアートに関する議論を巻き起こしたという点で、「歴史上最も成功した美術品窃盗と言えるでしょう」とABCは述べています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ピカソの名画に隠された「もう1枚の肖像画」の謎 - GIGAZINE

20世紀を代表する天才画家ピカソの日常 - GIGAZINE

ピカソの数千点の作品をネットで誰でも閲覧できるオンラインアーカイブをピカソ美術館が公開 - GIGAZINE

パブロ・ピカソが愛娘のために作った「お絵描き教本」が見つかる - GIGAZINE

ピカソの死後残された4万5000点もの作品を巡る戦い - GIGAZINE

in 動画,   創作, Posted by log1e_dh

You can read the machine translated English article Theft of Picasso's 'Weeping Woman' f….