サイエンス

薬が想定とは異なる作用を引き起こしてしまう「オフターゲット効果」の理解が何をもたらすのか?


オフターゲット効果とは、薬物が本来の標的とは異なる標的に作用して引き起こされる効果のことです。そんなオフターゲット効果の理解が重要な理由について、医学研究者のAbhishaike Mahajan(@owl_posting)氏が解説しています。

Mapping the off-target effects of every FDA-approved drug in existence (EvE Bio)
https://www.owlposting.com/p/mapping-the-off-target-effects-of


製薬企業における研究現場では、その薬剤が「特定の病状に効くかどうか」に最適化した研究が行われています。指標となるのは特定のバイオマーカーの減少や気分の改善、機能の向上といったシンプルなものであり、その薬剤がもたらすオフターゲット効果については注意が払われていません。製薬企業が使える時間やリソースには限りがあるため、投資する範囲を「薬が効くか効かないか」に限定し、それ以外を切り捨てるのは仕方がないといえます。

当然ながら、薬剤の開発中にオフターゲット効果が見つかった場合、その対処にリソースが割り当てられます。しかし、臨床試験の段階で「意図せず結合する受容体」「作用経路の逸脱」「意図せず阻害する遺伝子」などのありとあらゆるオフターゲット効果をマッピングすることは、労力がかかりすぎる上に採算が合いません。そのため、基本的には市販後の調査で懸念が浮上してきた場合にのみ、オフターゲット効果の調査が行われるとのこと。


製薬企業がオフターゲット効果の研究をしない理由が多々ある中で、Mahajan氏は「オフターゲット効果を理解するのが重要な理由」を3つ挙げています。

◆既存薬再開発(ドラッグ・リポジショニング、ドラッグ・リパーパシング)
既存薬再開発は特定の目的で開発された既存薬を、別の治療目的に転用することを指しています。1997年~2020年にアメリカ食品医薬品局(FDA)が承認した197種類の医薬品を対象にした調査では、FDA承認薬の約30%は承認された後に新たな適応症が追加されており、本来の用途を超えた作用を見いだされる薬剤はかなりの数に上ります。

多くの臨床医は既存薬再開発の可能性を直感的に探り始めていますが、2006年の研究では発見されている適用外処方のうち、73%が科学的根拠がほとんどないかまったくないと指摘されています。しかし、たとえ有効かつ効果的な既存薬再開発が難しいとしても、その価値は十分にあるとMahajan氏は主張しています。

既存薬再開発の大きなメリットとして挙げられるのが、承認までのスピードとコストが新薬開発と比較して圧倒的に低いという点です。新たな薬剤の開発においては、さまざまな薬剤候補の研究だけでなく、すでに収集されている毒性データの収集や度重なる臨床試験が必要となります。一方、既存薬はすでにさまざまな臨床試験や安全性試験を通過しているため、数十億ドル(数千億円)ものコストを削減できる上に、承認までのスピードも数年以上短くて済むとのこと。

しかし、新規薬剤は新しい特許と完全な独占権が不随する一方、既存薬再開発では基本的に特許が切れたか、あるいは特許切れ間近の薬剤が対象となります。そのため、新しい用途が承認されたとしても、その用途を見いだした企業が得られる利益はそれほど大きくないそうです。


◆機械学習モデルの検証データ
近年は創薬現場における機械学習モデルの活用が進んでいますが、一般に公開されているデータセットはノイズや実験方法の問題があり、モデル開発者は基本的に社内で手に入るデータセットで開発を進めるしかないとのこと。また、社内のデータセットも研究範囲が限られていたり、特定の分子クラスに偏っていたり、再現性がなかったりします。

さらに悪いことに、こうしたデータは成功事例を中心に厳選されたり、すでに十分に研究された標的に集中したりすることも多く、一般化を妨げるバイアスをもたらします。そこで、公平な第三者が作成したオフターゲット効果のデータセットがあれば、それを機械学習モデルの検証データとして用いることが可能となります。

◆多重薬理
多重薬理とは、特定の化合物が複数の標的に活性を持つことを指します。起きている現象はオフターゲット効果と大して変わりませんが、近年は意図的に複数の標的を狙い、1つの薬剤でより効果的な作用をもたらす薬剤も開発されつつあります。

2型糖尿病治療薬を例にすると、オゼンピック(セマグルチド)は食欲を抑制して消化を遅らせるGLP-1受容体を標的としていますが、その後に登場したマンジャロ(チルゼパチド)はGLP-1受容体だけでなくインスリン反応を促進するGIPにも作用し、より大きな減量効果をもたらします。

1つの薬剤で複数の標的に作用できるようにすることで、特定の病状を管理するために複数の薬剤を併用する多剤併用療法も避けることができます。多剤併用療法は単一の薬剤だけでは治療しきれない病状を管理する上で役に立ちますが、患者の生理機能に悪影響を及ぼすこともあります。また、患者に投与する薬剤の数が増えれば増えるほど、全体的な相互作用を予測するのが難しくなるため、予期せぬ結果が生じるリスクもあるとのこと。

オフターゲット効果のデータセットが多重薬理の研究に役立つという経験的証拠はありません。しかしMahajan氏は、オフターゲット効果のデータセットが合理的な多重薬理の研究に欠けているものを提供する可能性もあると考えています。


すでにEvE Bioという非営利の研究団体が、FDA承認済みの全薬剤のオフターゲット効果をマッピングしたデータセット「EvE Bio Data」の構築に取り組んでいます。EvE Bio Dataは非営利のクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で公開され、研究者は無料で利用できるほか、営利団体はライセンス供与を受けることが可能。意外にも市場の需要が最も多いのは「機械学習モデルの検証データ」だそうで、すでに複数の営利団体がこの目的での利用を求めて協議しているとのことです。

EvE Bio Data
https://data.evebio.org/

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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