ハードウェア

わずか400ピコ秒で書き込み可能な世界最速のフラッシュメモリが開発される


上海の復旦大学に所属する研究チームが、フラッシュメモリのデータ読み書き性能をピコ秒(1兆分の1秒)レベルまで高めたメモリデバイスを開発しました。「PoX」と名付けられたデバイスは400ピコ秒でのスイッチングが可能となっており、従来の世界記録を大幅に上回っています。

Subnanosecond flash memory enabled by 2D-enhanced hot-carrier injection | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08839-w

Chinese researchers achieve making world's fastest flash memory device: Nature
https://www.bastillepost.com/global/article/4760870-chinese-researchers-achieve-making-worlds-fastest-flash-memory-device-nature


Chinese scientists unveil world's fastest flash memory device-Xinhua
https://english.news.cn/20250417/1c410ed7c8b14a74bb42e1d061a2559b/c.html

復旦大学の研究チームは2025年4月17日に、1ビットあたり400ピコ秒の速度でデータを保存できる革新的なフラッシュメモリデバイス「PoX」を開発したことを発表しました。これまで報告されてきた半導体ストレージデバイスは、最速のものでも1ビットあたり1~10ナノ秒かかっていたため、大きく記録を更新しています。また、従来最速とされていたメモリデバイスは電源を供給しないと情報を保持できない揮発性メモリであった一方で、PoXは不揮発性メモリであるため、低電力システムにも適した高いエネルギー効率を発揮できます。


PoXの特徴は、「二次元(2D)材料」を使っている点にあります。2D材料とは、原子1層レベルのごく薄い材料のことで、グラフェンやセレン化タングステン(IV)、六方晶窒化ホウ素(h-BN)に代表されます。2D材料は従来の3D材料と比べて厚みを大幅に下げた上で柔軟性や透明性に優れ、同時に電荷を運ぶキャリアの移動速度も非常に高いため、超小型かつ高速のデバイスを開発するために求められています。

以下は、論文で示されている2Dトランジスタ構造の概略図。底にコントロールゲートがあり、絶縁体としてh-BN、電流が流れる薄いボディチャネルにはグラフェンやセレン化タングステン(IV)と、いずれも2D材料を使用しています。


PoXの研究の鍵となるのは、「ホットキャリア注入」と呼ばれる現象を利用することです。ホットキャリア注入とは、電界によって加速された電子やキャリアが高いエネルギーを持ち、絶縁体を越えて注入される現象。2D材料による構造を工夫することで、ホットキャリア注入を利用して電子および正孔(ホール)の散乱を抑止しながらチャネルに沿って加速できます。また、2D材料ではキャリアの振る舞いが材料によって異なることが観察されたため、材料の選択によってデバイスの性能を最適化できる可能性も示されています。

復旦大学集積チップ・システム国家重点研究室の劉春森(リウ・チュンセン)氏はPoXについて、「私たちは今、小型で完全に機能するチップを開発することができました。次のステップは、これを既存のスマートフォンやコンピューターに統合することです。これにより、スマートフォンやコンピューターにローカルモデルを展開する際に、既存のストレージ技術によって引き起こされる遅延や発熱といったボトルネックの問題に直面することがなくなります」と説明しています。


劉氏によると、大規模なAIモデルの計算は主にGPUチップに依存しており、現在の商用GPUチップは1秒あたり33.5兆回の浮動小数点演算が可能ですが、それに伴うメモリの書き込みや消去の速度は依然としてマイクロ秒(100万分の1秒)レベルにとどまっているそうです。その速度制限により、フラッシュメモリは現代のAIシステムには適していません。

一方でPoXは、GPUチップによる高速計算の要求を満たすように正確に調整されており、不揮発性メモリの保存とアクセスの速度限界を打ち破っています。AIハードウェアでは現在、エネルギー消費の大部分がデータの処理ではなく移動に費やされていますが、PoXは極めて低い消費電力とピコ秒レベルの超高速書き込み速度を両立できるため、AIハードウェアにおける長年のメモリボトルネックの解消に役立つ可能性があります。劉氏は「速度の向上は大きな進歩であり、既存のストレージ技術フレームワークの理論上のボトルネックを完全に克服しました」と研究の成果を述べています。

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in ハードウェア, Posted by log1e_dh

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